透磁率測定の方法と比透磁率・B-H曲線の正しい使い方

透磁率測定の方法を知らないと、SUS304加工後の品質トラブルや異材混入を見逃すリスクがあります。B-H曲線・リング試験・VSMなど現場で役立つ手法を詳しく解説。あなたの現場は大丈夫ですか?

透磁率測定の方法と現場で使える比透磁率管理の基本

非磁性のはずのSUS304が、冷間加工後に比透磁率1.6を超えて磁石にくっつき、納品先から品質クレームが届いた事例が実在します。


この記事の3つのポイント
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透磁率とは何か?

透磁率(μ)は「磁場のかかりやすさ」を数値化したもので、金属加工の品質管理に直結します。比透磁率(μr)で「1に近いほど非磁性」と判断できます。

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代表的な測定方法4選

エプスタイン試験・リング試験・VSM(振動試料型磁力計)・低透磁率計(ポータブル型)の4つが現場でよく使われます。材質・目的・サンプル形状によって使い分けが必要です。

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加工後に必ず測定すべき理由

SUS304などのオーステナイト系ステンレスは冷間加工後に磁性を帯びることがあります。加工前だけでなく、加工後の透磁率測定が品質保証のカギです。


透磁率測定の基本:比透磁率とB-H曲線の読み方


透磁率(μ)とは、物質が磁場に対してどれだけ反応するかを示す物理量です。式で表すと μ=B/H(B:磁束密度、H:磁界の強さ)となり、この値が大きいほど磁化されやすい材料といえます。


金属加工の現場でよく耳にする「比透磁率(μr)」は、真空の透磁率(μ₀=4π×10⁻⁷ H/m)を基準にした無次元の比率です。μr=μ/μ₀という計算式で求められます。比透磁率が1に近いほど非磁性と判断できます。


たとえば、純鉄の比透磁率は約5,000、パーマロイは100,000にもなります。一方、固溶化熱処理状態のSUS304は1.004〜1.01程度で、ほぼ非磁性です。この数値が実用上の非磁性・磁性判断の基準になります。


つまり、比透磁率の数値を見れば材料の状態がわかるということですね。


B-H曲線(ヒステリシス曲線)の読み方について。横軸は「磁界の強さ(H)」、縦軸は「磁束密度(B)」を表します。磁化されていない状態から磁界を強めていくと磁束密度が上がり、やがて飽和に達します(飽和磁束密度 Bs)。磁界をゼロに戻しても磁化が残る量が「残留磁束密度(Br)」です。


この曲線の傾き=透磁率μであり、原点近傍の傾きを「初透磁率(μi)」、最も傾きが大きくなる点を「最大透磁率(μm)」と呼びます。初透磁率が1.02以下であれば、一般的に「非磁性」の基準を満たします。


B-H曲線は磁性材料を選定する際の出発点です。曲線の形状から軟磁性材料(曲線が細く小さいループ)と硬磁性材料(幅広のループ)を区別でき、用途への適合性も確認できます。磁気特性の記号・単位には次のものが使われています。














































磁気特性 記号 SI単位 CGS単位
磁界の強さ H A/m Oe(エルステッド)
磁束密度 B T(テスラ) G(ガウス)
透磁率 μ H/m 無名数
初透磁率 μi H/m 無名数
保磁力 Hc A/m Oe
残留磁束密度 Br T G


単位の読み方に迷ったら、上の表で確認するのが基本です。


参考:透磁率・比透磁率とヒステリシス曲線の詳細解説(特殊金属エクセル)
https://www.tokkin.co.jp/media/technicalcolumn/2301160


透磁率測定の方法:エプスタイン試験・リング試験・SST法の違い

透磁率をはじめとする磁気特性の測定方法は一種類ではありません。材料の形状・サイズ・測定目的によって最適な手法が異なります。現場の金属加工担当者がまず知っておくべき主要な3つの方法を整理します。


①エプスタイン試験法(JIS C2550-1準拠)は、電磁鋼板の標準的な測定方法です。30mm×280〜300mmの短冊状試験片を最低16枚用意し、井桁状に重ねてコイル枠に入れて測定します。板厚0.35mmの場合は24枚が必要です。直流・交流両対応で、B-H曲線・鉄損・透磁率などを一括取得できる点が強みです。これが基本です。


一方で、試験片が大量に必要という制約もあります。少量生産品や試作品では試料を揃えること自体が難しいケースがあります。


②SST法(単板磁気特性試験・JIS C2556準拠)は、少量の試験片で測定できる方法です。試験片サイズは100mm幅または50mm幅×280mmが標準ですが、微小単板試験装置(μ-SST)を使えば5mm×25mmの微小試験片でも対応可能です。小型モータや実製品から採取した試験片を評価したい場面で有効です。


③リング試験法(JIS C2504等準拠)は、材料自身でリング状(トロイダル状)の磁気回路を閉じて測定する方法で、反磁場の影響を排除できる点が大きな強みです。ブロックや板材からリング状に切り出した試験片に、励磁コイルと検出コイルを巻いて測定します。


リング試験が精度面で優れるのは、磁気回路が閉じているため外部への磁束漏れが少ないからです。とくに軟磁性材料のB-H特性を正確に求めたい場面でよく使われます。精度が条件です。



  • 🔹 エプスタイン試験:大量の試験片が必要・電磁鋼板に最適・JIS標準

  • 🔹 SST法:少量試験片でOK・小型試料にも対応・実部品評価に便利

  • 🔹 リング試験:閉磁路で精度◎・ブロック材からも採取可能・軟磁性材料向き


測定方法を間違えると、求める精度が出ないことがあります。どの手法が自社の材料・用途に合っているか、まず確認してから設備・外注先を選びましょう。


参考:軟磁性材料の磁気特性評価とエプスタイン・SST・リング試験の詳細(JFEテクノリサーチ)
https://www.jfe-tec.co.jp/magnetic_material/evaluation/soft-magnetic.html


VSM(振動試料型磁力計)による透磁率測定の原理と活用場面

VSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)は、上記のエプスタイン試験やリング試験が「電磁鋼板など板材」を対象とするのに対し、粉末・薄膜・小片など多様な形状の試料を測定できる方法として注目されています。


原理はシンプルです。均一な外部磁場の中に試料を置き、約80Hz・振幅0.5mm程度の一定周波数で試料を上下振動させます。すると試料の磁場変化が近傍の検出コイルに起電力を誘起し、その信号から磁化量を高精度に算出します。強磁性体の飽和磁束密度・残留磁化だけでなく、非磁性材料(常磁性体)の透磁率まで評価できます。これは使えそうです。


VSMの特徴として特に注目すべき点が「感度の高さ」です。銅合金やオーステナイト系SUSのような磁化の小さな材料でも、測定が可能です。日鉄テクノロジー社のVSMでは、電磁石で1.2MA/m程度の磁場まで印加でき、永久磁石材料から弱磁性材料まで幅広く対応しています。


また、VSMは温度可変測定(一般的に5.5K〜1200K)にも対応できる機種があり、実使用環境に近い条件での評価が可能です。これは開磁路測定に分類されるため、実使用環境に近い測定データを得られる点でもメリットがあります。



  • ✅ 粉末・薄膜・小型部品など形状を選ばない

  • ✅ 磁化が非常に小さな非磁性材料でも測定可能

  • ✅ 温度変化させながらの測定にも対応

  • ✅ 強磁性体から永久磁石まで幅広く評価可能


大型ラボ装置のため現場置きは難しいですが、外部委託での磁気特性受託測定サービスを提供するメーカー・公設試験機関があります。例えば、TOKKIN(特殊金属エクセル)のVSM受託測定サービスでは、加工後の部品状態での磁気特性測定も依頼できます。加工後の磁気変化を定量把握したい場合、こうした外部機関の活用が現実的な選択肢です。


参考:VSMによる磁気特性評価(コベルコ科研)
https://www.kobelcokaken.co.jp/tech_library/2025/20250112.html


現場で使える低透磁率計(ポータブル型)による比透磁率測定の注意点

ラボ測定と並んで、金属加工の現場で重宝されるのがポータブル型低透磁率計です。代表的な製品として、Stefan Mayer Instruments社製「フェロマスタ」があります。これはASTM A342規格に準拠した測定器で、プローブを測定したい部位に当てるだけで比透磁率が表示されます。


フェロマスタの測定範囲はμr=1.001〜1.999であり、常磁性材料や加工後に弱く磁化した非磁性ステンレス鋼製品を手軽に評価できます。電源は9Vアルカリ電池で連続50時間動作し、重量280gと携帯性も高いです。


測定の仕組みはこうです。プローブ内の永久磁石がつくる磁力線と磁場センサの検出方向が垂直になるよう配置されており、被測定物がないときは検出信号ゼロ(μr=1.000)です。磁化した被測定物が存在すると磁力線が曲げられ、その成分を差動配置の磁場センサ2つで検出します。地磁気の影響はほとんど排除される仕組みになっています。


実測例として、SUS304製ボルトを測定したデータがあります。冷間鍛造を受けたボルトの頭部(A)では比透磁率が1.624に達した一方、ねじ部(B)は1.225、平坦な板部(C)は1.024、曲げ部(D)は1.051という結果が出ています。ボルト頭部が特に高いのは、冷間鍛造による加工誘起マルテンサイト相の生成量が多いためです。磁性を帯びやすい部位は測ってみて初めてわかることが多いですね。


ただし、現場でポータブル型を使う際には必ず守るべき注意点があります。



  • ⚠️ 強磁性体(通常の磁石など)をプローブに接触させない:内部の永久磁石が精密配置されているため、破損の原因になります。

  • ⚠️ 測定前にサンプルを消磁する:残留磁気が残っていると測定値がずれます。ただし逆に、プローブの磁石によってサンプルが磁化されるリスクもあるため、測定は短時間で行うことが推奨されています。

  • ⚠️ サンプルサイズに注意:厚み5mm以上・直径2cm以上の試料でないと、測定値がサンプル寸法に依存して実際の値より小さく表示されます。厚みが不十分な場合、真の比透磁率より低い値が出るため「非磁性OK」と誤判定するリスクがあります。


この「厚みが足りないと低く出る」という挙動は、特に板金加工後の薄物部品を測定する際に問題になります。サイズ依存性のあるデータを鵜呑みにしないよう注意が必要です。


参考:低透磁率計フェロマスタによる非磁性ステンレス鋼の品質管理(大阪府立産業技術総合研究所)
https://orist.jp/technicalsheet/18-10.pdf


金属加工後の品質管理に透磁率測定が欠かせない理由と独自視点

多くの金属加工従事者が「SUS304は非磁性だから、加工後に磁性チェックは不要」と思いがちです。しかし、この思い込みがクレームや納品トラブルの原因になります。


SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼は、固溶化熱処理状態では確かにμr=1.004〜1.01程度の非磁性です。しかし、冷間鍛造・曲げ加工・引き抜き加工など、加工率が高くなると「加工誘起マルテンサイト変態」が起きます。強磁性を示すマルテンサイト相が組織内に生成し、比透磁率が急上昇する現象です。実際のデータではSUS304(A2-70)のボルトでも冷間加工後にμr=1.400を記録した例があります。


この変化は、磁石でくっつくかどうかという外観検査では見抜けないことが多いです。μr=1.4程度では磁石に弱く付く程度で、肉眼判断ではグレーゾーンになります。しかし、MRI装置の部品・イオンビーム装置・医療機器など「非磁性環境」を厳格に求められる用途では、μr=1.04以下などの厳しい基準が設けられており、加工後の定量測定なしには品質保証できません。これが品質管理の原則です。


また、渦流探傷(ECT)などの非破壊検査においても透磁率は重要な変数です。渦流探傷は金属の導電率と透磁率の差を電気的に検出することで異材判別や表面傷検出を行いますが、磁性材料では透磁率の不均一性がノイズとなり検査精度に影響します。透磁率を事前に把握・管理しておくことで、渦流探傷の精度も向上します。


あまり知られていない視点として、「加工方向によって透磁率が変わる」という磁気異方性の問題があります。圧延加工を施した電磁鋼板は、圧延方向(RD方向)と直交方向(TD方向)で透磁率が異なります。エプスタイン試験では、この影響をRD方向とTD方向の試験片を半分ずつ組み合わせることで平均化するよう規定されています。つまり、加工方向を無視した測定値は材料の代表値にならないケースがあります。モータコアや変圧器コアの性能評価では、方向別の透磁率測定データが設計精度を左右します。方向性が条件です。



  • 🔸 加工前と加工後で比透磁率が大きく変わる材料がある

  • 🔸 非磁性基準は用途によって異なる(μr≦1.01〜1.04以下など)

  • 🔸 渦流探傷の精度は透磁率管理と連動している

  • 🔸 圧延・曲げなど加工方向によって透磁率の値が変わる


透磁率測定は、「材料を選ぶ前」だけでなく「加工プロセスの出口」でも必要な検査です。測定タイミングとサンプル選定を間違えなければ、クレームを事前にぐ強力な品質管理ツールになります。加工後の測定が原則、と覚えておくだけで現場のリスクが大きく変わります。


参考:渦流探傷と透磁率の関係・異材判別への応用(NDTアドヴァンス)
https://www.ndtadvance.com/eddy-current/point/discrimination.html




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