巻き角度を1度ずらすだけで、製品の強度が最大30%以上変わることがあります。
フィラメントワインディング装置とは、炭素繊維・ガラス繊維・アラミド繊維(ケブラー)などの連続繊維を樹脂に含浸させながら、回転するマンドレル(芯金)に巻き付けて複合材料成形品をつくる専用設備です。金属加工の現場では「削って形にする」発想が主流ですが、この装置は「巻いて強さを生み出す」という全く異なるアプローチをとります。
装置全体を構成する主要コンポーネントは以下のとおりです。
これらのコンポーネントが連携することで、繊維の配置角度・張力・樹脂含有量を一定に保った高品質な成形が実現します。これが原則です。
なお、フィラメントワインディング技術の起源は第二次世界大戦時代にまで遡ります。ジョージ・ルービンとウォルト・グリーンバーグが軽量プラスチック部品の製造ニーズに応えて開発し、戦後は固体ロケットモーターケーシングの製造にも応用されました。70年以上の歴史を持つ成熟した技術です。
装置構造の詳細について、以下の参考資料でより深く確認できます。
フィラメントワインディング工程・装置構成の詳細解説(装置コンポーネントと巻き付けプロセスが体系的に整理されています)
https://incomepultrusion.jp/filament-winding-an-in-depth-look/
フィラメントワインディング装置は「何軸制御か」によって対応できる製品形状と品質が大きく変わります。軸数が多いほど複雑な巻き付けパターンに対応できますが、その分コストも上がります。
最小構成の2軸制御機は、マンドレルの回転(C軸)とキャリッジの直線移動(X軸)だけで動作します。卓上サイズのコンパクト装置もあり、研究開発用途に向いています。4〜5軸制御になると回転軸の追加やキャリッジの傾き補正が可能になり、より複雑な形状への対応力が増します。航空宇宙・オイル&ガス向けの大型成形では最大6軸制御まで拡張できる機種が使われています。
巻き方(巻きパターン)の種類は主に3つあります。
ここで重要な技術的制約があります。低繊維角度(軸方向に対して0〜15°程度)の成形は、フィラメントワインディング装置では難しいとされています。この角度帯では繊維がマンドレル表面で滑りやすく、均一な巻き付けが困難になるためです。軸方向強度を最大化したい場合は、他の成形工法(プルトルージョンなど)との組み合わせを検討する必要があります。
巻き角度は強度に直結します。たとえばJAXA(宇宙航空研究開発機構)が公開している宇宙用高圧ガス機器技術基準では、ヘリカル巻きとフープ巻きを積層する設計が標準的に規定されており、圧力容器の軸方向引張強度は縦方向16,000psi、円周方向は40,000psiに達するケースがあります。これは鉄鋼管の数倍に相当する値です。意外ですね。
JAXA公開資料:宇宙用高圧ガス機器技術基準(フィラメントワインディングの巻き方パターンと設計基準が詳細に記述されています)
https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-0-001F.pdf
装置そのものの理解と同じくらい重要なのが、「何を巻くか」つまり繊維と樹脂の選択です。材料の組み合わせ次第で、製品のコスト・重量・強度・耐環境性は大幅に変わります。
繊維の主な種類と特徴を整理すると次のようになります。
樹脂については、大きく「熱硬化性」と「熱可塑性」に分かれます。
熱硬化性樹脂(エポキシ・ポリエステル・ビニルエステルなど)は現在の主流です。巻き付け後にオーブン硬化が必要ですが、含浸性が高く、寸法安定性に優れています。エポキシ樹脂は機械的特性と耐薬品性のバランスが良く、航空宇宙・自動車分野で多用されます。
一方、近年注目されているのが熱可塑性フィラメントワインディングです。あらかじめ樹脂を含浸させたトウプレグ材料を使い、局所的な加熱で樹脂を溶融しながら巻き付けます。硬化工程中のオーブンが不要になるため、工程が1ステップ短縮できます。これは使えそうです。また、熱可塑性樹脂は再加熱すれば再成形でき、廃棄物のリサイクル性が高い点も環境対応の観点から注目されています。ただし、溶融粘度が高いため含浸の均一性確保が技術的な課題です。
繊維と樹脂の組み合わせに関して実践的な情報をまとめた専門資料として、以下が参考になります。
CFRP成形方法と材料への要求(フィラメントワインディングを含む各成形法の特徴と材料選択の視点が解説されています)
https://arcplas.co.jp/technology/cfrp-processing/
金属加工に携わる方の中には、「フィラメントワインディングは航空宇宙メーカーだけの話」と思っている方も多いかもしれません。しかし実際には、金属加工現場と競合・補完関係にある幅広い産業分野でこの技術は使われています。
最も代表的な用途が高圧容器・水素タンクの製造です。燃料電池自動車(FCV)に搭載される70MPa対応の車載水素タンクは、樹脂製ライナーの外側にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)をフィラメントワインディングで巻き付けたType 4容器が主流です。トヨタ「MIRAI」に採用されている高圧水素タンクには、東レ製の高強度炭素繊維が使われており、金属製タンクでは実現できない軽量性と耐圧性を両立しています。
金属代替という観点での比較を整理すると次のようになります。
| 比較項目 | 金属(鋼材) | CFRP(フィラメントワインディング製) |
|---|---|---|
| 比強度(強度/密度) | 約15 | 100以上(炭素繊維系) |
| 比重 | 約7.8 | 約1.4〜1.7 |
| 耐腐食性 | 処理が必要 | 高い(錆びない) |
| 形状の自由度 | 高い | 主に中空・円筒形に限定 |
| 初期コスト | 低〜中 | 炭素繊維系は高め |
炭素繊維の比強度が鋼鉄の約6〜7倍に達するケースもあります。つまり同じ強度を出すためなら、CFRPは鋼材より大幅に軽くできます。
主な用途分野を列挙すると次のとおりです。
特に水素エネルギー分野では、政府目標として高圧水素タンクシステムのコストを2030年に20万円、2040年には10万円まで低減させる方針が示されており(FC-Cubic資料より)、フィラメントワインディング装置の生産性向上は国家的課題にも直結しています。金属加工業界としても、この流れを無視できない状況です。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による水素タンクCFRP化の研究成果レポートは以下で確認できます。
NEDO成果報告:CFRPを活用した圧縮水素用タンクのコスト低減技術開発(フィラメントワインディング工程の制御技術も解説されています)
https://www.nedo.go.jp/content/100871518.pdf
実際に装置を選ぶ際、「どれが最適か」は製造する製品の仕様と生産量によって大きく変わります。軸数だけで決めるのは危険です。以下の判断軸で整理すると選びやすくなります。
①製品サイズと重量
製造するマンドレルの直径・長さ・重量が装置仕様の基本になります。たとえばMikrosam社の門型マルチスピンドル装置では直径50〜800mm・長さ600〜3,000mm・マンドレル重量最大500kgに対応しており、大型タンク向けの床置き型では直径最大4,000mm・マンドレル重量最大80tの機種もあります。製造する製品の最大サイズに余裕を持った仕様を選ぶことが条件です。
②生産量と用途(研究開発か量産か)
③制御システムと巻きパターンソフトウェア
制御システムにはFANUCやSIEMENSなどの汎用CNCを採用しているメーカーと、独自制御を採用しているメーカーがあります。汎用CNCの場合、保守部品の入手・メンテナンス対応が国内で比較的容易です。また既存装置のアップグレードにも対応できる場合があります。
巻きパターンの生成ソフトウェア(CadwindやFiberGraphixなど)はPC上でのシミュレーション機能を備えており、FEA(有限要素解析)向けのメッシュデータ出力ができるものもあります。設計工程との連携を考えるなら、ソフトウェアの互換性も確認が必要です。これが条件です。
④湿式(ウェット)か乾式(トウプレグ)か
ウェットワインディングは設備コストが低く樹脂の選択肢が広い反面、作業環境の管理(樹脂の揮発成分など)に注意が必要です。トウプレグ(乾式)ワインディングは樹脂含有量の管理が容易で品質安定性が高く、作業環境もクリーンになりますが、材料コストが上がります。製造現場の環境条件とのバランスで判断してください。
⑤アフターサポート体制
フィラメントワインディング装置はほとんどが海外メーカー品(Mikrosam・ETC・Composipole等)ですが、国内代理店を通じた導入の場合、国内サポート体制の有無が運用コストに大きく響きます。導入後のメンテナンスや既存機の改修サービスが充実しているかどうかも必ず確認しましょう。
装置ラインナップの具体的な仕様例は以下で確認できます。
極東貿易 ETCフィラメントワインダー製品ページ(研究開発用から量産用まで軸数・仕様別のラインナップが確認できます)
https://www.kbk-shinsozai.com/etcwinders/
Mikrosam社フィラメントワインダー 日本語ページ(多スピンドル構成・床置き型・研究開発用の各スペックが掲載されています)
https://www.altech.co.jp/product/mikrosam/lineup/filament-winding/

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