IT公差の等級を1段階厳しくするだけで、加工コストが1.5〜2倍に跳ね上がります。
IT公差(International Tolerance)とは、ISOが規定する国際標準の公差等級システムであり、JIS B 0401にも採用されています。ITはInternational Toleranceの略で、「IT」の後に続く番号(01・0・1〜18)によって精度レベルが区別されます。合計20段階の等級が定義されており、数字が小さいほど精度が高く、大きいほど公差の幅(許容範囲)が広がります。
IT公差表は縦軸に「基準寸法の区分(mm)」、横軸に「IT公差等級(IT01〜IT18)」を配置し、各マスに公差値(μm)が記載された二次元の一覧表です。基準寸法が大きくなるにつれて、同じ等級でも公差値は大きくなります。これは「φ10±0.01は作れるが、φ100±0.01を作るには相当の加工精度が要る」という製造の現実を規格化したものです。
以下に、一般的な加工現場でよく参照される基準寸法区分(18mm超・30mm以下)の公差値の目安を示します。
| IT等級 | 公差値(μm)目安 ※18〜30mm区分 | 主な用途 |
|---|---|---|
| IT5 | 約 9 μm | 精密ゲージ・工作機械の主軸 |
| IT6 | 約 13 μm | 精密軸受部・高精度はめあい |
| IT7 | 約 21 μm | 一般機械のはめあい(H7が代表) |
| IT8 | 約 33 μm | 普通精度の機械部品 |
| IT9 | 約 52 μm | 一般的な切削加工品 |
| IT10 | 約 84 μm | プレス加工・粗削り |
| IT11 | 約 130 μm | 板金・溶接構造物 |
IT5〜IT11が一般的な産業機械で使われる範囲です。これが基本です。
IT1〜IT4は精密測定機器や超精密部品に限られ、一般の切削加工工場では対応できないケースも多くなります。逆にIT12以上は建築構造物や粗加工品向けで、金属加工品の精密部位に適用することはほぼありません。
2016年のJIS改訂(JIS B 0401-1:2016)ではIT01とIT0が公式に追加されました。意外ですね。これにより等級は合計20段階となっていますが、IT01・IT0は現場での適用機会はほぼなく、精密測定器のゲージ製作など極めて限られた場面での参照にとどまります。
IT公差表を現場で活用するには、まず「基準寸法の区分」を確認し、次に「必要なIT等級の列」を見て公差値(μm)を読み取るという手順をとります。読み取った値をmmに換算するには1,000で割るだけです(例:21μm = 0.021mm)。この変換だけ覚えておけばOKです。
IT公差表の完全版はJIS規格(JIS B 0401-1:2016)に収録されており、日本産業標準調査会(JISC)のWebサイトで登録不要で閲覧できます。参照の際はこちらを活用してください。
JIS B 0401-1:2016 公差等級表の全文(kikakurui.com)
IT公差の等級選択は、加工コストに直結します。これは使えそうな情報です。
一般的に、IT等級が1段階厳しくなるごとに加工コストは1.5〜2倍に増加するといわれています。IT7とIT5を比べると、加工コストは2段階分、つまり場合によっては4倍近くの差になることもあります。設計段階でIT公差表を見ながら必要以上に厳しい等級を設定してしまうと、加工費がふくれあがり、見積りが競合他社より数万円単位で高くなるケースも現実に起きています。
精密板金の世界では、切削加工品の感覚で公差を設定すると特に大きな問題が起きます。切削加工品の一般的な寸法公差は±0.1〜0.01mmの範囲で設定されることが多いのに対し、板金加工品のJIS規格(B・一般)での公差は±0.3〜0.5mm程度です。この差を理解せずに切削品と同じ公差を板金に指示してしまうと、加工費が大幅に上昇します。
以下に、加工方法ごとのIT等級の目安をまとめます。
| 加工方法 | 実用的なIT等級の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 精密研磨・ラッピング | IT4〜IT6 | 工作機械主軸・ゲージ類 |
| 精密旋盤・マシニング | IT6〜IT8 | はめあい部・軸受け取り付け部 |
| 一般切削加工 | IT8〜IT10 | 普通の機械部品 |
| プレス加工・抜き | IT10〜IT12 | 量産品・打ち抜き穴 |
| 板金加工(曲げ・溶接) | IT11〜IT14 | 箱物・構造部品 |
コスト最適化のために重要なのは「選択と集中」の発想です。ベアリング取り付け部などの機能上重要な箇所にはIT7(H7/k6)を使い、単純な位置決めピン挿入穴のような非重要部位にはIT11(H11/h11)程度の緩い公差を採用するといった使い分けが有効です。
また、普通公差(一般公差)との使い分けも重要な視点です。図面に個別の公差指示がない寸法には、JIS B 0405で定める普通公差が自動的に適用されます。切削加工の普通公差は精級(f)・中級(m)・粗級(c)・極粗級(v)の4段階で、中級(m)の場合、基準寸法30mm超〜120mm以下の長さ寸法で±0.3mmが適用されます。普通公差が機能を満たしている箇所に、わざわざIT公差を個別指示する必要はありません。
普通公差に関する詳細は、ミスミのmeviy技術情報ページが参考になります。
一般公差とは?等級・基準寸法区分を解説(meviy by ミスミ)
はめあい公差は、軸と穴を組み合わせるときの「すきま」や「しめしろ」を規格化したもので、IT公差表と切り離して理解することはできません。記号の意味を整理しましょう。
はめあい公差記号は「アルファベット+数字」で構成されています。大文字は穴側、小文字は軸側を表します。アルファベットは基準寸法に対するサイズ許容区間(公差域)の配置位置を示し、数字はIT公差等級に対応した公差幅を表します。
例えば「φ50 H7/h6」と図面に記載されている場合、次のように読みます。
- **H7**:穴の公差クラス。「H」は公差域が基準寸法(図示サイズ)から上方向に設定される(下偏差=0)。「7」はIT7等級。φ50の場合、許容差は+0.025/0 mmとなり、穴径は50.000〜50.025mmの範囲になります。
- **h6**:軸の公差クラス。「h」は公差域が基準寸法から下方向に設定される(上偏差=0)。「6」はIT6等級。φ50の場合、許容差は0/−0.016 mmとなり、軸径は49.984〜50.000mmの範囲になります。
この組み合わせでは、穴が最小(50.000mm)で軸が最大(50.000mm)のときに「すきまゼロ」、それ以外は必ずわずかなすきまが生じます。つまり中間ばめに該当します。
はめあいの3タイプとよく使われる記号の対応は以下のとおりです。
| はめあいタイプ | 特徴 | 代表的な記号(穴基準) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 🔵 すきまばめ | 常にすきまが生じる | H8/f7、H9/e8、H11/c11 | スライド軸・回転軸受け |
| 🟡 中間ばめ | すきままたは微しめしろ | H7/h6、H7/js6 | 一般機械部品・位置決め |
| 🔴 しまりばめ | 常にしめしろが生じる | H7/s6、H7/t6、H6/p5 | ギア・プーリーの固定 |
穴基準方式(H基準)が一般加工で広く採用される理由は、穴よりも軸の方が寸法調整しやすいという加工技術上の理由からです。ドリルやリーマなど穴加工工具は直径の調整が難しい一方、旋盤による軸加工は切り込み量の調整で寸法が出しやすいのです。これが条件です。
軸基準方式(h基準)は、1本のシャフトに複数の異なる公差部品を取り付けるケースや、引き抜き材の丸棒をそのまま軸に使う場合に経済的な利点があります。
はめあい公差の詳細な一覧表は、三木プーリの技術データページで見やすく公開されています。
実際の加工現場や設計の場面で、IT公差表をどう使えばよいのか、手順を整理します。
**ステップ1:機能要件を確認する**
まず「この部位に何が求められるか」を明確にします。回転・摺動が必要ならすきまばめ、固定・トルク伝達が必要ならしまりばめ、位置決め精度が必要な着脱部なら中間ばめ、という方向性を最初に決めます。
**ステップ2:はめあいタイプと記号を決める**
機能要件からはめあいタイプを選んだら、JIS B 0401-2の推奨公差クラス一覧を参照します。枠で囲まれた「基本的な公差クラス」から選ぶのが原則です。よく使われる組み合わせを以下に示します。
- すきまばめの定番:**H7/g6**(軽い回転・摺動部)、**H8/f7**(一般的な回転軸)
- 中間ばめの定番:**H7/h6**(着脱可能な位置決め部)
- しまりばめの定番:**H7/p6**(軽圧入)、**H7/s6**(強固な圧入固定)
**ステップ3:IT公差表で許容差の数値を確認する**
選んだ公差クラスに対して、JIS B 0401-2の表から基準寸法ごとの上下許容差(μm)を読み取ります。例えばφ25のH7なら、基準寸法区分「18mm超・30mm以下」の列を参照し、H7の上偏差+0.021mm、下偏差0という値を得ます。
**ステップ4:加工方法と整合性を確認する**
設定したIT等級が使用する加工方法で実現可能かどうかを確認します。一般的な汎用旋盤ではIT8程度が安定して達成できる下限です。IT6以下を要求するなら精密加工設備や研磨工程が必要になるため、外注先への確認が必要です。
重要な視点として、図面での公差指示は「片振り公差(すべて+側、またはすべて−側)」と「両振り公差(±均等)」のどちらも選択できます。設計者が中央値を狙って設計した場合でも、加工者は基本的に許容寸法の中央値を狙って加工します。このため、意図的に片振りにしたい場合はその設計意図が明確に伝わる公差指示が必要です。
また、寸法の配置方法にも注意が必要です。直列寸法記入法では公差が累積するため、全幅の公差が±0.8mmにまで広がることがあります。機能上重要な部位には寸法を直接記入し、足し算・引き算で求められる記入方法を避けることが原則です。
IT公差表の知識が特に重要になる場面のひとつが、ベアリング(転がり軸受)の取り付け部の設計です。ここには、教科書的な知識だけでは見落としがちな現場特有の注意点があります。
ベアリングメーカー各社は、自社軸受の取り付け公差として独自の推奨値を提示しています。NSK・NTN・ジェイテクト(KOYO)などの軸受メーカーのカタログには、軸荷重の方向・大きさ・回転条件に応じた推奨はめあい一覧が掲載されており、単純にH7/k6を当てはめるだけでは不十分なケースがあります。
例えば、内輪が回転する一般的な用途の中小型ラジアル軸受(普通荷重)では、シャフト側にk5またはm5、ハウジング穴にH6またはJ6が推奨されることがあります。一方、内輪が静止荷重を受ける場合(ハウジング側が回転)は、シャフト側をg6またはh6のようなすきまばめにするといった逆の設定をとることもあります。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?回転側の輪(内輪または外輪)は荷重を全周に受けるため、フレッティング摩耗(微振動による摩耗)を防ぐためにしまりばめが推奨されます。静止側の輪は定点で荷重を受けるため、分解・交換のしやすさからすきまばめとすることが一般的です。これは意外ですね。
もう一つの注意点は、取り付け後のはめあいが熱膨張によって変化することです。アルミニウムハウジング(線膨張係数約23×10⁻⁶/℃)に鋼製ベアリング(同約12×10⁻⁶/℃)を組み込む場合、温度が100℃上昇すると直径50mmの穴では約0.055mmのアルミの膨張が生じます。これに対して鋼製ベアリング外径の膨張は約0.030mmにとどまるため、差し引き0.025mm分のすきまが増加することになります。常温で設定したはめあいが、運転温度では意図しないすきまばめに変化してしまうリスクがあります。
このような問題を防ぐためには、常温での組み付けはめあい設定の段階で熱膨張差を織り込むことが重要です。IT公差表の値を確認しながら、最大・最小のすきままたはしめしろを計算することが設計の基本です。
ベアリング取り付けのはめあい推奨値についてはメーカーカタログの参照が最も確実です。
IT公差の知識は、図面への記入方法と完成品の検査方法にも直結します。設計・加工・検査の三者が同じ認識でIT公差表を使えるかどうかが、品質トラブルを防ぐ鍵になります。
図面への公差記入には2つの方法があります。ひとつは「φ50H7」のように公差クラスの記号で記入する方法、もうひとつは「φ50 +0.025/0」のように上下許容差の数値を直接記入する方法です。記号のみの記入は、加工者がJIS B 0401-2の表を参照して許容差を計算する必要があり、数値の読み間違いリスクが残ります。
より確実な伝達のためには、「φ50H7(+0.025/0)」のように記号と数値の両方を併記する方法が推奨されます。公差クラス記号による伝達だけに頼ると、旧規格(1998年版)と2016年版の微妙な違いによる計算差が生じるケースもあるため、数値の明記は有効な対策です。
検査工程では、IT公差の値に対して測定機器の精度が十分かどうかの確認が重要です。一般的には、測定誤差は要求公差の10分の1以下に抑えることが理想とされています。IT7(例:φ50で0.025mm)を測定するなら、測定器の精度は0.002mm(2μm)以下が必要になります。精度に注意すれば大丈夫です。
また、図面に公差指示がない寸法への対応も現場では重要です。「指示なき寸法公差はJIS B 0405 中級(m)を適用する」などの記載が図面の表題欄にある場合は、そちらの普通公差表に従います。この表記がない場合、加工者が独自判断せざるを得ず、不良品と判定されるリスクが高まります。発注側・受注側どちらの立場でも確認が必要な項目です。
現場でIT公差表を素早く参照したいときは、三木プーリやミスミのような専門メーカーがWebで公開している公差一覧表や計算ツールを活用するのが効率的です。
十分な情報が収集できました。記事を作成します。