アルミa6063の特性と加工性、A6061との比較や用途

アルミA6063は、優れた押出加工性と耐食性を持ち、建築サッシや自動車部品などに広く利用されています。本記事では、その基本的な特性から、A6061との違い、具体的な加工方法、表面処理、そして溶接時の注意点までを専門家の視点で徹底解説します。さらに、環境負荷を低減するリサイクルの可能性についても深掘りしますが、ご存知でしたでしょうか?

アルミa6063の特性と加工方法

アルミa6063 完全ガイド
🔍
特性と成分

A6063の基本的な性質、化学成分をA6061と比較しながら解説します。

🔧
押出・切削加工

A6063の得意な加工法である押出加工や、切削加工のポイントを解説します。

表面処理

耐食性と美観を向上させるアルマイト処理と、機能性を付与する化成処理を解説します。

🔥
溶接の注意点

溶接時に発生しやすい強度低下の問題とその対策について詳しく解説します。

♻️
リサイクル性

環境負荷低減に貢献するA6063のリサイクル技術と、その意外な可能性を探ります。

アルミa6063の特性と成分、A6061との比較

 

アルミ合金A6063は、アルミニウムにマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)を添加した6000系の合金です 。この系統の合金は、強度、耐食性、加工性のバランスに優れており、熱処理によって強度を調整できる特徴を持ちます 。
A6063の最大の特長は、優れた押出加工性にあります 。複雑な断面形状の形材を容易に製造できるため、建築用のサッシやドア、カーテンウォール、さらには自動車のサンルーフのレールや構造材、電子機器の筐体やヒートシンクなど、私たちの身の回りの多くの製品に使用されています 。

 

参考)A6063とは?アルミ合金A6063の性質とA6063の押出…

また、耐食性も非常に良好で、特に陽極酸化処理(アルマイト)を施すことで、さらに高い耐食性と美しい外観を得ることができます 。

 

参考)A6063アルミニウム合金の特性と活用事例:軽量・耐食性に優…

よく比較されるA6061も同じ6000系の合金ですが、成分と特性に違いがあります。

 

■ A6063とA6061の化学成分比較 (%)

成分 A6063 A6061
Si (シリコン) 0.20~0.60 0.40~0.8
Mg (マグネシウム) 0.45~0.90 0.8~1.2
Cu (銅) 0.10以下 0.15~0.40
Cr (クロム) 0.10以下 0.04~0.35

(参考: )

A6061はA6063に比べてMgとSiの含有量が多く、銅(Cu)も添加されているため、強度が高いのが特徴です 。その分、押出加工性はA6063に劣ります 。簡単に言えば、「複雑な形状で、そこそこの強度が必要ならA6063」、「より高い強度が求められる構造部材にはA6061」といった使い分けが一般的です。

 

参考)A6063とA6061の違いが今すぐわかる!加工方法や使用用…

以下の資料では、A6063をはじめとするアルミ合金の基本的な特性について詳しく解説されています。

 

軽金属材料の基礎と応用

アルミa6063の押出加工と切削加工のポイント

A6063のポテンシャルを最大限に引き出すのが**押出加工**です 。これは、熱したビレット(円柱状のアルミ素材)に高い圧力をかけ、金型ダイス)の穴から押し出すことで、トコロテンのように長い製品を成形する加工法です
押出加工のメリット

  • 複雑な断面形状の実現:中空形状や多数のフィンを持つヒートシンクなど、他の加工法では難しい複雑な断面を一工程で成形できます 。
  • 高い寸法精度:A6063は加工性が良いため、寸法精度の高い製品を作ることが可能です 。
  • コストダウンと納期短縮:規格化された形材を利用することで、切削加工の工程を大幅に削減し、コストと納期を圧縮できます 。

一方で、切削加工を行う際のポイントも存在します。A6063は他のアルミ合金と同様に比較的柔らかく、切削性は良好ですが、工具への溶着(刃物に切り屑がくっつく現象)が起きやすい点に注意が必要です 。

 

参考)https://www.kanameta.jp/column/aluminum-6063

切削加工のポイント

  • 適切な工具の選定:アルミニウム専用の刃先がシャープな超硬工具などを使用します。
  • 切削条件の最適化:高い回転数と送り速度で、切り屑の排出性を高めます。
  • 切削油の使用:溶着をぎ、仕上げ面を美しく保つために、適切な切削油剤を使用することが重要です。

ミクロン単位の精密な加工も可能であり 、押出材をベースに部分的な切削や穴あけ加工を組み合わせることで、非常に効率的な部品製造が実現します。

 

参考)A6063の押出材について解りやすく紹介します &#8211…

アルミa6063のアルマイト処理と化成処理の違い

A6063は素地のままでも良好な耐食性を持ちますが、その性能を飛躍的に向上させ、さらに美観や機能性を付与するのが**表面処理**です。代表的なものに「アルマイト処理」と「化成処理」があります。

 

アルマイト処理(陽極酸化処理)
A6063はアルマイト処理に非常に適した材料として知られています 。これは、アルミニウムを陽極(+)として電解液中で電気分解し、表面に硬くて緻密な酸化皮膜(Al₂O₃)を人工的に生成する技術です 。

 

参考)A6063にアルマイト処理は可能か?

  • 耐食性・耐摩耗性の向上:素地の数十倍から数百倍の耐食性を実現します。皮膜は非常に硬く、耐摩耗性も向上します。
  • 多彩な着色:皮膜には微細な孔があり、そこに染料を吸着させることで、シルバー、ブラック、ゴールドなど様々な色を付けることができます。
  • 絶縁性:生成された酸化皮膜は電気を通しません。

🎨 化成処理(アロジン処理・クロメート処理など)
化成処理は、薬品の化学反応を利用して、素材表面に防食皮膜を形成する方法です。アルマイト処理に比べて皮膜は薄く、耐摩耗性は期待できませんが、独自の利点があります。

 

  • 導電性の維持:アルマイト皮膜が絶縁性であるのに対し、化成処理皮膜は電気を通すことができます 。アース(接地)を取りたい部分の防食処理などに利用されます。
  • 塗装下地:塗料との密着性が非常に良いため、塗装前の下地処理として広く採用されています。
  • 低コスト:一般的にアルマイト処理よりも安価です。

A6063の表面処理方法については、以下のメーカーサイトで詳しい技術情報が公開されています。

 

アルマイト加工(処理)のページ|三和メッキ工業株式会社

アルミa6063の溶接における注意点と強度低下対策

A6063は一般的に溶接性が良好な材料とされていますが、いくつかの重要な注意点があります。最も注意すべきなのは、**溶接熱による強度低下**です 。
A6063はT5処理やT6処理といった熱処理(時効硬化処理)によって強度を高めていますが、溶接を行うと、その熱によって溶接部とその周辺(熱影響部:HAZ)の組織が変化し、強度が著しく低下してしまうのです 。これは、強度を高めていたMg₂Siの析出状態が、溶接熱によって崩れてしまうために起こります。

 

参考)A6063の溶接についてですA6063は溶接性がほかのアルミ…

🔥 強度低下への対策

  1. 適切な溶接方法の選択:TIG溶接やMIG溶接が一般的ですが、入熱量を抑えることが重要です。パルス溶接などを活用し、できるだけ短時間で溶接を完了させます。
  2. 溶接後の再熱処理:強度が特に要求される部位では、溶接後に再度、溶体化処理と時効処理(T6処理など)を行うことで、強度を回復させることが可能です。ただし、製品全体の変形やコスト増につながるため、設計段階での検討が不可欠です。
  3. 強度低下を織り込んだ設計:予め溶接部の強度低下を計算に入れ、板厚を増したり、リブを設けたりするなどの構造的な工夫を行います。

A6061と比較すると、A6063は溶接後の強度維持が比較的良好とされていますが 、それでも強度低下は避けられません。特に、構造部材としてA6063を溶接して使用する場合には、この熱影響による強度低下を十分に理解し、対策を講じることが極めて重要です。

 

参考)「A6061とA6063のアルミ合金の性質と適用分野の解説」…

【独自視点】アルミa6063のリサイクル性と環境負荷の意外な関係

A6063はその優れた特性だけでなく、**地球環境に優しい材料**であるという側面も、近年ますます重要視されています 。アルミニウムは「リサイクルの優等生」と呼ばれ、非常に効率的に再生できる金属です。
♻️ アルミa6063リサイクルの驚くべき効率
最も特筆すべきは、リサイクルに必要なエネルギーの少なさです。ボーキサイトという原料から新しいアルミニウム地金を作るエネルギーを100とすると、リサイクルアルミ地金(再生地金)を作るエネルギーは、わずか**3%**で済みます。つまり、CO₂排出量を実に97%も削減できるのです 。

 

参考)国内初※1、リサイクルアルミ使用比率100%の低炭素型アルミ…

この特性を活かし、建材メーカーのLIXILは、国内で初めてリサイクルアルミ使用比率100%の低炭素型アルミ形材「PremiAL R100」を開発しました 。これは、建築物の解体時などに出るアルミサッシなどを回収・再生し、再びA6063の形材として製品化するものです。

意外に知られていませんが、こうした取り組みは、企業の環境目標達成にも大きく貢献します。例えば、LIXILはこの「PremiAL R100」によって、自社のサプライチェーン全体でのCO₂排出量削減目標(2031年度までに30%削減)の約3割を達成できる見込みだとしています 。

また、製品の環境性能を「見える化」する**環境ラベル「エコリーフ」**の取得も進んでいます 。これにより、「PremiAL R100」を1kg使用することで、原材料調達から生産までのCO₂排出量を3.7kgに抑えられることが客観的に証明されました。これは、従来型のアルミ形材に比べて約75%の削減に相当します 。

このように、A6063は単に加工しやすい便利な材料というだけでなく、持続可能な社会を構築するためのキーマテリアルとしての側面を持っています。金属加工に従事する私たちも、材料選定の際にこうしたリサイクル性や環境負荷の視点を持つことが、今後ますます求められていくでしょう。

 

以下のリンクでは、アルミニウムのリサイクルに関する詳しい情報が掲載されています。

 

アルミニウムのリサイクル|一般社団法人 日本アルミニウム協会

 

 


アルミ 四角棒(A6063生地材) 10x10 長さ300mm(30cm-0.08kg)