調質記号hの意味と種類・選び方を徹底解説

調質記号hはアルミや銅合金の加工硬化状態を示す重要な記号です。H1・H2・H3の違い、数字の読み方、材料選定での注意点を金属加工の現場目線で解説。正しく理解していますか?

調質記号hの意味と種類・選び方を金属加工の現場で活かす

H材を溶接すると、溶接後の強度はO材(焼きなまし材)とほぼ同じになります。


📋 この記事の3つのポイント
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調質記号hの構造を読む

「H」の後に続く2桁の数字には意味があり、最初の数字が処理方法、2番目の数字が硬さの段階を示します。この構造を覚えるだけで材料表を正しく読めます。

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H材の「落とし穴」を知る

H材は加工硬化で強度を得ていますが、溶接・加熱により加工硬化の効果が消失し、強度が大きく低下します。設計段階から考慮が必要です。

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金属の種類で「H」の意味が変わる

アルミ・銅合金・ステンレスで「H」の意味と表記ルールが異なります。同じ「H」でも金属が違えば内容も違うため、JIS規格の確認が欠かせません。


調質記号hとは何か:加工硬化の基本的な意味

調質記号「H」は、金属材料加工硬化によって強度を高めた状態であることを示す記号です。JIS H 0001に基づき規定されており、主にアルミニウム合金の展伸材に用いられます。


金属に圧延や引き抜きなどの冷間加工を加えると、材料内部の結晶に転位が蓄積され、それ以上変形しにくくなります。これが加工硬化です。つまりHは「熱を使わず、変形させることで硬くした」状態を指します。


よく誤解されるのですが、「H記号は非熱処理合金専用」ではありません。日本伸管株式会社の技術資料にも「一般的に非熱処理合金に用いられる調質ですが、熱処理合金に用いることもあります」と明記されています。6000系・7000系などの熱処理合金でも、引き抜き加工後の「引きっぱなし」状態にH記号が使われるケースがあります。これは現場でよく見落とされる点です。


調質記号の基本分類はF・O・H・W・Tの5種類で、それぞれ以下の意味を持ちます。


| 基本記号 | 意味 |
|---|---|
| F | 製造のままのもの(加工硬化・熱処理なし) |
| O | 焼きなまし済み(最も軟らかい状態) |
| H | 加工硬化したもの |
| W | 溶体化処理後・不安定状態 |
| T | 熱処理によりF・O・H以外の安定状態にしたもの |


H記号が基本です。つまりこの5文字を押さえておけば大半の材料表を読み解けます。


参考として、JIS H 0001の正式規格内容はこちらで確認できます。アルミ合金の質別記号の詳細が体系的に掲載されています。
JIS H 0001 アルミニウム及びアルミニウム合金の質別記号 - kikakurui.com


調質記号hの数字の読み方:H1・H2・H3・H4の違い

H記号の後には必ず2桁以上の数字が続きます。最初の数字(1〜4)が「どんな処理をしたか」を示し、2番目の数字(1〜9)が「どれくらい硬いか」を示します。


**最初の数字:処理方法の種類**


- **H1×** 加工硬化のみを行ったもの。熱処理は一切なし。
- **H2×** 加工硬化後に軟化熱処理を行ったもの。H1と同等の強さで伸びが上がる。
- **H3×** 加工硬化後に安定化処理(150℃程度の低温加熱)を行ったもの。Mg含有合金(5000系など)の経時軟化をぐために使われる。
- **H4×** 加工硬化後に焼付塗装などで加熱され、部分的に焼きなましされたもの。


H3が登場するのは意外に感じるかもしれません。加工硬化させた後でわざわざ加熱するのは矛盾のように見えますが、目的は「強度低下を防ぐこと」です。5000系(Al-Mg系)合金は放置すると常温でも自然に軟化・変形する傾向があり、それを安定化処理で止めます。これは使えそうな知識です。


**2番目の数字:硬さの段階**


| 末尾数字 | 硬さの呼称 | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 1/8硬質 | Oとほぼ同等 |
| 2 | 1/4硬質 | Oと1/2硬質の中間 |
| 4 | 1/2硬質 | OとH8の中間 |
| 6 | 3/4硬質 | H4とH8の中間 |
| 8 | 硬質 | 通常加工で得られる最大引張強さ(断面減少率約75%相当) |
| 9 | 特硬質 | H8より引張強さが10N/mm²超のもの |


例えばH32とは「加工硬化後に安定化処理(3)、1/4硬質(2)」という意味になります。H34は同じく安定化処理済みで1/2硬質です。つまり記号を分解すれば内容がわかります。


現場でよく使われるA5052-H32やA5052-H34は、どちらも安定化処理済みのAl-Mg系合金です。H34の引張強さは約250MPaに対し、H32は約210〜230MPaと違いがあります。強度が求められる船舶・自動車部品にはH34が多く選ばれます。


参考として、アルミ合金の調質記号と機械的性質の詳細は以下で確認できます。
アルミニウムの調質・質別記号の一覧 - といし.info


調質記号hと溶接・加熱の致命的な関係:現場で見落とされる強度低下

H材の強度は加工硬化によって得られています。ここが非常に重要なポイントです。


加工硬化で得た強度は、加熱によって消えます。


溶接を行うと、溶接熱が母材に広がる「熱影響部(HAZ)」では転位の回復と再結晶が起こります。日本溶接協会の技術情報によると、「Al-Mn・Al-Mg系などの非熱処理型合金で加工硬化を利用しているものも、溶接熱履歴によって転位の回復と再結晶が生じ、熱影響部が軟化する」と明確に示されています。


つまり、H材を溶接すると熱影響部の強度はO材(焼きなまし材)と同等にまで下がります。たとえばA5052-H34(引張強さ約250MPa)を溶接した場合、熱影響部では焼きなまし状態のA5052-O(引張強さ約195MPa)に近い強度まで落ちます。計算上、強度が約20〜25%低下する可能性があります。痛いですね。


この現象への対応としては、以下が有効です。


- 溶接が必要な箇所は設計段階からO材やT材(熱処理合金)で設計する。
- 溶接後の強度評価では母材だけでなく熱影響部の強度を基準にする。
- 溶接面積や溶接位置を限定し、熱影響部の範囲を最小限に抑える。


溶接後に再度H処理(冷間加工による加工硬化)を行うことは、製品形状ができあがった後では現実的に困難です。したがって「溶接が入る設計か否か」が材料選定の大前提になります。H材の溶接後強度を母材強度と同一視して設計するのは危険です。


アルミ溶接における強度低下の技術的詳細は以下を参照してください。
アルミニウム合金の溶接熱影響部はなぜ軟化するのか - 日本溶接協会


金属の種類で変わる調質記号h:アルミ・銅合金・ステンレスの比較

注意が必要なのは、「H」という記号が金属の種類によって意味と書き方のルールが変わることです。同じアルファベットでも別の内容を指すため、金属の種類を確認せずに使うと誤った解釈につながります。


**アルミニウム合金のH**


前述のとおり「加工硬化状態」を示し、H1×・H2×・H3×・H4×と硬さ段階がセットで表記されます。JIS H 0001で規定されており、主に非熱処理合金(1000系・3000系・5000系)に適用されます。


**銅合金のH**


銅合金では分数表記が使われます。「H・3/4H・1/2H・1/4H」の形で、Hが最も硬く、数字が小さくなるほど軟らかくなります。アルミとは逆方向に数字が変化するので混乱しやすい点です。たとえばリン青銅ベリリウム銅のばね材では「EH(特硬)」「SH(ばね質)」まで使われます。熱処理の有無はこの記号だけでは判別できません。


**ステンレス鋼のH**


SUS301・SUS304などのオーステナイト系ステンレスでは「1/4H・1/2H・3/4H・H・EH・SEH」のように表記され、硬質圧延(冷間圧延)による加工硬化状態を示します。銅合金と同様の分数表記です。


ここで見落としがちな重要な注意点があります。SUS301-Hの引張強さは、適用するJIS規格番号によって値が異なります。JIS G4313では1,320MPa以上、JIS G4305では1,270MPa以上と、同じ「SUS301-H」でも規格によって50MPaの差があります。材料を発注・使用する際は、調質記号だけでなく適用規格番号も必ず確認することが原則です。


各金属の調質記号一覧は以下でまとめて確認できます。
金属材料の調質(仕上げ)って何?調質記号の意味 - TOKKIN株式会社


調質記号hの特殊記号:H111・H112・H321を知っておく独自視点

H記号には、通常の2桁表記では収まらない特殊な記号が存在します。現場での流通頻度は高くないですが、知っているとトラブルを防げます。


**H111**


H11(1/8硬質の加工硬化のみ)よりもさらに加工硬化量を少なくしたもの。わずかな加工硬化が施されているが、ほぼO材に近い軟らかさです。


**H112**


展伸材において、「積極的な加工硬化を加えずに製造されたままの状態で機械的性質の保証がされたもの」です。加工硬化はしていないのにH記号がついている。F材(製造のまま)との違いは「機械的性質の保証があるかどうか」です。F材は機械的性質の保証がありませんが、H112は保証があります。厚板・大径棒材などで見かけることが多い記号です。


**H321**


H32(安定化処理済み・1/4硬質)より加工硬化量が少ないもの。厳密には「H32の条件を完全には満たさないが、規格に準じた性質を持つ」位置づけです。


これらの記号は資料を読むだけでは理解しにくく、実際の流通現場で初めて目にして混乱するケースがあります。特にH112は、Hが付いているにもかかわらず加工硬化をしていないという点で、誤解を招きやすい記号の筆頭です。これだけ覚えておけばOKです。


また、一部の引き抜き材では「H」とだけ表記されることがあります。この場合は「引きっぱなし(後工程での熱処理なし)」を意味する略記として使われています。H1○の省略形という扱いです。


アルミ展伸材の合金番号の読み方については以下が詳しいです。
アルミニウム展伸材用合金番号(記号)の読み方 - 遠藤鋳造


調質記号hを正しく使った材料選定のポイント:実務での判断基準

現場で調質記号hを正しく活用するために、材料選定の判断フローを整理します。


**ステップ1:加工方法を先に決める**


まず「溶接があるか」「曲げ加工があるか」「プレス成形があるか」を確認します。溶接がある場合はH材を避け、O材かT材を優先します。これが条件です。


H材は曲げ加工においても注意が必要です。H8(硬質)はほぼ曲げ加工ができません。1/2硬質(H4)であればベンダーでの曲げが可能ですが、肉厚や曲げ半径によって割れリスクが変わります。曲げ加工を行う場合は、素材の硬さ段階と曲げ半径の組み合わせを必ず事前に確認することが重要です。


**ステップ2:要求強度から硬さ段階を選ぶ**


強度が必要な場合はH8方向(硬質)、加工性・成形性が必要な場合はH4(1/2硬質)またはO材を選びます。


**ステップ3:使用環境から処理方法を選ぶ**


海水・湿潤環境下でMg含有合金(5000系)を使う場合は、H3×(安定化処理あり)を選ぶことで経時的な強度低下を抑えられます。逆に安定化処理の必要がない環境では、H1×でコストを抑えることも可能です。


**ステップ4:発注時には規格番号も明記する**


特にステンレスや銅合金では、同じ調質記号でもJIS番号によって規格値が異なります。「SUS304-H」だけでなく「JIS G4313準拠のSUS304-H」と規格番号まで記載するのが確実です。


材料の入れ替えや代替材を検討する際にも、調質記号の確認は欠かせません。「成分が同じだから大丈夫」という判断は危険で、調質が変わると引張強さが倍近く異なることもあります。調質記号の確認が条件です。


銅合金の調質記号については以下に詳しく掲載されています。現場での銅合金の発注・確認時に活用できます。
銅および銅合金の質別記号について - カネソウ株式会社


十分なリサーチが完了しました。記事を作成します。