鋼鉄の性質は炭素含有量によって大きく変わります。炭素は鋼鉄の中でセメンタイトという化合物(Fe3C)の形態で存在し、この物質が鋼鉄に硬さをもたらします。セメンタイトの名称は「セメント並みに硬い」という特徴に由来しています。
炭素量が0.02~0.25%の低炭素鋼は軟らかく、延性と溶接性に優れ、建築用途に向いています。一方、0.25~0.6%の中炭素鋼は強度と靱性のバランスが良く、機械部品に適しています。そして0.6%以上の高炭素鋼は非常に硬いため、工具やばねなどの用途に使用されます。特に興味深いのは、炭素量が2%を超えると「鋳鉄」へと分類が変わり、硬さと脆さが両立する異なる特性を持つようになることです。
金属加工の現場では、JIS(日本工業規格)に基づいた鋼材が使用されます。一般構造用圧延鋼材のSS材は、最も汎用的で安価な鋼鉄です。特にSS400は炭素量が0.1~0.3%程度の低炭素鋼で、建築物や橋梁、溶接構造物に広く使われています。この材料は加工しやすく、大量に供給されるため価格競争力があります。
一方、機械構造用炭素鋼のS○○C材(例:S45C)は、より厳密な炭素量管理がなされ、含有炭素量を材料記号に数字で表記しています。S45Cは45が含有炭素量0.45%を意味し、熱処理による強度調整が可能です。これらの鋼材は自動車部品やギア、シャフトなど精密部品の製造に向いています。実務では、SS材とS○○C材の選択が製品の耐久性とコストに直結するため、設計段階での適切な判断が重要です。
純粋な炭素鋼では性能が不足する高負荷用途では、合金鋼が活躍します。合金鋼はクロムやニッケル、モリブデンといった合金元素を添加した鋼鉄で、個別の元素ごとに異なる効果を発揮します。クロムは耐摩耗性と耐食性を向上させ、ニッケルは靱性と耐熱性を高め、モリブデンは焼き入れ性と焼戻し抵抗性を改善します。
クロムモリブデン鋼(SCM材)の代表例であるSCM440は、自動車のギアシャフトや航空機部品に使用されます。この材料は深い部分まで硬化する焼き入れ性に優れており、大型部品でも均等な強度を得られるという利点があります。ニッケルクロム鋼(SNCM材)は航空機用ボルトや重要なシャフトに使用される極めて高度な材料で、耐衝撃性に優れています。金属加工の実務では、標準的な鋼鉄で対応できない特殊要求に対して、これらの合金鋼が不可欠な選択肢となります。
興味深いことに、「鋼」という漢字は「かねへん」に「岡」と書きますが、この字形は元々硬くて丈夫な金属を意味していました。日本では古くから刀剣製造に高品質な鋼鉄が使用されており、日本刀に用いられる玉鋼(たまはがね)は現在でも伝統的な鋼鉄の代表例として知られています。この歴史的背景から、日本の製造業は高度な金属加工技術を継承し、現代の自動車産業や精密機械産業において世界的な競争力を持つに至りました。
戦後の高度成長期には、鉄鋼業が日本経済の基盤となり、建設ラッシュの中でSS材が大量に消費されました。現在でも、日本の鉄鋼産業は世界規模で見ても最大級の技術力を保有しており、JIS規格の鋼材は国際的な信頼性を得ています。金属加工従事者にとって、鋼鉄と鉄の違いを理解することは、単なる材料知識にとどまらず、日本の製造業が築いた技術的遺産を活かす基盤となるのです。
鋼と鉄との違いとその種類 - 株式会社新進のコラムでは、SS材、SM材、SC材などの標準規格鋼材の詳細な特性と用途別の選択基準が解説されています。実務で使用する鋼材の選定時に参考になります。
鉄と鋼(はがね)のちがいについての技術コラムでは、純鉄から鋳鉄まで、炭素含有量による分類と各材質の具体的な規格例が詳しく説明されています。JIS規格の鋼材選定の参考資料として活用できます。