超音波探傷の原理と仕組みを基礎から徹底解説

超音波探傷(UT)の原理を、金属加工の現場で役立つ視点から解説。反射エコーの読み方、探触子の周波数選定、見落としやすい欠陥の条件まで、検査精度を左右するポイントとは?

超音波探傷の原理と仕組みを基礎から現場視点で解説

表面がきれいに見える金属でも、内部に割れが隠れている場合は超音波でしか見つけられません。


🔍 この記事でわかること
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超音波探傷(UT)の基本原理

反射エコーの時間と強さから、内部きずの位置・大きさを推定する仕組みをゼロから解説します。

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欠陥を見落とす3つの落とし穴

欠陥の向き・接触媒質の不備・周波数の誤選定など、現場で起きやすい見落とし要因を具体的に整理します。

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探傷方式と探触子の選び方

垂直探傷・斜角探傷・フェーズドアレイ法の使い分けと、周波数選定の実務ポイントを紹介します。


超音波探傷(UT)の基本原理:音の「反射」を使った内部検査


超音波探傷試験(UT:Ultrasonic Testing)は、人間の耳には聞こえない高周波の音(超音波)を金属などの試験体内部に送り込み、内部のきずや欠陥で反射して戻ってくる「エコー」を解析することで内部状態を評価する非破壊検査技術です。試験体を破壊しないまま、内部のきずを検出できる点が最大の強みです。


超音波探傷の基本的な仕組みは、次の4つのステップで成り立っています。


ステップ 内容
① 発信 探触子(プローブ)から超音波パルスを試験体に向けて発信する
② 伝播 超音波は金属内部を直進する
③ 反射 きずや底面に到達すると、超音波が反射して戻ってくる
④ 受信・表示 戻ってきたエコーを探傷器が波形(Aスコープ)として画面に表示する


超音波が発信されてから戻ってくるまでの時間を測り、音速を掛け合わせることで「きずまでの距離(深さ)」が求められます。戻ってくるエコーの高さ(振幅)は「きずの大きさ」の目安になります。これが超音波探傷の原理の基本です。


きずがない正常な状態では、探傷器の画面には「送信パルス(T)」と「底面エコー(B)」の2つだけが表示されます。TとBの間に何も表示されなければ、内部に異常はないと判断できます。一方、内部にきずがある場合は、TとBの間に「きずエコー(F)」が現れます。Fの位置がきずの深さ、Fの高さがきずの規模の目安です。


非破壊検査の中でも内部を見られる手法は限られます。超音波探傷試験とX線透過試験のみが、試験体を壊さずに内部状態を把握できる代表的な手法です。ただし両者には得意・不得意の差があります。超音波探傷試験は割れや融合不良のような「面状きず」の検出に優れ、X線透過試験は球状のブローホールや異物混入の検出に向いています。つまり検査目的によって使い分けが必要です。


超音波が伝わる仕組みには「音響インピーダンス」という概念が深く関係しています。音響インピーダンスとは、物質の密度×音速で計算される値で、値が大きいほど超音波を伝えやすい性質を持ちます。超音波は音響インピーダンスが大きく異なる境界面で反射します。空洞(空気)と金属の境界ではインピーダンス差が非常に大きいため、ほぼ100%近く反射が起こります。これがきず検出の根拠になっています。


物質 音響インピーダンス(10⁶ kg/m²s)
46.4
アルミニウム 16.9
1.48
空気 0.0004


金属加工の現場で超音波探傷が多用されるのは、この「反射原理」が金属の内部欠陥検出と非常に相性が良いからです。鉄・アルミ・銅などの金属は音響インピーダンスが高く、超音波が安定して伝わります。


参考:超音波探傷の原理・音響インピーダンス・カップリングの種類まで詳しく解説
超音波探傷試験(UT)/超音波探傷の原理 - ダイヤ電子応用


超音波探傷で欠陥を見落とす原因:きずの向きと接触媒質の落とし穴

超音波探傷を正確に理解するほど安全と思われがちですが、実は「原理を知っているだけ」では見落としはげません。


現場でよく起きる見落としの一番の原因は「欠陥の向き(傾き)」です。超音波は光と同じ直進・反射の性質を持つため、きずに対して垂直に当たるときに最もエコーが大きく返ってきます。逆に、欠陥面が超音波の進行方向に対して傾いていると、反射波が探触子に戻りにくくなり、実際よりもエコーが小さく表示されます。極端な場合、きずが存在するにもかかわらず、エコーがほとんど立たず「異常なし」と誤判断するリスクがあります。


JIS Z 3060では、きずの傾きによる見落としを防ぐため「2方向以上の超音波ビームで探傷する」ことが義務付けられています。これが必須です。1方向だけで「問題なし」と判定するのは、規格上も実務上も不十分とされています。


面状きずは超音波で見つけやすい一方、球状のブローホールは反射率が低く、検出しにくい傾向があります。超音波探傷は「何でも見つかる万能な検査」ではなく、欠陥の形状・向きによって検出性能が大きく変わることを、現場では常に意識する必要があります。


もう一つの重大な落とし穴が「接触媒質(カップリング剤)」の扱いです。探触子と試験体の間に空気が入ると、音響インピーダンスの差が極端に大きくなり、超音波がほぼ全反射して試験体内部に入っていきません。ダイヤ電子応用の技術資料によれば、水中から鉄へ超音波を入射する際に鉄の中に通過できる超音波エネルギーは約6%にとどまり、往復での受信エネルギーは1/1000以下になるとされています。これは深刻な損失です。


この問題を防ぐために、探触子と試験体の間には必ず専用の接触媒質(グリセリン・マシン油・水など)を介在させます。媒質が薄すぎたり、凹凸のある表面で均一に塗れていなかったりすると、検査中に音響結合が不安定になり、正確な探傷結果が得られません。カップリング不良は「きずがあってもエコーが立たない」状態を引き起こすため、結果的に見逃しに直結します。


接触媒質の種類によっても伝播特性が異なります。水(音響インピーダンス1.48)よりもグリセリン(1.9)の方がわずかに高く、探触子と被検体の条件に応じて選定することが望ましいとされています。現場ではマシン油が手軽に使われますが、音響インピーダンスは1.3程度と比較的低いため、精密な検査ではグリセリン系の専用媒質が推奨されます。


参考:溶接部の超音波探傷における接触媒質と表面粗さが伝達損失に与える影響(実証データあり)
超音波斜角探傷の伝達損失に与える接触媒質と表面粗さの影響 - 清水建設技術研究所報告


超音波探傷の方式:垂直探傷・斜角探傷・フェーズドアレイ法の使い分け

超音波探傷には複数の検査方式があり、検査対象の形状・きずの種類・求める精度によって選び分けることが重要です。方式が合っていないと、あるきずが見えなくなるケースもあります。


方式の選択が条件です。


**垂直探傷**は、試験体表面に対して垂直に超音波を入射する最も基本的な方式です。鋼板や丸棒のような平坦な素材の内部欠陥(ラミネーション・ブローホール・介在物など)の検出に適しています。適用板厚の目安は1mm〜1mとされており、厚板薄板どちらにも対応できます。


**斜角探傷**は、試験体表面に対して45度・60度・70度といった角度をつけて超音波を入射する方式です。溶接部の検査に多用されます。溶接部には「余盛(表面の盛り上がり)」があるため探触子を直接当てられず、斜めから超音波を差し込む必要があるからです。きずの位置計算には、ビーム路程(超音波が往復した距離)と屈折角を使った計算式が必要になります。


**フェーズドアレイ法(PAUT)**は、複数の振動子(素子)を並べた専用探触子を使い、各素子の送信タイミングを電子的に制御することで、超音波ビームの角度や焦点位置を自在に変えられる先進的な方式です。従来のAスコープ(波形表示)では直感的に判断しにくかった欠陥の位置や形状を、断面画像としてリアルタイムに表示できます。これは使えそうです。


| 探傷方式 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 垂直探傷 | 鋼板・丸棒の内部欠陥 | 平坦面に使いやすい基本手法 |
| 斜角探傷 | 溶接部の割れ・未融合 | 余盛があっても適用可能 |
| フェーズドアレイ | 複雑形状・精密検査 | 断面画像で記録・説明が容易 |
| TOFD法 | 突合せ溶接の全厚検査 | 欠陥高さの測定精度が高い |


また、表面波探傷という方式もあります。表面波は試験体の表面だけを伝播する波で、表面きずの検出感度が非常に高い特徴があります。ただし、表面の水滴・塗膜・凹凸が誤ったエコーを生じさせるリスクがあるため、表面状態の管理が厳しい状況での適用が条件です。


参考:UT(超音波探傷試験)の方式別の原理と資格制度について詳しく解説
UT(超音波探傷検査)とはどのような検査?特徴や原理を解説 - ソーキ


超音波探傷の探触子と周波数選定:金属種別・板厚別の実務ポイント

超音波探傷で「周波数は何でもいい」と思っている現場では、検出精度に大きな差が出ることがあります。周波数の選定は、検出できるきずの最小サイズと伝播距離のバランスに直結します。


超音波の周波数と波長は次の関係にあります。


$$\lambda = \frac{C}{f}$$


(λ:波長、C:音速、f:周波数)


鉄の縦波音速は約5,900m/sです。これを使って計算すると、5MHzの超音波の波長は約1.18mm、2MHzでは約2.95mmになります。きずの検出限界は通常「波長の1/4〜1/8程度」とされるため、5MHzでは約0.15〜0.3mm、2MHzでは約0.37〜0.74mm程度が検出下限の目安です。周波数が高いほど小さなきずを見つけられますが、その分、材料内での減衰も大きくなり、遠くまで届きにくくなります。


実際の検査では主に5MHzと2MHzの探触子が使われます。違いは以下の通りです。


  • 🔵 5MHz探触子:微細なきずの検出に優れる。溶接部や薄板(目安:板厚50mm以下)の探傷に向く。
  • 🟠 2MHz探触子:厚板(目安:板厚50mm〜200mm)や粗粒材(鋳造品・オーステナイト系ステンレスなど)に向く。組織ノイズを抑えられる。


鋳造品やオーステナイト系ステンレス鋼などの「粗粒材」は結晶粒界が粗く、超音波が粒界で散乱しやすいためノイズが増えます。結晶粒の大きさが検出したいきずと同程度になると、ノイズに隠れてきずエコーが埋もれてしまいます。このような材料では高周波数探触子は逆効果です。材料特性を知ることが先決です。


一方、薄板の内部欠陥を精密に検出したい場合は10MHz〜25MHzの高周波探触子が使われることもあります。電子部品の接合検査や、航空機部品の微細なきず検出など、高精度が求められる用途に適しています。


また、探触子の「振動子サイズ(チップ径)」も重要なパラメータです。振動子が大きいほどビームが遠くまで直進しやすく、小さいほど近距離での分解能が上がります。JIS Z 3060では溶接部検査に使う斜角探触子の振動子寸法や屈折角の選定基準が規格化されており、それに従うことが検査の信頼性を担保することにつながります。


参考:溶接部に使う探触子の周波数・屈折角選定の技術的根拠が詳しく解説されています
超音波探傷試験で使用する探触子の周波数の選定 - 日本溶接協会 Q&A


超音波探傷の音響インピーダンスと反射率:検査結果を左右する物理的な仕組み

超音波探傷の精度は「物理」で決まります。感覚や経験だけでなく、音響インピーダンスと反射率の計算をある程度理解していると、現場での判断が格段に的確になります。


音響インピーダンスZは次の式で計算されます。


$$Z = C \times \rho$$


(C:物質中の音速、ρ:密度)


超音波が2つの物質の境界に達したとき、その境界での反射率rは次の式で求められます。


$$r = \frac{Z_2 - Z_1}{Z_1 + Z_2}$$


たとえば水(Z₁=1.48)と鉄(Z₂=46.4)の境界での反射率を計算すると、


$$r = \frac{46.4 - 1.48}{1.48 + 46.4} \approx 0.938$$


つまり約94%が反射して、約6%しか鉄の内部に通過しません。さらに、鉄から再び水(探触子)側に戻るときも同様の損失が起きるため、実際に探触子が受信できる超音波エネルギーは1/1000以下とされています。


これは何を意味するかというと、わずかな空気の混入でも致命的な探傷精度の低下が起きるということです。鉄と空気の音響インピーダンス差は鉄が46.4に対して空気が0.0004と、約11万倍以上の差があります。この場合の反射率は事実上99.9%以上となり、超音波はほぼ全反射して試験体に入っていけません。意外ですね。


この物理的な事実が、接触媒質(カップリング剤)が欠かせない理由です。探触子表面と試験体の間に水・グリセリン・マシン油などを介在させることで、空気層をなくし、超音波が試験体内部へ効率よく通過できる状態を作ります。油分や粗い表面、サビのある箇所ではカップリングが安定しないため、探傷前の表面処理も検査精度に影響します。


また、縦波と横波の違いも重要です。超音波には、進行方向と振動方向が同じ「縦波(圧縮波)」と、進行方向と振動方向が直交する「横波(せん断波)」があります。横波は液体の中では伝播しないため、液体を接触媒質として使う場合は試験体内部でのみ存在します。横波は縦波より音速が遅く(鉄の縦波:約5,900m/s、横波:約3,240m/s)、波長が短くなるため分解能が上がりやすいという特徴があります。細かいきずを見つけたい場合に横波探傷が有効です。


参考:鋼溶接部の超音波探傷試験方法の規格。探触子選定・感度設定・判定基準が体系的に規定されています
JIS Z 3060:2015 鋼溶接部の超音波探傷試験方法 - kikakurui.com


【独自視点】超音波探傷の「見えないきず」はなぜ起きるか:密着欠陥と組織ノイズの盲点

超音波探傷は「1μmの空洞でも反射する」と知られています。しかし実は、それ以上の大きさのきずでも「見えない」ことがあります。


それが「密着欠陥」と呼ばれる状態です。超音波の反射は物質の表面(境界面)で発生しますが、きずの面同士が完全に密着して空気層が存在しない状態では、音響インピーダンス差がほぼゼロになり、超音波が反射せずに通過してしまいます。引っ張り強度がゼロで実質的な割れであっても、密着していれば超音波探傷では検出できません。これが盲点です。


特に鍛造後の圧着割れや、焼入れ処理後に生じる冷間割れの一部はこの密着状態になりやすく、外部から圧縮力がかかった状態で探傷すると見落としのリスクが高まります。残留応力によって割れ面が閉じている場合も同様です。このような場合は、磁粉探傷試験(MT)や浸透探傷試験(PT)といった表面検査手法を組み合わせることが、見落としを防ぐための有効な対策です。


もう一つの盲点が「組織ノイズ」です。鋳鉄・オーステナイト系ステンレス・一部のニッケル合金など、結晶粒が粗い材料では、超音波が金属の粒界で散乱し、ランダムなノイズが大量に発生します。このノイズの中にきずエコーが埋もれると、高い専門知識がなければ判別できなくなります。5MHzの高周波探触子を鋳造品に使った場合、きずエコーがノイズに隠れて判別不能になるケースは珍しくありません。


対策としては、周波数を下げる(2MHzまたは1MHzへ)こと、フォーカス型探触子を使ってビームを絞ること、あるいはフェーズドアレイ法(PAUT)によってSN比を改善することが有効です。フェーズドアレイは複数の送受信を合成するため、ノイズを統計的に平均化してきずエコーを際立たせる効果があります。これが条件です。


また、超音波探傷結果の信頼性は「対比試験片」の精度にも大きく依存します。対比試験片とは、実際の試験体と同一材質・同一形状で、人工的なきず(平底穴や溝)を加工した基準片です。この試験片で感度を校正してから探傷を行わないと、得られたエコーの高さがきずの大きさとどう対応するかが分からなくなります。対比試験片の作製精度が低ければ、どれだけ優秀な探傷器を使っても、結果の信頼性は担保されません。


| 見落としの原因 | 具体的な状況 | 対策 |
|---|---|---|
| 欠陥の向き | 欠陥面が超音波方向に対して傾いている | 2方向以上の走査(JIS Z 3060準拠) |
| 密着欠陥 | 割れ面が閉じており空気層がない | MTやPTとの併用 |
| 組織ノイズ | 鋳造品・粗粒材でノイズが多い | 低周波数探触子またはPAUT使用 |
| カップリング不良 | 接触媒質が不十分・表面粗さが大きい | 表面清掃と媒質の適切な塗布 |
| 感度設定ミス | 対比試験片での校正が不正確 | 対比試験片の正確な作製と定期校正 |


非破壊検査技術者資格(JIS Z 2305に基づく民間資格)では、UT(超音波探傷試験)のレベル1において最低訓練時間40時間・経験年数3か月以上が受験要件として定められています。これは、超音波探傷が技術者の技量に強く依存する検査であることを意味します。資格取得後も5年ごとの継続調査と10年ごとの再認証が必要です。技能の維持が必須です。


参考:非破壊検査の各種方法・原理・特徴を産総研が解説。超音波探傷以外の手法との比較に役立ちます
非破壊検査とは? - 産業技術総合研究所(AIST)


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超音波探傷RB-RC試験片1-7mm