メッキ処理の種類と方法
この記事でわかること
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メッキの基本原理
なぜ金属の膜がつくのか、その科学的な仕組みと目的を解説します。
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主要なメッキの種類
一般的な「湿式」と特殊な「乾式」の違い、それぞれの特徴を学びます。
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品質を決める重要工程
メッキの仕上がりを左右する、見過ごされがちな「下地処理」の重要性に迫ります。
メッキ処理の基本的な原理と目的
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メッキ処理とは、金属または非金属の材料の表面に、金属の薄い膜(皮膜)を形成する表面処理技術の一種です 。その基本的な原理は、金属イオンを含む溶液や気体中で、化学的または電気的な作用を利用して金属イオンを還元させ、材料の表面に金属として析出させることにあります 。例えば、電気メッキでは、メッキしたい製品を陰極(マイナス極)、皮膜にしたい金属を陽極(プラス極)として電流を流すことで、溶液中の金属イオンが製品表面に引き寄せられて皮膜を形成します 。
メッキを施す目的は多岐にわたりますが、主に以下の3つに大別されます。
- 機能性の付与:製品に元々ない機能を付け加える目的です 。例えば、鉄製品に亜鉛メッキを施して錆びにくくする(耐食性向上)、プラスチック部品にメッキをして電磁波をシールドする(導電性付与)、機械の摺動部に硬質クロムメッキを施して摩耗しにくくする(硬度・耐摩耗性向上)といった使われ方があります 。
- 装飾性の向上:美しい光沢や色調を与え、製品の見た目を良くする目的です 。自動車のエンブレムやアクセサリーに施されるクロムメッキや金メッキが代表的です 。
- 寸法精度の調整:摩耗した機械部品を、メッキによって元の寸法に復元(肉盛り)する目的でも利用されます。
このように、メッキは単なる飾りではなく、製品の性能や寿命を大きく向上させるための重要な技術なのです 。
メッキ処理の主な種類:湿式と乾式の違い
メッキ処理は、その加工方法から大きく「湿式メッキ」と「乾式メッキ」の2種類に分類されます 。現場で「メッキ」と言う場合、そのほとんどは「湿式メッキ」を指します 。
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【湿式メッキ】
金属イオンを含んだ水溶液(メッキ液)の中に製品を浸して皮膜を形成する方法です 。化学反応を利用するため、複雑な形状の製品にも比較的均一にメッキできるのが特徴です。湿式メッキは、さらに原理の違いによって主に以下の3つに分けられます。
参考)メッキ加工とは?目的・種類・特徴と処理のやり方や工程を解説
- 電気メッキ(電解メッキ):外部から電気エネルギーを利用して強制的に金属イオンを還元させ、皮膜を析出させます 。皮膜の厚さを電流や時間でコントロールしやすく、様々な金属(ニッケル、クロム、銅、亜鉛など)に応用されています 。
- 無電解メッキ(化学メッキ):電気を使わず、メッキ液に含まれる還元剤の化学反応によって自己触媒的に皮膜を形成します 。電気を通さないプラスチックやセラミックスといった不導体にもメッキが可能で、膜厚の均一性に優れているのが最大のメリットです 。
- 置換メッキ:メッキしたい金属(例:鉄)と、皮膜となる金属イオン(例:銅イオン)のイオン化傾向の違いを利用する方法です。鉄が溶け出して電子を放出し、その電子を銅イオンが受け取って銅として析出します。皮膜は非常に薄くなります。
【乾式メッキ】
水溶液を使わず、真空中などで金属をガス化・イオン化させて製品の表面に付着させる方法です 。湿式メッキに比べて大掛かりな設備が必要ですが、水を使わないため環境負荷が低い、より硬質で密着性の高い皮膜が得られるといったメリットがあります。
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- 物理蒸着(PVD):真空中で金属を加熱して蒸発させ、その粒子を製品表面に堆積させます。イオンプレーティング法では、蒸発粒子をプラズマ中でイオン化し、マイナスの電圧をかけた製品に引き付けて成膜するため、非常に高密度で密着性の高い皮膜が得られます 。
- 化学蒸着(CVD):金属を含むガスを製品の周りに流し、加熱された製品表面で化学反応を起こさせて皮膜を形成する方法です。
- 溶融メッキ:亜鉛やスズなど、融点の低い金属を溶かした槽(メッキ槽)の中に製品を浸して付着させる方法です 。身近な例では、亜鉛を溶融させた「溶融亜鉛メッキ」(通称:どぶ漬けメッキ)がガードレールなどで広く使われています 。
以下の参考リンクは、メッキの分類について図解でわかりやすく解説しています。
メッキ加工とは?目的・種類・特徴と処理のやり方や工程を解説 - 株式会社太盛工業
メッキ処理の代表格「電気メッキ」と「無電解メッキ」の比較
湿式メッキの中でも、特に工業的に広く利用されているのが「電気メッキ」と「無電解メッキ」です 。両者は似ているようで、その原理と特性は大きく異なります。どちらを選ぶかによって、製品のコストや性能が大きく変わるため、その違いを理解しておくことが重要です。
参考)電解めっきと無電解めっきの原理
| 比較項目 |
電気メッキ |
無電解メッキ (無電解ニッケルメッキを例に) |
| 原理 |
外部電源を用い、電気エネルギーで皮膜を析出させる 参考)電気めっきの原理と適用 【通販モノタロウ】 。 |
化学反応(還元剤)の力で自己触媒的に皮膜を析出させる 参考)めっき加工とは?基礎知識と種類・用途をわかりやすく解説|株式… 。 |
| 膜厚の均一性 |
電流が流れやすい部分(凸部)は厚く、流れにくい部分(凹部)は薄くなる傾向がある。 |
非常に均一。複雑な形状の製品やパイプの内側にも均一な膜厚で処理可能 。 |
| 適用素材 |
基本的に導電性のある金属素材 。 |
導体・不導体を問わず、適切な前処理をすればプラスチックなどにも処理可能 。 |
| 皮膜の特性 |
使用する金属に依存する。光沢が出やすいものが多い。 |
リンやホウ素の含有率で硬度や耐食性、磁性などの特性が変わる 。 |
| 管理 |
電流密度や電圧、液組成の管理が必要。 |
pHや温度、還元剤の濃度など、化学的な液管理が複雑。 |
| コスト |
一般的に無電解メッキより安価な場合が多い。 |
薬品が高価で液管理も難しいため、比較的高価になる傾向がある。 |
例えば、精密な寸法精度が求められる金型や、複雑な形状を持つ電子部品には膜厚均一性に優れた無電解ニッケルメッキが選ばれることが多いです 。一方、コストを抑えつつ装飾性や防錆性が欲しいボルトやナット、自動車の外装部品などには電気亜鉛メッキや電気ニッケルクロムメッキが多用されます 。
メッキ処理の品質を左右する「下地処理」の重要工程
どれだけ優れたメッキ技術を用いても、その前の「下地処理(前処理)」が不十分だと、期待した品質は決して得られません 。メッキ皮膜は素材表面に直接形成されるため、表面の状態が密着性や外観に直結するからです 。不良(例:メッキの膨れ、剥がれ、ピット)の多くは、この下地処理工程に原因があると言っても過言ではありません。
参考)メッキ加工とは?4種の加工法別の特徴をメッキのプロが徹底解説…
主な下地処理の工程は以下の通りです。各工程の間には、薬品の持ち込みを防ぐために水洗工程が入ります 。
- 脱脂:製品表面に付着している油分や汚れ(プレス油、切削油、研磨剤、手脂など)を除去する最も重要な工程です 。アルカリ性の溶液に浸す「浸漬脱脂」や、電気を流してガスの力で汚れを浮かせる「電解脱脂」などが行われます 。脱脂が不完全だと、その部分だけメッキが乗らず「ハジキ」と呼ばれる不良が発生します。
- 酸洗(酸浸漬):塩酸や硫酸などの酸性の溶液に浸し、金属表面の錆や酸化膜(スケール)を化学的に溶かして除去します 。これにより、清浄な金属素地が露出し、メッキの密着性が格段に向上します 。素材や錆の状態に応じて、酸の種類や濃度、処理時間を適切に管理する必要があります。
- 活性化:メッキ液に浸す直前に、ごく薄い酸化膜などを取り除き、表面をメッキ反応が起きやすい状態にするための工程です 。
- (その他)バフ研磨:装飾目的の場合など、より平滑で光沢のある仕上がりを求める際には、メッキ前に物理的に表面を研磨する「バフ研磨」が行われることもあります 。
地味に見えるこれらの工程こそが、メッキの品質を根底から支える生命線なのです。
以下の参考リンクは、メッキの前処理から後処理までの流れを詳細に解説しています。
めっき加工とは?基礎知識と種類・用途をわかりやすく解説 - 株式会社ASKK
メッキ処理の意外な応用例と価格を左右する要因
メッキ技術は、単に金属をコーティングするだけでなく、その原理を応用したユニークな使われ方や、あまり知られていない価格決定要因が存在します。
【意外な応用例】
- ⚔️ エレクトロフォーミング(電鋳):電気メッキの技術を応用し、母型に金属を厚く析出させてから剥がすことで、メッキ皮膜そのものを製品として利用する技術です。DVDやBlu-rayディスクの原盤、電気カミソリの網刃など、非常に精密な形状の複製に使われています。
- 🦠 抗菌メッキ:銀や銅が持つ抗菌作用を利用したメッキです。ドアノブや手すり、医療機器などに使用され、衛生的な環境維持に貢献しています。銅メッキには複数のメッキ浴があり、用途に応じて最適なものが選定されます 。
- 🛰️ プラスチックメッキ:軽量なプラスチックに金属の質感と機能(導電性、硬度など)を与える技術です。自動車のグリルや内装部品、スマートフォンの筐体など、軽量化と高級感の両立が求められる分野で不可欠となっています。
- 💎 複合メッキ:メッキ皮膜中に、ダイヤモンドや炭化ケイ素(SiC)などの硬い微粒子を分散させて共析させる技術です。これにより、通常のメッキ皮膜をはるかに超える耐摩耗性が得られ、エンジンのシリンダーなどに利用されています。
【価格を左右する要因】
メッキの価格は、単に「どの金属を使うか」だけで決まるわけではありません。以下の要素が複雑に絡み合って決まります。
- 製品の形状とサイズ:小さく大量にあるネジのような製品は「バレルメッキ(ガラメッキ)」という回転する樽の中で処理され、単価は安くなります 。一方、大きく複雑な形状の製品は、一つ一つ「治具(ラック)」に吊るして処理するため、手間がかかり高価になります 。
- 素材の種類:鉄、銅、ステンレス、アルミニウムなど、素材によって下地処理の方法が大きく異なるため、手間のかかる素材は価格が上がります。
- 要求される膜厚と精度:膜厚が厚くなれば、それだけ処理時間と薬品コストがかかります。また、厳しい膜厚精度が求められる場合も管理コストが上乗せされます。
- マスキングの有無:製品の一部にメッキが付かないように保護する「マスキング」作業が必要な場合、その工数に応じて価格は上昇します。
このように、メッキの価格を見積もる際は、製品の仕様を詳細に伝えることが、正確な価格を知るための鍵となります。
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