鉄の渦流探傷は、浸透深さがわずか0.1mm未満になることがあり、表面から1mm以下の内部割れを見落としたまま製品が出荷されるリスクがあります。
渦流探傷(ET:Eddy Current Testing)は、電磁誘導を利用した非破壊検査手法です。コイルに交流電流を流すと、そのまわりに交番磁界が発生します。このコイルを金属などの導電体に近づけると、ファラデーの電磁誘導の法則によって試験体の表面に同心円状の電流が誘導されます。この電流が「渦電流(Eddy Current)」と呼ばれるものです。
渦電流は、試験体内に割れや腐食などの欠陥が存在すると、その部分を避けるように流れが変化します。つまり、欠陥がある場所では電流経路が乱れ、コイルのインピーダンス(電気的抵抗)が変化します。渦流探傷器はこのインピーダンス変化を検出することで、きずの有無を判定するという仕組みです。
つまり、金属に触れなくても欠陥を検知できるのが基本原理です。
渦電流が影響を受ける因子は大きく5つあります。それらはきず・導電率・透磁率・リフトオフ(プローブと試験体の距離)・寸法や形状・表面粗度です。これらのうち一つでも変化すると出力信号が変わるため、検査条件の管理が非常に重要になります。
現場でよく見落とされるのが「リフトオフ」の影響です。プローブと試験体の間隔がわずか0.1mm変化しただけで、出力感度が6dB以上変化する場合があります。6dBとは信号の電圧比で約2倍の差に相当し、きずを見落とす直接原因になりえます。リフトオフは基本中の基本です。
この点は信頼性の高い技術情報として、渦電流探傷試験の解説資料(ダイヤ電子応用)に詳述されています。
渦電流探傷の原理・応用(ダイヤ電子応用株式会社)― リフトオフや充填率、表皮効果など実務上の重要ポイントが網羅されています
渦電流は試験体の表面から内部へ向かうにつれて、指数関数的に減衰していきます。これを「表皮効果」と呼びます。表面での渦電流密度を100%とすると、深さが増すにつれて急速に弱まり、表面の約36.8%(1/e)になった深さを「浸透深さ(δ)」と定義しています。
浸透深さは以下の式で求められます。
$$\delta = \frac{1}{\sqrt{\pi f \mu \sigma}}$$
ここで、fは試験周波数(Hz)、μは試験体の透磁率(H/m)、σは試験体の導電率(S/m)です。この式からわかる重要な事実が2つあります。
1点目は、**周波数を4倍にすると浸透深さは1/2になる**ということです。逆に周波数を1/4に下げると浸透深さは2倍になります。これは現場での設定変更に直結する知識です。
2点目は、材質(透磁率・導電率)によって浸透深さが大きく変わるということです。実際の数値で比較してみると、アルミニウム(非磁性体)では100kHzで約2~3mm程度の浸透深さが得られるのに対し、炭素鋼(磁性体)では同じ周波数でも0.1mm未満になることがあります。これはアルミ板一枚の厚さほどの差です。
これが冒頭で触れた「鉄の検査で見落としが起きやすい」理由の核心です。
| 材質 | 分類 | 浸透深さの目安 |
|---|---|---|
| 炭素鋼(S45C) | 磁性体 | 0.05〜0.15mm(100kHz時) |
| SUS304 | 非磁性体 | 0.5〜1.0mm(100kHz時) |
| アルミニウム | 非磁性体 | 1.0〜3.0mm(100kHz時) |
| 銅 | 非磁性体 | 0.5〜1.5mm(100kHz時) |
磁性体は透磁率が非磁性体の100〜1000倍高いため、磁束が内部に潜り込めず表面付近に集中します。その結果、浸透深さが極端に浅くなります。炭素鋼の探傷で深部の割れを検出したい場合は、磁気飽和装置を使って試験体を磁気飽和させることで、磁性体を擬似的に非磁性体と同等の状態にする方法が有効です。
浸透深さについてはNDTアドヴァンスの解説ページが参考になります。
浸透深さの算出と材料別周波数一覧(NDTアドヴァンス)― 材料ごとの浸透深さを実際に計算できるツールも用意されています
渦流探傷の性能を左右する最重要要素の一つがプローブ(検出コイル)の選定です。コイルの形状・方式が変わると、同じ検査対象でも検出性能に天と地ほどの差が出ることがあります。これはプローブ選定が条件です。
まず使用方式による分類を整理します。
次に形状による分類も重要です。
コイルを選んだら感度確認が必要です。
どれほど良いプローブを選んでも、実際の検査条件に合わせた人工きず(試験片)での感度確認を事前に行わなければ、正確な検査結果は得られません。現場では試験体と同材質・同形状の標準試験片を準備し、事前にデータを取っておくことが鉄則とされています。
渦流探傷センサの種類と応用分野(ローマン・ジャパン株式会社)― プローブの形状別分類と実際の適用事例が詳しく紹介されています
渦流探傷の大きな強みの一つが「塗装の上から検査できる」という点です。浸透探傷試験(PT)や磁粉探傷試験(MT)では塗装を剥がす前処理が必要になりますが、渦流探傷では不要です。これは使えそうです。
ただし、この利点には条件があります。塗膜が厚くなるほど、プローブと素地金属の間隔(リフトオフ)が広がり、検出感度が下がります。実際の試験データでは、膜厚が0.1mmから0.6mmに変化すると、きず信号のレベルが1/5以下に低下することが確認されています。
つまり、塗装面の検査では感度の余裕を多めに設定することが条件です。
また、渦流探傷は「異材判別」にも優れた効果を発揮します。材料が変わると導電率や透磁率が変化し、それによってコイルのインピーダンス応答が変わります。たとえばアルミ部品にSUSが混入したような場合でも、目視では発見できませんが渦流探傷なら電気信号の変化として即座に検出できます。製造ラインでの全数自動判別に活用されており、1秒間に1m以上の速度でのリアルタイム検査も実用化されています。
さらに、渦電流探傷はコーティングの膜厚測定にも応用できます。プローブと素地金属の距離(リフトオフ)と電気信号の変化には一定の相関があるため、この特性を利用して塗膜厚さや非導電性コーティングの厚さを非破壊で測定することが可能です。
一方で限界も明確に理解しておく必要があります。渦電流は本質的に表面・表面近傍の現象であるため、深部の内部欠陥には対応できません。また、形状が複雑な部品の入り組んだ角部や端面近傍は検査困難です。試験体の端部は無限大のきずと同等の信号が出てしまうため、端面近くの評価は別の手法と組み合わせる必要があります。
塗膜上からの渦流探傷と膜厚の影響(NDTアドヴァンス)― 実際の信号変化データと試験結果が図付きで掲載されています
渦流探傷器の出力は、一般的に「リサージュ波形(ベクトル表示)」と呼ばれる形式で表示されます。この波形は直交する2つの位相成分(X軸・Y軸)で構成されており、信号の大きさだけでなく「位相角」も同時に読み取れる点が特徴です。
リサージュ波形の読み方は、現場経験の浅い担当者がつまずきやすいポイントです。
位相角はきずの深さに対応しています。表面に近いきずは位相が進み、深いきずは位相が遅れます。これは表皮効果によって渦電流が深い場所ほど位相遅れを生じるためです。つまり、波形の傾きを読むことでおおよそのきずの深さを推定できます。
また、リフトオフ信号(プローブの浮き上がりによるノイズ)ときず信号は、位相が異なる方向に出るため、位相解析によって分離することが可能です。これが自動検査ラインでの誤判定を減らす核心的な技術になっています。
信号表示には以下の3種類があります。
きず判定の基準を決めるためには、あらかじめ同材質・同形状の試験片に複数サイズの人工きずを設けてデータを収集しておく必要があります。「試験条件が変わればリサージュ波形も変わる」という原則を念頭に置き、設定変更のたびに基準感度の再確認を行うことが重要です。これが基本ルールです。
なお、渦流探傷の一般的な検出限界は、良好な条件下で長さ約0.5mm以上の表面欠陥とされています(Evident社の資料より)。ただし、プローブの種類・材質・周波数設定などによって実際の検出能力は大きく変わります。
渦電流探傷試験における表皮効果と浸透深さの解説(日本溶接協会)― 式の意味と実務上の活用方法について権威ある情報源として参考になります
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