CCT線図を「なんとなく」で読んでいると、同じ鋼材を同じ冷却方法で処理しても硬さが20HRC以上変わることがあります。
CCT線図とは「Continuous Cooling Transformation」の略で、日本語では連続冷却変態曲線と呼ばれます。鉄鋼材料をオーステナイト状態から連続的に冷却したとき、冷却速度の違いによってどのような組織が得られるかをグラフ化したものです。
現場でよく混同されるのが、TTT線図との違いです。TTT線図は「ある温度で保持したとき」の変態を表すのに対し、CCT線図は「実際の熱処理のように連続的に冷却する」ときの変態を表します。実務の焼入れ・焼ならし・焼なましは、ほぼすべて連続冷却で行われます。つまり実務に直接使えるのはCCT線図です。
鉄鋼材料メーカーや研究機関が作成したCCT線図は、鋼種ごとに固有の形状をしています。炭素鋼(例:S45C)、合金鋼(例:SCM440、SKD11)など鋼種によって線図の「広がり方」が全く異なり、それが焼入れのしやすさ(焼入性)に直接つながります。線図の形が右側に広がっている鋼ほど、ゆっくり冷やしても焼きが入りやすいことを意味します。これが原則です。
また、CCT線図は単に組織を示すだけでなく、各冷却曲線の終点に「常温での硬さ(HRC表示)」が記載されているケースがほとんどです。この硬さ値を読むことで、「どの冷却速度で処理すれば目標硬さに近づくか」を事前に推定できます。
モノタロウ:鉄鋼の冷却速度と特性の関係(連続冷却変態)— CCT曲線の模式図と各記号の解説が詳しい
CCT線図を読む第一歩は、2本の軸を正確に理解することです。
縦軸は「温度(℃)」を表します。上側がオーステナイト化温度域(800℃前後以上)で、下に行くほど低温になります。横軸は「時間(秒)」で、対数目盛(ログスケール)になっているのがポイントです。左端の短時間が「冷却速度が速い=急冷」、右端の長時間が「冷却速度が遅い=徐冷」に対応します。
意外ですね。横軸は「時間」なのに、実際には「冷却速度」を読む軸として使います。つまり横軸が右に行くほど時間がかかる=ゆっくり冷えているということです。
冷却曲線は右上から左下(または右下)へ流れる弧を描くように描かれており、その傾きが急なほど冷却速度が速いことを示します。図の中に複数の冷却曲線が描かれており、それぞれが「完全焼なまし」「焼ならし」「焼入れ(油冷・水冷)」などの冷却パターンに対応します。
| 冷却曲線の位置(左右)| 意味 |
|---|---|
| 左側(短時間) | 急冷(例:水焼入れ) |
| 中央 | 中速冷却(例:油焼入れ、焼ならし) |
| 右側(長時間) | 徐冷(例:焼なまし、炉冷) |
縦軸上の変態点として、A1点(共析変態温度:約727℃)とA3点も参考値として記載されることが多いです。これらはあくまで「平衡状態での変態点」であり、実際の冷却では組織変態はもっと低温で起きます。A1点を基準に「その上がオーステナイト域」「その下が変態が始まる領域」と大まかに把握しておくと読みやすくなります。対数目盛に慣れれば問題ありません。
CCT線図上に書かれた記号は、組織の変態が「始まる・終わる」タイミングを示しています。記号を読めるかどうかが、線図を使いこなせるかの分かれ目です。
主要な変態記号は以下のとおりです。
| 記号 | 意味 | 補足 |
|---|---|---|
| Fs | フェライト変態開始線 | αFe(フェライト)の析出が始まる |
| Ps | パーライト変態開始線 | パーライトの析出が始まる |
| Pf | パーライト変態終了線 | 全組織がパーライトに変態完了 |
| Bs | ベイナイト変態開始線 | 機械構造用合金鋼では特に重要 |
| Ms | マルテンサイト変態開始線 | この温度以下で硬化が始まる |
| Mf | マルテンサイト変態終了線 | ほぼ全域がマルテンサイトに |
冷却曲線がMs線を通過した場合、マルテンサイト変態が起きます。さらにMf線も通過した場合は、ほぼ純マルテンサイト組織となり、HRC60〜67程度の非常に高い硬さが得られます。これは使えそうです。
一方で、冷却曲線がPs線に達した場合はパーライトの析出が始まり、最終的な硬さはHRC30以下になることが多いです。粗大パーライトではHRC5〜20程度まで落ちることもあります。焼入れを狙っているにもかかわらず冷却速度が不足してPs線を通過してしまうと、目標硬さには到底届きません。
また、Bs線を通過するとベイナイトが生成されます。ベイナイトはHRC40〜60程度の中間的な硬さをもち、靭性のバランスが必要な部品に意図的に活用されることもあります(オーステンパー処理など)。組織の種類が硬さの範囲を決めます。
CCT線図を読む上で欠かせないのが「臨界冷却速度」の概念です。厳しいところですね。
臨界冷却速度とは、焼入れ(マルテンサイト変態)に関連する2種類の限界冷却速度のことを指します。
- 上部臨界冷却速度:マルテンサイト単相組織を得るために必要な「最も遅い冷却速度」。この速度以上で冷却すれば、全組織がマルテンサイトになります。
- 下部臨界冷却速度:マルテンサイトがまったく生じない「最も速い冷却速度」。この速度以下ではマルテンサイトが出てきません。
CCT線図では、上部臨界冷却速度は点線で描かれた冷却曲線として示されており、Ps・Bs線のノーズ(鼻)部分をかすりながら通過する形になっています。共析鋼(炭素0.76%)の場合、上部臨界冷却速度は毎秒約121℃とされており、それ以上のスピードで冷却しないとマルテンサイト単相は得られません。この速度を上回るのが条件です。
一方で合金鋼、たとえばCrやMoを含むSCM440やSKD11などは、CCT線図のノーズ(Ps線の湾曲した先端)が右側(長時間側)に大きくずれています。SKD11はCrを約12%含有しているため、空気中で冷却(空冷)するだけでも焼入れが可能なほど焼入性が高く、「空気焼入れ鋼」とも呼ばれています。炭素鋼との違いは大きいですね。
| 鋼種 | 主な合金元素 | 焼入性 | 臨界冷却速度の目安 |
|---|---|---|---|
| S45C(炭素鋼) | C: 0.45% | 低め | 水焼入れが必要 |
| SCM440(Cr-Mo鋼) | Cr, Mo | 高い | 油焼入れでOK |
| SKD11(工具鋼) | Cr: 約12% | 非常に高い | 空冷でも焼入れ可能 |
CrやMo、Mnなどの合金元素がCCT線図の曲線全体を右側へシフトさせるメカニズムは、オーステナイトの安定性を高めてパーライトやフェライトへの変態を遅らせるためです。つまり合金元素の役割はオーステナイト安定化です。
daiichis.work:連続冷却変態曲線(CCT曲線)の見方と考え方 — 実務視点での解説と臨界冷却速度の活用法が参考になる
CCT線図には「熱処理用」と「溶接用」の2種類があります。これを知らないまま間違えて使い続けると、組織や硬さの予測が大きく外れます。痛いですね。
両者の最大の違いは、オーステナイト化温度(加熱温度) の差です。
- 熱処理用CCT線図:通常、900℃前後でオーステナイト化して作成されます。
- 溶接用CCT線図:溶接熱影響部を想定して、1350〜1400℃という高温でオーステナイト化して作成されます。
溶接では熱源が極めて高温になるため、母材の熱影響部(HAZ)はオーステナイト粒が粗大化します。この粒粗大化は変態挙動を大きく変え、CCT線図の各曲線が右側(長時間側・低温側)に大幅にシフトします。その結果、溶接熱影響部では同じ冷却速度でも熱処理用CCT線図が示す組織とまったく異なる組織が出現することになります。
日本溶接学会のQ&Aでは「溶接熱影響部を調べるために溶接金属用のCCT図を用いたり、逆に溶接金属を調べるために溶接熱影響部のCCT図を使う、あるいは溶接部を調べるために熱処理用CCT図を使うことは誤りである」と明確に示しています。用途の混同は厳禁です。
また、溶接用CCT線図でよく用いられるパラメーターが「800〜500℃の冷却時間(Δt8/5)」です。これは溶接条件(入熱量・板厚・予熱温度)によって変化する指標であり、CCT線図の横軸とこのΔt8/5を対応させることで、適切な溶接条件の選定が可能になります。例えばΔt8/5が約5〜30秒の範囲、あるいは60秒以上の範囲に入るような溶接法を選ぶことが推奨されます。Δt8/5が条件です。
日本溶接学会:溶接用連続冷却変態図(CCT図)の活用 — 熱処理用との違いと正しい使い分けについて解説
CCT線図は教科書的な図表として説明されることが多いですが、実際の熱処理現場では「どこまで使えるか」という疑問も根強くあります。
ここで重要なのは「CCT線図は完全な答えではなく、あくまで傾向を読むためのツール」という認識です。つまり傾向把握のための道具です。
現場で注意すべき点が2つあります。まず第一に、CCT線図は「等速冷却」を前提に作成されています。しかし実際の焼入れでは、油槽・水槽に浸漬した直後から冷却速度は刻々と変化します。大型部品になるほど表面と内部の温度差も生じるため、CCT線図の数値をそのまま当てはめることには限界があります。
第二に、CCT線図が存在する鋼種の数は決して多くありません。成分が近い鋼種のデータを流用することはあるものの、鋼種固有のデータが手元にない場合は、過去の焼入れ実績データや硬さ測定結果と照らし合わせる経験的アプローチが現場では重要になります。
それでもCCT線図が強力なのは、「焼入れ硬さが出なかった原因を後から分析するとき」です。たとえば処理後の硬さが想定HRC60のところ、実測HRC45しか出なかった場合、CCT線図上で「どの冷却速度帯に相当するか」を逆算することで、マルテンサイト+ベイナイトの混合組織になっていた可能性や、冷却速度の不足でPs線を通過してしまった可能性を考察できます。結論は逆算による原因分析です。
近年では、シミュレーションソフト(加熱冷却シミュレーション)を使ってCCT線図のデータを組み込み、部品形状ごとの冷却過程を数値で追う取り組みも進んでいます。完全な精度には至っていませんが、大型部品や複雑形状部品の冷却挙動の把握に活用されています。また、旧日立金属(現プロテリアル)が公表している「半冷曲線」は、丸棒の各径・各深さにおける冷却硬さを示したデータであり、CCT線図を補完する実用ツールとして現場での活用事例もあります。
note(金属材料PE):鉄鋼材料における熱処理について — TTT線図・CCT線図の違いと影響因子をまとめた技術解説記事