室温20℃から5℃ずれるだけで、φ100の穴は約6μm膨張し、h7公差の許容幅を超えてしまいます。
穴径公差H7は、JIS B0401(ISO 286準拠)で定められた公差域クラスの一つです。 大文字の「H」は穴基準を意味し、下偏差(下の許容差)が必ず0になるのが最大の特徴です。 つまり穴径は基準寸法ちょうどを下限として、上方向にのみ許容差が広がります。 mikipulley.co(https://www.mikipulley.co.jp/JP/Services/Tech_data/tech08.html)
許容差の幅(公差幅)は基準寸法によって変わります。 以下の表が代表的な数値です。 renue.co(https://renue.co.jp/posts/fit-tolerance-h7-chart-clearance-interference-guide-2026)
| 基準寸法(mm) | 上の許容差(μm) | 下の許容差(μm) | 公差幅(μm) |
|---|---|---|---|
| 10超〜18以下 | +18 | 0 | 18 |
| 18超〜30以下 | +21 | 0 | 21 |
| 30超〜50以下 | +25 | 0 | 25 |
| 50超〜80以下 | +30 | 0 | 30 |
| 80超〜120以下 | +35 | 0 | 35 |
| 120超〜180以下 | +40 | 0 | 40 |
例えば「Φ50 H7」と図面に記入されていれば、穴の実際の径は50.000mm〜50.025mmの範囲に収まっている必要があります。 公差幅はわずか25μmで、これは人間の髪の毛の太さ(約60〜80μm)の3分の1以下です。つまり極めて厳しい管理が必要ということですね。 protrude(https://protrude.com/report/fit-tolerance/)
図面への記入は「Φ30H7」のように公差クラス記号だけで表す方法が一般的ですが、「Φ30H7(+0.021/0)」のように数値を併記するケースも多くあります。 社内図面や外注図面で記載ルールが異なる場合は、早めに確認しておくことが原則です。 sadoseimitsu(https://sadoseimitsu.com/column/1-17/)
H7公差の穴を実現する加工法は主に「リーマ加工」と「ボーリング加工」の2種類です。 どちらを選ぶかは、穴径・生産数量・深さによって変わります。 metal-processing-japan(https://www.metal-processing-japan.com/h7kousa-ana/)
| 加工方法 | 向いている条件 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| リーマ加工 | 比較的小径・量産・貫通穴 | 下穴精度で最終精度が決まる |
| ボーリング加工 | 大径・深穴・量産ライン | 荒→中→仕上げの3工程が必要 |
| エンドミル仕上げ | 単品・マシニングセンタ加工 | 複数パスで段階的に削り込む |
リーマ加工では、下穴の精度が仕上がりに直結します。 一般的な目安として、リーマ径に対して0.1mm残しで下穴を仕上げるのが推奨されています。 残し代が多すぎるとリーマへの負荷が増して寸法が安定しません。 jp.misumi-ec(https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_processing/mp03/b0070.html)
ボーリングは「荒引き→中引き→仕上げ」の3ステップで行います。 中引きの段階で0.1mm残しにすることで、仕上げ時の切削抵抗を均一化できます。これは使えそうです。 metal-processing-japan(https://www.metal-processing-japan.com/h7kousa-ana/)
エンドミルでH7を出す場合は、仕上げエンドミルを2本用意し、1本目で0.01mm残し、2本目でゼロ残しと段階的に削ります。 工具の振れや熱変位の影響を受けやすいため、マシニングセンタの主軸精度の確認が条件です。 metal-processing-japan(https://www.metal-processing-japan.com/h7kousa-ana/)
参考:ミスミが解説するH7公差穴の高能率・高精度加工方法(リーマ加工の制約と解決策)
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/machine_processing/mp03/b0070.html
H7公差の穴を測定する際、最もよく使われるのは「栓ゲージ(プラグゲージ)」と「シリンダーゲージ(内径マイクロメータ)」です。 ただし、φ50を超える穴では市販の栓ゲージが存在しないことが多く、シリンダーゲージに切り替える必要があります。 shokunin-tenshoku(https://shokunin-tenshoku.com/2095)
穴深さが浅い場合も問題が起きます。 シリンダーゲージは穴深さが10mm以上ないと正確に測定できないため、深さ5mmの浅穴ではそのまま使えません。 この場合の対処法は以下のとおりです。 shokunin-tenshoku(https://shokunin-tenshoku.com/2095)
>長めの素材で一度10mm深さに加工してから測定し、その後5mmに削り直す
>栓ゲージの代替としてベアリングの外輪を利用する
>パスゲージで代用する
測定精度に影響する見落としやすい要因が「温度」です。 鉄鋼の線膨張係数は約11.7×10⁻⁶/℃で、φ100の穴では1℃の温度差で約1.2μmの寸法変化が生じます。20℃基準から5℃ずれると約6μmの誤差になり、H7の公差幅(φ100では35μm)のうち17%を消費します。温度管理なしに測っても意味のない厳しさですね。 detail.chiebukuro.yahoo.co(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1184387391)
測定時の基本は「20℃の室温に部品と測定器を30分以上放置してから計測する」ことです。工場の現場温度に合わせた温度補正計算ができるツールもあります。
参考:内径H7公差の浅穴を加工・測定する実践的な方法(現役加工者のノウハウ)
https://shokunin-tenshoku.com/2095
H7の穴に組み合わせる軸公差は、どんな「はめあい」を実現したいかで決まります。 はめあいには「すきまばめ」「中間ばめ」「しまりばめ」の3種類があります。 d-engineer(https://d-engineer.com/seizu/hameai.html)
| はめあいの種類 | 穴H7との典型的な組み合わせ | 用途例 |
|---|---|---|
| すきまばめ | H7/g6、H7/f7 | 回転軸・スライド部品 |
| 中間ばめ | H7/k6、H7/js6 | 位置決めピン・キー溝 |
| しまりばめ | H7/p6、H7/s6 | 焼きばめ・圧入軸受 |
一般的には穴側をH7に固定して、軸側の公差クラスで機能を調整します。 穴より軸の方が旋盤で寸法を追い込みやすいからです。穴は一度削ったら径を小さくできませんが、軸は削って調整できます。加工コストの観点からも穴基準が有利です。 d-monoweb(https://d-monoweb.com/blog/determine-fit-tolerances/)
H7/g6の組み合わせは最も汎用的なすきまばめです。 φ30の場合、穴が30.000〜30.021mm、軸がおよそ29.967〜29.980mmになり、最小すきまは20μm、最大すきまは54μmとなります。すきまの大きさはシャープペンシルの芯(0.5mm)の10分の1以下のイメージです。 ts-taisei.co(https://ts-taisei.co.jp/jigmatch/blog/explain_fitting_tolerances/)
H7/p6はしまりばめで、ベアリングの圧入などに用いられます。 圧入後の軸受の抜き取りには専用プーラーが必要になるため、メンテナンス性が求められる箇所では中間ばめのH7/k6が無難です。組み合わせの選定ミスは後工程のコストに直結します。 mecha-basic(https://mecha-basic.com/hameai/)
参考:はめあい公差の基礎と穴H7の選定ガイド(renue社、2026年最新)
https://renue.co.jp/posts/fit-tolerance-h7-chart-clearance-interference-guide-2026
H7公差を加工後に満たしていても、後処理で公差を外れるケースがあります。これが現場で意外と見落とされやすいポイントです。
無電解ニッケルメッキの場合、膜厚は片面あたり5〜20μmが一般的で、穴径に対して直径で10〜40μmの縮小が生じます。 φ30H7の許容差上限は21μmしかないので、メッキ前にH7ギリギリの下限で仕上げていると、メッキ後に公差アウトになります。痛いですね。
浸炭焼入れ後の変形も要注意です。 浸炭処理では表面だけでなく素材全体に組織変化が起き、穴径が数μm〜十数μm収縮または変形することがあります。処理後に再研削(内径研磨)で仕上げることを前提に、中間公差で素材を仕上げておくのが原則です。
具体的な対策としては、以下の手順が有効です。
>メッキ前の穴径を「狙い寸法+膜厚×2」で加工して余裕を持たせる
>熱処理後の内径変形量を試作で実測し、加工代として記録しておく
>図面に「メッキ後H7」と明記し、後処理工程との情報共有を徹底する
後処理込みで寸法管理する意識が重要です。 加工段階での合格が最終品質を保証しないという認識を、設計・加工・処理の各担当者が共有しているかどうかが、クレームゼロにつながる分岐点になります。
参考:精密金属加工における公差とはめあいの基礎(佐渡精密、図表つき解説)
https://sadoseimitsu.com/column/1-17/