金型の抜き勾配が0.5°未満だと、毎ショット製品が張り付いてラインが止まります。
ダイカスト金型は、大きく「固定型」と「可動型」の2つで成り立っています。固定型はダイカストマシンの固定盤に取り付けられ、鋳造中は一切動きません。一方の可動型は開閉動作を行う可動盤に取り付けられており、型を開いて製品を取り出す役割を担います。
この2つの型を合わせると、内部に「キャビティ」と呼ばれる空洞が形成されます。ここに高圧・高速で溶融金属(溶湯)を流し込み、瞬時に冷やし固めることで製品が出来上がります。つまり2つの型の合わせ精度が、製品の寸法精度に直結するということです。
固定型には溶湯を注入するための「鋳込口ブッシュ(スプルーブッシュ)」と、型の位置を正確に合わせる「ガイドピン」が設けられています。可動型には、凝固した製品をキャビティから押し出す「押出機構」があります。押出板・押出ピン・リターンピン・押出板ストッパーなど、複数のパーツが連動して製品を取り出す仕組みです。
2つの型が合わさる面を「型分割面(パーティングライン)」と呼びます。この面はダイカスト製品の表面に線として残るため、製品の意匠面設計と密接に関わります。
| 部位 | 主な構成部品 | 役割 |
|---|---|---|
| 固定型 | 鋳込口ブッシュ、ガイドピン、冷却水穴 | 溶湯注入・型位置決め・熱抽出 |
| 可動型 | 押出ピン、リターンピン、ダイベース、ランナー、ゲート | 製品離型・押出し・溶湯誘導 |
| 共通 | おも型(主型)、入子、エアベント | キャビティ保持・製品形状付与・ガス排出 |
ダイカスト金型は大きく2つの機能を担っています。1つは製品形状の付与、もう1つは熱抽出です。この2つが品質と生産性を決定する原則です。
固定型・可動型のそれぞれは、さらに「おも型(主型)」と「入子(いれこ)」という部品で構成されています。おも型は金型全体のベース枠となる部分で、入子をはめ込んで保持する役割を持ちます。材質は炭素鋼・鋳鉄・鋳鋼などが一般的で、そこまで高い耐熱性は求められません。
これに対して入子は、溶融金属と直接接触するキャビティ面を形成する部品です。毎ショット600〜700℃という高温の溶湯が繰り返し当たるため、耐熱性・延性・靭性に優れた熱間工具鋼(SKD61など)が使用されます。SKD61はアルミダイカスト用入子の代表的な材質で、適切な焼戻し処理と窒化処理を組み合わせることで、標準的な8万ショットを大きく超える20万ショット以上の寿命を狙える場合もあります。
入子構造の最大のメリットは、損耗した部分だけを交換できる点です。おも型は比較的長寿命なのに対し、高温・高圧にさらされる入子は先に劣化します。入子型を採用すれば、劣化した入子のみを交換すれば済むため、金型全体を作り直すコストを大幅に削減できます。
また、入子の中にさらに「埋子(うめこ)」をはめ込む設計もあります。外観上重要な部位や、特に損傷が起きやすい箇所だけを交換可能にするためです。これは金型の長寿命化・メンテナンスコスト低減において非常に有効な構造です。
さらに入子の表面には窒化処理などの表面処理が施されることが多く、耐熱亀裂(ヒートクラック)の発生を遅らせる効果があります。
参考:アルミダイカスト金型の設計・製作・メンテナンスについて詳しく解説されています。
アルミダイカストの金型:設計、製作、メンテナンスの基礎知識 - daiwakk-vn.com
ダイカスト金型はキャビティの構成方法によって、大きく4つのタイプに分類されます。生産量・コスト・メンテナンス性によって選択が変わるため、現場でも判断が求められる場面があります。
量産ロットが多ければ入子型が原則です。試作・小ロットなら共通おも型が経済的な判断になります。
参考:ダイカスト金型の構造タイプ別の詳細解説がまとめられています。
ダイカスト金型の基本的な構造と主要各部の特徴と役割 - mold-diecasting.com
金型の性能は構造の「仕組み」だけでなく、設計段階での具体的な数値や配置にも大きく左右されます。ここでは現場で特に重要な3つの設計要素を解説します。
① 抜き勾配(ドラフトアングル)
金型から製品を取り出す方向に、壁面に角度をつけることを「抜き勾配」といいます。この勾配がなければ、冷却・凝固した製品が金型に強く密着して取り出せなくなり、毎ショット生産を止める深刻なトラブルになります。
原則として最低でも0.5°の勾配が必要です。高さ100mmの穴部であれば、勾配の影響で内径が底部で約3.5mm小さくなります。これはボールペン1本分の直径くらいの差です。そのため穴径精度が厳しい部品では、後工程での切削加工を前提とした設計が求められます。抜き勾配は省けません。
② 冷却水管(冷却回路)の配置
ダイカスト鋳造では溶湯が600〜700℃でキャビティに流れ込み、金型表面温度は450〜550℃まで上昇することがあります。この熱を効率よく抜かなければ、サイクルタイムが長くなるだけでなく、ヒートクラック(熱疲労亀裂)の発生を早めて金型寿命を縮めます。
冷却水管はキャビティ面からの距離・配置間隔・管径の3要素で効果が変わります。肉厚部や湯口周辺など熱が集中しやすい箇所の近くに重点的に配置するのが基本です。冷却が不均一だと製品の凝固速度に差が生じ、ヒケ(引け巣)や変形の原因になります。冷却管詰まりは冷却流量が初期の80%以下で危険水域として扱われます。
③ エアベント(ガス抜き)
型締め時にキャビティ内に残る空気と、溶湯から発生するガスを外部に排出するための薄い溝が「エアベント」です。型分割面(パーティングライン)に設けられ、深さ0.05〜0.15mm程度の微細な溝です。これが不十分だとガスが製品内部に巻き込まれ、「鋳巣(す)」と呼ばれる内部空洞欠陥が発生します。鋳巣が出ると強度低下・気密不良につながり、後工程での不良率が跳ね上がります。
エアベントとオーバーフロー(余剰溶湯の排出溜まり)の組み合わせで、ガスの排出経路を適切に確保することが鋳造品質の安定に直結します。エアベント設計は製品の不良率に直結します。
参考:ダイカストの抜き勾配とスライドコアについて図解で詳しく解説されています。
アルミダイカストにおける抜き勾配とスライドコアについて - aluminium-die-cast-tech.com
固定型・可動型の2枚型だけでは成形できない形状があります。製品の側面に穴や突起がある「アンダーカット部」がその代表です。この場合に登場するのが「引抜き中子(スライドコア)」です。
引抜き中子とは、型の開閉方向(上下・前後)とは異なる方向(側面方向)にスライドして出入りする金型部品です。型締め時には所定の位置にセットされてキャビティの一部を構成し、型開き時には製品が損傷しないよう引き抜かれます。これによりアンダーカット部の成形が可能になります。
引抜き中子の動作方式は主に2種類あります。
引抜き中子を設けると金型コストは大きく上がります。スライドコアが増えるほど、製作費・メンテナンス費の双方が膨らむためです。しかし複雑形状を他の金属加工法(切削・溶接など)で後工程対応するよりも、金型内で一体成形してしまう方が量産コストでは有利になるケースがほとんどです。アンダーカットは必要最小限に留めることが条件です。
また「崩壊性中子(ソルトコア)」という特殊な中子もあります。塩や砂を固めた中子を金型内に配置し、鋳造後に水や熱で溶かして取り出す方式です。複雑な内部空洞を持つ製品(例:エンジンの冷却水路)に使われることがあり、引き抜けない形状にも対応できます。
参考:日本ダイカスト協会が作成したダイカスト金型の構造解説(公式資料)。引抜き中子の図解が掲載されています。
ダイカスト金型とその構造 - 一般社団法人 日本ダイカスト協会
多くの現場では「ショット数が寿命の目安」として管理されていますが、実は同じショット数でも構造設計の善し悪しで寿命が数倍変わることが知られています。これは数字だけで金型管理をしている現場が見落としやすいポイントです。
アルミダイカスト(ADC12、溶湯温度680℃)の場合、一般的な寿命の目安は外観部品で3万ショット、機能部品で5万ショット、一般部品で8万ショットといわれています。しかし適切な材質選定・冷却設計・表面処理を組み合わせると、20万ショット超が十分に狙える水準です。一方、亜鉛合金ダイカスト金型は溶湯温度が低い分、寿命が50万〜100万ショットと圧倒的に長くなります。
ヒートクラック(熱疲労亀裂)は金型寿命を決定づける最大の劣化要因です。加熱・冷却の繰り返しによる熱応力が入子表面に微細な亀裂を生じさせ、進行すると型割れ・型モゲに至ります。これが発生してからの修理はほぼ不可能で、金型全体の廃棄になることもあります。構造面での対策が先決です。
寿命を延ばすために現場レベルで取れる主な対策は以下の通りです。
金型の構造設計は「初期コスト」だけで判断しがちです。しかし総生産量と1ショットあたりの金型償却費まで含めて計算すると、入子型+適切な冷却設計の組み合わせが最もトータルコストを下げる選択になるケースが多くなります。結論は「構造設計が金型コストを決める」です。
参考:ダイカスト金型の寿命と劣化の種類(ヒートクラック・型割れ・鋳巣)について解説されています。
ダイカスト金型の寿命と見極め方 - mold-diecasting.com
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