外観がきれいな溶接ビードでも、断面をカットすると1.0mmを超えるブローホールが潜んでいて、検定試験が一発不合格になることがあります。

溶接マクロ試験とは、溶接部を切断した断面を腐食液(エッチング液)で処理し、肉眼または10倍以下の拡大鏡で組織を観察する検査方法です。英語では「Macro Test」または「Macroscopic Examination」と呼ばれます。
溶接ビードの外側を目で見るだけの外観検査(VT)では、内部の欠陥は確認できません。マクロ試験は断面を直接観察するため、外観からは絶対にわからない溶け込み深さ・熱影響部の範囲・内部欠陥の三つを同時に把握できます。これは大きな強みです。
具体的に確認できる項目を整理すると、次のようになります。
マクロ試験は「破壊検査」に分類されます。試験片を切断するため、製品そのものには使用できません。現場施工に先立つ施工試験(モデル供試体)や、溶接工の技量検定(AW検定・JIS技量検定)で広く実施されています。
また、JIS G 0553「鋼のマクロ組織試験方法」が主要な根拠規格となっており、2019年に最新版(JIS G 0553:2019)に改正されています。同規格はISO 4969:2015に対応した国際整合規格です。つまり国際基準に準じているということですね。
鉄筋フレア溶接部のマクロ試験の概要・試験方法・判定基準についての詳細解説(DK試験)
試験の最初のステップは、溶接部から適切な試験片を採取することです。ここで手を抜くと、後工程の研磨やエッチングがどれだけ丁寧でも正確な観察ができません。切断が基本です。
試験片の切断位置と厚み
JIS G 0553では、試験片の厚さは通常 13mm〜25mm とされています。厚みのイメージとして、一般的なスマートフォンを2台重ねた程度(約13mm)から、1円玉25枚分の積み重ね(約25mm)の範囲です。
切断方向は原則として製品長手方向に対して垂直な断面とします。ただし、仕様書や注文書の指定によっては長手方向に平行な断面も対象になります。
切断方法には以下の選択肢があります。
ポイントは、被検面は熱切断面から十分に離すことです。熱切断の熱影響が被検面に及ぶと、試験本来の目的である溶接部の組織が正しく評価できなくなります。これは見落とされやすい注意点です。
切断後は、大型材の場合は扱いやすいサイズにさらに小割りすることもできます。その際、小割りによって試験片中心部に影響が出ないように注意してください。
切断した試験片の被検面を適切に研磨することが、試験全体の品質を左右します。研磨が粗いとエッチングが不均一になり、欠陥の見落としや誤判定につながります。研磨の精度が結果の精度です。
表面粗さの目標値
JIS G 0553では、被検面の表面粗さを算術平均粗さ Ra 30μm〜3.5μmの範囲に仕上げることを規定しています。
Ra 30μmは「粗仕上げ」レベル、Ra 3.5μmは「並仕上げ」レベルです。目的によって使い分けますが、溶接欠陥の詳細な観察には仕上げ程度を細かくする(Ra値を小さくする)ほど見えやすくなります。
研磨の実際の手順
研磨後は、グリスや油脂が残っていると腐食が不均一になるため、適切な溶剤(アセトンやアルコールなど)で被検面を洗浄します。洗浄後は素手で被検面に触れないことが鉄則です。指の脂が付くと局所的なエッチング不良の原因になります。
また、JISでは「冷間加工はできる限り少なくする」と記されています。研磨時の過度な加圧は表面層を加工硬化させ、エッチング結果に影響を与えることがあるため、力を入れすぎない研磨が望ましいです。
なお、比較的粗い仕上げ(グラインダー仕上げ程度)でもパイプ(収縮孔)の有無を確認する日常検査には対応できます。目的に合わせた研磨精度の選択が効率的です。
研磨が完了したら、いよいよエッチング(腐食処理)です。腐食液が金属表面の組織差・成分差を利用して異なる速度で溶かすことで、溶接金属・熱影響部・母材の境界線が肉眼で見えるようになります。
JIS G 0553:2019では、主要な試験方法として以下の5種類が規定されています。
| 試験方法 | 腐食液の組成 | 温度・時間 | 適用鋼種 |
|---|---|---|---|
| 🧪 塩酸法 | 塩酸(HCl)約20質量%水溶液 | 60〜80℃、10〜40分 | 炭素鋼・合金鋼・ステンレス鋼 |
| 🧪 塩化銅アンモニウム法 | 工業用塩化銅(II)アンモニウム100〜350g/L水溶液 | 常温(5〜35℃)、約5分×3〜10回繰り返し | 炭素鋼・合金鋼 |
| 🧪 硝酸エタノール法(ナイタール法) | 硝酸5〜10vol%エタノール溶液 | 常温、3〜10分 | 炭素鋼・合金鋼 |
| 🧪 硝酸法 | 硝酸5〜10vol%水溶液 | 常温、3〜10分 | 炭素鋼・合金鋼 |
| 🧪 王水法 | 硝酸9.1〜25vol%塩酸溶液 | 5〜80℃、5〜20分 | ステンレス鋼・耐熱鋼 |
現場でよく使われるのは塩酸法です。炭素鋼・合金鋼に幅広く対応しており、JIS G 0553でも「鉄及び鋼のマクロエッチングに最も一般的に用いられる溶液は塩酸および王水」と明記されています。
塩酸法の実施手順(詳細)
試験片10cm四方あたり1L以上の腐食液を用意し、60〜80℃に加熱します。試験片を事前に温水(60〜80℃)で予熱してから腐食液に浸すと、温度差によるムラが防げます。被検面を上向きまたは垂直にして浸せきし、液温を一定に保ちながら10〜40分待ちます。
エッチングが完了したら、流水で洗い流しながら非金属製ブラシで軽くこすってエッチングかすを除去します。その後、炭酸ナトリウム(3〜5%)または硝酸(10〜15%)の中和液に浸してから乾燥させれば完了です。
⚠️ 安全面での重要注意事項
塩酸・硝酸はともに強酸であり、活性なヒューム(酸性ガス)を発生します。JIS G 0553は「換気のよい部屋でドラフト(局所排気装置)を使用すること」と明示しています。また、腐食液は耐腐食性のトレイまたは皿に入れて使用し、皮膚や目への接触を防ぐため保護具(耐薬品性手袋・保護メガネ)の着用は必須です。
特にナイタール法では硝酸濃度が10%以上になると爆発の危険があるとJISに警告が記されています。混合比率の確認は、試験前に必ず行ってください。
JIS G 0553:2019 鋼のマクロ組織試験方法の全文・腐食液の詳細規定(kikakurui.com)
エッチングを終えた試験片の断面を観察し、欠陥の有無・寸法の確認・合否判定を行います。観察は肉眼(目視)が基本ですが、JISでは受渡当事者間の合意があれば10倍までの拡大鏡を使用することも認められています。
観察で確認すべき項目
観察すべき内容は、主に次の5つです。
AW検定(建築鉄骨溶接技量検定)でのマクロ試験判定基準
AW検定の鋼管溶接試験における代表的な不合格条件を以下に整理します。
| 欠陥の種類 | 不合格となる条件 |
|---|---|
| 割れ | 割れがある場合(大小問わず不合格) |
| ブローホール | 1.0mmを超えるものがある場合 |
| 溶込不良・融合不良 | 1.0mmを超えるものがある場合 |
| スラグ巻き込み | 1.0mmを超えるものがある場合 |
| 0.2mm超のブローホール等 | 特定条件下での集積・分布状況により不合格 |
1.0mmの感覚としては、シャーペンの芯の太さ(0.5mm)の2倍程度です。肉眼では「ほんの小さな点」に見えるものでも、基準を超えれば不合格になります。小さいからといって見逃せません。
判定に使う準拠文書
判定基準はどの規格・要領に準拠するかによって異なります。
現場での施工試験なのか、技量検定試験なのかによって適用する判定基準が変わります。施工前に発注者・監理者と「何の基準に準拠するか」を確認しておくことが、後のトラブルを防ぐ最重要ポイントです。
溶接ブローホールの許容範囲・JASS 6の規定内容について(鉄骨Q&A・SASST)
マクロ試験は「合否を出すだけ」の手段ではありません。断面観察によって欠陥の「種類・位置・形状」がわかるため、溶接条件や施工方法の何が問題だったかを逆算できます。つまりマクロ試験は技術改善のための情報源でもあります。
ブローホール(気孔)
断面に丸い空洞が点在して見える欠陥です。溶融池の中で発生したガスが凝固時に抜け切れず閉じ込められたものです。
主な原因は、シールドガス不足・母材表面の錆・油・塗料・水分の付着・溶接棒・ワイヤーの吸湿などです。ブローホールが多発している場合は、施工前の母材清掃(グラインダーやワイヤーブラシによる錆落とし)と、溶接材料の乾燥管理を見直す必要があります。
溶込不良(融合不良)
ルート部または前パスと次パスの境界で、金属同士が完全に溶融合体していない状態です。見た目のビード形状は問題なくても、内部で接合されていないことがあります。外観だけでは絶対に判断できません。
厚板の多層盛り溶接や開先角度が狭い場合に発生しやすく、溶接電流が低すぎる・溶接速度が速すぎる・トーチの狙い位置がずれているといった原因が多いです。
熱間割れ(凝固割れ)
溶融金属が凝固する際、収縮ひずみに耐えられず発生する割れです。鉄鋼材料中の不純物(P、S)が多い場合やケイ素(Si)含有量が高い場合に発生リスクが上がります。マクロ断面では溶接金属中心部に縦方向に走る割れとして観察されることがあります。
マクロ観察では見えにくい欠陥について
JIS G 0553の注記には「細かい空隙やひびを識別し性質を明らかにすることは難しい」と記されています。0.1mm以下の微細な欠陥はマクロ試験では確認しにくいため、必要に応じてミクロ組織試験(ミクロ試験:100倍〜500倍の光学顕微鏡観察)や、X線透過試験・超音波探傷試験と組み合わせて評価することが重要です。
検査手段を組み合わせることで、溶接品質の総合評価が可能になります。これが溶接品質管理の基本です。
マクロ試験は「やりっぱなし」にしてはいけません。この点は教科書ではあまり強調されませんが、現場での品質管理において非常に重要です。記録こそが試験の価値を生みます。
なぜ記録が重要か
試験後の断面は時間とともに酸化して黒ずみ、エッチング面が劣化します。そのため、観察が終わったら直ちに記録用の写真撮影を行うことが不可欠です。記録が残らなければ、後から第三者が検証することも、施工不良の原因追及も、技術的な改善も難しくなります。
保管については、JIS G 0553に「試験片の保管」に関する規定があり、試験片表面の保護(防錆油の塗布や樹脂コーティングなど)を推奨しています。特に施工試験で作製した供試体は、工事完了後も一定期間の保管が求められるケースがあります(発注者仕様による)。
再現性の確保
マクロ試験は「誰がやっても同じ結果が出るか(再現性)」が重要な品質指標です。実際には、エッチング時間・腐食液濃度・研磨精度のわずかな差で見え方が変わることもあります。
そのため、施工試験を行う際は試験条件(使用した腐食液の種類と濃度・エッチング時間・液温)を記録票に残し、報告書に添付することが求められます。JIS G 0553第10条「報告」でも、試験方法・腐食条件・観察結果を記録することが義務付けられています。
モデル供試体で練習する意義
現場溶接の本施工前に行うモデル供試体試験は、単なる「書類上の確認」ではありません。実際の溶接条件(電流・電圧・速度・パス数)が適正かどうかを断面で可視化できる貴重な機会です。
供試体のマクロ試験結果を丁寧に分析することで、「もう少し電流を上げたほうがルートが溶ける」「パス間温度が高すぎてHAZが広くなった」といった具体的な改善点を本施工前に把握できます。試験結果を技術向上に生かすことが、現場の品質を底上げする最も確実な方法です。