SUS309Sは耐食ステンレスだと思っていると、現場で工具を3本余計に消耗します。
SUS309Sは「JIS G 4303 ステンレス鋼棒」に規定されたオーステナイト系ステンレス鋼です。22Cr-12Niを主組成とし、一般的なSUS304(18Cr-8Ni)よりもクロムとニッケルをともに多く含むのが最大の特徴です。
化学成分は、クロム(Cr)が22.00〜24.00%、ニッケル(Ni)が12.00〜15.00%、炭素(C)は0.08%以下、ケイ素(Si)1.00%以下、マンガン(Mn)2.00%以下という構成です。モリブデンや銅などは含まず、クロムとニッケルの相乗効果で耐熱性・耐食性を高めています。
| 項目 | SUS309S | SUS304(参考) |
|---|---|---|
| Cr(%) | 22.00〜24.00 | 18.00〜20.00 |
| Ni(%) | 12.00〜15.00 | 8.00〜10.50 |
| C(%) | 0.08以下 | 0.08以下 |
| 耐力(N/mm²) | 205以上 | 205以上 |
| 引張強さ(N/mm²) | 520以上 | 520以上 |
| 伸び(%) | 40以上 | 40以上 |
| 硬さ(HB) | 187以下 | 187以下 |
実は、JIS G 4303における機械的性質の数値はSUS304とまったく同じです。これは意外ですね。つまり引張強さや硬さの規格値だけを見ると差がありません。大きな違いは成分比率であり、それが耐熱性と被削性に直接影響します。
比重は7.98で、SUS304(7.93)よりわずかに重い点も設計時に覚えておくと便利です。固溶化熱処理状態で供給されるため、硬さはHB 187以下と安定しています。
JIS G 4303(ステンレス鋼棒)の規格詳細は、日本産業標準調査会のデータベースで確認できます。
日本産業標準調査会 JIS G 4303 ステンレス鋼棒 規格検索ページ
SUS309Sの耐熱温度は1000℃以下とされています。これはSUS304(約800℃)やSUS316(約850℃)を大きく上回ります。耐熱性の順序は「SUS304 < SUS316 < SUS309S < SUS310S」であり、価格もこの順で高くなる傾向があります。
| 鋼種 | 耐熱温度の目安 | 主用途 |
|---|---|---|
| SUS304 | 約800℃ | 汎用・食品・建材 |
| SUS316 | 約850℃ | 化学プラント・海水環境 |
| SUS309S | 約1000℃以下 | 燃焼器具・加熱炉・排ガス部品 |
| SUS310S | 約1000℃以上 | 高温炉・工業炉・燃焼管 |
SUS309Sの代表的な用途は、燃焼室部品、燃焼器具、加熱炉部品、治具・トレイ、排ガス部品などです。800〜1000℃前後の温度域で継続的に使用される部品に選ばれます。これが基本です。
一方でSUS310Sはニッケル約20%・クロム約25%と含有量がさらに多く、1000℃超の環境にも耐えます。ただし、SUS310Sは700〜900℃帯で長時間使用するとシグマ相と呼ばれる脆い組織が析出するリスクがあるため、温度域と使用時間を考慮した選択が必要です。SUS309Sにはそのリスクが比較的低いという特徴もあります。
このように耐熱ステンレスの鋼種選定では「最高使用温度だけで判断してはいけない」という点が重要です。使用温度帯の中間域での長時間挙動、雰囲気(酸化性か還元性か)、コストのバランスを考慮したうえでSUS309Sを選定できれば、SUS310Sより安価に仕上げられます。SUS309Sで十分な条件も意外と多いということですね。
耐熱ステンレスの選定に関する詳細な解説は以下のページが参考になります。
北東技研工業|耐熱ステンレスの種類と用途(使用温度域・雰囲気・強度の観点から解説)
SUS309Sの丸棒として市場で流通しているのは、主にピーリング仕上げ(PM)です。ピーリングとは熱間圧延後に表面の黒皮(酸化スケール)を旋削切削で取り除く加工で、光沢のある表面仕上げが得られます。公差はプラス公差(マイナス0)が一般的で、φ8〜φ200程度のサイズ、定尺4000mmが標準です。
一般的に流通しているステンレス丸棒の種類と特徴を整理すると次のとおりです。
| 種類 | 製造方法 | 公差 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ピーリング(PM) | 熱間圧延後、黒皮を旋削 | プラス公差(-0) | 鍛造素材・機械加工素材全般 |
| 酸洗(SD) | 熱間圧延後、酸洗い | ±0.3〜0.4mm | 建材・土木・タンク取手 |
| センタレス | 研磨で真円度・精度を向上 | h7公差 | シャフト・精密部品 |
| 引抜(ミガキ) | コイル状をダイスで引抜 | h9公差 | 精度を必要とする小径部品 |
SUS309Sに関しては、酸洗仕上げ(SD)でφ8〜φ22の定尺4000mm品も一部流通しています。機械加工の素材としてはピーリングを選ぶのが基本です。
注意が必要な点として、ピーリング材のプラス公差を見落として使用すると、後工程の嵌合寸法に問題が生じることがあります。例えば軸受けなどに組み合わせる場合は、h9公差の引抜品やh7公差のセンタレス品を選ぶほうが適切です。サイズ選定時に「用途=仕上げ種類」を必ずセットで確認するようにしましょう。
また、φ200という大径材はハガキの横幅(148mm)より太く、普通乗用車のタイヤ幅よりやや細い程度です。重量は1m当たり約250kgにもなるため、取り回しの段取りも早めに確認する必要があります。
ステンレス丸棒の仕上げ種類と用途の違いについては以下のページで詳しく解説されています。
東京金商株式会社|ステンレス製丸棒の種類と使い分け(ピーリング・酸洗・センタレス・引抜の比較表付き)
SUS309Sの最も大きな弱点が被削性の低さです。高いNi・Cr含有量によって材料が硬化・粘質化しており、切削時には加工硬化が起きやすくなります。SUS304と比較しても被削性は明らかに劣ります。厳しいところですね。
加工硬化とは、切削や変形を受けた部位が急激に硬くなる現象です。これが起きると次のパスの切削抵抗が増大し、工具が早期に摩耗します。結果として工具交換頻度の増加→加工コストの上昇という流れにつながります。
SUS309S丸棒を旋削・フライス加工する際のポイントを以下にまとめます。
工具の摩耗が早い場合の対策として、まず「切削条件のどこに問題があるか」を一つずつ確認するのが効率的です。多くの場合、送り量を小さく設定しすぎている(加工硬化層を削れていない)ことが原因です。これだけ覚えておけばOKです。
切削加工の依頼先や使用工具を検討する際は、SUS309S相当材の加工実績を持つ業者や、ステンレス専用工具のカタログでSUS309S・310Sへの対応品を確認するのが近道です。例えばMisumiのオンライン技術情報には鋼種別の切削条件目安が掲載されており、参考になります。
ステンレス鋼の切削における加工硬化と対策については以下が詳しいです。
株式会社新進|ステンレスの切削性について(加工硬化・工具摩耗・鋼種別の被削性の違いを解説)
SUS309Sを溶接する場合、最も注意すべき現象が鋭敏化です。鋭敏化とは、550〜900℃の温度域に一定時間さらされることで、粒界にクロム炭化物が析出し、粒界周辺のクロム濃度が低下する現象です。これにより、表面の不動態皮膜が局所的に機能しなくなり、粒界腐食や応力腐食割れが発生しやすくなります。
SUS309Sは炭素含有量が最大0.08%であり、SUS304L(0.03%以下)や安定化鋼種(SUS321・SUS347)と比べると鋭敏化のリスクが相対的に高いと言えます。つまり溶接後に高温腐食環境で使用する場合は要注意です。
鋭敏化への対策としては次の方法が有効です。
また、SUS309Sはオーステナイト系のため溶接時の熱変形・残留応力が比較的大きく出やすい特性もあります。長尺の丸棒に複数箇所溶接する場合は、バックステップ溶接や対称溶接などで変形を分散させる工夫が必要です。これが原則です。
一方で「SUS309Sは高温で使うのだから溶接後の耐食性なんて関係ない」と考えるのは危険です。溶接部が室温〜中温域で腐食性流体に触れる環境(例:排ガス部品の外面)では、鋭敏化に起因した腐食が製品寿命を大幅に縮める事例もあります。
SUS309Sの材料特性・用途・成分に関する詳細情報は以下のページで確認できます。
Mitsuri|SUS309S(ステンレス鋼)耐熱温度・比重・成分・機械的性質の詳細解説
十分な情報が集まりました。記事を作成します。