旋盤の加工方法
この記事でわかること
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基本の加工方法
外径加工や穴あけなど、5つの基本的な旋盤加工の手順と特徴を解説します。
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機械の使い分け
汎用旋盤とNC旋盤、それぞれの得意な加工や状況に応じた最適な選択基準がわかります。
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精度向上の秘訣
切削条件の最適化から、意外と知られていない精度アップのコツまで詳しく紹介します。
旋盤加工の基本手順と5つの代表的な加工方法
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旋盤加工は、工作物を回転させ、そこにバイト(刃物)を当てることで金属などを削る加工技術の基本です 。その多様な加工方法を理解することは、高品質な製品を生み出すための第一歩と言えるでしょう。主な加工手順は、一般的に「図面確認 → 材料準備 → 芯出し → 荒加工 → 仕上げ加工」という流れで進みます 。
まず、製品の寸法や形状、公差などを図面で正確に把握します 。次に、加工に必要な材料を準備し、旋盤のチャックにしっかりと固定します。このとき、工作物の中心軸と旋盤の主軸の中心を一致させる「芯出し」作業が、加工精度を大きく左右するため非常に重要です 。
参考)https://www.tech.sci.nagoya-u.ac.jp/machine/howto/lathe-2.html
芯出しが終わると、いよいよ切削加工に入ります。最初は「荒加工」で、製品の形状を大まかに削り出します 。ここでは効率が重視されますが、削りすぎないよう注意が必要です 。そして最後に「仕上げ加工」を行い、図面通りの寸法と表面粗さに仕上げていきます 。
参考)https://jp.meviy.misumi-ec.com/info/ja/howto/metal-machining/26415/
旋盤加工には、主に以下の5つの代表的な方法があります。
- 外径加工: 工作物の外側を削り、円筒形状や段差をつける最も基本的な加工です 。
- 内径加工: ドリルなどで開けた下穴を、バイトを使って内側から削り広げ、精度を出す加工法です 。
- 端面加工(正面削り): 工作物の端面を平らに削る加工で、旋盤加工の基本中の基本とされています 。
- 穴あけ加工: 芯押し台にドリルチャックを取り付け、工作物の中心に穴を開ける加工です 。
- 突切り加工: 工作物に深い溝を入れたり、必要な長さに切断したりする際に用いられる加工法です 。
これらの基本的な加工方法をマスターし、それぞれの特性を理解することで、より複雑な形状の製品にも対応できるようになります。
旋盤加工における汎用旋盤とNC旋盤の使い分けとコツ
旋盤には大きく分けて、作業者が手動で操作する「汎用旋盤」と、プログラムによって自動で加工を行う「NC旋盤」の2種類があります 。それぞれの特徴を理解し、製品の形状、数量、求められる精度に応じて適切に使い分けることが、生産性と品質を両立させる鍵となります 。
汎用旋盤の特徴と得意な加工
汎用旋盤は、作業者がハンドル操作で刃物の送りや切り込み量を調整するため、一点ものの試作品や、都度寸法の確認が必要な修正加工、多品種少量生産に非常に向いています 。手動ならではの柔軟性があり、加工中の微調整や急な仕様変更にも即座に対応できるのが最大のメリットです ただし、加工精度は作業者のスキルや経験に大きく依存するため、安定した品質を保つには熟練の技術が求められます 。複雑な形状の加工にはあまり向いていません 。
参考)NC旋盤と汎用旋盤の違いをどこよりも詳しく解説 - 岡崎精機…
NC旋盤の特徴と得意な加工
NC旋盤は「Numerical Control(数値制御)」の略で、事前に作成したプログラムに基づいて自動で加工を行います 。一度プログラムを設定すれば、同じ形状の製品を高い精度で、かつ均一な品質で大量に生産できるため、量産加工に絶大な威力を発揮します 。プログラムでμm(マイクロメートル)単位の精密な制御が可能なため、複雑な形状の加工も得意です 。一方で、プログラム作成に時間と専門知識が必要であり、段取り替えにも手間がかかるため、単品加工には不向きと言えるでしょう 。
参考)NC旋盤とは?汎用旋盤との大きな違いを解説!
以下の表は、汎用旋盤とNC旋盤の主な違いをまとめたものです。
項目 |
汎用旋盤 |
NC旋盤 |
操作方法 |
手動 |
プログラムによる自動制御 |
得意な加工 |
単品、試作品、修正加工 |
量産品、複雑形状の加工 |
加工精度 |
作業者のスキルに依存 |
高く、均一な品質を維持しやすい |
柔軟性 |
高い(加工中の修正が容易) |
低い(プログラムの修正が必要) |
使い分けのコツ💡
- 試作品や1個だけの加工 → 汎用旋盤
- 同じものを100個作る → NC旋盤
- 加工の途中で何度も寸法を確認・修正したい → 汎用旋盤
- 人間では難しい複雑な曲線や形状の加工 → NC旋盤
このように、それぞれの旋盤の長所と短所を理解し、目的や状況に応じて最適な機械を選択することが、効率的で高品質なものづくりに繋がるのです。
旋盤加工の精度を向上させる切削条件と意外なコツ
旋盤加工において、製品の寸法精度や表面のきれいさ(面粗度)を決定づけるのが「切削条件」です。切削条件は主に「切削速度」「送り量」「切り込み深さ」の3つの要素から成り立っており、これらのバランスを最適化することが高精度加工の鍵となります 。
切削条件の3大要素
- 切削速度 (Vc): 工作物が回転する周速のことで、加工面の美しさや工具寿命に大きく影響します 。計算式は「Vc (m/min) = π × D × N / 1000」(D:工作物直径, N:主軸回転数)で求められます。一般的に、切削速度が速いほど仕上げ面はきれいになりますが、工具の摩耗は早くなります 。
- 送り量 (f): 主軸が1回転する間にバイトが移動する距離のことです 。送り量が小さいほど加工面は滑らかになりますが、加工時間は長くなります。逆に大きくすると加工時間は短縮できますが、面は粗くなります。
- 切り込み深さ (ap): バイトが工作物にどれだけ深く食い込むかを示す量です 。切り込みが深いほど加工能率は上がりますが、切削抵抗が大きくなり、機械や工具への負担が増え、びびりや寸法誤差の原因にもなります 。
これらの条件は、ワークの材質(硬さ)、使用する工具(材質、刃先の形状)、機械の剛性などに応じて調整する必要があります。例えば、硬い材質を加工する場合は切削速度を遅くし、柔らかい材質なら速くするのが基本です 。
参考)旋盤加工で起こるトラブルを抑える方法とは? - 精密部品加工…
精度を向上させる意外なコツ✨
教科書通りの切削条件だけでは、なかなか超えられない精度の壁があります。ここでは、熟練工が実践しているような、一歩進んだ精度向上のコツを紹介します。
- 荒加工と仕上げ加工を分ける: これは基本ですが非常に重要です。荒加工で大まかに削り、内部応力を解放させた後、仕上げ代(0.1mm~0.3mm程度)を残して、最後に精密に仕上げることで熱変形や歪みを最小限に抑えます 。
- 切削油の適切な使用: 切削油は潤滑や冷却だけでなく、切りくずの排出を助ける重要な役割も担っています。特に、ねじ切りや深穴加工など、切りくずが詰まりやすい加工では、切削油を適切な箇所に十分供給することで、加工面のむしれや工具の損傷を防ぎ、精度が安定します。
- バイトの突き出し量は最小限に: バイトの突き出し量が長いと、切削抵抗によってたわみやすくなり、「びびり」や寸法誤差の原因となります 。できる限り短く、剛性を高く保つことが基本です。一般的に、シャンク(バイトの胴体部分)の幅の1.5倍以内が目安とされています 。
- 薄肉ワークは「掴み」を工夫する: 薄肉のパイプなどを加工する際、チャックで強く掴みすぎるとワークが変形してしまいます。このような場合は、チャックの爪圧を調整したり、「生爪」をワークの形状に合わせて成形して使用したりすることで、変形を防ぎつつ確実に固定できます 。
これらの要素を総合的に考慮し、トライアンドエラーを繰り返しながら最適な条件を見つけ出すことが、高精度な旋盤加工への道です。
旋盤加工を安全に行うための服装と作業前の重要チェック項目
旋盤は便利な工作機械ですが、一歩間違えれば重大な事故につながる危険性もはらんでいます。安全に作業を行うためには、正しい服装と作業前の点検を徹底することが不可欠です 。
安全のための服装 👕
旋盤作業で最も危険なのは「巻き込まれ」事故です。回転するチャックや工作物に、服の袖や手袋などが巻き込まれると、大怪我につながる可能性があります。
- 作業着: ダボダボの服は避け、体にフィットしたものを選びます。袖口がきちんとしまるものが望ましいです 。
- 手袋は絶対禁止: 軍手などの手袋は、糸が回転部に絡みつきやすく、手を巻き込まれる原因となるため、旋盤作業中は絶対に使用してはいけません 。
- 保護メガネ: 切削中に飛散する切りくずから目を守るため、保護メガネは必ず着用します 。切りくずは高温で鋭利なため、失明の危険もあります。
- 安全靴: 重量のある材料や工具を足の上に落としてしまった場合に備え、つま先に芯の入った安全靴を履きましょう 。
- 帽子の着用: 長い髪は回転部に巻き込まれる危険があるため、必ず帽子の中に入れて作業します 。
作業前の重要チェック項目 ✅
事故を未연に防ぐためには、作業を開始する前の点検が非常に重要です。
- 機械周辺の整理整頓: 足元に物があると、つまずいて旋盤に手をついてしまうなど、予期せぬ事故の原因になります。作業スペースは常に清潔に保ちましょう 。
- チャックハンドルの確認: チャックハンドルをチャックに取り付けたまま主軸を回転させると、ハンドルが飛んできて非常に危険です。作業前、作業中、作業後は必ずチャックからハンドルを外す癖をつけましょう 。
- 刃物(バイト)の確認: バイトが刃物台にしっかりと固定されているか、刃先に欠けがないかを確認します。
- 試運転: 材料を取り付ける前に、一度低い回転数で試運転を行い、異音や異常な振動がないかを確認します 。
- 安全装置の確認: 緊急停止ボタンが正常に機能するか、切りくず飛散防止カバーが正しく設置されているかなど、安全装置が有効であることを確認します 。
下記の参考リンクでは、厚生労働省が公開している資料で、旋盤作業における具体的な危険性や、法的な安全基準についてさらに詳しく確認できます。
参考リンク:より詳細な安全対策について
厚生労働省:機械の包括的な安全基準に関する指針
「これくらい大丈夫だろう」という油断が大きな事故を招きます。常に危険を予測し、安全確認を怠らないことが、自分自身と同僚を守る上で最も大切なことです。
【独自視点】熟練工も悩む「びびり」の根本原因と明日からできる対策
旋盤加工において、加工面にさざ波のような模様が残ったり、「キーッ」という不快な音が発生したりする現象、それが「びびり( chatter vibration )」です。びびりは製品の寸法精度や面粗度を著しく悪化させるだけでなく、工具の寿命を縮める原因ともなり、多くの加工者を悩ませる厄介な問題です 。ここでは、びびりの根本原因を深掘りし、明日から現場で試せる具体的な対策を解説します。
びびりの正体は「自励振動」
びびりの根本的な原因は、工作物、工具、そして工作機械そのものが持つ固有の振動数と、切削抵抗によって発生する強制的な振動が共鳴してしまう「自励振動」と呼ばれる現象です。一度びびりが発生すると、切削厚さが周期的に変動し、その変動がさらに新たな振動を生み出すという悪循環に陥ります。
びびりは、以下の3つの要素が複雑に絡み合って発生します。
- 工作物(ワーク)の剛性不足: 細長い形状や薄肉のワークは、切削抵抗に負けてたわみやすく、びびりの主な原因となります 。
- 工具の剛性不足: バイトの突き出し量が長すぎたり、刃先の形状が不適切だったりすると、工具が振動しやすくなります 。
- 工作機械の剛性不足: 機械自体の剛性が低い、または長年の使用により摺動面(しゅうどうめん)やベアリングが摩耗している場合も、びびりの一因となります。
びびりを抑制する具体的な対策
びびりの原因は一つではないため、対策も多角的にアプローチする必要があります。「切削条件を変える」という一般的な対策だけでなく、ここではより踏み込んだ方法を紹介します。
- 切削条件の変更(基本): まずは基本に立ち返り、切削条件を見直します 。
- 主軸回転数を変える: 最も手軽で効果的な方法です。びびりが発生している回転数から、敢えて上げるか下げるかして、共振点から外します。一般的に、回転数を下げると効果が出やすいです 。
- 送り量を変える: 送りを上げることで、刃先の食いつきが安定し、びびりが収まることがあります。
- 切り込み深さを変える: 薄肉加工では、切り込み深さを浅くすることで、ワークの変形を抑えられます 。
- 工具の選定とセッティング(中級): 工具周りの見直しも重要です。
- ノーズ半径の小さいチップを選ぶ: バイトの刃先の丸み(ノーズ半径)が大きいと切削抵抗(特に背分力)が増加し、びびりやすくなります。可能な範囲でノーズ半径の小さいチップに変更してみましょう。
- ポジティブな刃形状のチップを選ぶ: スクイ角がプラス(ポジティブ)のチップは切れ味に優れ、切削抵抗が低いため、びびりの抑制に効果的です。
- 防振機能付きの工具を使用する: コストはかかりますが、内径加工などで突き出し量が長くなる場合は、内部にダンパーが組み込まれた「防振ボーリングバー」が絶大な効果を発揮します。
- 工作物の保持方法の工夫(上級): 意外と見落としがちなのが、ワークの掴み方です。
- 芯押し台でサポートする: 長尺のワークを加工する場合、芯押し台の回転センターで先端を支持することで、ワークのたわみを劇的に改善できます 。
- 振れ止め(ステディレスト)を使用する: さらに細長いワークの場合は、中間部分を「振れ止め」で支持することで、加工中の振動を抑え込みます。
- チャッキング位置を変える: ワークを掴む位置を少しずらすだけで、ワーク全体の剛性バランスが変わり、びびりが収まることがあります。
びびりは非常に奥深い現象であり、絶対的な解決策はありません。しかし、その根本原因である「剛性不足」と「共振」を常に意識し、今回紹介したような対策を一つずつ試していくことで、必ず解決の糸口は見つかるはずです。諦めずに様々なアプローチを試みることが、びびりを克服し、一流の旋盤工へと成長するための道筋となるでしょう。
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