アルミ合金A6063は、アルミニウムにマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)を添加した6000系の合金です 。この系統の合金は、強度、耐食性、加工性のバランスに優れており、熱処理によって強度を調整できる特徴を持ちます 。
A6063の最大の特長は、優れた押出加工性にあります 。複雑な断面形状の形材を容易に製造できるため、建築用のサッシやドア、カーテンウォール、さらには自動車のサンルーフのレールや構造材、電子機器の筐体やヒートシンクなど、私たちの身の回りの多くの製品に使用されています 。
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また、耐食性も非常に良好で、特に陽極酸化処理(アルマイト)を施すことで、さらに高い耐食性と美しい外観を得ることができます 。
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よく比較されるA6061も同じ6000系の合金ですが、成分と特性に違いがあります。
■ A6063とA6061の化学成分比較 (%)
| 成分 | A6063 | A6061 |
|---|---|---|
| Si (シリコン) | 0.20~0.60 | 0.40~0.8 |
| Mg (マグネシウム) | 0.45~0.90 | 0.8~1.2 |
| Cu (銅) | 0.10以下 | 0.15~0.40 |
| Cr (クロム) | 0.10以下 | 0.04~0.35 |
(参考: )
A6061はA6063に比べてMgとSiの含有量が多く、銅(Cu)も添加されているため、強度が高いのが特徴です 。その分、押出加工性はA6063に劣ります 。簡単に言えば、「複雑な形状で、そこそこの強度が必要ならA6063」、「より高い強度が求められる構造部材にはA6061」といった使い分けが一般的です。
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以下の資料では、A6063をはじめとするアルミ合金の基本的な特性について詳しく解説されています。
A6063のポテンシャルを最大限に引き出すのが**押出加工**です 。これは、熱したビレット(円柱状のアルミ素材)に高い圧力をかけ、金型(ダイス)の穴から押し出すことで、トコロテンのように長い製品を成形する加工法です
✅ 押出加工のメリット
一方で、切削加工を行う際のポイントも存在します。A6063は他のアルミ合金と同様に比較的柔らかく、切削性は良好ですが、工具への溶着(刃物に切り屑がくっつく現象)が起きやすい点に注意が必要です 。
参考)https://www.kanameta.jp/column/aluminum-6063
⚙ 切削加工のポイント
ミクロン単位の精密な加工も可能であり 、押出材をベースに部分的な切削や穴あけ加工を組み合わせることで、非常に効率的な部品製造が実現します。
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A6063は素地のままでも良好な耐食性を持ちますが、その性能を飛躍的に向上させ、さらに美観や機能性を付与するのが**表面処理**です。代表的なものに「アルマイト処理」と「化成処理」があります。
✨ アルマイト処理(陽極酸化処理)
A6063はアルマイト処理に非常に適した材料として知られています 。これは、アルミニウムを陽極(+)として電解液中で電気分解し、表面に硬くて緻密な酸化皮膜(Al₂O₃)を人工的に生成する技術です 。
参考)A6063にアルマイト処理は可能か?
🎨 化成処理(アロジン処理・クロメート処理など)
化成処理は、薬品の化学反応を利用して、素材表面に防食皮膜を形成する方法です。アルマイト処理に比べて皮膜は薄く、耐摩耗性は期待できませんが、独自の利点があります。
A6063の表面処理方法については、以下のメーカーサイトで詳しい技術情報が公開されています。
A6063は一般的に溶接性が良好な材料とされていますが、いくつかの重要な注意点があります。最も注意すべきなのは、**溶接熱による強度低下**です 。
A6063はT5処理やT6処理といった熱処理(時効硬化処理)によって強度を高めていますが、溶接を行うと、その熱によって溶接部とその周辺(熱影響部:HAZ)の組織が変化し、強度が著しく低下してしまうのです 。これは、強度を高めていたMg₂Siの析出状態が、溶接熱によって崩れてしまうために起こります。
参考)A6063の溶接についてですA6063は溶接性がほかのアルミ…
🔥 強度低下への対策
A6061と比較すると、A6063は溶接後の強度維持が比較的良好とされていますが 、それでも強度低下は避けられません。特に、構造部材としてA6063を溶接して使用する場合には、この熱影響による強度低下を十分に理解し、対策を講じることが極めて重要です。
参考)「A6061とA6063のアルミ合金の性質と適用分野の解説」…
A6063はその優れた特性だけでなく、**地球環境に優しい材料**であるという側面も、近年ますます重要視されています 。アルミニウムは「リサイクルの優等生」と呼ばれ、非常に効率的に再生できる金属です。
♻️ アルミa6063リサイクルの驚くべき効率
最も特筆すべきは、リサイクルに必要なエネルギーの少なさです。ボーキサイトという原料から新しいアルミニウム地金を作るエネルギーを100とすると、リサイクルアルミ地金(再生地金)を作るエネルギーは、わずか**3%**で済みます。つまり、CO₂排出量を実に97%も削減できるのです 。
参考)国内初※1、リサイクルアルミ使用比率100%の低炭素型アルミ…
この特性を活かし、建材メーカーのLIXILは、国内で初めてリサイクルアルミ使用比率100%の低炭素型アルミ形材「PremiAL R100」を開発しました 。これは、建築物の解体時などに出るアルミサッシなどを回収・再生し、再びA6063の形材として製品化するものです。
意外に知られていませんが、こうした取り組みは、企業の環境目標達成にも大きく貢献します。例えば、LIXILはこの「PremiAL R100」によって、自社のサプライチェーン全体でのCO₂排出量削減目標(2031年度までに30%削減)の約3割を達成できる見込みだとしています 。
また、製品の環境性能を「見える化」する**環境ラベル「エコリーフ」**の取得も進んでいます 。これにより、「PremiAL R100」を1kg使用することで、原材料調達から生産までのCO₂排出量を3.7kgに抑えられることが客観的に証明されました。これは、従来型のアルミ形材に比べて約75%の削減に相当します 。
このように、A6063は単に加工しやすい便利な材料というだけでなく、持続可能な社会を構築するためのキーマテリアルとしての側面を持っています。金属加工に従事する私たちも、材料選定の際にこうしたリサイクル性や環境負荷の視点を持つことが、今後ますます求められていくでしょう。
以下のリンクでは、アルミニウムのリサイクルに関する詳しい情報が掲載されています。
アルミニウムのリサイクル|一般社団法人 日本アルミニウム協会