CBN工具を「とにかく硬いから何でも削れる」と思って使うと、超硬工具より早く刃が欠けることがあります。
立方晶窒化ホウ素(CBN:Cubic Boron Nitride)は、ホウ素(B)と窒素(N)からなる人工化合物で、自然界には存在しない物質です。ダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、HV7,000を超えることもある超硬質材料として知られています。1970年代に初めて工業利用が進み、現在では金属加工現場の難削材加工において欠かせない工具材料となっています。
CBN工具の最大の特徴は、耐熱性と化学安定性の高さにあります。ダイヤモンドは約700℃で大気中での酸化が始まり、鉄系材料との反応(炭素の溶出)が問題になります。それに対してCBNは1,300℃まで熱的に安定しており、かつ鉄系材料との化学的親和性が低いため、焼入れ鋼や鋳鉄の切削に非常に適しています。これが原則です。
また、CBN(超硬合金との比較)を数値で見ると、硬度はHV1,500〜1,700の超硬合金に対してCBNはHV3,000〜5,000以上。耐熱温度は超硬合金の800〜1,000℃に対してCBNは1,400〜1,500℃と、いずれも大きく上回ります。熱伝導率も超硬合金(17〜125 W/(K·m))に対してCBN焼結体は約40〜200 W/(K·m)と高く、切削熱を効率的に逃がせる設計になっています。
| 工具材料 | 硬度(HV) | 耐熱温度(℃) | 鉄との反応性 |
|---|---|---|---|
| 超硬合金(K10) | 1,500〜1,700 | 800〜1,000 | 低 |
| セラミックス | 1,800〜2,500 | 1,200以上 | 低〜中 |
| CBN(PCBN) | 3,000〜5,000 | 1,400〜1,500 | 非常に低い |
| PCD(ダイヤモンド系) | 4,000〜6,000 | 700〜800 | 非常に高い |
工具寿命に関しては、通常の超硬工具に比べてCBN工具は5〜10倍の寿命を持つとされています。ただし工具価格も超硬比で約5倍程度高くなるため、導入判断にはトータルコストの試算が必要です。
CBN工具は「高い」という印象が先行しがちです。しかし工具交換回数の削減、加工ラインの停止時間の短縮、仕上げ精度の向上による後工程の省略などを含めると、トータルでのコストダウンが実現できるケースが多いです。これは使えそうです。
参考:立方晶窒化ホウ素工具の特性と超硬・セラミック・PCD工具との性能比較データ
CBN工具を選ぶ際に最も見落とされがちなのが、CBN含有量(vol.%)による使い分けです。「CBN工具」とひとくちに言っても、含有量が40%台のものから95%以上のものまで幅があり、それぞれ得意な加工用途が異なります。
一般的な目安として、次のように分類されます。
つまり、用途と被削材で選ぶのが原則です。たとえば焼入れ鋼を高速仕上げする工程に高含有CBNを使うと、耐欠損性が不十分で欠けやすくなり、かえって工具寿命が短くなる恐れがあります。
各メーカーがCBN材種を複数ラインナップしているのはこのためです。タンガロイのBXA10・BXA20・BR35のように、耐摩耗性を重視するか耐欠損性を重視するかで材種が分かれています。自社の加工条件(被削材の硬度、切り込み量、切削速度、連続・断続の別)を整理してから材種選定に入るのが基本です。
また見落とされがちな点として、刃先処理(ホーニング)の重要性があります。CBN工具は高硬度である反面、超硬合金に比べて靭性(粘り強さ)が低く、欠けやすい特性があります。この弱点を補うため、切れ刃近傍に「ネガランド(鈍角の面)」を設けるホーニング処理が一般的に施されます。
ネガランドの幅と角度を適切に設定しないと、切削抵抗の増大による加工面品位の低下や、断続加工での欠損リスクが高まります。加工条件に合わせたホーニング仕様の確認も、工具選定では欠かせません。
参考:CBN含有量と耐摩耗性・耐欠損性の関係、ホーニング仕様選択ガイドの詳細
CBN加工が丸わかり!タンガロイ旋削用CBN製品とその使い方(タンガロイ)
CBN工具への期待感から「とにかくCBNを使えばどんな材料でも高効率に削れる」と考えてしまうと、痛い目に遭うことがあります。CBN工具には明確な「得意・不得意」があります。これが条件です。
CBNが特に得意とする被削材は以下のとおりです。
一方、CBN工具が苦手とする材料にも注意が必要です。
なお、鋳鉄の加工でも「鋳造後の時効」という見落とされがちなポイントがあります。ねずみ鋳鉄は鋳造後に大量の酸素・窒素ガスを放出するため、鋳造直後にPCBN工具で切削すると工具の耐久性が著しく低下します。一般的に鋳造後10日程度はガスの揮発を待つことが推奨されており、これを知らずに即座に加工すると予想外の工具破損につながります。意外ですね。
参考:PCD工具とCBN工具の使い分け、被削材ごとの適合性
PCD工具とCBN工具の基礎知識(キーエンス・なるほど!機械加工入門)
金属加工の現場で長年見過ごされてきた改善機会のひとつが、研削工程のCBN旋削(ハードターニング)への置き換えです。焼入れ鋼の仕上げ工程は「研削でなければ精度が出ない」という固定観念が根強いですが、PCBN工具を正しく使えばその常識は崩れます。
PCBN工具による焼入れ鋼の旋削加工では、加工精度IT5〜IT6、表面粗さRa0.2〜0.8μmを安定して達成できます。これは精密研削加工と同等の精度です。これだけ覚えておけばOKです。
研削加工をそのままCBN旋削に置き換えることで得られるメリットは、具体的に以下のようなものがあります。
ただし、研削をCBN旋削に置き換える際には条件があります。ワーク剛性と機械剛性が十分でなければ、ビビリ振動が発生して表面粗さが悪化します。また、断続した面(端面際など)では切りくずの噛み込みが起きやすく、インサートの突発欠損につながることも。加工形状とワーク剛性を事前に確認するのが大前提です。
乾式切削に切り替える際の注意点として、冷却液を使う場合は温度差による「サーマルクラック(熱亀裂)」が生じやすくなります。CBN工具は高温には強いものの、急激な温度変化には弱い性質があります。乾式か湿式かを途中で切り替えるのは避け、最初から一貫した条件で加工することが重要です。厳しいところですね。
参考:PCBN工具の研削代替加工の実用的解説と工程改善事例
CBN工具を導入したものの「すぐ欠ける」「期待した寿命が出ない」という声は少なくありません。原因を知れば防げるトラブルがほとんどです。
よくある失敗と原因を整理すると以下のようになります。
工具寿命を延ばすための現場チェックポイントとして、以下を確認しておきましょう。
これらを一つひとつ確認するだけで、トラブルの多くは防止できます。
また、工具摩耗の確認には高精度な画像寸法測定器を活用することが推奨されています。CBN工具の刃先摩耗は「逃げ面摩耗(フランク摩耗)」と「すくい面摩耗(クレータ摩耗)」の2種類があり、これらを定期的に測定することで、交換タイミングを見極め品質安定化につなげられます。工具管理の精度が上がれば、突発的な工具破損による加工ラインの停止を避けられ、コスト管理にも直結します。
CBN工具の管理で迷ったら、タンガロイ・住友電工ハードメタル・サンドビックなど主要メーカーの技術相談窓口やオンラインセミナーを活用するのが近道です。各社が加工条件の選定サポートを提供しており、インサート材種・ホーニング・チップブレーカの最適化まで相談に乗ってくれます。これは使えそうです。
参考:CBN工具の選び方・メリット・デメリットのわかりやすい解説
CBN工具とは?PCD工具との違いやメリット・デメリットを解説(special-cutting.com)