ヘルツ接触応力の計算で軸受・歯車設計を最適化する方法

ヘルツ接触応力の計算は金属加工の設計現場で欠かせない知識です。球面・円柱面の接触形態ごとの公式から、実務で見落としがちな表面粗さや安全率の考え方まで、あなたの設計判断に直結する情報をまとめました。正しく計算できていますか?

ヘルツ接触応力の計算で軸受・歯車設計を正確に行う方法

理論通りに計算しても、現場での部品寿命が計算値の半分以下になることがあります。


この記事のポイント3選
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計算の基本公式を理解する

ヘルツ接触応力は「荷重・曲率半径・材料定数」の3要素で決まります。球面接触と円柱接触では計算式が異なるため、接触形態に合わせた式の選択が必要です。

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理論値だけでは足りない落とし穴

ヘルツ理論は「なめらかな表面・完全弾性・摩擦なし」が前提です。実際の金属表面には粗さがあり、真の接触面積は見かけの値より20〜30%小さくなる場合があります。

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安全率と許容応力の正しい設定

材料別の許容接触応力(SUJ2:約1,800 MPa、SUS440C:約1,200 MPa)に対し、安全率1.2〜1.5を設定することで、衝撃荷重や寸法ばらつきによるリスクを吸収できます。


ヘルツ接触応力の計算とは何か:基礎理論と公式の全体像

ヘルツ接触応力とは、球面同士・円柱面同士・曲面と曲面が接触したときに、その微小な接触領域に発生する局所的な応力のことです。1881年にハインリヒ・ヘルツが理論的に解析し、半無限体に分布荷重を受けるケースをもとに導いた計算式が今日まで広く使われています。


歯車の歯面・転がり軸受・カムとフォロワーなど、金属加工の現場で日常的に使われる機構の多くが、この接触応力の管理によって寿命を左右されます。つまり、ヘルツ接触応力の計算は設計の出発点といっても過言ではありません。


接触形状には主に「点接触」と「線接触」があり、それぞれ計算式が異なります。点接触はボールベアリングのような球面同士の接触、線接触はローラベアリングのような円柱面同士の接触です。接触形状を間違えた公式で計算すると、応力値が数十%単位でずれることがあります。これは設計上の重大なリスクです。


球面接触(点接触)における最大接触圧力の計算


2つの球が接触する場合、換算ヤング率 E* と換算半径 R* を以下の式で求めます。


$$\frac{1}{E^*} = \frac{1-\nu_1^2}{E_1} + \frac{1-\nu_2^2}{E_2}$$


$$\frac{1}{R^*} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}$$


これらを使って最大接触圧力 p_max は次の式で表されます。


$$p_{max} = \frac{3}{2\pi} \left(\frac{4}{3}\frac{E^*}{R^*}\right)^{\frac{2}{3}} P^{\frac{1}{3}}$$


ここで P は接触力(N)、R1・R2 は各球の半径(mm)、E1・E2 はヤング率(GPa)、ν1・ν2 はポアソン比です。


線接触(円柱接触)の場合は公式が変わります。
円柱面の接触では接触面が帯状に広がるため、最大接触圧力の計算式は点接触とは異なります。接触幅 b は次の式で求められます。


$$b = \sqrt{\frac{4FR}{\pi L E^*}}$$


最大接触応力は次のように計算します。


$$\sigma_{max} = \frac{2F}{\pi b L}$$


ここで F は荷重(N)、L はローラ長さ(mm)、R は曲率半径(mm)です。これが基本です。


実際の計算では記号の定義が文献によって異なることがあるため、使用する資料の表記を事前に確認することが重要です。計算ツールを使う場合も同様で、入力単位(N か kN か、mm か m か)を間違えると応力値が1,000倍以上ずれるケースもあります。


参考:ヘルツ接触応力の計算式の根拠と理論背景が詳しくまとめられています。


ヘルツの接触応力 - Wikipedia


ヘルツ接触応力の計算に必要な入力値:曲率半径・ヤング率・ポアソン比の求め方

計算式の形を覚えることより、入力値を正しく用意するほうが実務では難しいと感じる方が多いです。ここでは、現場でよく迷う入力値の求め方を整理します。


まず「曲率半径」について。軸受の場合、内輪半径と転動体(ボールやローラ)の半径を用います。内輪が凹面であれば曲率半径の符号をマイナスで扱う必要があり、計算式の形も変わります。歯車の場合は、かみ合いピッチ点における歯面の曲率半径(圧力角に依存)が必要です。図面から直接読み取れることは少なく、設計パラメータから計算する必要があります。


次に「材料定数」について。金属加工でよく使われる材料の代表値を以下に整理します。










材料 ヤング率 E(GPa) ポアソン比 ν
鋼(一般) 206 0.30
高炭素クロム軸受鋼 SUJ2 210 0.30
ステンレス鋼 SUS440C 200 0.28
アルミニウム合金 A6061 70 0.33
超硬合金(WC-Co系) 550〜620 0.22〜0.24


2つの接触部材の材料が異なる場合は、それぞれの値を使って換算ヤング率 E* を求めます。同じ鋼同士の場合は E1=E2=210 GPa、ν1=ν2=0.3 として計算すると、E*≒114.5 GPa になります。これは覚えておくと便利な値です。


「荷重 P(または F)」については、静荷重だけでなく、動荷重・衝撃荷重を考慮した値を使うことが重要です。機械設計では、定格静荷重の1.5〜3倍の動的荷重が実際には加わることも珍しくありません。動荷重係数(KV)や衝撃係数(KS)を掛け合わせた「設計荷重」を用いないと、計算値が実態から大きく外れてしまいます。


凹面(内接触)が含まれる場合の曲率半径の扱いは特に注意が必要です。例えば、ボールベアリングの外輪の溝は凹面であり、そのときの曲率半径は負の値として扱います。入力をミスすると換算半径が大幅に変わり、計算結果が数倍オーダーでずれることがあります。意外ですね。


参考:ヘルツの弾性接触の計算シートと理論を詳しく解説。Excel計算シートも配布されています。


ヘルツの弾性接触 | OPEO 折川技術士事務所


ヘルツ接触応力の計算例:ボールベアリングとローラベアリングの具体的な数値手順

実際の計算の流れを、ボールベアリング(点接触)とローラベアリング(線接触)の2つのケースで示します。数値を見ながら手順を確認することで、現場での応用がしやすくなります。


【ケース1】ボールベアリングの点接触


条件:内輪直径 d=50 mm(半径 R1=25 mm)、ボール直径 D=10 mm(半径 R2=5 mm)、荷重 F=2 kN、材料は SUJ2(E=210 GPa、ν=0.3)。


換算ヤング率。


$$\frac{1}{E^*} = \frac{1-0.3^2}{210} + \frac{1-0.3^2}{210} = \frac{0.91}{210} \times 2 \approx 0.00867 \Rightarrow E^* \approx 115.3 \, \text{GPa}$$


換算半径。


$$\frac{1}{R^*} = \frac{1}{25} + \frac{1}{5} = 0.04 + 0.20 = 0.24 \Rightarrow R^* \approx 4.17 \, \text{mm}$$


これらを用いて最大接触圧力を計算すると、σmax ≒ 620 MPa となります。SUJ2 の許容接触応力(約 1,800 MPa)に対して安全率は約 2.9 で、十分な余裕があることがわかります。


【ケース2】ローラベアリングの線接触


条件:荷重 F=5 kN、ローラ長さ L=30 mm、ローラ半径 R=15 mm、E*≒115 GPa。


接触幅 b を計算します。


$$b = \sqrt{\frac{4 \times 5000 \times 15}{\pi \times 30 \times 115000}} \approx \sqrt{\frac{300000}{10,838,053}} \approx 0.166 \, \text{mm}$$


最大接触応力。


$$\sigma_{max} = \frac{2 \times 5000}{\pi \times 0.166 \times 30} \approx \frac{10000}{15.6} \approx 641 \, \text{MPa}$$


点接触と線接触の大きな違いは、荷重が増えたときの応力の増え方です。点接触では荷重 P の 1/3 乗に比例するのに対し、線接触では荷重 F の 1/2 乗に近い形で増加します。荷重が2倍になっても、点接触の応力増加は約1.26倍程度に留まります。これが転がり軸受に点接触(ボール)が多く使われる理由の一つです。


以下は、代表的な条件でのボールベアリング接触応力の目安値です。











荷重 F(kN) 内輪径 d(mm) ボール径 D(mm) 最大接触応力 σmax(MPa)
1 30 8 440
2 50 10 620
3 60 12 750
5 80 15 950
7 100 18 1,150
10 120 20 1,350


※材料はSUJ2(E=210 GPa、ν=0.3)を想定した理論値。実際の使用条件によって変動します。


参考:軸受けのHertz応力計算を具体的な数値例で詳しく解説した記事です。


軸受け部の接触応力計算(Hertz応力):転がり接触と点接触 | Instant Engineer


ヘルツ接触応力の計算結果を実設計で使うときの注意点:表面粗さ・潤滑・安全率

ヘルツ理論は「完全に滑らかな表面」「完全弾性体」「摩擦なし」を前提にしています。実際の金属表面にはこれらの条件が成り立ちません。だからこそ、理論値をそのまま許容値と比較する設計は危険です。


まず表面粗さの影響について。金属表面をミクロで見ると無数の微小な凹凸があります。実際に荷重を伝えているのは山の頂点部分だけで、真の接触面積は見かけの接触面積より小さくなります。プロファイル接触比が 80% の場合、見かけ面積に対して実際の接触面積は 0.8 倍です。その分、真の最大面圧は理論値の 1.25 倍(=1/0.8)に跳ね上がります。表面粗さが悪化するほど、この係数は大きくなります。


次に潤滑の影響について。潤滑油が接触面に介在する場合、弾性流体潤滑(EHL:Elasto-Hydrodynamic Lubrication)の油膜が形成され、接触応力を分散させる効果があります。しかし潤滑が不十分な場合、金属同士が直接接触し、境界摩擦が発生します。このとき、接触部にはヘルツ応力に加えてせん断応力も作用し、表面下の最大せん断応力の深さと大きさが変化します。潤滑不良は寿命を数分の一に縮める可能性があります。


安全率の設定については、以下の考え方が基本です。



  • ⚙️ 静荷重のみの場合:安全率 1.2〜1.5 を目安に設定する。

  • 衝撃・振動荷重がある場合:安全率 1.5〜2.5 以上を推奨。軸受の規格(JIS B 1518 など)に記載の動的荷重係数を活用する。

  • 🌡️ 高温環境での使用:ヤング率は温度上昇とともに低下するため、高温時の材料定数を使って再計算する。

  • 🔬 硬化処理がある場合:浸炭焼入れ(SUJ2 で HRC 58〜62)や高周波焼入れ(SCM415 で HRC 58 以上)では許容応力が大幅に上がる。生材(S45C 生材:HRC 20〜25 程度)と熱処理後では、許容面圧が2〜3倍以上変わることがあります。


また、歯車の場合は ISO 6336 や JIS B 1702 などの強度計算規格に準拠した方法を使うことが推奨されます。これらの規格には、動荷重係数・歯面荒さ係数・潤滑係数などが組み込まれており、単純なヘルツ理論計算より実態に近い評価ができます。これが条件です。


参考:面圧・ヘルツ応力・pv値の関係と表面粗さの影響を実務的な視点で解説しています。


面圧、ヘルツ応力、そしてpv値 | アイアール技術者教育研究所


ヘルツ接触応力の計算が現場で役立つ:歯車・カム・圧延ロールへの応用と見落としがちな独自視点

ヘルツ接触応力の計算は、軸受設計だけにとどまりません。金属加工の現場で頻繁に登場する歯車・カム機構・圧延ロールにも直接応用できます。それぞれの特徴的な使い方と、教科書には載っていない視点を紹介します。


🔩 歯車の歯面強さ設計(ピッチング評価)


歯車の歯面は転がりながら滑る複合運動(転がり接触+滑り接触)をします。かみ合いピッチ点付近でのヘルツ接触応力が材料の疲労限度を超えると、表面下に亀裂が発生して「ピッチング(pitting)」と呼ばれる剥離損傷が起きます。S45C 生材(HRC 約 20〜25)での許容面圧はせいぜい 500〜700 MPa 程度であるのに対し、浸炭焼入れ処理後(HRC 60 前後)では 1,500〜2,000 MPa 以上になります。熱処理を加えることで、許容面圧は約3倍に向上します。これは大きなメリットです。


🔄 カム・フォロワーの接触応力管理


カムとフォロワーの接触は、線接触から点接触まで形状によって多様です。しかも接触点が連続的に移動するため、一点あたりの接触回数(応力繰り返し数)は歯車より少なくなります。一方で、速度が急変するカムプロファイルの変曲点付近では動的荷重が急増し、設計荷重の2〜4倍の瞬間接触力が発生することがあります。静的なヘルツ計算だけでは不十分です。


🏭 圧延ロールへの応用


圧延機のワークロールは、被圧延材と円柱面接触します。この場合のヘルツ計算の注意点は、ロール径が大きく(数百 mm〜1 m以上)なると換算半径 R* が大きくなり、接触幅 b が広がって最大接触圧力が低下するという点です。一見すると応力が小さくなるので問題ないように見えますが、接触幅が広いほど深部まで応力が届き、ロール内部の疲労(スポーリング)が先行する場合があります。接触面の応力だけでなく、表面下の最大せん断応力の深さと大きさも同時に評価することが重要です。


💡 設計現場で見落とされがちな視点:「接触楕円のはみ出し」


これは教科書にはあまり出てこない話です。転がり軸受では、ボールと軌道溝の接触楕円が軌道溝の幅をはみ出すと、端部に応力集中が起きて急激に寿命が低下します。これを「エッジローディング」または「接触楕円の溝肩乗り上げ」と呼びます。荷重が増えるほど、あるいは軸受に偏心荷重や傾きが加わるほど、接触楕円は大きくなります。ヘルツ理論による最大接触圧力の計算だけでなく、接触楕円の長径・短径を求めて、それが軌道溝の範囲内に収まるかどうかも確認する必要があります。接触楕円の溝肩への乗り上げ量は軸受の寿命に影響するとNSKのテクニカルジャーナルでも指摘されています。つまり、接触楕円のサイズ確認が条件です。


これらの応用場面では、手計算よりも専用ツールを使った検証が実務的です。以下のような無料のオンライン計算ツールを活用すると、入力値を変えながら素早くパラメータスタディができます。



  • 🖥️ MESYS オンライン接触応力計算(日本語対応):点接触・線接触の両方に対応。表面下応力分布も確認可能。

  • 📊 技術計算製作所 接触面圧計算:球面・円柱面・平面など多様な接触形態を選択して計算できる。

  • 📁 OPEO 折川技術士事務所 Excel 計算シート:楕円放物面・円筒面・平面に対応した計算シート(無料配布)。


参考:接触応力の基礎から実践的な設計判断まで、金属加工に即した内容で解説されています。


接触面圧計算 - 技術計算製作所