リスクアセスメントやり方を化学物質管理で確実に実践する手順

金属加工現場で欠かせない化学物質のリスクアセスメントのやり方を、SDSの読み方からCREATE-SIMPLEの活用まで5ステップで徹底解説。2026年法改正による対象物質拡大にあなたの現場は対応できていますか?

リスクアセスメントのやり方を化学物質管理で正しく実践する

切削油は「管理しなくていい」と思っていたら、50万円の罰金リスクがあります。


この記事の3つのポイント
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法改正で対象物質が急増中

2026年4月に対象物質が約2,900種類に拡大。これまで「規制外」だった切削油・洗浄剤も新たに対象となる可能性があり、早急な対応が必要です。

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やり方は5ステップで完結

SDSによる有害性特定→ばく露見積もり→リスクレベル判定→低減措置の検討・実施→記録と周知。この流れを覚えれば現場でそのまま使えます。

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無料ツールで手間を大幅削減

厚生労働省提供の「CREATE-SIMPLE」なら、濃度を測定しなくても選択肢を選ぶだけでリスクを見積もれます。金属加工現場でも活用事例が増えています。


リスクアセスメントとは何か:金属加工現場での基本概念

リスクアセスメントとは、作業場で取り扱う化学物質が持つ「危険性」や「有害性」を洗い出し、それが実際に災害や健康障害につながる可能性(リスク)を定量的に見積もり、優先度をつけて対策を講じる一連のプロセスのことです。金属加工現場では、切削液・有機溶剤剤・研削粉じんなど、多種多様な化学物質が日常的に使われています。これらは「慣れているから大丈夫」と見落とされがちですが、長期的なばく露による健康障害を引き起こすリスクがあります。


実は、労働災害の約8割は法令で厳しく規制されていなかった「規制対象外」の物質が原因であったことが厚生労働省のデータで明らかになっています。つまり、特化則(特定化学物質障害予防規則)や有機則の対象になっていない物質でも、重大な事故は起きているということです。


リスクアセスメントが必須という認識は基本です。


2016年6月1日、労働安全衛生法の改正によって化学物質のリスクアセスメントが義務化されました。さらに2024年4月の全面施行では「自律的な化学物質管理」への移行が求められ、国が個別に規制する体制から、事業者自らが危険有害性を評価・管理する体制へと大きく変わっています。金属加工業であっても、業種・規模に関わらず対象となるため、未対応のままでは労働基準監督署の指導を受けるリスクがあります。


法改正の流れ 内容
2016年6月 化学物質リスクアセスメントの義務化(約640物質)
2024年4月 自律的な化学物質管理へ移行・化学物質管理者の選任義務化
2026年4月 対象物質が約2,900種類へ大幅拡大(予定)


金属加工現場では今すぐ自社の取扱物質リストを見直す必要があります。まずは現場で使っているすべての化学品のSDSを集めることが、第一歩です。


参考:厚生労働省による金属加工作業のリスクアセスメントについて詳しく解説されています。


職場のあんぜんサイト:金属加工作業におけるリスクアセスメントのすすめ方(厚生労働省)


リスクアセスメントの対象物質の特定:SDSとGHSラベルの見方

リスクアセスメントの出発点は、自社の現場で使っているすべての化学物質を洗い出し、リスクアセスメント対象物に該当するかどうかを確認することです。これが意外と抜け漏れが多い工程で、補助材料や清掃用洗剤なども対象になるケースがあります。


対象物質の見分け方は、SDS(安全データシート)の第15項「適用法令」欄を確認することです。


  • 「名称等を表示すべき危険物及び有害物」に記載がある → ラベル表示義務あり → リスクアセスメント義務あり
  • 「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に記載がある → SDS交付義務あり → リスクアセスメント義務あり
  • 上記いずれにも記載がない → 義務化対象外(ただし努力義務)


SDSは取引先から入手するのが原則です。


GHSラベルには、炎・ドクロ・感嘆符などの絵表示(ピクトグラム)が印刷されており、一目で危険有害性の種類が判断できます。金属加工現場でよく使われる切削油の中には、皮膚感作性(アレルギー)や発がん性が疑われる成分を含むものも少なくありません。SDSの第2項「危険有害性の要約」で、GHS分類の結果(区分1〜区分4など)を必ず確認してください。


2026年4月1日以降、対象物質はさらに約2,900物質へと大幅に拡大する予定で、これまで対象外だった物質も新たに含まれます。これまで「SDS? うちには関係ない」と考えていた現場でも、今すぐ対応を始める必要があります。これは危急の問題です。


参考:リスクアセスメント対象物の最新一覧や、CAS番号から対象物かどうか確認できる便利なページです。


ケミサポ:リスクアセスメント対象物に該当するか確認(労働者健康安全機構)


化学物質リスクアセスメントのやり方:5ステップで実践する手順

化学物質のリスクアセスメントは、大きく5つのステップで進めます。金属加工現場を例に、各ステップの実務的なポイントを解説します。


ステップ1:危険性・有害性の特定(ハザードの洗い出し)


まず、対象となる化学物質のSDSを入手し、第2項のGHS分類を確認します。「引火性液体」「皮膚腐食性・刺激性」「発がん性」「生殖毒性」などの項目をチェックしてください。次に、「どの作業でどのようなルートで体内や設備に影響が出るか」というシナリオを作ります。たとえば切削加工作業であれば、「ミストを長時間吸い込む」「皮膚に直接付着する」「廃液処理中に引火する」などが考えられます。シナリオの洗い出しが丁寧であるほど、後続のリスク評価の精度が上がります。


ステップ2:ばく露の見積もり(リスクの程度を数値で評価する)


特定した有害性について、作業者が実際にどの程度ばく露するかを推計します。厚生労働省が無料で提供している「CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」が便利です。


  • 化学物質の取扱量(例:少量=100mL未満〜多量=10L以上など)
  • 換気条件(密閉・局所排気あり・全体換気・屋外など)
  • 作業時間・頻度
  • 保護具の使用状況


これらの情報を入力するだけで、吸入ばく露・経皮吸収・危険性(火災・爆発)の3種類のリスクを自動で見積もってくれます。濃度の実測が不要なので、現場担当者でも即日対応できます。これは使えそうです。


ステップ3:リスクレベルの判定(優先順位付け)


リスクは「危害の重篤度(重大・中程度・軽度・ほぼ無害)」と「発生の可能性(高・中・低)」を掛け合わせて判定します。マトリクス法や数値化(点数法)を使うと評価のばらつきが少なくなります。ランク分けよりも点数法の方がリスク低減に効果的という研究結果もあります。


ステップ4:リスク低減措置の検討と実施


優先度の高いリスクから順に対策を検討します。低減措置には優先順位があり、下記の順番で検討することが原則です。


  • ①本質的対策(危険な物質を使わない・危険な工程を廃止する)
  • ②工学的対策(局所排気装置の設置・密閉化)
  • ③管理的対策(作業手順書の整備・ばく露時間の短縮)
  • ④保護具(防毒マスク・耐薬品性手袋の着用)


保護具はあくまで最後の手段が原則です。現場でよくある「取りあえず手袋をしておけばOK」という対応は、本来の優先順位の逆順になっています。


ステップ5:記録・保存と労働者への周知


実施したリスクアセスメントの結果と講じた措置は記録として残し、労働者に周知することが義務です。記録の保存期間は原則3年間、がん原性物質については30年間の保存が必要です。この記録が後の監督署調査への対応や、作業手順書の改訂にも役立ちます。


参考:厚生労働省によるリスクアセスメントの導入・実施手順や事例集がまとめられたページです。


厚生労働省:リスクアセスメントのすすめ方(PDF)


CREATE-SIMPLEを活用した金属加工現場でのリスク見積もり実践

CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)は、厚生労働省が開発した化学物質リスクアセスメント支援ツールで、無料でダウンロードして使用できます。特に「専門的な知識がなくても使える」「濃度を実測しなくていい」という点が、金属加工現場の担当者から好評を得ています。


具体的な使い方の流れは次のとおりです。まず対象となる化学物質のCAS番号や物質名を入力します。次に取扱量・含有率・換気条件・作業時間・保護具の有無などを選択肢から選ぶだけで、自動的にリスクレベルが「レベルⅠ(許容範囲)〜レベルⅣ(緊急対応が必要)」の4段階で表示されます。吸入ばく露・経皮吸収・引火爆発の3つのリスクを同時に評価できるのが大きな強みです。


金属加工の例を挙げます。たとえば切削加工で「水溶性切削液(ある特定成分がリスクアセスメント対象)」を使っている場合、ミストが発生する工程では吸入ばく露リスクが高くなります。CREATE-SIMPLEで換気条件を「局所排気なし・全体換気のみ」と入力すれば、リスクレベルが高く算出され、局所排気装置の設置が推奨されるという判断が得られます。


実測データがなくても進められるのが基本です。


ただし、CREATE-SIMPLEはあくまで「簡易推定ツール」です。リスクレベルが高い物質や、作業環境測定の結果を詳しく精査したい場合は、作業環境測定士や労働安全コンサルタントといった外部の専門家に相談することも検討してください。特に濃度基準値が設定されている物質については、個人ばく露測定による実測が2026年10月以降に義務化されることも視野に入れておきましょう。


参考:CREATE-SIMPLEの詳細な使い方が説明されているページです。実際にダウンロードして使用する際の参考になります。


職場のあんぜんサイト:化学物質のリスクアセスメント実施支援 CREATE-SIMPLE(厚生労働省)


リスク低減措置の優先順位と金属加工現場での実践的な対策例

リスクアセスメントの結果を受けて、実際にどんな対策を打つかが最重要です。金属加工現場でよく見られるリスクごとに、具体的な低減措置を解説します。


🔹 切削液・研削液(ミストによる吸入リスク)


金属の切削・研削加工では、切削液が霧状になって空気中に浮遊します。長期的な吸入によって職業性喘息や皮膚炎が発症するリスクがあります。まず工学的対策として局所排気装置(フード型の排気設備)の設置が最優先です。局所排気装置を設置するだけで、ばく露濃度が基準値以下に下がるケースも多くあります。それでも対応が難しい場合は、防じん機能付きの保護マスク(DS2規格以上)の着用を徹底します。


🔹 有機溶剤(洗浄・脱脂作業での吸入・皮膚吸収リスク)


部品の洗浄や脱脂作業で使うトルエン・キシレン・酢酸エチルなどは、揮発性が高く吸入リスクが大きい物質です。代替品として水系洗浄剤への切り替えが本質的対策として最も効果があります。切り替えが難しい場合は、洗浄槽を密閉化する・局所排気装置を設置する・作業時間を短縮する、という工学的・管理的対策を組み合わせます。経皮吸収対策として耐溶剤性手袋(ニトリルゴム製など)の着用も必須です。


🔹 防錆剤・表面処理剤(皮膚腐食性・発がん性リスク)


防錆油や表面処理剤には、皮膚腐食性のある酸・アルカリや、発がん性が疑われる成分を含むものがあります。取扱説明書(SDS)に記載された保護具の種類(耐薬品手袋・保護眼鏡・防護服など)を必ず確認し、適切な保護具を選定・支給してください。「使い慣れてるから大丈夫」は通用しません。


保護具の選定が適切であることが条件です。防毒マスクの吸収缶の種類(有機ガス用・酸性ガス用など)と使用可能時間(破過時間)を正しく把握していない場合、保護具をしていても意味がなくなります。吸収缶の交換時期は製品ごとに異なるため、SDS第8項「ばく露防止及び保護措置」を必ず参照してください。


🔹 金属粉じん(爆発・肺障害リスク)


アルミ・マグネシウムの研削では爆発性の高い金属粉じんが発生します。粉じんが堆積した状態での溶接・切断作業は、重大な爆発事故につながるリスクがあります。集じん機の定期的な清掃と、粉じん爆発に対応した防爆型集じん機の使用が不可欠です。


参考:化学物質に関連したリスク低減の事例と具体的な対策が掲載されています。


厚生労働省:化学物質による労働災害防止のための新たな規制について


【見落としに注意】金属加工現場だけの独自リスクと2026年対応の盲点

多くの解説記事では取り上げられていない、金属加工現場特有の「見落としやすいリスク」と、2026年の法改正に向けた盲点を紹介します。


副生成物・分解生成物もリスクアセスメントの対象になる


金属加工現場では、使用している化学物質そのものだけでなく、作業中に発生する副生成物や分解生成物もリスクアセスメントの対象になります。これは意外ですね。


たとえば切削液は、長期使用によって細菌が繁殖しニトロソアミンなどの発がん性物質を生成する場合があります。また、ステンレス鋼や特殊合金の研削では、六価クロムニッケル化合物などの有害な金属粉じんが発生することがあります。原材料の化学物質だけを見ていては、こうしたリスクを見落とします。作業中に何が生成されるかを事前に確認することが重要です。


非定常作業のリスクが見過ごされている


日常的な切削・研削作業のリスクアセスメントはできていても、機械の定期メンテナンスやトラブル対応時の「非定常作業」でのリスクが抜け落ちているケースが多くあります。機械内部の洗浄や廃液・スラッジの処理作業では、通常時と異なる化学物質に、より高濃度でばく露するリスクがあります。非定常作業も必ずリスクアセスメントに含めることが条件です。


2026年4月対応の盲点:今すぐ化学物質リストの棚卸しを


2026年4月に対象物質が約2,900種類に拡大されましたが、自社で使っている化学物質のすべてがリスクアセスメント対象に該当するかどうか、把握できているでしょうか。


特に見落とされがちなのが、機械メーカーから指定された潤滑油・グリース類、金型離型剤、マーキング用インク、清掃用洗剤などです。これらは「日用品感覚」で購入・使用されることが多いですが、実はリスクアセスメント対象物質を含んでいる場合があります。


対策としては、現場で使っているすべての化学品(容器・缶・ボトル)について製品名・メーカーを一覧にし、各メーカーにSDSの最新版を請求することが最初の一歩です。SDSの入手が困難な場合は、NITE(製品評価技術基盤機構)が運営する「化学物質総合情報提供システム(CHRIP)」でも情報を検索できます。


参考:対象物質の拡大を含む2026年の法改正内容が詳しく解説されています。


スマートSDSジャーナル:【2026年最新】労働安全衛生法改正まとめ