き裂長さが1.0mmに達する前に試験を止めると、JIS規格上の「き裂発生」と認定されません。
金属加工の現場では、材料の「強度」は意識しても、「熱疲労」への耐性を数値化して比較している人はまだ多くありません。JIS Z 2278「金属材料の熱疲労試験方法」は、1992年に制定された日本産業規格(旧:日本工業規格)で、熱疲労に対する材料間の優劣比較や材料選択を目的として定められています。
熱疲労とは、加熱と冷却が繰り返されることで材料に熱応力が周期的にかかり、疲労き裂が発生・進展して最終的に破壊に至る現象です。エンジン周辺部品・ダイカスト金型・高温流体が流れる配管・タービンブレードなど、温度変化が生じる部材はすべてこの脅威にさらされています。
この規格の大きな特徴は「内部拘束形」の試験方法であるという点です。試験片が高温域と低温域を往復する際、試験片の内部に生じる熱応力そのものが拘束力となる設計になっています。外部から機械的な荷重を加えるのではなく、温度差が直接応力を生み出す仕組みです。つまり実機の使用環境に近い条件を再現できます。
機械・構造物の破損要因の約80%は疲労破壊が占めるとされています(参考:IHI検査計測株式会社技術資料)。熱環境下で使用される金属部品であれば、この数字はさらに重みを増します。材料選定の段階でJIS Z 2278に基づく試験結果を参照することは、製品の信頼性を高める上で非常に有効です。
JIS Z 2278 金属材料の熱疲労試験方法(全文)- kikakurui.com
なお、2019年7月1日の法改正により名称が「日本工業規格」から「日本産業規格」へ変更されています。既存の文書内の表記を読み替えが必要ですが、規格の内容自体は変わっていません。これが原則です。
試験片の形状は、JIS Z 2278によって厳密に定められています。原則として「円盤形」または「短冊形」で、断面がそろばん玉状になっているものが規定形状です。この独特の形状には理由があります。断面をそろばん玉状(くびれた形)にすることで、き裂の発生が最も先端部分に集中するよう設計されているのです。
先端部分の表面品質は試験結果に直接影響します。JIS Z 2278では、き裂の発生が予想される試験片の先端部表面について「滑らかで、加工きずなどがあってはならない」と明記されています。これは単なる仕上げの問題ではありません。加工きずが残っていると、そこが応力集中点となり、本来より早い段階でき裂が発生してしまいます。正確な材料間比較ができなくなるということです。
加工きずの影響は数値にも表れます。表面粗さが粗いと疲労寿命が数十%以上短くなることが実験でも確認されており、試験片の加工精度は試験結果の信頼性を左右する重要な要素です。これは使えそうな知識ですね。
試験片の採取位置や製造履歴も報告書に記載が必須となっています。同じ鋼種でも、熱処理条件や化学成分のわずかな差が熱疲労特性に影響するため、後から比較・参照できるよう情報を整理しておく必要があります。
規定の形状・寸法の試験片を採取できない場合は、受渡当事者間の協定によって別途定めることができます。ただし、協定が必要という点に注意が必要です。独断で変更してよいものではありません。
試験装置については、JIS Z 2278に具体的な性能要件が定められています。高温領域と低温領域のそれぞれに試験片を一定時間保持できる構造が必要で、試験片を自動的かつ速やかに2つの領域間で移動できなければなりません。
特に注目したいのが、温度到達時間の規定です。試験片を移動させた後、高温側の温度には30分以内、低温側の温度には5分以内に試験片全体が到達できることが要件とされています。高温側と低温側で到達時間の規定が異なるのは意外ですね。冷却の方が速く均一化する必要があるため、要求がより厳しくなっています。
温度の精度については、設定温度が100℃以上の場合は±5℃以内、100℃以下の場合は±10℃以内が許容範囲です。水冷による冷却を行う場合は30℃以下まで冷却することが規定されています。この温度管理が不正確な装置で試験を行っても、JIS規格に準拠した結果とは言えません。
| 条件項目 | 規定内容 |
|---|---|
| 高温側到達時間 | 試験片移動後30分以内 |
| 低温側到達時間 | 試験片移動後5分以内 |
| 温度精度(100℃以上) | 設定温度±5℃以内 |
| 温度精度(100℃以下) | 設定温度±10℃以内 |
| 水冷時の冷却目標 | 30℃以下 |
複数の試験片を一括で試験することも認められていますが、条件があります。試験片が不均一に加熱・冷却されたり、熱容量が大きすぎて温度到達時間が規定より長くなってはならないという制約があります。試験効率を上げようとして試験片を詰め込みすぎると、かえって規格外の試験になる恐れがあります。これは注意が必要ですね。
疲労試験の種類・方法・JIS規格を詳しく解説(神戸工業試験場)
熱疲労試験において、「き裂が発生した」とはどの時点を指すのか。この定義がJIS Z 2278では明確に決められています。試験片の先端からき裂先端までの直線距離が原則1.0mm以上のき裂が確認された時点が「き裂発生」です。
1.0mmというのは、ちょうど鉛筆の芯の直径(0.5mmの2倍)程度の長さです。目視ではとても判断しにくいため、JIS Z 2278では顕微鏡を使った確認を義務付けています。試験を中断して室温まで冷却してから顕微鏡観察を行うという手順が規定されています。
試験を中断する間隔については、「き裂発生繰返し数の10%程度を目安とする」とされています。つまり、最終的なき裂発生までの繰り返し数をある程度予測しながら試験を進める必要があります。あらかじめき裂発生繰り返し数が予想される場合は、その近くまで連続して試験することも認められています。
き裂発生の定義は受渡当事者間の協定によって変更することも可能です。しかし、協定なく独自のき裂長さ基準で試験を行うと、他の材料データとの比較ができなくなります。材料選定の比較に使うのであれば、原則1.0mmの基準を守ることが条件です。
報告書には次の情報を記載しなければなりません。
この記録を残すことが、後々の材料トレーサビリティにもつながります。き裂発生繰返し数だけでなく、「その直前の状態」も記録する点がJIS規格の丁寧なところです。
JIS Z 2278に基づく熱疲労試験の結果が最もダイレクトに役立つのは、複数材料の優劣比較と材料選定の場面です。たとえばダイカスト金型では、アルミ溶湯の充填時(約650〜680℃)から離型剤の塗布による急冷までの温度差が非常に大きく、500〜10,000ショットの範囲で熱疲労亀裂(ヒートチェック)が発生することがあります。
ヒートチェックは表面に亀甲状のき裂が発生する現象で、金型の寿命を著しく短縮させます。この現象への耐性を数値化するために、JIS Z 2278に基づく熱疲労試験が活用されています。熱間工具鋼の代表鋼種であるSKD61(JIS)と、高温強度・靭性を向上させた改良鋼種を比較することで、材料の優劣を客観的に評価できます。
ただし、熱疲労試験の結果だけで材料を選定するのは早計です。熱疲労特性に加えて、硬さ・靭性・焼戻し軟化抵抗・熱伝導率なども合わせて評価する必要があります。特にアルミニウム合金は線膨張係数が鉄系材料の約2倍あるため、大きな熱応力が発生しやすく、エンジン部品やシリンダーヘッドなど自動車部品での設計では熱疲労特性の確認が欠かせません。
アルミニウム合金鋳物の熱疲労特性評価(豊田中央研究所テクニカルレビュー)
なお、JIS Z 2278では材料間の「優劣比較」と「材料選択」を目的としており、絶対的な寿命予測には直接使えない点も覚えておいてください。実際の部品寿命を予測するには、熱機械疲労試験(TMF試験)など、温度と機械的ひずみを同時に制御できる別の試験方法を組み合わせることが有効です。
また、高温低サイクル疲労の評価にはJIS Z 2279「金属材料の高温低サイクル疲労試験方法」が対応しており、ひずみ範囲制御下での一軸引張・圧縮試験として規定されています。タービンブレードや圧力容器など、耐力以上の局所的塑性変形が生じる高温機器の設計でも重要です。
JIS Z 2279 金属材料の高温低サイクル疲労試験方法の解説(神戸工業試験場)
自社に熱疲労試験装置がない場合、専門の試験機関に受託依頼する方法があります。熱疲労試験は特殊な装置と管理体制が必要なため、大学や研究機関、民間の試験サービス会社に外注するケースがほとんどです。
受託試験を依頼する際に確認すべき点がいくつかあります。まず「JIS Z 2278に準拠した試験が可能か」を明示的に確認することが重要です。熱疲労試験という名称だけでは、試験方法や条件が異なる可能性があります。JIS規格準拠かどうかで、他のデータとの比較可能性が変わります。
次に試験条件の打ち合わせです。JIS Z 2278では試験の温度条件(高温側・低温側)や保持時間は規格が決めるのではなく、試験の目的に応じて設定します。実際の使用環境に近い温度差を設定することが材料選定精度を高めます。担当者との事前協議が品質に直結するということです。
試験期間については、熱疲労試験は1回のサイクルごとに温度均一化のための保持時間が必要なため、高サイクル疲労試験に比べて1試験あたりの所要時間が長くなる傾向があります。1試験体で数百〜数千サイクルを要することもあり、余裕をもったスケジュールが必要です。
受託試験機関のひとつである神戸工業試験場では、JIS Z 2278に基づく熱疲労試験を含む各種疲労試験の受託サービスを提供しています。試験方法が分からない場合も、ヒアリングを通じて最適な試験方法を提案してもらえる体制があります。試験機関への相談から始めることで、無駄な試験コストを抑えることができます。
神戸工業試験場の受託試験サービス一覧(疲労試験・クリープ試験ほか)
熱疲労試験は「一度やれば終わり」ではありません。材料変更・製造条件変更・用途変更などが生じた際には再試験が必要になる場合があります。試験データを社内に蓄積・管理する習慣が、長期的な品質コスト削減につながります。データの蓄積が条件です。