スプルーブッシュ糸引き防止の選定と対策完全ガイド

スプルーブッシュの糸引き防止はノズル温度調整だけでは解決しないケースが多い。原因・メカニズム・選定方法・現場対策まで、金属加工・射出成形従事者が知っておくべきポイントをまとめました。あなたの現場に合う対策は?

スプルーブッシュの糸引き防止を正しく理解して成形不良ゼロへ

糸引き止タイプのスプルーブッシュに交換しても、糸引きが再発することがあります。


この記事の3ポイント要約
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糸引きの根本原因はノズル先端部の未固化

型開き時にスプルー頂点の樹脂が固化しきれていないことが糸引きの主因。ノズル温度・冷却時間・ブッシュ形状の3つが絡み合って発生する。

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糸引き防止ブッシュには「逆テーパ」「フィン構造」「エアーカット」の3タイプがある

樹脂の種類・成形条件・金型構造によって最適なタイプが異なる。誤った選定はコールドスラグ発生や圧力損失増大につながる。

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適切な対策でサイクルタイムと材料費を同時削減できる

冷却スプルーブッシュへの交換で成形時間が24秒→20秒に短縮した実績あり。糸引き対策は品質改善だけでなく、直接的なコスト削減にもつながる。


スプルーブッシュの基本構造と糸引きが起きるメカニズム


スプルーブッシュ(Sprue Bushing)は、射出成形機のノズル先端と金型を接続し、溶融樹脂をランナー・キャビティへと導く流路を形成する部品です。固定側取付板(トッププレート)の中央に埋め込まれ、位置決めリング(ロケートリング)とともに金型の芯出し基準となります。手のひらに収まるほど小さな部品ですが、ここでの選定ミスが量産ラインの停止を招くこともあります。


「糸引き(Stringing)」とは、型開き時にスプルー頂点から糸状に樹脂が伸びてしまう成形不良です。納豆の糸のようにスプルーとノズル間の樹脂が切れずに伸び続け、金型のパーティングライン(PL面)に挟み込まれることで、次ショットの製品にバリや外観不良が発生します。最悪の場合、金型のPL面が傷つき、高額な修理費用が発生します。これは現場では見過ごされがちですが、放置すると金型の寿命を大幅に縮める要因になります。


糸引きが発生するメカニズムはシンプルです。スプルー先端(ノズルタッチ部)の樹脂温度が高すぎて粘度が低下しており、型開き時点での固化が不十分なために、樹脂が切れずに伸びてしまいます。物理的には「曳糸性(えいしせい)」と呼ばれる樹脂固有の性質も関係しており、PPSやABSなどの一部の樹脂は特に糸引きしやすい傾向があります。


スプルーブッシュは消耗品です。材質として最も一般的なのはSKD61(熱間ダイス鋼)で、焼入れ焼戻しを行い、硬度HRC50〜55程度で使用します。ガラスフィラーを30%以上含む樹脂を扱う場合は、超硬合金製への変更を検討する必要があります。内部には片側1°〜3°のテーパ(抜き勾配)が設けられており、固化したスプルーランナーをスムーズに引き抜くために不可欠な構造です。


























糸引きの主な原因 具体的な状況
ノズル温度が高すぎる 樹脂粘度が低下し、固化する前に型が開く
冷却時間が不足 スプルー末端の樹脂が固まらないまま離型する
スプルー径が太い ノズルタッチ断面積が大きく冷却効率が悪化する
サックバック量が少ない スクリュー先端の圧力が残り型開き時に樹脂が押し出される
背圧が高すぎる 計量時に過剰な圧力がかかり糸引きを誘発する


スプルーブッシュの糸引き防止タイプ3種類と選び方

糸引き防止を目的としたスプルーブッシュには、大きく分けて3種類のアプローチが存在します。それぞれの構造と特徴を正しく理解することが、適切な選定の第一歩です。


① 逆テーパ(アンダーカット)型は最も古くから使われてきた方式です。スプルーブッシュのノズルタッチ側入り口付近に、テーパのないストレート区間(ランド)と微小な逆勾配(アンダーカット)を設けています。型開き時、固化したスプルーがこの逆テーパ部に引っかかり、金型が開く力で強制的に引きちぎられる仕組みです。ミスミのスプルーブシュ(糸引き防止加工付)がこれに相当し、フランジ部に薄い金属板を軽圧入してスプルー末端に小さなスリット(溝)を設けることで、末端部の冷却固化を促進します。


② フィン(ラジエーター)構造型は、スプルーと入れ子を別部品・別材質にし、入れ子裏側にフィン形状の断熱構造を持たせた方式です。代表製品はプラモールド精工の「ラジエタースプルーブシュ」です。一般的なスプルーブッシュは一体構造のため、ノズル先端部の熱がスプルー全体に伝わりやすく糸引きを起こしやすいのに対し、フィン構造が断熱層となることでスプルー先端部の温度上昇を抑制します。さらにスプルー入り口がH形状になっているため表面積が増加し、通常より冷えやすい構造となっています。ABS・PPS・PC・POMなど幅広い樹脂で効果が実証されており、「使用後は糸引きが完全になくなった」という実績があります。


③ エアーカット型は、型開き時にエアーをスプルーに噴射し、糸引きした樹脂を物理的に切断する方式です。GASEXITのSA.BUSHがこれにあたります。冷却を待たずに糸引きを防止できるため、スプルー固化待ち時間が不要となり、成形サイクル短縮に直結します。エアー圧は0.5MPa以上が必要で、型開き時に3秒程度噴射するタイミング設定が重要です。噴射タイミングが遅いと効果が出ないため、成形機または取り出し機のタイマー機能で制御します。


これは使えそうです。それぞれにメリット・デメリットがあるため、下表を参考に自社の成形条件と照合して選定してください。


























タイプ 原理 向いているケース 注意点
逆テーパ型 アンダーカットで物理的に樹脂を切断 汎用的・コストを抑えたい スプルー詰まりが起きやすい樹脂は要注意
フィン(ラジエーター)構造型 断熱構造でノズル熱の伝わりを遮断 PPSなど糸引きしやすい高機能樹脂 交換コストがやや高い
エアーカット型 エアー噴射で糸を強制カット サイクルタイム短縮を優先したい エアー配管・タイマー設定が必要


スプルーブッシュのノズルR寸法と糸引き防止の関係

糸引き対策を考える際に、意外と見落とされがちなポイントがノズルタッチ部のR寸法選定です。成形機ノズルの先端球面半径(r)とスプルーブッシュの受け口球面半径(R)の組み合わせを誤ると、樹脂漏れが発生し、それが糸引きをさらに悪化させます。


鉄則は「ノズルのr < ブッシュのR」です。たとえばノズルがSR10であれば、ブッシュはSR11またはSR15を選択します。同じR値(SR10同士)にしてしまうと、加工誤差や熱膨張・芯ズレにより面当たりが不均一になり、わずかな隙間から樹脂が漏れ出します。rをRより小さくすることで、接触は「面」ではなく「円周上の線」となり、ノズルタッチ力(数トン)が狭い面積に集中してシール性が高まります(メタルシール効果)。これが原則です。


また、ノズル穴径(dn)とブッシュ穴径(Db)の関係も重要です。設計ルールは「dn < Db」で、通常はブッシュ穴径をノズル穴径より0.5〜1.0mm大きく設定します。たとえばノズル径φ3.0であれば、ブッシュ径φ3.5〜φ4.0が標準です。これにより、成形機の芯ズレ(通常0.1〜0.2mm程度)があっても、ノズル穴がブッシュ壁に隠れることを防ぎ、スプルー引き抜き時の「かじり」も防止できます。


ノズルタッチ面は消耗します。長期使用でR面が変形・荒れてくると、樹脂漏れ(鼻たれ)が発生し、固まった樹脂が衝撃吸収を妨げてブッシュを破損させます。定期的に光明丹(ブルーペースト)をノズルに塗布してタッチ確認を行い、当たりが悪い場合はダイヤモンドペーストで球面を研磨修正することが、糸引き再発防止の観点からも重要です。


冷却設計と糸引き防止の深い関係:サイクルタイム短縮にもつながる

糸引きの根本原因は「スプルー先端の未固化」ですが、その解決策の一つが冷却効率の改善です。ここが、多くの現場で手が届いていない盲点です。


スプルーブッシュ専用の冷却経路を持つ「冷却スプルーブッシュ」を使用すると、スプルー部だけを集中的に冷却できます。岐阜大学の実験データによると、金型温度50℃の条件下で冷却時間を16秒から6秒へと大幅に短縮できたという結果が出ています。実際の量産現場でも、成形時間が24秒から20秒に短縮されつつ糸引きも同時に解消された事例があります。数字で言うと約17%の時間削減で、月産50万ショットの現場なら年間で数百時間単位の稼働ロスを回収できる計算になります。


冷却の観点からはスプルーの形状設計も重要です。スプルーの体積は「円錐台の体積公式」で計算でき、テーパ角度が大きいほど体積は増え、冷却時間も延びます。たとえば長さ50mm・入り口径φ4mm・テーパ片側2°のスプルーの体積は約1,335mm³、重量換算で約1.6gです。少量に思えますが、月産100万個なら1.6トンの樹脂スクラップになります。テーパを抑え、スプルーをスレンダーに設計することが、糸引き防止と材料費削減の両立につながります。


つまり冷却設計が基本です。スプルーブッシュ周辺の冷却水路配置を見直し、スプルー先端部まで冷却経路が届いているかどうかを確認してください。既存金型の冷却回路に手が入れられない場合は、断熱スプルーブッシュ(ZiRKONなど)でノズル熱の金型への伝導を遮断するアプローチも有効です。


コールドスラグとスプルーロックピンが糸引き対策に果たす役割

糸引き防止を議論する際に、見落とされがちな関連構造が「コールドスラグウェル」と「スプルーロックピン」です。この2つは糸引きの直接的な防止機構ではありませんが、成形不良の連鎖を断ち切るために欠かせない存在です。


コールドスラグとは、ノズル先端との接触で冷やされた「冷えた樹脂塊」のことです。これがスプルーブッシュを通過してそのままキャビティへ流れ込むと、フローマーク(流れ跡)や強度低下の外観・品質不良を引き起こします。これを防ぐため、スプルーブッシュ直下のランナー交点には必ずコールドスラグウェル(冷料溜まり)を設けます。コールドスラグウェルは、最初に流れ込んでくる冷えた樹脂を受け止める「バッファ」として機能します。


スプルーロックピン(Zピンなど)は、型開き時にスプルーランナーを可動側に確実に引きつけ、固定側から引き抜く役割を担います。ロックが不十分だと、スプルーが固定側に残ったり、無理な引き抜きで糸引きが発生したりします。スプルー詰まり(金型内残り)が頻発する場合は、ロックピンのアンダーカット形状を強化することが有効な対処策のひとつです。


意外ですね。糸引き対策はスプルーブッシュ単体の改善だけでなく、コールドスラグウェルとロックピンを含む「スプルー周辺の設計トータル」で考えることが再発防止への近道です。フィン構造タイプのブッシュを使用した際、コールドスラグが発生してショートが起きた事例もあります。ブッシュ交換後はコールドスラグウェルの容量が十分かどうかも合わせて確認してください。


糸引き防止対策を現場で正しく判断するためのトラブルシューティング

糸引きは一度発生するとランニングで不良品を出し続けるため、早期の原因特定と対策が必要です。以下の手順で原因を絞り込んでください。


まず確認すべきは「どこで糸引きが発生しているか」です。スプルー部(ノズルタッチ箇所)での発生なのか、ホットランナーゲート部での発生なのかで、対策のアプローチが大きく変わります。スプルー部であれば、ノズル温度・冷却時間・サックバック量・ブッシュ形状の4点を順に確認します。ホットランナーゲート部であれば、HRゲートとキャビティ部の温度差が原因であることが多く、HR温度設定の見直しが先決です。


ノズル温度を下げることが効果的です。ただし下げすぎるとノズル詰まりを起こすため、樹脂メーカー推奨の成形温度範囲内で少しずつ調整します。同時に、背圧を下げてサックバック量を増やすことで、スクリュー先端の残圧を抜き、糸引きを抑制できます。ただしサックバックを増やすと空気巻き込み(シルバーストリーク)が発生しやすくなるため、別の不良が出ていないか確認しながら調整してください。


原料ロットを変更した直後に糸引きが再発するケースも現場では珍しくありません。同一原料でもロットが変わるとMFR(メルトフローレート、樹脂の流れやすさ)が異なることがあり、高い加熱筒温度設定の成形品ほど影響を受けやすいです。ロット切り替え時はタイムサンプルによる品質確認を忘れずに実施してください。


成形条件での改善が難しいケースでは、専用の糸引き防止スプルーブッシュへの交換を検討します。前述の逆テーパ型・フィン構造型・エアーカット型の中から、使用樹脂・成形サイクル・金型構造に合ったものを選定してください。部品コストの目安として、ミスミのカタログ品(糸引き防止加工付スプルーブシュ)は標準品とほぼ同等価格帯で入手でき、まずはカタログ品から試すのが現実的です。


参考資料:糸引きの発生要因と各種対策の詳細について

射出成形における糸引きとは? | 主な発生要因とそれぞれの対策(MAZIN)


スプルーブッシュの構造・糸引き防止機構・ノズルR計算について

スプルーブシュとは|糸引き防止と構造・選定のポイント(instant.engineer)


冷却スプルーブッシュによるサイクルタイム短縮の効果について

冷却スプルーブッシュ(特許取得)|大阪ケイオス




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