フリーの計算ソフトを使っても、腕の長さを無視したまま設計すると、トルク誤差が30%以上出て試作品が使えなくなります。
ねじりばねの設計に使えるソフトやツールは、大きく分けて「Webブラウザ上で動くオンライン計算ツール」「ダウンロードして使うフリーソフト」「Excelベースの計算シート」の3種類があります。それぞれに得意な場面と注意点があるため、現場の用途に合わせて選ぶことが重要です。
① Webブラウザ上で動くオンライン計算ツール
インストール不要で、PCはもちろんスマートフォンからも利用できるのが最大の強みです。代表的なものとして、アドバネクス株式会社が公開している「トーションばねトルク計算プログラム(フリーアクセス用)」、東海バネ工業の「ねじりばねっと」、加賀スプリング製作所の「ねじりばね荷重計算」、東洋スプリング工業の「banekko(ばねっこ)」などがあります。これらは無料で利用でき、材質・線径・中心径・巻数・腕の長さ・たわみ角度などを入力するだけでトルクやばね定数、応力が即座に表示されます。
ただし、Webツールにはひとつ重要な制限があります。アドバネクスのフリーアクセス版は「耐久性能面までは算出できない」と明示されており、繰り返し荷重を受ける用途での寿命確認には対応していません。耐久性まで含めた詳細評価が必要な場合は、メーカーへの問い合わせが必要になります。これは使えそうです。
② ダウンロードして使うフリーソフト
Vectorで公開されている「Ynのばね計算2」(Y設計)は、引張・圧縮・ねじりの3種類に対応したWindowsフリーソフトです。JIS B 2704およびJIS B 2709を計算基準とし、要望する荷重値を指定入力すると、適正な設計候補をリスト表示してくれる点が便利です。特に複数候補の中から最適なものを選べる機能は、手計算では実現が難しい部分です。
ただし対応OSがWindows 10/8/7/Vistaまでとなっているため、Windows 11環境での動作確認を事前にしておく必要があります。オフライン環境の現場での使用には向いています。
③ Excelベースの計算シート
折川技術士事務所(OPEO)が公開しているExcelシート「コイルばね計算」は、引張・圧縮・ねじり・円錐コイルばねに対応しています。JIS B 2704-1:2018に準拠しており、入力条件に合致するすべての候補ばねを一覧出力できます。計算方法を決定後、条件を青網掛け項目に入力してボタンを押すだけで候補リストとグラフが更新される仕組みで、直感的に使いやすいのが特徴です。
また、特注ばね即納.comでは専用のねじりばね計算ソフトをダウンロード提供しており、取付荷重・ばね定数・応力・繰り返しの計算値まで一括で確認できます。Excelシートは社内で設計記録として保存できるため、後から検証する際にも便利です。つまり記録管理しやすいのが条件です。
| 種類 | 代表例 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| Webオンラインツール | アドバネクス、東海バネ「ねじりばねっと」 | インストール不要・即時利用 | 見積り前の概算確認 |
| フリーソフト | Ynのばね計算2 | JIS準拠・候補リスト表示 | オフライン環境・複数候補検討 |
| Excelシート | OPEOコイルばね計算・特注ばね即納.com | 記録保存・繰り返し利用 | 設計記録が必要な現場 |
参考:東海バネ工業「ねじりばねっと」— ブラウザから入力するだけでトルク・応力・設計アドバイスまで確認できるWebツール。
https://www.tokaibane.com/cl/nejiribanet/
参考:折川技術士事務所(OPEO)「コイルばね計算Excelシート」— JIS B2704-1対応の無料Excelシート。ねじりばね候補を全出力できる。
https://opeo.jp/library/onepoint/mech_elem/spring/spring_calc/
ねじりばね計算ソフトを正確に使いこなすには、入力項目の意味を正確に理解しておくことが前提になります。入力ミスが1つあるだけで、計算結果のトルク値が大きくずれる場合があるためです。
主な入力項目と意味
まず「線径(d)」はばね材料の直径です。単位はmmで、JIS規格の標準線径の中から選ぶのが基本です。「中心径(D)」はコイルの平均径で、内径と外径の中間の値を使います。外径や内径で設計スペースが決まっている場合は、そこから逆算して中心径を求める必要があります。「巻数(N)」は有効巻数のことで、コイル部の実際の巻き数を入力します。
「腕の長さ(a1・a2)」は荷重が作用する側(a1)と固定する側(a2)それぞれの長さです。この2つの値が計算に大きな影響を与えます。腕の長さが短い場合は計算式を簡略化できますが、長い場合は必ず腕の長さを考慮した計算式に切り替えなければなりません。
腕の長さを考慮するかどうかの判断基準
ここが特に重要なポイントです。判断式は次のとおりです。
$$a_1 + a_2 \geq 0.09 \times \pi \times D \times N$$
この式を満たす場合は、腕の長さを考慮する計算式を使う必要があります。この判断を誤ると、計算上のばね定数が実際とかなり異なる値になります。腕の長さを考慮する必要があります。
例えば腕の長さが各50mm・中心径が23mm・巻数4巻の場合を確認してみます。
$$50 + 50 = 100 \text{ mm}$$
$$0.09 \times 3.14 \times 23 \times 4 \approx 25.9 \text{ mm}$$
この場合、100mm ≥ 25.9mmとなり、腕の長さを考慮する計算式が必要です。
たわみ角度の入力方法
たわみ角度は「度(°)」と「ラジアン(rad)」のどちらで入力するかをソフト側で確認しておくことが必要です。単位の混同は大きなトラブルにつながります。Webツールでは度での入力が一般的ですが、Excelシートではラジアン入力が求められる場合もあります。
使用範囲(総たわみ量の20~80%)を守る
東海バネ工業の「ねじりばねっと」では、入力した各角度ポイントが総たわみ量の何%かを自動で判定してくれます。ねじりばねは総たわみ量の20〜80%の範囲で使用するのが基本であり、この範囲を外れると応力集中や早期破損のリスクが高まります。合否判定つきのソフトを選ぶと安心です。
参考:フセハツ工業「ねじりばね設計7つのポイント」— 腕の長さの考慮、縦弾性係数の選び方など設計実務で役立つ具体的な解説ページ。
https://www.fusehatsu.co.jp/technology/sekkei/nejiri.html
計算ソフトに正しい値を入力しても、「どの計算結果を何に使うか」を理解していないと設計ミスにつながります。ここでは応力・トルク・ばね定数それぞれの確認ポイントを説明します。
ばね定数(トルクばね定数)の確認
ねじりばねのばね定数は、1度あたりに発生するトルクで表されます。単位は「N・mm/deg(度)」または「N・mm/rad(ラジアン)」です。押しばねや引きばねのN/mmとは単位が異なる点に注意してください。ばね定数が基本です。
腕の長さを無視できる場合のばね定数の計算式は次のとおりです。
$$k_T = \frac{E \times d^4}{3667 \times D \times N}$$
ここでEは縦弾性係数、dは線径(mm)、Dはコイル中心径(mm)、Nは有効巻数です。押しばね・引きばねが「横弾性係数G」を使うのに対し、ねじりばねは「縦弾性係数E」を使う点が重要な違いです。材質ごとのEの値は次のとおりです。
| 材質 | 縦弾性係数E(N/mm²) |
|---|---|
| 硬鋼線・ピアノ線・オイルテンパー線 | 206,000(2.06×10⁵) |
| ばね用ステンレス鋼線(SUS304・SUS316) | 186,000(1.86×10⁵) |
| ばね用ステンレス鋼線(SUS631J1) | 196,000(1.96×10⁵) |
| 黄銅線・りん青銅線 | 98,000(0.98×10⁵) |
| ベリリウム銅線 | 127,000(1.27×10⁵) |
ステンレス鋼を選ぶとEが鋼の約90%になるため、同じ形状でもばね定数が約10%低くなります。意外ですね。
曲げ応力の確認と巻き方向の違い
ねじりばねには「ねじり応力」ではなく「曲げ応力(σ)」が発生します。この点は押しばね・引きばねとまったく異なります。
さらに重要なのが、巻き込み方向か巻き戻し方向かによって、最大応力が発生する位置と計算式が変わることです。
- 巻き込み方向:コイル外側に最大曲げ応力が発生
- 巻き戻し方向:コイル内側に最大曲げ応力が発生。ワールの式による応力修正係数(kb)が必要
$$k_b = \frac{4c^2 - c - 1}{4c(c-1)}$$
ここでcはばね指数(D/d)です。JISではこの「ワールの式」の使用を推奨しています。巻き戻し方向に使用する際にこの修正を忘れると、実際の応力が計算値より大きくなり、想定より早く破損するリスクがあります。
計算例で確認する
特注ばね即納.comの設計例をもとに確認してみます。
- 線径:2.9mm、コイル内径:20mm、腕の長さ:各50mm
- 荷重点の荷重:32N
- 使用角度:45°(巻き込み方向)
$$\text{中心トルク} = 50 \text{ mm} \times 32 \text{ N} = 1{,}600 \text{ N·mm}$$
$$\text{ばね定数} = 1{,}600 \div 45 \approx 35.5 \text{ N·mm/deg}$$
$$\text{曲げ応力} = \frac{32 \times 1{,}600}{\pi \times 2.9^3} \approx 668.5 \text{ N/mm}^2$$
許容曲げ応力は1,100N/mm²であり、この値は余裕をもって収まっています。結論は設計OKです。
参考:特注ばね即納.com「ねじりばね設計例」— 具体的な数値で設計計算の流れを確認できるページ。
https://tokuchubane.com/designs/ねじりばね/設計例-3/
金属加工の現場では、ねじりばねを動荷重(繰り返し荷重)条件で使うケースが多くあります。しかし、多くの無料Webツールでは静的な応力計算しかできないため、繰り返し使用する製品に適用する際は注意が必要です。
静荷重と動荷重の使い分け
静荷重とは、荷重変動がほとんどなく、繰り返し回数が約1,000回以下のケースです。動荷重は、1,000回を超えて繰り返し荷重が加わる用途を指します。自動機の開閉機構、カム機構のリターンばねなど、頻繁に動作する部品に使う場合は動荷重での評価が必須です。
JIS B 2709に基づく寿命推定
JIS B 2709では、ピアノ線や弁ばねオイルテンパー線などの耐疲労特性に優れた素線を使用した場合に、疲れ強さ線図(S-N線図的なグラフ)を用いてばね寿命を推定することができます。この推定には上限応力係数(σmax/σB)と下限応力係数(σmin/σB)が必要です。
一般的に、へたりをほとんど許容しない用途では σmax/σB の上限を0.7程度に設定することが推奨されています。わずかなへたりが許容できる場合は、この係数を静荷重時の許容曲げ応力まで引き上げることができます。
フリーソフト「Ynのばね計算2」の繰り返し計算機能
Vectorで配布されている「Ynのばね計算2」は、JIS B 2704およびJIS B 2709を計算基準としており、繰り返しの計算値まで出力できます。特注ばね即納.comの計算ソフトも同様に繰り返し計算値を表示できます。静的な応力判定だけでなく、寿命面まで確認したい場合はこれらのソフトを選ぶのが適切です。
ばね指数と有効巻数の条件を守る
計算ソフトを使う際に見落としがちなのが、計算式の前提条件です。JIS B 2709では、ばね指数(c = D/d)が3以上、かつ巻数が3以上の場合を対象とした計算式を使うことが定められています。この条件を外れると、コイル部にズレや傾きが生じ、応力が一様でなくなります。
また、ばね指数については、冷間成形の場合は4〜22の範囲が推奨されており、特にオイルテンパー線では4以下の使用は避けることが望ましいとされています。ばね指数4以上が原則です。
ソフトが合否判定を自動で出してくれる場合でも、「なぜOKか・NGか」の理由を理解した上で設計を進めることが、長期的な設計品質の向上につながります。
参考:葵スプリング株式会社「ねじりコイルバネの計算式・設計・応力・許容差」— 応力計算の詳細と動荷重時の寿命推定に関する説明。
https://www.aoi-spring.co.jp/technology/twist/
ねじりばね計算でよく見落とされるのが、案内棒(ガイド棒)の径設計です。これは他の記事ではあまり詳しく取り上げられていない独自視点のポイントです。計算ソフトが正しい値を出していても、案内棒の径を誤ると、ばねが作動中に案内棒と干渉して正常に動作しなくなります。
なぜ案内棒が干渉するのか
ねじりばねを巻き込む方向に使用すると、コイル内径が減少します。これは巻き込みによってコイル部が締まるためです。このコイル内径の減少量を「△D」と呼び、次の式で求めます。
角度表示が度(°)の場合。
$$\Delta D = \frac{\phi_{dmax} \times D}{360 \times N}$$
ここでφdmaxは最大使用角度(°)、Dはコイル中心径(mm)、Nは有効巻数です。
案内棒の推奨径
JISや業界基準では、案内棒の径(Ds)を「最大使用時のコイル内径の90%以下」に設定することを推奨しています。
$$D_s = 0.9 \times (D_i - \Delta D)$$
ここでDiはコイル内径(mm)です。この計算を省いて「内径が20mmだから18mmのシャフトを通せばOK」と考えると、実際の作動中に内径が18mmを下回って干渉が起きることがあります。痛いですね。
計算例で具体的に確認する
先ほどの設計例(線径2.9mm、コイル内径20.9mm、巻数4.25巻、使用角度45°)で確認してみます。
$$\Delta D = \frac{45 \times 23.8}{360 \times 4.25} \approx 0.7 \text{ mm}$$
$$D_s = 0.9 \times (20.9 - 0.7) = 0.9 \times 20.2 \approx 18.2 \text{ mm}$$
つまり案内棒の径は18.2mm以下に設定する必要があります。単純に「内径の90%」と覚えるだけでは不十分で、「最大使用時の内径の90%」であることがポイントです。
ねじりばね計算ソフトの中には、この案内棒径の推奨値まで自動で出力してくれるものがあります。東海バネ工業の「ねじりばねっと」は形状に関するアドバイスとして推奨案内棒径を表示してくれるため、このような見落としを防ぐのに役立ちます。形状アドバイス機能は必須です。
東洋スプリング工業の「banekko」もねじりばねの計算とお見積もり依頼が一体になったツールを提供しており、計算結果をそのまま発注に活かすことができます。計算から発注まで一連の流れで対応できるツールは、業務効率化の観点でも有効です。
参考:アドバネクス「トーションばね(ねじりばね)トルク計算プログラム」— フリーアクセス版でトルク計算・荷重公差をJIS B2704/B2709準拠で確認できる。
https://www.advanex.co.jp/calc/springs-torsion-f-p/