SUS431硬度の基礎と焼入れ後の正しい扱い方

SUS431の硬度はHB302以下(焼なまし)からHRC45超(焼入れ後)まで大きく変化します。マルテンサイト系ステンレスならではの硬度特性を正しく理解できていますか?

SUS431の硬度を正しく知らないと工具代が倍以上になる

焼入れ後のSUS431をそのまま切削しようとすると、工具寿命が通常の半分以下に縮まります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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SUS431の硬度は「状態」によって大きく変わる

焼なまし状態はHB302以下(比較的加工しやすい)、焼入れ・低温焼戻し後はHRC45〜47に達する。同じ材料でも加工タイミングが全体コストを左右する。

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マルテンサイト系の中でSUS431は「耐食性最良」

SUS403・SUS420J2・SUS431・SUS440Cの順で硬度が上がるが、耐食性はSUS431がマルテンサイト系の中でトップ。Ni添加により強度と耐食性を両立している。

切削加工は「焼入れ前」が大原則

焼入れ後のHRC45超の状態では通常の切削工具では対応困難。設計段階から加工順序を組み込むことが品質とコストの安定につながる。


SUS431の硬度数値とは?焼なまし・焼入れ後を比較


SUS431はマルテンサイトステンレスに分類される材料です。この「マルテンサイト系」という分類が、硬度を語る上でもっとも重要なキーワードになります。


まず押さえておきたいのが、SUS431の硬度は「どの状態で測定したか」によって数値が大きく異なるという点です。JISの規格では、焼なまし状態での硬度はHB(ブリネル硬度)302以下と定められています。一方、真空焼入れと低温焼戻しを施した後の実測値は、HRC(ロックウェルC硬度)45〜47に達します。これはHBに換算するとおよそ430〜450相当であり、焼なまし状態と比べると硬度が1.4倍以上に跳ね上がる計算になります。


HRCという単位をイメージしにくい方のために補足すると、包丁や医療用メスの刃先がおよそHRC55〜58程度です。HRC45というのは、ドライバーの先端やカッター刃として十分に機能する硬さの領域に近く、「柔らかいステンレス」とは根本的に異なる硬さの世界です。


焼入れ温度と処理条件によっても最終硬度は変わります。焼戻し温度を540℃にするとHV280〜340、600℃にするとHV250〜310、650℃にするとHV230〜280まで軟化できます。つまり焼戻し温度が高いほど硬度は下がり、靱性(ねばり強さ)が増す傾向です。実際の設計では、用途に応じてHRC30前後に硬度を調整して使用するケースも多くあります。


硬度数値そのものを覚えることも大切ですが、「硬度は処理条件で変えられる」という事実が現場での材料選定と加工計画に直結します。


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**SUS431の硬度に関する公式データが確認できる参考ページ(川上ハガネ株式会社):**


SUS431の成分・機械的性質一覧(川上ハガネ株式会社)


SUS431の硬度とマルテンサイト系4鋼種の位置づけ

金属加工の現場でSUS431を扱う際、他のマルテンサイト系ステンレスとの硬度の違いを把握していないと、材料の選定ミスが発生しやすくなります。マルテンサイト系の代表的な4鋼種の硬度の序列は、SUS403 < SUS420J2 < SUS431 < SUS440Cの順です。


| 鋼種 | 焼なまし硬度 | 焼入れ後の硬度の目安 | 主な用途 |
|------|-------------|----------------------|----------|
| SUS403 | HB201以下 | HRC33〜40程度 | バルブ部品、ボルト |
| SUS420J2 | HB241以下 | HRC50〜54程度 | 刃物、ハサミ |
| **SUS431** | **HB302以下** | **HRC45〜47程度** | **シャフト、航空部品** |
| SUS440C | HB285以下 | HRC58〜60以上 | 精密ベアリング、高級刃物 |


SUS431がこの4鋼種の中で独自の価値を持つのは、硬度と耐食性のバランスが優れている点です。SUS431はNi(ニッケル)を1.25〜2.50%含むCr鋼であり、このNi添加によってマルテンサイト系の中で最も高い耐食性を誇ります。SUS440Cのほうが硬度は高いのですが、耐食性ではSUS431が上回ります。これは意外に見落とされがちな事実です。


入手性という観点も重要です。市況的な調達のしやすさの順番は、SUS403≒SUS420J2 < SUS440C < SUS431となっており、SUS431は最も調達しにくい鋼種に位置します。硬度が高くて耐食性もよい反面、入手しにくいという現実があるため、発注リードタイムを考慮した材料計画が必要です。


これが基本です。硬度だけで選定せず、耐食性・入手性・コストの三角形で判断するのがSUS431を使う際のコツです。


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**SUS431を含むマルテンサイト系ステンレスの詳細な加工特性が参照できます(阪神メタリックス):**


SUS431Hの機械的性質・加工性(阪神メタリックス)


SUS431の硬度と焼入れ・焼戻し条件の関係

SUS431の最終的な硬度は、熱処理の条件によってコントロールできます。この点を理解することが、現場での品質安定と工程設計の核心になります。


焼入れの加熱温度はおよそ950〜1050℃です。この温度域でオーステナイト組織に変態させた後、空冷または油冷によってマルテンサイト組織を生成させます。真空焼入れの場合、φ28×500mm程度の部材でHRC45〜47が実測値として報告されています。これはA4コピー用紙を縦にした長さに直径28mmの丸棒をイメージすると分かりやすいサイズ感で、実用的な機械部品に近い寸法です。


焼戻し工程は硬度の「最終調整」にあたります。低温焼戻し(200〜300℃)は硬度を維持しつつ靱性をわずかに回復させるため、刃物や耐摩耗部品に向いています。一方、高温焼戻し(400〜600℃)では硬度は低下するものの、延性と衝撃吸収性が向上するため、シャフト類や構造部品に適しています。設計上の使用硬度がHRC30前後の場合は、焼戻し温度をこの高温域に設定して調整するのが一般的です。


注意点も1つあります。SUS431では500〜570℃の焼戻し温度域で「焼戻し脆性」が発生しやすくなります。この温度域は靱性が著しく低下するため、できるだけ避けるのが原則です。設計者と熱処理業者が密に連携して焼戻し条件を決めておくと、後工程でのトラブルをげます。


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**熱処理専門会社によるSUS431の焼入れ実績が確認できます(武藤工業株式会社):**


SUS431の焼入れ焼戻し後の硬さに関するQ&A(武藤工業株式会社)


SUS431の硬度を活かした加工タイミングと工具選定の実務

SUS431を加工する際にもっとも重要なのが「どの状態で加工するか」というタイミングの問題です。焼入れ後にHRC45超の状態でそのまま通常の超硬切削工具を使おうとすると、工具寿命が短命になり、仕上げ面も粗くなりやすいため、加工コストが想定外に膨らみます。


基本的な工程設計の考え方は以下の通りです。



  • ✅ 切削・旋削・フライス加工焼入れ前(焼なまし状態)に実施

  • ✅ 熱処理(焼入れ・焼戻し) → 形状加工完了後に実施

  • ✅ 研削・放電加工による仕上げ → 焼入れ後に実施


加工は焼入れ前に済ませるのが大原則です。焼なまし状態のHB302以下という硬度であれば、一般的な超硬工具で切削が可能です。一方、焼入れ後の状態(HRC45前後)で切削加工を行わなければならない場合は、CBN(立方晶窒化ホウ素)コーティング工具や超硬コーティング工具を使用し、切削速度を通常よりも20〜30%程度抑えることが目安となります。


切削速度を落とすのは、SUS431を含むマルテンサイト系ステンレスは熱伝導率が低いという特性があるためです。一般鋼(S45Cなど)の熱伝導率が約50W/m·Kなのに対し、SUS431はおよそ24W/m·K程度であり、切削熱が逃げにくく工具先端に熱が集中します。これが工具焼け付きや欠損の主な原因です。


工具のコスト管理という視点から見ると、焼入れ後に無理な切削を行った場合、工具交換頻度が倍以上になる実例も報告されています。加工計画の段階で「どのタイミングで熱処理を入れるか」を決め、図面や工程表に明記しておくだけで、こうした損失を避けられます。これは使えそうです。


SUS431の硬度と耐食性・用途の知られざる関係

SUS431は「硬度が高いステンレス」として認識されることが多いですが、その背景にある耐食性の高さはあまり知られていません。実は、マルテンサイト系ステンレスの中でSUS431は耐食性が最も優れた鋼種です。


この耐食性の高さの理由は成分構成にあります。SUS431はCr(クロム)を15〜17%含む上に、Ni(ニッケル)を1.25〜2.50%添加しています。他のマルテンサイト系(SUS403、SUS420J2)はNiをほとんど含まないため、SUS431の耐食性はワンランク上の水準になります。SUS410より耐食性が良く、SUS430(フェライト系)と同等かそれ以上の耐食性を持つという評価もあります。


ただし、オーステナイト系(SUS304、SUS316)と比べると耐食性は劣ります。塩水環境や強酸環境ではSUS304のほうが有利であり、屋外や海沿いの設備に長期設置する用途にはSUS431よりSUS316が推奨されます。


SUS431が本来の力を発揮する環境は「中程度の腐食リスクがある場所で、かつ高い強度や耐摩耗性も必要な場所」です。具体的には以下のような用途が代表的です。



  • 🚢 船舶用シャフト(海水飛沫に晒されるが腐食が直接的でない環境)

  • ✈️ 航空機部品(高強度・中程度の耐食性が必要な構造部材)

  • 📄 製紙機械部品(摩耗環境+水分あり)

  • 🔪 刃物類(耐食性と切れ味の両立が求められる用途)

  • 🔧 弁棒・シャフト(繰り返し荷重+中程度の腐食環境)


これらの用途に共通しているのは、「純粋に硬さだけを求めるわけではなく、耐食性も一定レベル必要」という条件です。SUS440Cよりも硬度はやや劣るが耐食性は上、SUS304よりも耐食性は劣るが硬度は圧倒的に上、というのがSUS431の立ち位置です。


使用環境と要求仕様を照らし合わせて材料を選ぶ、という基本的な姿勢がSUS431を正しく活用する鍵です。


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**マルテンサイト系ステンレスの特性・用途・加工性が体系的に整理されています(北東技研工業株式会社):**


マルテンサイト系ステンレスの特徴と使いどころ(北東技研工業株式会社)


十分な情報が揃いました。記事を作成します。




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