収縮率を「材質だけで決めている」と、100mmの製品が1mm以上ずれることがあります。
鋳造収縮率とは、溶融金属が凝固・冷却される過程で体積や線形寸法が減少する割合のことです。金属は液体から固体になる際に必ず収縮するため、そのぶんだけ模型(木型・金型)を大きく作っておかなければ、完成品は図面寸法より小さく仕上がってしまいます。これが「縮み代(縮みしろ)」の考え方の基本です。
収縮率の基本計算式は以下のとおりです。
$$\text{収縮率} = \frac{\text{模型寸法} - \text{鋳物寸法}}{\text{模型寸法}} \times 100 (\%)$$
木型の必要寸法を逆算するには、次の式を使います。
$$\text{模型寸法} = \frac{\text{製品寸法}}{1 - \text{収縮率}}$$
たとえばアルミ鋳物で仕上がり寸法100mmの製品を作るとき、収縮率を1.2%と設定すると、
$$\text{模型寸法} = \frac{100}{1 - 0.012} \approx 101.2 \text{ mm}$$
となります。つまり101.2mmの木型を作ることで、凝固・冷却後に目標の100mmに近い寸法が得られるわけです。計算が必要なのは分かりましたね。
現場では「鋳物尺(いもじしゃく)」と呼ばれる専用のものさしが古くから使われています。鋳物尺の目盛りはあらかじめ収縮率が織り込まれており、「1000mm」と書かれた目盛りの実際の長さが1010mmになっているため、毎回計算しなくても模型寸法を直接測れる便利な道具です。鋳鉄なら8/1000、アルミ合金なら10〜12/1000など、材質に対応した鋳物尺を使い分けるのが基本です。
また、収縮率を計算する際は「線収縮率(線形収縮率)」と「体積収縮率」を区別することが大切です。木型や金型の設計で扱うのは一般的に線収縮率です。体積収縮率は欠陥(引け巣・ポロシティ)の発生リスク評価に使われます。両者を混同すると設計ミスにつながります。
縮み代は材質だけで決まりません。
鋳物の形状、肉厚、鋳込み温度、鋳型の種類、鋳型温度など複数の要因が絡み合って変化します。一個の鋳物の中でも、薄肉部と厚肉部で収縮量が異なることさえあります。設計段階でこの点を踏まえておくことが、寸法不良を防ぐ第一歩です。
| 計算のポイント | 内容 |
|---|---|
| 使用する収縮率の種類 | 線収縮率(設計・模型製作に使用) |
| 公式 | 模型寸法 = 製品寸法 ÷(1 − 収縮率) |
| 現場ツール | 鋳物尺(伸び尺)で計算なしに直接測定 |
| 注意点 | 材質だけでなく形状・肉厚・鋳型条件も影響する |
鋳造用木型と収縮代の基礎知識(有限会社佐藤木型製作所):
https://sato-kigata.com/explain-the-tools-and-shrinkage-of-castings-required-for-making-casting-molds.html
実務では「自社が扱う材質の収縮率」をまず把握しておくことが不可欠です。材質によって収縮率は大きく異なり、設定値を誤ると確実に寸法不良につながります。これは基本中の基本です。
以下の表は、主要な鋳造材料の線収縮率の目安をまとめたものです。数値はあくまで目安であり、実際には形状や操業条件によって変動します。
| 材質 | 線収縮率(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| 🔩 ねずみ鋳鉄(灰鋳鉄) | 0.8〜1.0%(8〜10/1000) | 黒鉛晶出による膨張で収縮が相殺される |
| 🔩 球状黒鉛鋳鉄(ダクタイル) | 1.0〜1.5%(10〜15/1000) | 黒鉛化が進むと収縮は減少する |
| ⚙️ 炭素鋼・低合金鋼 | 1.8〜2.6%(18〜26/1000) | 炭素・合金含量で変化。大物は25/1000まで |
| ⚙️ ステンレス鋼(304/316) | 2.2〜2.8% | 炭素鋼より高め。配管欠陥に注意 |
| 🪨 アルミニウム合金(砂型) | 1.0〜1.8%(10〜18/1000) | 形状による収縮阻害で0.5%まで低下も |
| 🪨 アルミニウム(ダイカスト) | 0.6〜0.8% | 金型拘束が強く砂型より収縮が小さい |
| 🔶 真鍮 | 1.0〜1.8%(10〜18/1000) | 亜鉛含量による変動が大きい |
| 🔶 砲金・アルミニウムブロンズ | 1.4〜2.5%(14〜25/1000) | 合金含量で大きく変化する |
| 🔷 マグネシウム合金(砂型) | 1.0〜1.3% | 薄肉では急冷で収縮が小さい |
一方、鋼は黒鉛を生成しないため収縮率が大きくなります。鋳鉄と鋳鋼の両方を扱う現場では特にこの差異を意識する必要があります。
さらに注意が必要なのがアルミニウム合金の幅の広さです。砂型鋳造とダイカストでは同じ合金でも収縮率が大きく異なります。砂型の場合、金型の拘束が緩いため鋳物が比較的自由に収縮できますが、ダイカストでは金型が硬くて熱伝導も良いため、収縮は小さめに抑えられます。砂型とダイカストを混在して設計する現場は、この差を必ず管理してください。
縮み代の数値を実績データとして現場で蓄積することが、精度向上の近道です。
鋳造合金の収縮特性に関する技術的な詳細は、日本鋳造協会のQ&Aが参考になります。
日本鋳造協会 鋳造Q&A(共通編):
https://jfs.or.jp/q_a/qa_kyoutsuu/
鋳造現場でよくある勘違いが「材質さえ分かれば収縮率は一定だ」という思い込みです。実際には、同じアルミ合金を使っても形状によって収縮率が0.5%〜1.5%の範囲で変わることがあり、100mmの製品なら最大1mmもの誤差が生じます。痛いですね。
その主な原因が「収縮阻害(しゅうしゅくそがい)」です。溶けたアルミを鋳型に流し込んだとき、凝固が完了するまで鋳型の中に留まり続けます。そのとき鋳型自体が収縮の妨げになり、本来縮むべき量より少ししか縮まないことがあります。これを収縮阻害と呼びます。
実際に、鋳鉄鋳物の設計指針(JIS等)では、肉厚30mm以下の小物については伸尺を使用しない、あるいは逆に図面寸法より小さい模型を作るケースも存在します。収縮阻害を逆手に取った設計です。意外ですね。
長尺・平板状の鋳物では「反り(そり)」も問題になります。各部の冷却速度の差が直接的な原因で、これを見越して逆反りしろ(逆反りの余肉)をあらかじめ模型に設ける必要があります。これは純粋な収縮率計算とは別に検討が必要な項目です。
収縮阻害を考慮した設計ができれば、型修正の回数が減ります。型修正は1回で数万円〜数十万円のコストが発生することもあるため、現場にとって大きなメリットになります。複雑形状の鋳物を担当する場合は、「材質の標準収縮率をそのまま使う」のではなく、形状を見ながら補正値を検討する習慣を持つと精度が格段に向上します。
収縮阻害と形状影響の詳細は、八百谷金属工業のコラムに現場視点からの説明があります。
アルミ鋳物の収縮率と形状による変動(単品鋳物.com):
https://arumiimono.com/news/2128/
鋳造工法が変わると、同じ材質でも収縮率が変わります。これを知らないと工法変更時に設計をそのまま流用してしまい、寸法不良が発生するリスクがあります。工法別の収縮特性は必ず把握すべき知識です。
ダイカストと砂型を切り替えるプロジェクトで、設計者が収縮率を変えずに金型を発注してしまうと、数mm単位の寸法ずれが全品に発生するリスクがあります。これは「時間・コスト」両面で大きなダメージです。
また、工法ごとの寸法公差の水準も異なります。
| 工法 | 線収縮率(アルミ目安) | 一般寸法公差の目安 |
|---|---|---|
| 砂型鋳造 | 1.0〜1.8% | ±0.5〜±2.0mm |
| ダイカスト | 0.6〜0.8% | ±0.1〜±0.2mm |
| ロストワックス | 1.2〜2.0%(合算) | ±0.1〜±0.3mm |
| シェルモールド | 0.8〜1.2% | ±0.3〜±0.8mm |
金属鋳造における工法別の収縮メカニズムと設計対応については、下記の技術資料が詳しいです。
金属鋳造における収縮の種類と対策(casting-china.org):
https://casting-china.org/ja/shrinkage-in-metal-casting/
収縮率の計算は「平均値を当てはめて終わり」ではなく、精度を上げ続ける継続的なプロセスです。この認識を持てるかどうかで、長期的な不良率と型修正コストに大きな差が出ます。
まず、現場ノウハウの蓄積が不可欠です。アルミ鋳物の専門業者(八百谷金属工業)では、毎月100種類前後の鋳物を鋳造した経験から形状を見て収縮率を予測し、さらに「予測からどの程度ずれる可能性があるか」まで見込んだ加工代を設定しています。これが現実的なアプローチです。社内の実績データを品番・形状・材質・工法とともに記録し、類似品への転用ができる体制を整えることが基本になります。
次に活用が広がっているのが鋳造シミュレーションです。MAGMASOFT®、JSCAST、ADSTEFANといったソフトウェアは、溶湯の流れ・凝固・収縮をコンピュータ上でシミュレートし、ホットスポット(最後に凝固する部分)や引け巣の発生リスクを事前に把握できます。これは使えそうです。
ただし、シミュレーションは万能ではありません。日本鋳造協会の調査によると、2006年以降もシミュレーションへの不満として「予測精度」が1位(約29%)となっており、現場データの蓄積と組み合わせることで初めて高精度な予測が可能になります。小ロット・試作品の場合は、シミュレーションにかかる時間とコストが割に合わないこともあるため、活用場面を見極めることが重要です。
収縮率の精度向上は一朝一夕には達成できません。それでも、設計者・模型製作者・鋳造担当者が「収縮率の実績値と予測値のずれ」を定期的に共有し合う仕組みを作るだけで、型修正の回数は確実に減らせます。型修正1回あたりのコストは規模や形状によって数万円〜数十万円に上ることもあります。データの蓄積が条件です。
また、肉厚が3:1を超えるような大きな差がある鋳物では、薄肉部(≤5mm)には標準収縮率の約0.8倍、厚肉ボス部(≥30mm)では約1.2倍の補正を適用する「部位別スケーリング」の考え方も参考になります。CADツールを活用すれば、部位ごとに異なる収縮代を直接模型形状に反映させることも可能です。
鋳造シミュレーションソフトMAGMASOFTの詳細は以下から確認できます。
MAGMASOFT 製品紹介ページ(SCSK株式会社):
https://www.scsk.jp/product/common/magmasoft/index.html
十分なリサーチができました。記事を作成します。