エンジニアプラスチックの種類と特性、用途から金属代替まで解説

エンジニアプラスチックは、その優れた特性から金属の代替材料としても注目されています。本記事では、汎用エンプラからスーパーエンプラまでの主要な種類とその特性、具体的な用途を解説します。あなたの製品開発に最適なエンプラを見つけてみませんか?

エンジニアプラスチックの種類と特性を徹底解説

この記事でわかること
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エンプラの基本

汎用プラスチックとの違い、スーパーエンプラとの境界線を明確に理解できます。

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主要な種類と用途

5大汎用エンプラを中心に、それぞれの特性に合った具体的な用途がわかります。

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金属代替と未来

なぜ金属からエンプラに置き換わるのか、そのメリットと最新のサステナブルな動向を学べます。

エンジニアプラスチックの基本|汎用とスーパーエンプラの違い

 

エンジニアプラスチック(エンプラ)は、金属の代替材料としても使用される高性能なプラスチックの総称です 。明確な定義はありませんが、一般的に「耐熱性が100℃以上で、強度が50MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上」といった厳しい条件下での使用に耐えうる機械的強度や耐熱性を持つプラスチックとして知られています 。
プラスチックは大きく3つに分類できます。

  • 汎用プラスチック: ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)など、安価で加工しやすく、日用品などに広く使われますが、耐熱性や強度は高くありません 。
  • エンジニアリングプラスチックエンプラ): 汎用プラスチックよりも優れた強度と耐熱性を持ち、工業製品や機械部品などに使用されます 。
  • スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ): エンプラの中でも特に高性能で、一般的に150℃以上の高温環境でも長期間使用できるものを指します 。フッ素樹脂や液晶ポリマー(LCP)などがこれに分類されます 。

金属加工に従事されている方にとって、エンプラは「軽量化」「コスト削減」「錆びない」といった金属にはないメリットを提供できる素材です 。例えば、自動車部品や電子機器の筐体など、従来は金属が使われていた多くの部品でエンプラへの置き換えが進んでいます 。
エンプラはさらに、分子構造によって「結晶性」と「非結晶性」に分けられます 。

  • 結晶性樹脂: 分子が規則正しく並んだ構造を持ち、耐薬品性や機械的強度に優れる傾向があります。ポリアミド(PA)やポリアセタール(POM)が代表例です 。
  • 非結晶性樹脂: 分子構造がランダムで、透明性に優れる特徴があります。ポリカーボネート(PC)がこれに該当します 。

これらの基本的な分類と特性を理解することが、適切な材料選定の第一歩となります。

エンジニアプラスチックの主要5種類とそれぞれの特性・用途

市場で広く利用されているエンプラの中でも、特に重要なのが「5大汎用エンプラ」です 。それぞれの特性と代表的な用途を理解し、材料選定の参考にしてください。
表:5大汎用エンプラの特性比較

種類 (略称) 主な特性 代表的な用途
ポリアミド (PA) ✔️ 高い靭性耐衝撃性
✔️ 耐摩耗性、自己潤滑性
✔️ 耐油性、耐薬品性
⚠️ 吸水性が高く寸法変化に注意
🚗 自動車のエンジンカバー、吸気マニホールド
⚙️ 歯車、ベアリング、コネクタ
ポリカーボネート (PC) ✔️ 非常に高い耐衝撃性 (ガラスの200倍以上)
✔️ 高い透明性、自己消火性
✔️ 良好な寸法安定性
⚠️ アルカリ薬品や有機溶剤に弱い
💡 ヘルメット、ゴーグル、信号機のレンズ
📱 スマートフォンの筐体、DVDディスク
ポリアセタール (POM) ✔️ 優れた耐摩耗性、自己潤滑性
✔️ 高い剛性、耐クリープ性
✔️ 吸水性が低く寸法安定性が良い
⚠️ 接着や塗装が困難
🔩 歯車、軸受け、ファスナー、燃料ポンプ部品
✒️ ペンの部品、キーボードのキートップ
変性ポリフェニレンエーテル (m-PPE) ✔️ 軽量で耐熱水性に優れる
✔️ 良好な電気絶縁性、寸法安定性
✔️ 他の樹脂とのアロイ化が容易
⚠️ 耐薬品性が低い
🔌 OA機器の筐体、複合機の内部機構部品
💧 給湯器部品、水栓バルブ
ポリブチレンテレフタレート (PBT) ✔️ 電気特性、難燃性に優れる
✔️ 吸水性が低く寸法安定性が良い
✔️ 加工性、着色性が良好
⚠️ 加水分解を起こしやすい
🚗 自動車の電装部品(コネクタ、センサー
💡 キーボードのキートップ、リレーのケース

これらのエンプラは、ガラス繊維や炭素繊維を充填することで、さらに強度や剛性を向上させた「強化グレード」も数多く市場に存在します 。例えば、PA6やPA66はガラス繊維で強化されることで、より過酷な構造材料として利用されています 。

エンジニアプラスチックの加工方法と金属代替のメリット

エンプラの加工方法は多岐にわたりますが、代表的なものとして射出成形、押出成形、そして金属加工従事者にも馴染み深い切削加工があります 。

  • 射出成形: 溶かした樹脂を金型に射出し、冷却して固める方法です 。複雑な形状の製品を大量生産するのに適しており、最も一般的な加工法です。
  • 切削加工: 金属と同様に、マシニングセンタNC旋盤などを用いて丸棒や板状の材料から削り出して形状を作る方法です 。多品種少量生産や試作品の製作に向いています 。一度のセッティングで多工程をこなせる5軸加工も適用可能です 。
  • 二次加工: 切削以外にも、塗装、接着、溶着、めっきなどの二次加工を施すことで、さらなる機能や意匠性を付与できます 。ただし、POMのように接着性が低い素材もあるため、材質の特性を理解しておくことが重要です。

近年、金属部品をエンプラに置き換える「金属代替」が急速に進んでいます。その背景には、以下のような大きなメリットがあります。
✨ 金属代替の主なメリット

  • 軽量化: エンプラの比重は鉄の約1/7、アルミニウムの約1/2です。製品を大幅に軽量化でき、特に自動車やドローンなどの輸送機器では燃費や飛行時間の向上に直結します 。実際にドローン部品をアルミからPPS(スーパーエンプラの一種)に切り替えたことで、4部品合計で400gの軽量化を実現した事例もあります 。
  • コスト削減: 射出成形により、複雑な形状の部品を一度に大量生産できるため、切削加工や複数部品の組み立てが必要な金属製品に比べて、トータルコストを大幅に削減できる可能性があります 。
  • 高機能化と設計自由度の向上: 金属では難しい複雑な形状や、複数の部品を一体化した設計が可能です 。また、錆びない、電気を通さない(絶縁性)といった特性を活かすことで、製品の付加価値を高めることができます。
  • 耐薬品性: POMは優れた耐薬品性を持ち、食品安全性が高いため水道用の部材としても使用されています 。

金属からの置き換えに関する技術資料は、各プラスチックメーカーから豊富に提供されています。以下のリンクは、金属代替の考え方や事例を知る上で非常に有用です。
参考リンク:金属代替の基本と事例について詳しく解説されています。
金属部品の樹脂化(金属代替)を実現するエンプラと樹脂CAE - 旭化成

エンジニアプラスチックの意外な弱点とメーカー選定の注意点

高性能なエンプラですが、万能ではありません。金属にはない特有の「弱点」を理解せずに設計・加工すると、思わぬトラブルにつながる可能性があります。特に注意すべき点をいくつか挙げます。

  • 吸水性による物性変化: 特にポリアミド(PA)は吸水性が高く、水分を吸収すると寸法が変化したり、強度が低下したりする性質があります 。精密な寸法精度が求められる部品に使用する場合は、使用環境の湿度を考慮するか、吸水性の低いPOMやPBTなどを選定する必要があります。
  • 耐薬品性: エンプラは一般的に耐薬品性に優れますが、種類によっては特定の薬品に弱いものもあります。例えば、非結晶性のポリカーボネート(PC)はアルカリ性の薬品や特定の有機溶剤に触れると「ケミカルクラック」と呼ばれるひび割れを起こすことがあります。使用環境で接触する可能性のある油剤や洗浄剤との相性を事前に確認することが不可欠です。
  • 温度による物性変化: プラスチックは金属に比べて温度による線膨張係数が大きい傾向にあります。高温環境下では寸法が変化しやすいため、金属部品と組み合わせて使用する際には、その差を考慮した設計(クリアランスの確保など)が重要になります。
  • 紫外線による劣化: 屋外で長時間使用する場合、紫外線による劣化(変色、強度低下)も考慮に入れる必要があります。耐候性を向上させたグレードを選定するか、塗装やコーティングによる表面保護が有効です。

また、同じ種類のエンプラ(例えば「PA66」)であっても、製造メーカーやグレードによって物性値は微妙に異なります 。設計の際には、特定のメーカーが提供する詳細な物性データ(カタログ値)を必ず確認し、必要であればメーカーの技術サポートに相談することが重要です。特に強度や耐熱性などの数値は、測定条件によっても変わるため、カタログに記載された基準をよく理解して比較検討しましょう。

エンジニアプラスチックの最新動向|サステナビリティとリサイクルの未来

現代のものづくりにおいて、環境負荷の低減は避けて通れないテーマです。エンジニアリングプラスチックの分野でも、サステナビリティ(持続可能性)を意識した技術開発が活発に進められています。
🌍 サステナビリティへの貢献

  • バイオマスエンプラ: 植物などの再生可能な有機資源(バイオマス)を原料として作られるエンプラです。これにより、石油などの化石資源への依存を減らし、カーボンニュートラルの実現に貢献します。各化学メーカーが開発を推進しており、従来の石油由来エンプラと同等の性能を持つ製品も登場しています。
  • 製品の長寿命化: エンプラの優れた耐久性や耐摩耗性は、製品自体のライフサイクルを延ばすことに繋がります。これにより、廃棄物の削減や資源の有効活用に貢献します。
  • 軽量化による環境負荷削減: 前述の通り、自動車などの輸送機器を軽量化することは、使用時のエネルギー消費量(燃費)を削減し、CO2排出量の削減に大きく貢献します 。これは、製品ライフサイクル全体で見た場合の環境負荷低減に繋がります 。

♻️ リサイクルの進化
プラスチックごみ問題への関心の高まりを受け、エンプラのリサイクル技術も進化しています。従来のマテリアルリサイクル(廃プラスチックを粉砕・洗浄して再び材料として利用する方法)に加え、近年では「ケミカルリサイクル」が注目されています。

  • ケミカルリサイクル: 廃プラスチックを化学的に分解し、モノマー(原料)の状態に戻してから再利用する技術です 。これにより、品質の劣化を抑え、新品同様のプラスチックを再生することが可能になります。不純物が含まれていたり、複数の素材が混ざっていたりしてマテリアルリサイクルが困難だったプラスチックもリサイクルできる可能性があります。
  • トレーサビリティ技術: リサイクル材の品質と信頼性を確保するため、ブロックチェーン技術などを活用し、廃プラスチックの回収から再生、製品化までの履歴を追跡・可視化する取り組みも始まっています 。これにより、ユーザーは安心して再生プラスチック由来の製品を使用できます 。

大手化学メーカーも、こうしたサステナブルな社会の実現に向けた取り組みを重要な経営課題と位置づけ、積極的に技術開発を進めています 。
参考リンク:大手化学メーカーのサステナビリティに対する取り組みや、資源循環の考え方が紹介されています。
サステナビリティ|住友化学 エンジニアリングプラスチックス部

 

 


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