公差等級を1段階厳しくするだけで、加工コストが1.5〜2倍に跳ね上がります。
はめあい公差一覧表を開いたとき、「H7」「g6」「H8/f7」といった記号が並んでいて、最初は何がなんだかわからない、という経験をした方は多いはずです。しかし、記号の構造を一度理解してしまえば、あとはルールを当てはめるだけです。
記号は「アルファベット」と「数字」の組み合わせでできています。アルファベットは公差域の位置(基準寸法からどちら側に、どれだけずれているか)を示しています。数字はIT基本公差等級と呼ばれる精度のランクで、数字が小さいほど精度が高く、数字が大きいほど公差の幅が広くなります。
| 記号の構成 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 大文字アルファベット | 穴の公差域クラス | H7、G6、F8 |
| 小文字アルファベット | 軸の公差域クラス | h6、g6、f7、s6 |
| 数字(等級) | 公差幅の大きさ(精度) | 6=精密、7=標準、9=粗め |
穴側のアルファベット「H」は、穴の下の寸法許容差がゼロ(基準寸法と一致)であることを示します。これは穴側が最もシンプルに管理できる記号で、実務で最も頻繁に使われる理由のひとつです。
一方、軸側のアルファベットは「h」を境に、アルファベットが前半(a〜h)ほど基準寸法より小さく(すきまが出やすく)、後半(k〜z)ほど基準寸法より大きく(しまりが出やすく)なります。つまりアルファベットの位置を見るだけで、すきまばめかしまりばめかがおおよそ判断できます。これが基本です。
たとえば「φ50 H7/g6」と図面に書いてあれば、「穴径50mmでH7公差、軸側はg6公差を組み合わせた、すきまがあるはめあい」と読めます。実際の許容値はφ50 H7の場合、穴径が50.000〜50.025mmの範囲に収まることを意味します。穴径がほぼ一枚のコイン(直径50mm程度)をイメージしてもらえれば、±0.025mmという数字がいかに精密かが伝わるでしょう。
三木プーリ:はめあい公差一覧表(JIS B 0401 抜粋)|よく使われるはめあいの寸法公差をまとめた公式参照表
はめあい公差の種類は大きく3つに分類されます。すきまばめ・中間ばめ・しまりばめです。この3種類の選択が、部品の機能と寿命を決定するといっても言い過ぎではありません。
すきまばめは、軸が穴より常に小さく設計され、組み合わせたときに必ずすきまが生じます。回転軸や摺動部のように、部品間に相対運動が必要な箇所に使われます。代表的な組み合わせはH8/f7やH9/e8です。すきまが常に確保されるので、組み立て・分解が容易でメンテナンス性が高いという利点があります。
| 種類 | すきま/しまり | 主な用途 | 代表記号例 |
|---|---|---|---|
| すきまばめ | 常にすきま | 回転軸、スライド機構 | H8/f7、H9/e8 |
| 中間ばめ | すきままたは微しまり | 位置決めピン、ノックピン | H7/h6、H7/k6 |
| しまりばめ | 常にしまり | ギア固定、プーリー圧入 | H7/s6、H6/p5 |
中間ばめは、すきまばめとしまりばめの中間的な性質を持ちます。製造誤差によっては、わずかなすきまにも、わずかなしまりにもなり得るはめあいです。実際に組んでみるまで最終的な状態がわからないため、設計者にとってやや扱いに注意が要る種類と言えます。位置決めピン(ノックピン)など、精密な位置合わせが求められる場所に採用されます。
しまりばめは、軸が穴より大きく設計されるため、組み込みには圧入や焼きばめが必要です。一度組んだら簡単には外れないほどの固定力が得られ、キーや接着剤を使わずに高いトルク伝達ができます。H7/s6やH6/p5などが代表です。問題になりやすいのは、しめしろが大きすぎるとベアリングの内輪割れや部品の破損につながる点です。数十ミクロン単位の設定でも大きな差が出るので、JISの一覧表と実際の組み立て方法の両方を確認することが条件です。
MONOWEB(機械設計エンジニアの基礎知識):はめあいの種類とすきまばめ・しまりばめの詳細解説
はめあい公差には「穴基準方式」と「軸基準方式」の2種類があります。どちらを使うかは設計コストと加工の効率に直接影響します。
穴基準方式とは、穴側の公差をH(たとえばH7)で固定して、軸側のアルファベット記号を変えることで、すきまばめ・中間ばめ・しまりばめを使い分ける方式です。軸基準方式はその逆で、軸側をh(たとえばh6)で固定し、穴側を変える方式です。
実務では穴基準方式が圧倒的に多く採用されています。その理由は加工コストにあります。穴加工は工具(ドリルやリーマ)の直径が固定されており、微妙な寸法調整が難しい一方、旋盤での軸加工は切り込み量を0.01mm単位で制御できるからです。穴側を標準精度のH7で統一しておけば、検査治具(リングゲージ)も共通化でき、ライン間の測定時間も短縮されます。
一方、軸基準方式が有効なのは、一本のシャフトに複数の部品を取り付ける設計です。同じシャフト(h6)に対して、ベアリング部はK7、ギア部はH8といった異なるはめあいを設定できるメリットがあります。この場合、穴側の精度管理が軸より難しいため、コストは穴基準方式よりやや高くなる傾向があります。
穴基準が原則です。特別な理由がない限り、穴側はHで始まる公差域クラスを選ぶのが合理的な出発点です。
MONOWEB:はめあい公差の決め方とそのポイント|穴の公差を先に決める理由を詳しく解説
はめあい公差の選定ミスが最も深刻な結果をもたらす場面の一つが、ベアリング(転がり軸受)の取り付けです。公差の選び方を間違えると、フレッチング・クリープ・内輪割れ・焼付きといった損傷が発生します。こうした損傷は機器の突発停止や、修繕費の発生につながるリスクがあります。
ベアリング選定での基本ルールは「回転荷重がかかる軌道輪にはしまりばめを使う」です。産業用モータのように内輪が回転する場合(内輪回転荷重)、内輪はしまりばめ、外輪はすきまばめが原則となります。この組み合わせが逆になると、内輪と軸の間に微小なすきまが生じてクリープが発生します。
クリープとは、内輪と軸の間に円周方向の有害な滑りが生じる現象です。軸が1回転するたびに内輪が僅かにずれ続け、最終的にはめあい面が摩耗・焼付きに至ります。NSK(日本精工)の技術資料によれば、しめしろが減少してすきまcが生じた場合、軸1回転あたり円周値πcだけ逆方向に滑るメカニズムが明確に示されています。
また、ベアリングのしまりばめを決める際は、はめあい公差の選定と同時に内部すきまのクラス選定も必要です。内部すきまはC1・C2・普通(CN)・C3・C4・C5の順に大きくなります。しまりばめを採用すると取付け後に内輪が膨張して内部すきまが減少するため、しまりばめが強い場合はC3以上の大きめのすきまクラスを選ぶ必要があります。つまり、はめあい公差の一覧表だけを見て決めると判断ミスが起きる可能性があるということです。内部すきまの一覧表との併用が必須です。
NSK(日本精工):はめあいと内部すきま|クリープ・内輪割れの発生メカニズムと選定基準を公式解説
はめあい公差を設定するとき、現場の技術者がよくやってしまうのが「念のため精度を高くしておく」という設定です。これが実は大きなコストロスにつながる可能性があります。
IT基本公差等級(ITはInternational Toleranceの略)は、IT01・IT0・IT1〜IT16の18段階が定められています。数字が小さいほど公差の幅が狭く、精密な加工が必要です。一般の機械加工で使われる領域はおおよそIT5〜IT11の範囲で、IT7が「標準的な精度」に相当します。
| IT等級 | 加工の目安 | 使用例 |
|---|---|---|
| IT4〜IT5 | 精密研削・ホーニング | 精密ベアリング取付け |
| IT6〜IT7 | リーマ仕上げ・精密旋削 | 一般機械の軸・穴(H7/g6など) |
| IT8〜IT9 | ドリル加工・通常旋削 | 組立て精度が低い箇所 |
| IT10〜IT11 | 粗削り | 固定されない部材の逃がし穴など |
IT等級が1段階厳しくなるごとに、加工コストは1.5〜2倍になると言われています。たとえば「IT7でよい箇所をIT5に設定した」だけで、その部品の加工費用が2〜4倍に膨らむ計算になります。量産品であれば、この差は1ロットあたり数万円単位の違いになり得ます。
設計上、機能に問題がなければ、IT等級を下げることがコスト削減の直接手段になります。ベアリング取付け部のような精度が必要な箇所はIT6(H6)を使い、単純な逃がし穴やカバーのボルト穴であればIT11(H11)を使う、といった「精度の使い分け」が重要です。コストと精度のバランスが条件です。
なお、IT等級と公差域のアルファベット記号は独立した概念です。アルファベットは「公差帯がどの位置にあるか」、数字は「公差帯の幅がどれだけか」を決めます。H7とH9では、Hという公差域の位置は同じですが、数字が大きいH9の方が公差幅が広い(ゆるい)ことを意味します。この区別がつくと、一覧表の読解速度が大幅に上がります。
ミスミ技術情報:はめあいの種類と記号|IT公差等級と公差域クラスの詳細解説
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