表面硬さだけ見て材料を選ぶと、内部は別の硬さになっていて部品が破損するリスクがあります。
ジョミニー試験(Jominy end-quench test)は、鋼の「焼入性(やきいれせい)」を定量的に評価するための標準試験法です。日本では JIS G 0561「鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)」 として規定されており、2011年に改正された現行版が適用されています。なお、2019年の法改正により「日本工業規格」の名称は「日本産業規格」へと変更されましたが、JIS G 0561の規格番号と内容自体は引き続き有効です。
ここで注意すべき重要な点があります。「焼入れ」と「焼入性」は似て非なる概念です。「焼入れ(quenching)」とは高温に加熱した鋼を急冷してマルテンサイトなどの硬い組織を得る熱処理操作そのものを指します。一方、「焼入性(hardenability)」とは「焼入れしたときにどの程度深くまで硬化するか」という材料固有の特性です。つまり、表面硬さの大小ではなく、硬化の到達深さを問う概念だということです。
現場でよくある誤解がここにあります。表面硬さが規格値に入っていれば問題ないと思いがちですね。しかし実際には、内部硬さはまったく異なる数値になっていることが珍しくありません。とくに部品が大きくなるほどこの傾向が顕著になるため、焼入性の評価なしに材料を選定すると、後工程でのトラブルや製品クレームにつながるリスクがあります。
ジョミニー試験の対応国際規格はISO 642:1999「Steel — Hardenability test by end quenching (Jominy test)」で、JIS G 0561はこれを「MOD(修正)」として採用しています。日本独自の変更点が一部あるため、ISO規格と完全に同一ではない点も頭に入れておく必要があります。
JIS G 0561はジョミニー試験について規定している規格の全文が確認できます。
JISG0561:2011 鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)|kikakurui.com
試験手順の理解は現場管理の観点から欠かせません。JIS G 0561が規定する試験の流れを以下で確認していきます。
試験片の寸法と調製
試験片の全長は(100±0.5)mm、直径は25mm(+0.5/0mm)の円柱形で、フランジ付きまたはアンダーカット付きのどちらかを使用します。はがき(縦148mm)よりやや短い棒材をイメージすると、サイズ感がつかみやすいでしょう。試験片は事前に焼ならしを施しておくことが原則で、焼ならし温度・焼入温度はNi含有量(%)とC含有量(%)の組み合わせによって表2で細かく定められています。例えばNi 3.00%以下、C 0.25%以下の鋼材なら焼ならし温度・焼入温度ともに925℃です。
加熱方法
試験片を規定の焼入温度に保った炉に装入し、中心部まで均一に昇温するまで少なくとも20分をかけた後、その温度に30〜35分間保持します。加熱時の酸化・脱炭を防ぐために保護ガスや黒鉛、耐熱鋼製キャップなどで端面を保護することも規定されています。脱炭層が残ると硬さ測定値に誤差が生じるため、この工程は手を抜けない部分です。
焼入作業と5秒ルール
最も重要なのが焼入作業のタイミングです。規格では「炉から試験片を取り出してから焼入れ開始までの時間は5秒以内」と厳格に定められています(記号:tm=5秒)。5秒というのは、人間が3〜4歩歩ける程度の短さです。この時間を超えると、試験片の表面温度が下がりすぎて再現性のある焼入結果が得られなくなります。焼入装置は内径(12.5±0.5)mmの管から水を(65±10)mmの自由高さで噴水させる構造で、水温は5〜30℃(望ましくは20±5℃)と規定されています。冷却は少なくとも10分間継続します。
これが5秒ルールの原則です。
硬さの測定
焼入後、試験片の180度対向する2面を厚さ0.4〜0.5mm研削して硬さ測定面を作ります。硬さの測定位置は焼入端から1.5mm以上離れた点から始め、通常は1.5−3−5−7−9−11−13−15mmおよびそれ以降5mm間隔で測定します。ロックウェルCスケール(HRC)またはビッカース硬さ(HV30)で測定し、両面の対応する点の平均値を求めます。なお、研削時に研削熱で組織変化が起きていないかどうかの確認も規定されており、腐食液(硝酸水溶液など)を使った検証方法まで細かく定められています。
東部金属熱処理工業組合による試験手順の解説が参考になります。
試験結果は横軸に「焼入端からの距離(mm)」、縦軸に「硬さ(HRC)」をとったグラフ、いわゆるジョミニー曲線(焼入性曲線)として表されます。このグラフの形状そのものが焼入性の高低を示す指標になります。
焼入性の高い鋼は、焼入端から離れても硬さが緩やかにしか低下しません。反対に焼入性の低い鋼では、焼入端からわずかに離れただけで急激に硬さが落ちます。これを「硬化深さが浅い」と表現します。たとえば機械構造用炭素鋼(S35C)と同じ炭素量を持つクロモリ鋼(SCM435)では、焼入端から25〜30mm離れた位置での硬さに大きな差が出ることが各種データから確認されています。
焼入性バンド(Hバンド)とH鋼について
同一鋼種でも製造ロットや製鋼条件によって焼入性に若干のばらつきが生じます。そこで設けられたのが「焼入性バンド」という概念です。焼入性バンドは焼入性曲線の上限と下限を示す2本の線で構成され、H鋼(焼入性を保証した構造用鋼鋼材)はジョミニー試験を実施するとこの範囲内に硬さが収まることを保証しています。規格としては JIS G 4052「焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)」が該当します。
例えば SCM435H の場合、焼入端から9mmの位置での焼入性指数は J9mm=45/55(最低45HRC・最高55HRC)として指定されます。この表記方法を「焼入性指数」といい、JIS G 0561の規格では「J12mm=36」のように記します(受渡当事者間の協定によりISO規格表記のJ36-12としてもよい)。これで十分正確な品質保証ができます。
注意すべき用語の混同があります。「H鋼(Hバンドを保証した鋼)」「H型鋼(断面がH字形の型鋼)」「調質済みを表すマルH表記(S45CⒽなど)」は、現場でよく混同されがちな別々の概念です。それぞれの意味を正確に区別して使うことが大切です。
モノタロウの解説記事では焼入性バンドと合金元素の関係がわかりやすく解説されています。
焼入性を左右する最大の要因が合金元素です。ここが理解できると、鋼種の選定ロジックが一気に明確になります。
まず炭素(C)は「最高硬さ」を決定する元素です。焼入端(冷却端)での最高硬さは炭素量によって決まるため、高硬さを求める場合にはC量の多い鋼種を選ぶことが基本となります。ただしC量だけを増やすと靭性が低下するという副作用もあるため、バランスの取れた設計が必要です。
一方、焼入性(硬化深さ)に影響するのはCr・Mo・Mn・Niといった合金元素です。これらは硬さそのものより、「どのくらい深くまで焼きが入るか」を制御します。
| 合金元素 | 焼入性への効果 | 代表的な鋼種 |
|---|---|---|
| Cr(クロム) | 焼入性を大きく向上。パーライト・ベイナイト変態を遅延させる。 | SCr420、SCM435など |
| Mo(モリブデン) | ベイナイトの生成を抑制し、深部硬化性を改善。 | SCM材全般 |
| Mn(マンガン) | 焼入性を高めるとともに焼戻し脆性防止にも寄与。 | SMn材、SMnC材 |
| Ni(ニッケル) | 焼入性向上かつ靭性も維持できるバランス型。 | SNCM材 |
| C(炭素) | 最高硬さを決定。過剰添加は靭性低下を招く。 | S35C、S45Cなど |
鋼種間の焼入性の高さをざっくり比較すると、SC(炭素鋼)<SCr(クロム鋼)<SCM(クロモリ鋼)<SNCM(ニッケルクロムモリブデン鋼)という順になります。これが鋼種選定の基本軸です。
また、オーステナイト結晶粒径も焼入性に影響します。粒径が大きいほど炭化物の核生成が起きにくく、マルテンサイト変態が進みやすくなるため焼入性は高まります。ただし粒径の粗大化は靭性の低下を招くため、焼入温度と保持時間の管理が重要です。これは数値だけ追ってもわかりにくい部分です。
焼入性と合金元素の関係について実務的な観点から詳しく知りたい場合は以下が参考になります。
機械構造用鋼 硬くしたいのか、強くしたいのか|鉄鋼の熱処理と加工
金属加工の現場で最も見落とされがちな落とし穴が「質量効果(マスエフェクト)」です。同一鋼材でも部品の大きさが変わると、焼入れ後の硬さが大きく変化します。品物が大きくなるほど、内部が十分な速度で冷却されず、硬化が浅くなるという現象です。
具体的に言えば、直径15mm以下の小径品では水冷後に59HRC程度の高硬さが得られる鋼種でも、直径100mmを超えるような大径品では表面硬さも内部硬さも大幅に低下することがわかっています。ジョミニー試験データはφ25mmの標準試験片で取られた水冷データなので、そのまま実部品に当てはめることはできません。これは意外ですね。
実務での鋼材選定フロー
現場での選定は以下の順序で考えると整理しやすくなります。
ミルシートにはジョミニー試験値が記載されることがあります。J値の読み方として、例えば「J20mm=47」は「焼入端から20mmの位置でHRC47の硬さが得られる材料」を意味します。受け取ったミルシートにこの値が記載されていたら、それが実際の熱処理工程に見合ったスペックかどうかを必ず確認しましょう。確認が条件です。
また、合金元素が多いほど鋼材価格は上がる一方で、入手性(市場性)は下がります。SNCM系は高焼入性ですが、価格・納期の面でSCM系より不利になることも多く、コストとスペックのバランスを取ることが現実的な設計につながります。とくに初回品や小ロット品では過剰スペックの鋼種を選びがちなので注意が必要です。
ジョミニー試験の結果は単なる材料データにとどまらず、製造現場の品質保証に直結します。ここでは実務で役立つ視点を整理します。
表面硬さだけで合否判定するリスク
現場での熱処理検査は硬さ測定が主流です。これ自体は合理的な方法ですが、「表面硬さが規格範囲に入っていれば合格」という判断だけでは危険な場合があります。表面硬さと内部硬さが大きく異なる状態でも、表面測定値だけでは問題が見えないためです。たとえば大型の構造部品でSCM435を使用した場合、φ300を超えるような品物では焼入れ時の中心部冷却が著しく遅れ、表面硬さは規格値に入っていても中心部の強度が不足していることがあります。痛いですね。
H鋼とJIS G 4052の活用
焼入性のばらつきを管理したい場合、通常鋼種ではなくH鋼(末尾にHが付く鋼種)を指定することで、ジョミニー試験値の上限・下限(Hバンド)が保証されます。近年は製鋼技術の向上により通常鋼種でも品質が均質化されていますが、重要保安部品や強度管理が厳しい部品ではH鋼の指定が確実な選択です。
研削による組織変化への注意
JIS G 0561の規定では、硬さ測定前の研削工程で研削熱による組織変化が起きていないかを腐食試験で確認するよう求めています。研削焼けが発生すると、焼戻しによる軟化や再硬化が起きて硬さ値が不正確になります。試験そのものの精度を担保するために、測定面の作製工程も疎かにできません。研削管理は必須です。
JIS G 0561の記録・報告事項
試験報告書を作成する場合、JIS G 0561では以下を選択的に記録するよう定めています。
とくに水温の記録は任意扱いですが、同一鋼種の試験結果を比較したり異なる機関のデータと照合したりする際に水温の差が影響するため、実務では必ず記録しておく習慣をつけることをおすすめします。水温は管理すべき変数です。
鉄鋼の熱処理と焼入性についてより詳しくは、以下の解説も参考になります。
また、焼入れ性を保証したH鋼の規格はこちらで確認できます。
JISG4052:2016 焼入性を保証した構造用鋼鋼材(H鋼)|kikakurui.com