切削加工品の品質向上とコストダウンを両立する技術
この記事のポイント
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コストダウンの実現
形状の最適化や工程集約など、明日から使えるコスト削減テクニックを解説します。
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最適な材質選定
被削性やコスト、要求性能のバランスを見極めるプロの選定術を紹介します。
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精度と品質の向上
加工公差の基礎から、熱変形を抑えつつ高精度を実現するノウハウを深掘りします。
切削加工品のコストダウンを実現する具体的な方法
切削加工品のコストダウンは、単に材料費を削るだけでは実現しません。むしろ、加工工程全体を見直し、非効率な部分を徹底的に排除することが重要です。ここでは、現場で実践可能な具体的なコストダウン手法をいくつか紹介します。
工程の集約による時間短縮: 複数の部品を溶接や組み立てで製造している場合、それらを一体型の切削加工品として設計し直すことで、大幅なコストダウンと納期短縮が期待できます 。例えば、従来3つの部品で構成されていたものを、5軸マシニングセンタ などを活用して一体で削り出すことで、部品点数の削減、組み立て工数の削減、さらには強度の向上といったメリットも生まれます。段付きの穴を開ける際に、2種類のドリルを交換していた作業を、段付きドリル1本に集約するだけでも、工具交換の手間が省け、加工時間の短縮に直結します 。
形状の最適化による加工負荷の軽減: 設計図 面の段階で、加工のしやすさを考慮することも極めて重要です。例えば、角の隅Rを小さくしすぎると、放電加工 が必要になったり、小径のエンドミル で何度も加工する必要が生じ、コストアップの要因となります 。設計上問題がなければ、隅Rを大きく設定することで、より大きな工具で効率よく加工でき、時間短縮とコストダウンを実現できます 。また、不要な薄肉部分や複雑な形状を避けるだけでも、加工時の振動や変形を防 ぎ、不良率の低下にも繋がります。
VA/VE提案の積極的な活用: VA(Value Analysis)やVE(Value Engineering)は、製品の価値を下げずにコストを低減する手法です 。例えば、鋳造 品からの切削加工を行っている場合、CAE解析を駆使して最適な形状を事前に予測し、鋳造欠陥のリスクを低減させることで、トライ回数の削減や材料 費の抑制が可能です 。また、過剰な精度要求や表面仕上げ指定を見直すことも有効です。機能的に不要な部分の公差を緩めたり、仕上げ等級を一段階下げるだけで、加工時間や検査コストを大幅に削減できるケースは少なくありません。
下記に、VA/VE提案によるコストダウンの参考情報が詳しく記載されています。https://www.yoshidanet.com/service/ve-va/
切削加工品の材質選定で失敗しないためのポイント
切削加工品の性能とコストを決定づける最も重要な要素の一つが「材質選定」です。どんなに優れた設計や加工技術があっても、材質の選定を誤れば、要求される性能を満たせなかったり、逆にオーバースペックで無駄なコストを発生させてしまいます。ここでは、材質選定で失敗しないための3つの重要なポイントを解説します。
被削性を理解する: 被削性とは、材料の削りやすさのことです。被削性が高い材料ほど、短い時間で、少ない工具消耗で加工できるため、加工コストを抑えることができます。一般的に、鉄鋼やアルミ合金、黄銅などは被削性が良好です 。一方で、ステンレス鋼 (特にオーステナイト 系)、チタン合金 、インコネル などの難削材は、加工に時間がかかり、高価な専用工具が必要になるため、コストが大幅に上昇します。意外な落とし穴として、純アルミは柔らかすぎて工具に溶着しやすく、実は被削性があまり良くありません 。
要求性能とコストのバランスを見極める: 当然ながら、製品に求められる性能を満たすことが大前提です。強度、硬度、耐熱性 、耐食性 、軽量性など、製品が使用される環境や目的に応じて、必要な特性をリストアップし、優先順位をつけましょう。例えば、高い耐食性が必要な場合はステンレス鋼が候補になりますが、その中でもSUS303 は被削性が良く、SUS304は溶接性に優れるといった特性の違いがあります。以下の表は、代表的な金属 材料の特性を比較したものです。
材質
被削性
コスト
特徴
S45C (中炭素鋼 )
良好
安い
汎用性が高く、安価。熱処理により強度を向上可能 。
A5052 (アルミ合金)
非常に良好
中程度
軽量で耐食性に優れるが、強度は鉄に劣る 。
SUS304 (ステンレス鋼)
やや難
高い
耐食性に優れるが、加工硬化 しやすく削りにくい。
C3604 (快削黄銅)
非常に良好
高い
被削性が極めて高く、精密部品に使われる。材料費は高め 。
流通量と入手性を考慮する: 特殊な材料は、入手までに時間がかかったり、少量での購入が難しかったりする場合があります。一般的な規格材(例えば、JIS規格で定められた材料)であれば、安定的に調達でき、結果的にコストや納期面で有利になります 。特に試作品や小ロット生産の場合、特殊材を選ぶと材料費だけで予算を圧迫しかねません。設計段階で、複数の代替可能な材料を検討しておくこともリスク管理の観点から重要です。
切削加工品の精度と公差の基礎知識と品質向上の秘訣
「精度」は切削加工品の品質を保証する上で避けて通れない重要な概念です。高精度な加工は、製品の性能や信頼性に直結しますが、その一方でコストアップの大きな要因ともなります。ここでは、精度の基本である「公差」の考え方と、品質を向上させるための秘訣について解説します。
公差とは何か?: 公差とは、設計寸法に対して許容される誤差の範囲のことです 。例えば、「10mm ±0.05mm」と図面に記載があれば、完成品が9.95mmから10.05mmの範囲に収まっている必要があることを意味します。JIS(日本産業規格)では、普通公差として「精級(f)」「中級(m)」「粗級(c)」「極粗級(v)」の4等級が定められており、特に指定がない場合はこれらの公差が適用されます 。切削加工では、一般的に±0.1mm(中級)程度の精度が標準的ですが、使用する工作機械 や作業者のスキル、測定環境によっては、±0.01mmというマイクロメートル単位の超高精度加工も可能です 。
高精度加工を阻害する要因: 狙い通りの精度を出すためには、様々な阻害要因をコントロールする必要があります。 ① 熱変形: 切削時に発生する熱は、ワーク(被加工物)や工具、工作機械そのものを膨張させ、寸法誤差の最大の原因となります。特に長時間の加工や、熱伝導率 の低い材質 (ステンレスなど)の加工では、クーラント (切削油 )による適切な冷却が不可欠です。 ② 工具の摩耗: 工具の刃先は加工が進むにつれて摩耗し、切れ味が悪くなります。これにより、加工面の粗さが悪化したり、寸法が変化したりします。工具の材質やコーティング、交換タイミングを適切に管理することが重要です。 ③ 機械の剛性: 工作機械の剛性が低いと、加工時にかかる力(切削抵抗)によって機械がたわみ、精度が悪化します。重切削を行う場合は、より剛性の高い機械を選定する必要があります。
意外と知られていない品質向上のテクニック: 高精度な恒温室や最新の工作機械がなくても、工夫次第で品質を向上させることは可能です。 💡 「捨て加工」の活用: 最終的な仕上げ加工 の前に、ごくわずかに削る「捨て加工」を入れることで、加工初期に発生しやすい熱や内部応力 の影響を緩和し、安定した精度を得やすくなります。 💡 加工順序の最適化: 例えば、穴あけと平面削りがある場合、どちらを先に行うかで精度が変わることがあります。大きな体積を取り除く加工を先に行い、熱や応力が解放された後に仕上げ加工を行うのがセオリーです。 💡 バリのコントロール: バリ(加工後に残る不要な突起)は、製品の精度や安全性を損なう厄介な存在です。バリの発生を抑制する工具(ホーニングされた刃先など)を選んだり、バリが出にくい加工方向を検討したりすることで、後工程のバリ取り 作業を大幅に削減できます。
公差に関するJISの規格など、より専門的な情報は以下のサイトで確認できます。https://jp.misumi-ec.com/service/qa/qa_main.html?qa_id=315
切削加工品の納期短縮を可能にする意外な管理術
切削加工において「納期」は絶対です。しかし、予期せぬトラブルや非効率な作業フローによって、納期遅延が発生しやすいのも事実です。最新の高速加工機を導入するだけが納期短縮の手段ではありません。ここでは、あまり知られていないけれど効果的な「管理術」に焦点を当て、納期短縮を実現する秘訣を探ります。
「段取り時間」こそが最大の敵: 実際の加工時間よりも、加工を始めるまでの準備、すなわち「段取り時間」がボトルネックになっているケースは非常に多いです。この段取り時間をいかに短縮するかが、納期短縮の鍵となります。例えば、使用する工具や治具 をあらかじめキット化してまとめておき、次の加工に必要なものをすぐに取り出せるようにする「シングル段取り」という考え方があります。また、プログラムの標準化も有効です。類似形状の部品であれば、過去のプログラムを流用し、数値を変更するだけで対応できるようにしておけば、プログラミング時間を大幅に削減できます。
徹底した情報共有とトレーサビリティ : 「あの図面、どこだっけ?」「この材料、いつ入ってくるんだ?」といったコミュニケーションロスは、そのまま時間の無駄に繋がります。CADデータ、CAMデータ、作業指示書、材料の在庫状況などを一元管理し、関係者全員がリアルタイムでアクセスできる環境を構築することが理想です。さらに、材料の受け入れから加工、検査、出荷までの各工程でロット番号などを活用し、製品の追跡が可能な体制(トレーサビリティ)を確保することも重要です 。これにより、万が一不具合が発生した際に、迅速に原因を特定し、影響範囲を最小限に抑えることができます。
ワンストップ対応の外注先を活用する: 自社で加工を行い、表面処理 や熱処理は別の会社に依頼する、という分業体制は一般的ですが、業者間の輸送や調整に時間がかかり、納期が延びる原因となりがちです。そこで、加工から表面処理、検査、出荷までを一貫して請け負ってくれる「ワンストップ対応」のパートナーを見つけることが、劇的な納期短縮に繋がることがあります 。調整窓口が一本化されることで、コミュニケーションがスムーズになり、全体のリードタイムを大幅に短縮できる可能性があります。これは、自社のリソースをコア業務に集中させるという経営的なメリットにも繋がります。
これらの管理術は、地味に見えるかもしれませんが、着実に効果を積み上げることで、企業全体の生産性向上と競争力強化に貢献します。まずは、自社の工程の中で最も時間がかかっている「段取り」は何かを分析することから始めてみてはいかがでしょうか。
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