順送プレス金型は、単発型に比べて金型コストが数倍高くなっても大量生産では1個あたりのコストが約半分以下になる。
順送プレス金型(プログレッシブ型)は、1つの金型の中に「抜き」「曲げ」「絞り」など複数の加工工程を等間隔で配列した金型です。コイル状の金属材料(コイル材)をプレス機にセットし、送り装置(フィーダー)によって一定ピッチずつ前進させながら、1回のプレスで複数工程の加工を同時に完了させます。材料がつながった状態のまま各工程を通過していくため、最後のステージで切り離されると完成品が次々と排出されます。
これが順送プレスの最大の特徴です。
単発型では、1工程ごとに作業者が材料を次の金型へ移す必要があります。一方、順送型は1分間に40〜250個(SPM40〜250)もの加工が可能で、単発型の同等ラインと比べると加工速度は数倍から十数倍になります。たとえば月産5,000個の製品を製造する場合のコスト試算では、単発3工程の部品コストが約11.18円に対し、順送では5.86円程度に抑えられるという参考データもあります(NCネットワーク金属プレス技術講座より)。
つまり、大量生産では1個あたりのコストが大幅に下がるということです。
ただし、その代わりに金型構造は非常に複雑になります。金型内部には多数のプレート類・パンチ・ダイ・パイロットピン・ガイドポストなどが組み込まれており、「金型の内部に小さな工場ができている」と表現されることもあります。この複雑さがそのまま金型製作コストに直結するため、順送型の金型費用は単発型に比べて数倍高くなるのが一般的です。
構造の全体像として、金型は大きく「上型(パンチ側)」と「下型(ダイ側)」に分かれます。上型はプレス機のスライドに取り付けられ、下死点まで下降して材料に加工を加えます。下型はボルスター(プレス機の台)に固定され、材料を受け止めます。上型と下型の位置精度を保つために、ガイドポストとガイドブシュが四隅に設けられています。
| 金型形式 | 金型費用(目安) | 1個あたり加工費 | 適した生産量 |
|---|---|---|---|
| 単発型(3〜4工程) | 105〜120万円 | 高め(工程数分の人手必要) | 小ロット〜中ロット |
| 順送型 | 130万円〜(複雑さによりさらに高価) | 低い(自動化・高速) | 大ロット・量産 |
順送プレス金型の構造を特徴づける要素のひとつが、多数のプレートで構成されている点です。上型だけでも「パンチホルダ」「パンチバッキングプレート」「パンチプレート」「ストリッパバッキングプレート」「ストリッパプレート」という複数枚のプレートが積み重なっています。これだけの枚数が必要な理由は、各プレートがそれぞれ固有の役割を担っているからです。
プレート類の役割は以下のとおりです。
これだけ多くのプレートが必要なのは、それが必須です。たとえばストリッパプレートがなければ、パンチが材料に食い込んだまま上昇してしまい、次の送りができなくなります。バッキングプレートがなければ、高圧が繰り返し加わることで母材プレートが徐々に変形し、寸法精度が崩れます。各プレートが連携して初めて、精密で安定した量産加工が可能になるわけです。
金型の精度と寿命を大きく左右するのが、パンチ・ダイ・パイロットピンの3つの部品です。この3つは正確には「加工そのものを行う部品」であり、プレート類はそれらを支えるための構造体と言えます。
**パンチとダイの役割とクリアランス**
パンチ(上型・凸型)は材料に直接力を加えて、抜き・曲げ・絞りなどの加工を行う部品です。ダイ(下型・凹型)はパンチと対となって材料を受け止め、成形後のスクラップや製品を落とす穴も兼ねています。この2つの間隔を「クリアランス」と呼びます。クリアランスは板厚の5〜10%が一般的な目安ですが、材質によって最適値が異なります。
クリアランスが原則です。
クリアランスが狭すぎると摩耗や焼付きが起こりやすく、広すぎると切断面が荒れたりバリが発生したりします。順送型では工程ごとに異なる加工を行うため、各ステージのパンチ・ダイのクリアランスをそれぞれ最適化する必要があります。これが設計難易度を高める要因のひとつです。
**パイロットピンの役割**
順送プレス金型において、精度安定のために欠かせない部品がパイロットピンです。フィーダーが材料を送り込む際には、わずかなズレが生じることがあります。パイロットピンは、工程ごとに材料のパイロット穴へ先端から挿入し、加工位置を±0.01mm単位で微修正する役割を担います。
これはフィーダーだけでは補えない精度を確保するための仕組みです。
パイロット穴は通常、ストリップレイアウトの先頭ステージで最初に抜かれます。製品の穴をパイロット穴として兼用するケースもありますが、パイロット挿入によって穴径がわずかに拡大するため、寸法精度が要求される穴には兼用しないのが原則です。パイロットの本数は通常2本。材料幅や送りピッチが大きい場合は3本以上入れることもあります。
なお、精度を高めるために「ストリッパガイドピン・ストリッパガイドブシュ」を設けてストリッパプレートをガイドし、パンチとダイの位置関係をより正確に保つ構造も採用されます。
参考リンク:パイロットピンとストリッパガイドの関係についての詳細解説
ミスミ技術情報 - ストリッパガイドとパイロットの関係(プレス金型の設計)
順送プレス金型の設計において、最も重要かつ最初に決定する必要があるのが「ストリップレイアウト(帯状材料のレイアウト)」です。これは、コイル材がどの順序でどのように加工されるかを示す設計図であり、製品の品質・材料歩留まり・金型コスト・生産性のすべてがここで決まると言っても過言ではありません。
**送り方向と材料歩留まり**
ストリップレイアウトの最初の判断は「送り方向の決定」です。L字形の製品なら斜め取りにすると材料歩留まりが向上しますが、平面度の精度が要求される場合は矯正が難しいため注意が必要です。基本的には送り方向を短く、材幅方向を長くする配置が推奨されます。これによりプレス回転数を上げやすくなり、1本のコイル材から取れる製品数も増えます。
材料歩留まりが原則です。
製品と製品の間には「送りさん(キャリア)」と呼ばれるスクラップ部分が必要で、その幅は板厚の1.5倍以上が目安です。金型強度や構造によっては2〜3倍以上になることもあります。縦方向の余白は「縁さん」と呼ばれ、送りさん幅の1.2倍以上が一般的な基準とされています。
**アイドルステージの役割**
ストリップレイアウトを設計する上で見落とせないのがアイドルステージです。アイドルステージとは、直接の加工を行わない「遊び工程」のことです。設けるタイミングと目的は主に以下の3つです。
アイドルステージを設けるかどうかがステージ数の決め方に直結します。ステージ数が少ないと金型コストは有利ですが品質が不安定になりやすく、多すぎると金型費が増加して回転数も下がります。適正なステージ数を見極めることが、金型設計者の腕の見せどころとも言えます。
参考リンク:ステージ配置とレイアウト作成の具体的な手順
NCネットワーク金属プレス技術講座 - 3-6 順送レイアウト作成手順
順送プレス金型の構造を正しく理解したうえで設計・運用・保全を行うことが、現場での生産性向上とトラブル回避につながります。ここでは、特に現場で重要性が高い4つのポイントを取り上げます。
**① クリアランスと材質の最適化**
金型の寿命と製品精度を長期間にわたって安定させるには、パンチ・ダイの材質選定と熱処理設計が欠かせません。冷間プレス金型には工具鋼のSKD11(冷間ダイス鋼)が多用されますが、高速度工具鋼(SKH材)や粉末ハイス(HAP材など)を用いると耐摩耗性・靭性をさらに向上させることができます。材質が変われば最適クリアランスも変わります。設計段階でのクリアランス最適化は、結果的に金型寿命の延伸とバリ品質の安定に直結します。
**② ガイドポストとノックピンによる位置精度管理**
上型と下型の位置精度は、ガイドポストとガイドブシュの組み合わせで確保されています。組み立て時の各プレート間の位置合わせにはノックピン(ダウエルピン)が使われ、2本以上1組で挿入することで位置決めと回転防止を同時に行います。ガイドポストの摩耗は全ステージの加工精度に直接響くため、定期的な点検が重要です。
ガイドポストは必須の管理対象です。
**③ ハイトブロックによる下死点管理**
ハイトブロック(下死点ブロック)は上下一対のブロックで、金型の下死点高さを一定に保つための部品です。加工時に少し強めに突き当てることで下死点変動をなくし、加工品質の安定を図ります。これがなければ、プレス機の荷重変動や温度上昇による膨張が直接寸法ばらつきとして現れます。
**④ 金型の定期保全と寿命管理**
順送プレス金型は1分間に数十〜250回ものプレスを繰り返すため、パンチ先端の摩耗やストリッパプレートの変形は避けられません。順送型は1つのステージに問題が生じると全工程に影響が及ぶため、定期的な研磨・部品交換を含む保全計画が重要です。金型の使用回数(ショット数)を管理し、摩耗が品質に影響する前に予防保全を行う体制を整えておくことで、急な生産停止を防ぐことができます。
特に量産ラインでは、金型停止1時間あたりの機会損失は数十万円単位に達することもあるため、保全の重要性は非常に高いと言えます。
| 保全の種類 | 内容 | タイミングの目安 |
|---|---|---|
| 日常点検 | 油分・スクラップの除去、目視確認 | 使用後毎回 |
| 定期保全 | パンチ先端研磨、スプリング交換、ガイドポスト確認 | 一定ショット数ごと(材質・加工内容による) |
| オーバーホール | 金型全分解・洗浄・消耗品全交換 | 長期使用後・品質異常発生時 |
参考リンク:金型保全の実践的なアドバイスと各部位の劣化対策
ダイマガ - プレス金型メンテナンスの進め方大全
十分な情報が集まりました。記事を作成します。