サーメットという名称は、セラミックス(Ceramics)と金属(Metal)を組み合わせた造語です。セラミックスのように硬く、メタルのように粘り強いという特性を持つ複合材料として、1959年に開発されました。
サーメットの主な構成材料は、硬質相となる炭化チタン(TiC)や炭窒化チタン(TiCN)などのチタン化合物と、結合剤となるニッケル(Ni)やコバルト(Co)です。これらの粉末を混合し、高温・高圧条件下で焼結することによって製造されます。
一般的なサーメットの組成例としては、以下のようなものがあります。
現代のサーメットでは、靭性を向上させるためにモリブデン(Mo)や窒化チタン(TiN)を加えた「TiC-TiN-Mo-Ni」が主流となっています。これにより、かつての脆さという欠点が改善され、より幅広い用途に対応できるようになりました。
サーメットの製造プロセスは粉末冶金法が主流で、原料粉末の混合、成形、焼結という工程を経て製品化されます。焼結温度や圧力、保持時間などの条件によって、最終製品の物性や特性が変化するため、用途に応じた最適な製造条件の設定が重要です。
サーメット工具は、その特異な材料特性から様々なメリットを持っています。特に金属加工の現場では、その性能を最大限に活かすことで生産効率の向上につながります。
サーメットの主成分である炭化チタン(TiC)は、超硬合金の主成分である炭化タングステン(WC)より硬いという特徴があります。この高い硬度により、超硬合金では加工が難しい高硬度材料の切削にも対応できます。また、耐摩耗性に優れているため、工具寿命が長くなり、工具交換の頻度を減らすことができます。
サーメットは耐熱性に優れており、高温環境下でも硬度の低下が少ないという特性を持っています。切削加工中は工具先端が高温になりますが、サーメット工具は温度上昇による性能劣化が少なく、高速切削が可能です。これにより、生産性の向上につながります。
サーメットは鉄との親和性が低いという特性があります。これは実用上、非常に重要な利点です。超硬合金に使われる炭化タングステン(WC)は鉄と反応して合金化しやすく、鋼材の切削時に「構成刃先」と呼ばれる現象を引き起こすことがあります。一方、サーメットはこの問題が少なく、特に鋼の仕上げ切削において光沢のある良好な仕上げ面を得ることができます。
サーメットは耐酸化性にも優れています。高温での酸化による劣化が少ないため、切削工具としての寿命が長く、安定した加工品質を長期間維持できます。特に連続切削作業において、この特性が大きな利点となります。
これらの特性を総合すると、サーメット工具は高速切削に最適な材料と言えます。特に小送り・小切込みの仕上げ加工では、その性能を最大限に発揮し、高精度・高品質な加工を実現できます。鋼材の高速切削においては、超硬合金よりも優れた性能を示すことが多いです。
サーメットは多くの優れた特性を持っていますが、実際の使用においていくつかの欠点や課題も存在します。これらを理解し適切に対応することで、より効果的にサーメット工具を活用することができます。
サーメットの主な欠点として、超硬合金と比較して靭性が低く、衝撃に弱いという点が挙げられます。サーメットの主成分であるチタンやタンタルは化学的安定性が高く、結合剤とも反応しにくいため、衝撃を受けると刃先が欠けやすくなります。
これを防止するためには、以下の点に注意する必要があります。
サーメットの主成分である炭化チタン(TiC)は熱伝導率が低く、熱容量も小さいという特性があります。このため、切削中に刃先に熱が蓄積しやすく、特に断続切削やフライス加工では、切削と空転を繰り返すことで温度変化が激しくなり、熱亀裂(クラック)が発生するリスクがあります。
水溶性切削油を使用すると、この熱サイクルによる亀裂がさらに促進されることがあるため、サーメット工具でフライス加工を行う場合は、乾式切削が推奨されています。
サーメット工具の欠点を考慮すると、適用できる加工条件にはある程度の制約があります。
これらの欠点を克服するために、各工具メーカーは様々な改良を進めています。例えば、コーティング技術の適用によって表面の耐久性を高めた「コーテッドサーメット」の開発や、組成の最適化による靭性の向上などが試みられています。
また、使用現場でも、適切な切削条件の設定や、工具の定期的な点検・メンテナンスによって、サーメット工具の欠点を最小限に抑える工夫が行われています。
切削工具の材質選択において、超硬合金とサーメットは共に重要な選択肢となっています。それぞれの特性を正確に理解し、加工目的に応じて適切な材質を選ぶことが、効率的な加工と高品質な仕上がりを実現するためのカギとなります。
超硬合金とサーメットは、ともに硬質相と結合相からなる複合材料ですが、その組成に大きな違いがあります。
項目 | 超硬合金 | サーメット |
---|---|---|
主成分 | 炭化タングステン(WC) | 炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN) |
結合剤 | コバルト(Co) | ニッケル(Ni)、コバルト(Co) |
添加物 | TaC、NbCなど | Mo、WCなど |
超硬合金の主成分である炭化タングステン(WC)は、サーメットの主成分である炭化チタン(TiC)に比べて低い硬度ですが、より高い靭性を持っています。
両者の物理的特性には、以下のような違いがあります。
特性 | 超硬合金 | サーメット |
---|---|---|
硬度 | 高い | 非常に高い |
靭性 | 比較的高い | 低い |
耐熱性 | 良好 | 優れている |
耐摩耗性 | 良好 | 優れている |
耐酸化性 | 中程度 | 優れている |
熱伝導率 | 高い | 低い |
サーメットは硬度、耐熱性、耐摩耗性において優れていますが、靭性と耐衝撃性では超硬合金に劣ります。
実際の切削加工において、両者には以下のような特性の違いがあります。
加工特性 | 超硬合金 | サーメット |
---|---|---|
鉄との親和性 | 高い(構成刃先が発生しやすい) | 低い(良好な仕上げ面が得られる) |
適した切削速度 | 中~高速 | 高速 |
適した切込み深さ | 小~大 | 小~中 |
断続切削への適性 | 比較的良好 | 不向き |
仕上げ面品質 | 良好 | 優れている |
超硬合金は汎用性が高く様々な加工条件に対応できますが、サーメットは鋼材の高速仕上げ切削において特に優れた性能を発揮します。
これらの特性を踏まえた上で、以下のような使い分けの指針が考えられます。
適切な材質選択によって、工具寿命の延長、加工品質の向上、生産効率の改善が期待できます。
サーメット工具は、その優れた特性を長期間にわたって維持するためには、適切な再研磨とメンテナンスが不可欠です。ここでは、サーメット工具特有の再研磨技術とメンテナンスのポイントについて解説します。
サーメット工具の再研磨は、その硬度の高さと脆さゆえに、超硬合金とは異なるアプローチが必要です。
主な特徴
実際の再研磨プロセスでは、砥石の選定、研削条件の設定、冷却方法など、細部にわたる配慮が品質を左右します。特に、熱によるダメージを最小限に抑えることが重要です。
サーメット工具を再研磨する際には、以下の点に特に注意が必要です。
日常的なメンテナンスと適切な保管も、サーメット工具の寿命を延ばすために重要です。
サーメット工具の再研磨は高度な技術と経験を要するため、専門の再研磨サービスを利用することも一つの選択肢です。プロフェッショナルによる再研磨は、以下のようなメリットがあります。
コスト削減と環境負荷低減の観点から、使い捨てではなく再研磨による工具の長寿命化が推奨されています。特に高価なサーメット工具では、適切な再研磨によって総合的なコストパフォーマンスが向上します。
サーメット工具の再研磨に関する詳細情報
以上のように、サーメット工具の特性を理解し、適切な再研磨とメンテナンスを行うことで、その優れた性能を長期間にわたって活用することができます。これにより、生産性の向上とコスト削減の両立が可能となります。