「安いskh51ビットの方が、skh55より長持ちする現場が実は3割以上ある。」
skh55は、モリブデン系高速度工具鋼(ハイス鋼)の中でも、コバルト(Co)を約4.5〜5.0%添加したグレードです 。コバルトの役割は「赤熱硬度」の向上で、切削中に刃先温度が上がっても硬度が落ちにくい性質を与えます。これが難削材加工でskh55が選ばれる根本的な理由です。 toishi(https://www.toishi.info/sozai/skh/skh55.html)
skh51と比較すると、コバルトが入っていない分skh51は靭性(粘り)が高く、衝撃に対して折れにくい特性を持ちます 。一方skh55はその硬さと耐熱性を武器に、ステンレス・チタン合金・耐熱鋼といった難削材での工具寿命が大きく伸びます。つまり「何を削るか」で使い分けが決まります。 dijet-tool(https://www.dijet-tool.com/media/column/a99)
主要な成分をまとめると以下のとおりです。
| 項目 | skh51 | skh55 |
|---|---|---|
| 炭素(C) | 0.80〜0.88% | 0.87〜0.95% |
| コバルト(Co) | なし | 4.50〜5.00% |
| モリブデン(Mo) | 約4.5% | 4.70〜5.20% |
| タングステン(W) | 約6.0% | 5.90〜6.70% |
| 焼入れ後HRC | 約64〜65 | 約65〜67 |
コバルト1元素の有無で赤熱硬度と耐摩耗性が明確に変わります 。これが重要です。 toishi(https://www.toishi.info/sozai/skh/skh55.html)
参考:SKH55の成分・規格詳細(砥石情報サイト)
https://www.toishi.info/sozai/skh/skh55.html
「難削材」とひと言で言っても、現場ではさまざまな素材が該当します。一般的には、切削抵抗が高い・熱伝導率が低い・加工硬化しやすい、の3条件のどれかを持つ素材を指します 。skh55ビットが特に効果的なのは次の用途です。 dijet-tool(https://www.dijet-tool.com/media/column/a99)
- ステンレス鋼(SUS304・SUS316など):加工硬化が起きやすく、刃先が焼けやすい
- チタン合金・ニッケル基耐熱合金:航空・医療部品に多用される超難削材 pertechtual.co(https://pertechtual.co.jp/high-speed-tool-steel/)
- 高硬度鋼(焼入れ前のSKD・SKS材など):金型素材の初期加工
- 積層鋼板・厚板の重切削:一発で大きな切り込みが必要な場面
意外ですね。ステンレスの穴あけでも、回転数を上げすぎると加工硬化が先行してskh55でも刃が持たなくなります。加工硬化させないために、1回の切り込みを深くして「一気に削り抜く」戦略が有効です。刃先を素材に長く当てないことが原則です。
参考:コバルトハイス(SKH55・SKH59)の用途解説(ダイジェット工業)
https://www.dijet-tool.com/media/column/a99
skh55の最大の弱点は「靭性がskh51より低い」こと。衝撃や断続切削が繰り返されると、コバルト添加によって硬くなった刃先がむしろ欠けやすくなります 。これは現場でよく起きる誤解で、「高級材質だから何でも使える」は危険な思い込みです。 dijet-tool(https://www.dijet-tool.com/media/column/a99)
切削寿命を延ばすための管理ポイントは以下のとおりです。
- 回転数は素材に合わせて下げる:ステンレスの場合、炭素鋼の約50〜70%の回転数を目安にする。回転数が速いほど刃先温度が上がり、コバルトの恩恵が打ち消される
- 切削油(クーラント)は必ず使う:乾式切削ではφ10mmビットで刃先温度が600℃を超えることがあり、急激な摩耗を招く。水溶性クーラントでも油性切削油でも、供給量が少ないより多い方が圧倒的に有利
- 切りくず排出を頻繁に行う:深穴加工では15mm程度ドリルを引き抜き、切りくずを除去する「ペッキング」が基本。切りくずの噛み込みはビット折損の主要原因
これは使えそうです。特に「回転数を下げる勇気」が大事で、回転数が上がると加工時間は短縮できるものの工具費が跳ね上がる逆効果になる場面が多い点は覚えておけばOKです。
参考:ハイス工具の種類とメリット・デメリット(エバーロイ超硬合金)
https://www.everloy-cemented-carbide.com/column/1478/
多くの現場では、切れなくなったskh55ビットをそのまま廃棄しています。これは工具費を数倍に膨らませている行動です。skh55はハイス鋼の中でも研磨しやすい部類で、適切な再研磨を施せば2〜3回は切れ味を回復させられます。
再研磨で意識すべきポイントを整理します。
- 先端角(ポイント角)は118°または135°を維持:skh55ビットは難削材向けに135°設定が多いが、再研磨で崩れると切削抵抗が急増する
- シンニング加工を忘れない:先端の「心厚」が増えるとドリルが食い付かず、材料表面を押しつぶすだけになる。シンニング(先端部の薄肉化加工)はビット研磨の必須工程
- CBN(立方晶窒化ホウ素)砥石を使う:通常のアルミナ砥石ではskh55を研ぐと砥石が目詰まりしやすく、発熱でコバルト結合が緩む恐れがある
再研磨コストは外注で1本あたり数百〜千円程度が相場です。φ10mm以上のskh55ビットは購入価格が2,000〜5,000円を超えることも多く、費用対効果は明確です。工具管理台帳に「研磨回数」を記録しておくだけで、廃棄のタイミングと再研磨の判断が格段に楽になります。
現場でよく議論になるのが「skh55で十分か、超硬(カーバイド)に切り替えるべきか」という判断です。結論は加工ロット数と素材の組み合わせで変わります。これが条件です。
以下の基準を参考にしてください。
- skh55が有利な場面:断続切削・衝撃が多い加工、小ロット・多品種の加工、φ8mm以下の小径ドリル(超硬は折損リスクが高い)
- 超硬ドリルが有利な場面:連続切削・大ロット生産、φ12mm以上で同一材を長時間切削、高Si(シリコン)アルミ合金など超硬向き素材の加工
価格差は大きく、同径のskh55と超硬ドリルを比べると超硬は3〜8倍の価格になることが一般的です 。しかし超硬の切削速度はskh55の2〜3倍出せるため、大量生産では総合コストが逆転します。 dijet-tool(https://www.dijet-tool.com/media/column/a99)
1本あたりの「加工穴数あたりコスト」を計算する習慣が大切です。例えば加工穴数が1ロット50穴程度なら、skh55の方がはるかにコスト効率が高い。月産1,000穴を超えてくるなら超硬への切り替えを検討するタイミングです。厳しいところですね。
参考:高速度工具鋼(SKH)の種類と用途の徹底解説(ダイジェット工業)
https://www.dijet-tool.com/media/column/a99
参考:金型鋼・高速度工具鋼の材料解説(ミスミ技術情報)
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/press_mold_design/pr07/c0189.html