硫黄快削鋼を「とにかく削りやすい万能材」だと思って溶接すると、接合部が脆化してクレームにつながります。
硫黄快削鋼とは、通常の炭素鋼に硫黄(S)を主体とした「快削元素」を意図的に添加し、切削加工のしやすさ(被削性)を大幅に高めた特殊鋼の一種です。一般的には「SUM材」という記号で呼ばれ、金属加工の現場では旋盤・ボール盤・マシニングセンタなどを使った量産部品の素材として広く活用されています。
この鋼材はJIS G 4804「硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材」によって規格化されており、2008年の改正版が現在の基準です。規格の正式名称が示す通り、硫黄単独だけでなく、リン(P)や鉛(Pb)を硫黄と組み合わせた「硫黄複合快削鋼」も同じ規格内に含まれます。つまり、SUM材と一口に言っても、添加元素の組み合わせや含有量によって13種類の鋼種が規定されています。
「快削鋼(かいさくこう)」という名前は、第1次世界大戦後の1920年代にアメリカで硫黄を多く含む鋼材が削りやすいことが発見され、研究・実用化が進んだことに由来します。歴史は100年以上あるベテラン素材です。
現場でよく見かける略称をまとめると、以下のようになります。
| 呼称 | 意味 |
|---|---|
| SUM材 | JIS規格記号。硫黄快削鋼全般を指す |
| S快削鋼 | 硫黄(S)のみ添加したタイプ |
| Pb快削鋼 | 硫黄+鉛(Pb)を添加したタイプ(末尾にLがつく) |
| 硫黄複合快削鋼 | 硫黄+リンやPbを組み合わせたタイプ |
参考として、JIS G 4804の公式規格は以下で確認できます。硫黄含有量の細かい数値や各鋼種の化学成分表が掲載されています。
JIS G 4804:2008 硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材(kikakurui.com)
https://kikakurui.com/g4/G4804-2008-01.html
硫黄快削鋼が高い被削性を持つ最大の理由は、鋼中に生成される「硫化マンガン(MnS)介在物」の働きにあります。これが理解できると、材料選定や加工条件の最適化がぐっと楽になります。
硫黄は鋼の中でマンガン(Mn)と結びついて硫化マンガン(MnS)という非金属介在物を形成します。このMnS介在物が母材の連続性を局所的に断ち切ることで、切削中に切りくずが短く細かく折れるように破断します。長いリボン状の切りくずは工具や加工面に絡みつき、自動加工ラインでは機械を頻繁に止めて清掃する必要がありますが、MnSの作用によりその問題が大幅に軽減されます。
MnS介在物が担う役割をまとめると、次のとおりです。
普通鋼(SS材)と比較した被削性指数を見ると、SUM材はSS材の約1.3倍とされています。数字だけではイメージしにくいですが、例えば工具1本あたりの加工個数が130個になるところを、普通鋼なら100個で工具交換が必要になるイメージです。量産ラインではこの差が工具費や段取り時間の大きな節減に直結します。
被削性の評価基準について詳しく知りたい場合は、以下のページが参考になります。難削材との比較指数も掲載されています。
被削性指数の評価基準について(nansakuzaikakou.com)
https://www.nansakuzaikakou.com/handbook/point_3.html
JIS G 4804に規定されるSUM材は全13種類あります。種類が多くて混乱しやすいですが、大きく「低炭素系」と「中炭素系」に分けて整理すると理解しやすくなります。
低炭素系快削鋼(SUM21〜SUM25)は、被削性を最優先にした鋼種群です。炭素量が0.09〜0.15%以下と低く、強度より加工しやすさを重視します。ねじ、小型シャフト、自動盤部品、電気通信機械部品など、強度をそれほど必要としない量産部品によく選ばれます。
| 鋼種 | S(硫黄)含有量 | Pb(鉛) | 特徴・用途 |
|---|---|---|---|
| SUM21 | 0.16〜0.23% | なし | 低炭素S系の基本材。一般的な切削部品に |
| SUM22 | 0.24〜0.33% | なし | 鉛フリー。RoHS対応分野で使用増加中 |
| SUM22L | 0.24〜0.33% | 0.10〜0.35% | 鉛入りで切削性を強化 |
| SUM23 | 0.26〜0.35% | なし | 低炭素で高被削性。精密部品向き |
| SUM24L | 0.26〜0.35% | 0.10〜0.35% | 最高クラスの被削性。量産加工に最適 |
| SUM25 | 0.30〜0.40% | なし | 高S系の鉛フリー。高被削性を鉛なしで実現 |
中炭素系快削鋼(SUM31〜SUM43)は、強度も必要な部品に対応する鋼種群です。炭素量が0.12〜0.48%程度あり、焼入れ・焼戻しなどの熱処理を施して使用します。SUM31はSS400、SUM41〜43はS35C〜S45C相当の強度をほぼ持ちながら、切削性が上乗せされているイメージです。建設機械部品、自動車部品のシャフトや歯車など、強度と加工効率の両立が必要な場面で選ばれます。
材料選定に迷ったとき、まず確認すべき原則は「強度が必要かどうか」です。強度不要なら低炭素系のSUM22〜SUM25、強度も必要なら中炭素系のSUM31〜SUM43が候補になります。
硫黄快削鋼は切削性に優れる一方で、いくつかの特性をきちんと把握しておかないと、現場トラブルや法令違反につながる危険があります。これが冒頭で触れた「万能材ではない」理由です。
溶接・曲げ加工には使えない
硫黄(S)は、鋼の靭性と溶接性を著しく低下させる元素です。溶接時には溶接部周辺に硫化物が偏析し、接合部の強度が大幅に落ちます。SUM材はSS400やSGD材と比べると、溶接・曲げ加工には明確に不向きです。強度が必要な接合部を含む設計にSUM材を選ぶと、後工程でクレームや部品交換が発生するリスクがあります。溶接が工程に含まれる場合は、設計段階でSS材やS-C材への変更を検討するのが原則です。
工具選定で注意すべき点
硫黄や鉛などの快削元素を含む材料に対して、サーメット工具や超硬工具を使うと工具寿命が短くなる場合があります。超硬は元々溶着しやすい性質があり、SUM材に含まれる添加物がこれを促進するためです。サーメットについても、SUM材の加工では工具寿命が想定より短くなる事例が報告されています。量産ラインで工具費が予想より膨らむ場合は、工具材種の見直しを検討する価値があります。高速度鋼(ハイス)工具との相性がよいケースもあり、現場条件に合わせた工具選定が重要です。
RoHS規制と鉛(Pb)入りSUM材
鉛入りのSUM材(SUM22L、SUM23L、SUM24L、SUM31Lなど)は、EU RoHS指令(有害物質制限指令)の対象となる可能性があります。RoHS指令では、鉛の含有量を製品の均質材料単位で0.1wt%以下に制限しており、SUM24Lに添加される鉛(0.10〜0.35%)はこれを超えます。電気・電子機器向けの部品や、自動車部品(ELV指令の対象)として納入する場合は、事前に顧客への確認と材料証明書の整備が必要です。環境対応が求められる分野では、鉛フリーのSUM22やSUM23への切り替えが進んでいます。切り替え後に加工性が落ちて困っている場合は、鉛フリー快削鋼の新鋼種(各メーカーのSUM24L相当品)を選ぶ選択肢もあります。
RoHS指令とSUM材の関係については、日本製鉄の技術レポートが詳しく、非鉛化技術の現在地まで解説されています。
非鉛快削鋼の開発と切削技術(日本製鉄 技術資料PDF)
https://www.nipponsteel.com/tech/report/nssmc/pdf/406-07.pdf
硫黄快削鋼(SUM材)が特に力を発揮するのは、「形状が複雑で工程数が多い」「ロットが大きく量産が前提」「加工精度が求められる小物部品」という条件が重なる現場です。つまり、大量に削って大量に出荷するシーンにこそ、その真価があります。
代表的な用途を挙げると、電気通信機械部品、精密機械部品、自動車部品(ブレーキ部品・自動変速機部品)、産業機械部品、二輪車部品などがあります。ねじ・ボルト・ナット類もSUM材の主要な向先のひとつで、自動盤(スクリューマシン)による連続加工と相性が抜群です。
材料選定の判断軸は次の3点が基本です。
また、あまり知られていないポイントとして、「熱処理との組み合わせ」があります。低炭素系のSUM材(SUM21〜SUM25)は炭素量が少なすぎて通常の浸炭焼入れには向かないため、浸炭窒化熱処理(浸炭窒化焼入れ焼戻し)で対応するケースが一般的です。中炭素系(SUM31〜SUM43)は焼入れ焼戻し(調質)が適用できます。表面硬化が必要な部品にSUM材を使う場合は、熱処理会社との事前すり合わせをしておくと、工程の後戻りを防げます。
材料特性や浸炭熱処理の可否についての実務的な情報は以下のサイトが参考になります。
SUM材の浸炭熱処理について(栗山熱処理)
https://kuriyamanetusyori.com/2014/02/01/SUM(硫黄および硫黄複合快削鋼鋼材)は、浸炭熱処理できます/
「SUM材は普通鋼より高い」という印象から、コスト削減を目的にSS400を選んでいる現場は少なくありません。これは材料単価だけを見た判断であり、トータルコストで比較すると逆転するケースが実は多いのです。
材料費だけで比較すると、SUM材はSS400よりも鋼材価格が高めに設定されています。しかし、加工費まで含めて試算すると話が変わります。SUM材の被削性指数はSS材の約1.3倍であり、切削速度を上げることで加工サイクルタイムが短縮されます。たとえば100個の部品を作るのに1個あたり30秒かかっていた作業が、SUM材に切り替えることで25秒になれば、1000個のロットで約83分の短縮になります。時間給ベースで計算すると、材料費の差を吸収して余りある利益が出るケースがあります。
工具費の観点でも同様です。工具1本で加工できる個数が1.3倍になれば、年間の工具購入コストは理論上7〜8割に圧縮されます。工具交換の段取り時間も減り、稼働率が上がります。これが意外と大きい。
試算を進める場合は、以下の4つの数字を比較してみることをおすすめします。
この比較を出してみると、「SUM材に変えるだけで月数万円コストが下がった」という事例が現場から報告されています。材料単価だけで選んでいた場合、この機会損失は見えにくい場所に埋もれています。加工ロットが大きいほどインパクトが出るので、月産1,000個以上の量産部品では一度確認してみる価値があります。
秋山精鋼株式会社のサイトでは、SS材とSUM材の被削性指数の違いを図解で解説しており、材料選定の参考になります。
SS材と快削鋼SUMの被削性・切削性の違い(秋山精鋼)
https://www.ask-akiyama.co.jp/lp/ss_fcs_machinability/