鉛快削鋼はRoHS指令の「規制対象外」だと思っていても、あなたが納品した部品は取引先の自主規制でそのまま返品になる場合があります。
鉛快削鋼は、JIS G4804「硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材」によって規定されています。この規格は2008年に改正され、全部で13鋼種が定められています。そのうち鉛(Pb)が添加されているのは、SUM22L・SUM23L・SUM24L・SUM31Lの4鋼種のみです。残りの9鋼種は硫黄系・リン系の快削鋼で、鉛は含まれていません。
「快削鋼=鉛入り」と思い込んでいる方は要注意です。
鉛が添加される各鋼種の化学成分(溶鋼分析値)は以下のとおりです。
| 鋼種記号 | C(%) | Mn(%) | P(%) | S(%) | Pb(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| SUM22L | 0.13以下 | 0.70〜1.00 | 0.07〜0.12 | 0.24〜0.33 | 0.10〜0.35 |
| SUM23L | 0.09以下 | 0.75〜1.05 | 0.04〜0.09 | 0.26〜0.35 | 0.10〜0.35 |
| SUM24L | 0.15以下 | 0.85〜1.15 | 0.04〜0.09 | 0.26〜0.35 | 0.10〜0.35 |
| SUM31L | 0.14〜0.20 | 1.00〜1.30 | 0.040以下 | 0.08〜0.13 | 0.10〜0.35 |
JIS G4804では、鉛の製品分析値の許容範囲を0.07〜0.35%と定めています。溶鋼分析値と製品分析値の間にずれが生じることを考慮したものです。鉛含有量の下限・上限をしっかり把握しておくことは、調達管理や品質証明書の確認において重要です。
なお、JIS G4804の鋼種記号の末尾に付く「L」はLead(鉛)の頭文字です。SUM22とSUM22Lは硫黄量が同じでも、後者だけに鉛が含まれています。記号の末尾一文字で区別する必要があります。
鉛快削鋼のJIS規格を参照したい場合は、以下の公開情報が有用です。
JIS G4804の規格内容を解説した参考ページ(kikakurui.com)。
JISG4804:2008 硫黄及び硫黄複合快削鋼鋼材 – kikakurui.com
鉛快削鋼が高い被削性を持つ理由は、鋼中に分散した鉛介在物の働きにあります。切削時、鉛は融点が327℃と金属の中で非常に低く、加工中のせん断域で変形抵抗を下げます。これにより切りくずが短く分断されやすくなり、工具への負担が減ります。これが切削効率向上の核心です。
被削性指数で比較すると、SS400などの一般構造用圧延鋼材が75〜80程度なのに対し、快削鋼のSUM22が基準値100とされ、鉛を複合添加したSUM24Lはさらに高い被削性を誇ります。SS材に比べて約1.25〜1.30倍の切削速度が実現できます。
具体的なイメージとして、1日8時間稼働の旋盤でSS400を加工していた場合、SUM24Lへ切り替えるだけで同じ機械で1.3倍の数量を生産できる計算になります。年換算では加工コストに大きな差がつきます。これは使えそうです。
鉛快削鋼(SUM24L)の加工条件の目安としては、NC旋盤での回転数は2,000〜3,000rpmが一般的です。切りくずが細かく砕けやすいため、無人・長時間運転にも向いており、OA機器部品や自動車の精密部品の量産ラインで広く採用されています。
また、鉛はすくい面での摩擦力も低下させます。これにより構成刃先(BUE)の肥大化が抑制され、加工面粗さが安定するという二重の効果があります。結果として、寸法精度と表面仕上げの両方を高いレベルで維持できます。
新日本製鉄(現日本製鉄)の技術論文によれば、SUM24Lにおける鉛の効果は単純な潤滑ではなく、せん断域でのき裂発生を助長して切りくず形成を安定化させるメカニズムであることが電子顕微鏡観察によって明らかにされています。
日本製鉄の技術報告書(非鉛快削鋼の開発と切削技術・鉛の被削性メカニズム解説)。
非鉛快削鋼の開発と切削技術 – 日本製鉄技術報告
鉛快削鋼とRoHS指令の関係は、多くの現場技術者が誤解しやすいポイントです。
EU RoHS指令(電気電子機器の有害物質制限指令)では、原則として鉛の含有量を0.1wt%以下に規制しています。しかし、附属書IIIの「適用除外」として、「機械加工のための合金成分として鋼材中に含まれる0.35wt%以下の鉛」については、例外的に使用が認められています。
つまり、JIS G4804に基づく鉛快削鋼(Pb含有量0.10〜0.35%)は、現時点でRoHS規制の対象外です。適用除外は今後も更新が行われており、内容の変更には注意が必要です。
ただし、ここで見落としてはならない重要な点があります。EU RoHS指令の条文上は適用除外でも、国内の自動車メーカーや電機メーカー、精密機器メーカーの多くが独自に鉛の使用を社内規制しています。1990年代後半から大手メーカーを中心にこの動きが拡がり、現在では「仕様書にPbフリーと明記」するケースが珍しくありません。
受注前に取引先の含有化学物質管理基準を必ず確認することが原則です。「RoHS対応品」という言葉の解釈がメーカーによって異なる場合があるため、「鉛含有量0.35%以下の適用除外材」と明示して確認するのが確実です。
下村特殊精工の各種鋼種とRoHS規制の対応状況について。
Brands各種取り扱い鋼種と各法規制 – 下村特殊精工株式会社
鉛快削鋼は「削りやすさ」に特化した材料です。その恩恵を最大限に活かすには、使ってはいけない用途を正確に把握しておく必要があります。
まず、溶接への使用は避けるべきです。鉛を含む鋼材は溶接時に鉛が揮発・分散し、接合部の強度が低下するリスクがあります。鉛の融点は327℃と非常に低く、溶接熱によって容易に液化します。溶接ありきの設計に鉛快削鋼を選ぶと、後工程で重大な品質問題が発生する恐れがあります。
次に、疲労強度が要求される部位にも適しません。鉛介在物は加工中の切りくず分断には効果的ですが、使用中は破壊の起点にもなり得ます。SUM24Lのメーカー技術資料でも「接触疲労が低いため、ギヤやベアリングなどの疲労応力負荷の大きい部品には適していない」と明記されています。鉛快削鋼ならギヤに使えると思っていた方は要注意です。
さらに、冷間加工(冷鍛・カシメ)への適用にも制限があります。硫黄・鉛を多量に含む快削鋼は延性が低く、冷間での塑性変形量が大きい工程では割れが生じやすくなります。焼鈍処理を施した後に軽度な冷間加工を行うのが一般的な対応策です。
以下の用途は鉛快削鋼が適さないケースとしてまとめると、
JIS G4804の規格では機械的性質(引張強さ・硬さなど)が規定されていません。これはSUM材が強度保証よりも被削性を優先した鋼種だからです。強度が重要な用途では、機械的性質が規定されたS45Cや合金鋼を選ぶのが正しい判断です。
環境規制や取引先の要求からPbフリー材への切り替えを検討する場面が増えています。ここでは、実際に切り替える際に知っておくべき実務的なポイントを整理します。
非鉛快削鋼の代表的なアプローチは、硫化物(MnS)の形態制御によって鉛と同等の被削性を実現するものです。日本製鉄(旧新日鐵住金)が開発した「スミグリーンS」や「EZ鋼」などがその代表例で、MnSを微細かつ均一に分散させることで切りくず処理性や表面粗さを鉛快削鋼と同等レベルに引き上げています。国内の自動車部品やOA機器部品にも実際に採用実績があります。
切り替えの際に重要なのは「同じ鋼種番号なら条件も同じ」とは限らない点です。非鉛品はPb由来のすくい面潤滑効果がないため、切削条件(特に送り速度と切削速度)を再調整しないと工具摩耗が早まる可能性があります。切り替え後は必ずテスト加工を実施し、工具摩耗・表面粗さ・寸法精度を確認することが条件です。
また、非鉛快削鋼にはJIS規格上の正式な鋼種記号がないものが多く、メーカー独自ブランド品として流通しています。調達先を変更する際は、化学成分・機械的性質・被削性評価データの比較が必要になります。
非鉛快削鋼への完全移行にはコストや切削条件の見直しコストが伴いますが、長期的にはサプライチェーン全体での環境リスク低減や取引継続性の確保につながります。
なお、切り替えを急ぐより先に、現在使用中の鉛快削鋼の鉛含有量が取引先の基準を満たしているかを確認するのが最初の一歩です。材料メーカーの試験成績書(ミルシート)で溶鋼分析値と製品分析値を確認し、必要に応じて含有化学物質証明書(グリーン調達書類)の取り寄せを検討してください。
非鉛快削鋼の加工特性に関するメーカー情報(秋山精鋼のPbフリー快削鋼ラインナップ)。
快削鋼(Pbフリー含む) – 秋山精鋼株式会社