摩擦係数測定JISの基礎から実務での活用と注意点

金属加工の現場で見落とされがちな摩擦係数測定のJIS規格。正しい試験方法・測定条件・注意点を知らないと品質トラブルや損失につながる可能性があります。あなたは本当に正しく測定できていますか?

摩擦係数測定JISの基礎と金属加工での実践的な活用法

同じ材料を測定しても、測定する相手材を変えるだけで摩擦係数が2倍以上変わることがあります。


この記事の3つのポイント
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JIS規格の種類と使い分け

金属加工に関連するJIS K7125・JIS K7218など、目的別の規格を正しく選ぶことが正確な測定の第一歩です。

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測定結果のばらつきと再現性

温度・湿度・表面粗さが摩擦係数に大きく影響します。条件を統一しないと比較自体が無意味になります。

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現場での活用とトラブル回避

ボルト締結・プレス加工・摺動部品など、摩擦係数の誤管理が直接的な品質トラブルや損失につながる実例を解説します。


摩擦係数測定の基本概念とJIS規格の役割


摩擦係数とは、接触した2つの物体を滑り動かすときの「滑りにくさ」を数値で表した指標です。定義式はシンプルで、摩擦係数μ=最大摩擦力(N)÷垂直抗力(N)で求められます。この値が大きいほど物体は動きにくく、小さいほど滑りやすいことを示します。


金属加工の現場では、この摩擦係数を統一した条件で測定・比較するためにJIS規格が活用されます。規格がなければ、測定者や装置が違うたびに数値が変わってしまい、材料の比較や品質管理が成り立たないからです。


摩擦係数には主に2種類あります。まず「静摩擦係数」は、物体が静止した状態から動き出す直前の滑りにくさを示す指標です。次に「動摩擦係数」は、物体が滑り動いている最中の滑りにくさを示します。一般的に静摩擦係数のほうが動摩擦係数よりも大きい値になる傾向があります。つまり、動かし始めるときが最も力が要る、ということですね。


金属加工に関連する主なJIS規格を整理すると、以下のとおりです。


  • 🔹 JIS K 7125(1999年制定):プラスチックフィルム・シートの摩擦係数試験方法。ISO 8295を参考に作られており、金属金型とフィルムの組み合わせ評価にも応用されます。
  • 🔹 JIS P 8147(2010年制定):紙および板紙の静・動摩擦係数測定方法。水平法と傾斜法の2種類が規定されています。
  • 🔹 JIS K 7218(1986年制定):プラスチックの滑り摩耗試験方法。金属との摺動部材評価に使われ、リングオンディスク形式(A法)が金属加工現場でよく採用されます。
  • 🔹 JIS R 1613(1993年制定):構造用ファインセラミックスの耐摩耗性評価。ボールオンディスク方式を規定しており、金型コーティング材の評価に参照されます。


これらの規格はそれぞれ対象材料と用途が異なります。規格の選択が基本です。「とりあえずJIS K7125で測った」という判断は、金属加工の摩耗評価には必ずしも適切ではないケースがあります。


参考:摩擦摩耗試験に関連するJIS規格の詳細解説
摩擦摩耗試験に関連する規格を解説【JIS K 7125など】 - 新東科学株式会社


摩擦係数測定の静摩擦・動摩擦の違いと計算式

「静摩擦係数と動摩擦係数は、どちらを測ればよいか分からない」という声は現場でよく聞かれます。まず2つの違いをしっかり理解しておくことが大切です。


静摩擦係数は、静止しているものを動かし始めるときの最大抵抗力から算出します。測定グラフで見ると、物体が動き出す瞬間に力のピークが現れ、その後やや低下して安定するのが典型的なパターンです。このピーク値が静摩擦力です。


動摩擦係数は、物体が一定速度で滑り動いている区間の平均摩擦力から算出します。JIS規格では、この「平均を取る区間」も規定されているため、計算区間がずれると数値が変わります。区間の指定は必須です。


計算式はどちらも同じ構造です。


  • 静摩擦係数 = 静摩擦力(N) ÷ 垂直抗力(N)
  • 動摩擦係数 = 動摩擦力(N) ÷ 垂直抗力(N)
  • 垂直抗力(N) = 錘の重量(kg) × 重力加速度(9.80665 m/s²)


たとえば、錘が200gの場合、垂直抗力は約1.96Nです。そのときに測定した最大摩擦力が0.59Nなら、静摩擦係数は約0.30となります。数字で置き換えると実感しやすいですね。


金属加工の現場で重要なのは「どちらを管理値として使うか」の判断です。プレス加工の搬送ラインでは動き続ける状態が問題になるため動摩擦係数を見ます。一方、固定された部品の滑り出し止(例:ボルト座面の管理)では静摩擦係数が重要な指標になります。どちらを使うかは用途次第です。


参考:静摩擦係数・動摩擦係数の違いと計算方法の詳細
摩擦係数測定(摩擦試験)の基礎|静摩擦と動摩擦の違い - フォースチャンネル


摩擦係数測定JISで見落とされる測定条件と注意点

測定方法を正しく理解していても、測定条件の管理がずれると数値は意味をなさなくなります。これは摩擦・摩耗試験の専門家の間でも長年議論されてきた問題です。


まず、温度と湿度の影響が非常に大きい点を押さえてください。JIS K 5600では試験環境として温度23±2℃・相対湿度50±5%が規定されています。実際の研究データでは、湿度40%前後(冬場の典型的な値)と65%前後(夏場の典型的な値)では、摩擦係数に有意な差が出ることが確認されています。夏と冬で測定結果が変わる現象は、温湿度管理の不徹底が原因です。


次に、表面粗さの影響です。同じ材料であっても、加工後の表面粗さ(Raなど)が変われば摩擦係数も変化します。表面が粗いと接触面積が不均一になり、局所的な圧力が高まって摩耗が進みやすくなります。一方で表面が過度に滑らかすぎると、今度は凝着(接触面が分子レベルで引き合う現象)が起きやすくなり、摩擦係数が逆に上がるケースもあります。


また、皮脂や油脂の付着にも注意が必要です。試験片のセッティング時に接触面を素手で触ると、皮脂が薄い潤滑膜として機能し、摩擦係数が実際より低く測定されます。これは意外と盲点ですね。取り扱い時は必ず手袋を使用してください。


さらに、繰り返し測定による変化も重要です。同じ試験片を繰り返し使用すると、摩擦により表面状態が変化して数値が変わります。紙やすりと合板の組み合わせで10回繰り返し測定した実験では、1回目と比べて10回目には静・動摩擦係数ともに0.02〜0.04程度低下した事例が報告されています。コーティング材では逆に上昇することもあります。


影響因子 内容 対策
温度・湿度 夏冬で有意差が生じる JIS規定(23±2℃、50±5%)で管理
表面粗さ Raが変わると摩擦係数が変動 測定前に表面粗さを記録・統一
皮脂・汚染 薄い潤滑膜として機能 手袋着用・洗浄後に試験実施
繰り返し測定 摩擦で表面状態が変化 原則1サンプル1回測定
垂直抗力の大きさ 荷重が変わると数値が変動することも 試験ごとに荷重条件を統一


測定値の比較をするなら条件をそろえることが前提です。条件が異なる試験結果同士の比較は、正確な評価につながりません。


参考:摩擦・摩耗試験のばらつきと再現性に関する詳細解説
摩擦摩耗試験概論 有効活用のために留意すべきこと - ジュンツウネット21


金属加工現場での摩擦係数測定の活用:ボルト締結とプレス加工

実際の金属加工の現場では、摩擦係数の管理が品質や安全に直結する場面が数多くあります。特に重要なのがボルト締結とプレス加工です。


ボルト締結において、摩擦係数はトルクと軸力の変換効率を左右する重大な要素です。摩擦係数のばらつきは通常±20%程度ある、という研究報告があります。たとえば、摩擦係数が0.18(乾燥状態)から0.12(軽い潤滑状態)に変化するだけで、同じ締付けトルクを加えても発生する軸力は約50%増加します。これが何を意味するかというと、管理トルクどおりに作業していても、摩擦係数の変動次第で部品が過締めになったり、逆に軸力不足でゆるみが生じたりするということです。


この問題を回避するには、ネジ面や座面の摩擦係数を定期的に測定して管理値に収まっているかを確認する方法が有効です。特に防処理や表面コーティングの変更後は、摩擦係数が大きく変わることがあるため再測定が必要です。締付け作業の前後で確認する習慣が品質を守ります。


プレス加工・板金加工においても、摩擦係数は加工精度に直接影響します。被加工材(金属板)と金型・ダイの間の摩擦係数が高くなりすぎると、材料の流れが妨げられて割れや寸法不良が生じます。逆に潤滑過多で摩擦係数が下がりすぎると、板材がコントロールを失って位置ずれや成形不良につながります。


塑性加工のトライボロジー研究では、黄銅・軟鋼・銅・アルミニウム板に各種潤滑剤を適用して得られた摩擦係数と絞り応力との関係が体系化されています。現場での潤滑油選定や塗布量の設定は、この摩擦係数データを基準に行うことが推奨されます。潤滑剤の選択が加工品質を決めます。


  • 🔩 ボルト締結:摩擦係数±20%のばらつきが軸力の大幅な変動を引き起こす。表面処理変更後は再測定を実施。
  • 🏭 プレス・板金加工:金型と被加工材の摩擦係数が絞り応力・材料流れを決定。潤滑油の種類と塗布量の管理が不可欠。
  • ⚙️ 摺動部品:軸受や摺動面の摩擦係数は温度・速度・荷重の組み合わせ(PV値)とセットで評価する。


参考:ボルト締結における摩擦係数と軸力のばらつきの詳細
トルク、軸力、摩擦の関係と計算方法 - 山善TFS


摩擦係数測定の試験方法と装置の選び方:ピンオンディスクから水平法まで

摩擦係数測定には複数の試験方法があり、目的と対象に応じて使い分ける必要があります。試験方法が違えば得られる数値も異なります。


最も基本的な方法が「水平法」です。試験台に下側試験片を固定し、錘を取り付けた上側試験片を一定速度で水平に引っ張り、摩擦力をフォースゲージやロードセルで計測します。JIS K7125・JIS P8147ともにこの水平法を基本に規定しています。コンパクトな試験ユニットで実施できるため、品質管理の現場で広く使われています。


JIS P8147には「傾斜法」も規定されています。試験台に試験片と錘を設置した後、台を徐々に傾けて滑り出した角度から静摩擦係数を計算する方法です。滑り出した角度をθとすれば、静摩擦係数μ=tan(θ)で求められます。装置が単純で済むという利点がありますが、静摩擦係数のみの測定となります。


金属材料や摺動部品を対象とした試験では、「ピンオンディスク法」や「リングオンディスク法(JIS K7218 A法)」が多く採用されています。これらは回転するディスク試験片に対してピンやリングを押し付けて摩擦力を測定する方式で、連続的な摺動状態を再現できます。金型材・コーティング材・摺動材料の耐摩耗性評価に適しています。


  • 📋 水平法:JIS K7125・JIS P8147対応。フォースゲージ+計測スタンドで実施可能。フィルム・紙・金属板の静・動摩擦係数測定に対応。
  • 📐 傾斜法:JIS P8147対応。静摩擦係数のみ。シンプルな装置で測定可能。
  • ⚙️ ピンオンディスク・ボールオンディスク法:ASTM G99-05・JIS R1613対応。コーティングや硬質膜の耐摩耗性評価に使用。
  • 🔄 リングオンディスク法(鈴木-松原式):JIS K7218 A法対応。金属・樹脂の摺動部材評価。温度条件設定にも対応する機種あり。


測定装置の選定で重要なのは、試験機の剛性です。装置の剛性が低いと摩擦面の振動や接触状態が変化し、実際の摩擦力を正確に計測できません。これは見落とされがちな盲点のひとつです。特に動摩擦係数の連続測定では、装置の剛性と固有振動数が測定精度に影響します。


また、異なる試験機で得られたデータを相互に比較することは原則として困難と考えるべきです。摩耗試験の専門家の間では「異なる試験機での再現性確保は基本的に不可能」とも指摘されています。同一試験機で同一条件での継続測定が基本です。


参考:各種摩擦摩耗試験方法と対応規格の一覧
摩擦摩耗試験の目的と方法 - ジュンツウネット21


摩擦係数の数値と材料組み合わせ:金属加工従事者が知っておくべき参考値

摩擦係数は材料固有の値ではなく、必ず2つの材料の組み合わせで決まります。この点が非常に重要です。「鉄の摩擦係数を教えてほしい」という問い合わせが専門機関にも多くあるそうですが、相手材が何かによって数値は大きく変わります。


実際の主な金属の乾燥状態での静摩擦係数(代表値)を示すと、以下のとおりです。


組み合わせ 静摩擦係数(乾燥) 備考
鉄 ÷ 鉄 約0.52 酸化皮膜の状態により変動
鉄 ÷ アルミ 約0.80 凝着が起きやすい
銅 ÷ 銅 約1.4 非常に高い値。注意が必要
硬鋼 ÷ 硬鋼 約0.42〜0.78 表面処理・潤滑有無で大きく変動
硬鋼 ÷ 二硫化モリブデン 約0.15 固体潤滑材として摩擦係数を低減
PTFE(テフロン)÷ 鋼 約0.04〜0.10 固体中最低水準の摩擦係数


注意したいのが、金属成形プロセスでは荷重が大きくなると摩擦係数が低下する傾向がある点です。高圧工具での加工では、この現象を考慮した材料選定が求められます。これは意外な挙動ですね。


潤滑剤の有無・種類も摩擦係数に大きく影響します。シリコンオイルを使用したステンレスのロータリ切削実験では、摩擦係数が0.6〜0.7に対し、機械油では1前後と大きな差が報告されています。単に「油をさせばよい」わけではなく、適切な潤滑剤の選定が重要です。潤滑剤の種類が結果を左右します。


金属加工における摩耗問題では、材料の組み合わせ・潤滑状態・荷重・速度・温度という5つのパラメータを整理して、そのうえで摩擦係数測定を行うことが効果的な対策につながります。単体の数値だけを見ても、現場の問題解決には不十分です。


参考:乾燥摩擦係数の主要材料組み合わせ一覧
乾燥摩擦係数 | 技術情報 - MISUMI




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