SUS410の磁性と加工での活かし方を徹底解説

SUS410はマルテンサイト系ステンレス鋼で磁性を持つ材料です。なぜ磁石につくのか、熱処理で磁性はどう変わるのか、現場での材料選定にどう活かすべきか、詳しく知っていますか?

SUS410の磁性とマルテンサイト系ステンレスの正しい知識

SUS410を「ステンレスだから磁石につかない」と思ったまま使うと、部品選定ミスで納期トラブルになります。


この記事の3つのポイント
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SUS410は磁性あり・磁石につく

マルテンサイト系ステンレス鋼のSUS410は鉄(Fe)を約87%含む。ニッケルを含まないため磁性を持ち、磁石にしっかりとくっつく。

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熱処理で硬さは変わるが磁性は消えない

焼入れ・焼戻しでHRC40程度まで硬化しても、SUS410の磁性は維持される。SUS304の冷間加工後の「微弱な磁性」とは根本的に異なる。

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磁性を活かした用途選定が重要

ポンプシャフト・刃物・タッピングネジなど、磁性+高硬度が求められる部品に最適。非磁性が必要な場面での誤使用はトラブルの原因になる。


SUS410が磁石につく理由:マルテンサイト系ステンレスの組織


「ステンレスは磁石につかない」という認識は、金属加工の現場でも根強く残っています。しかし、その前提はSUS304などオーステナイト系ステンレスの話であり、SUS410には当てはまりません。


SUS410はマルテンサイト系ステンレス鋼に分類されます。その化学成分の特徴は、クロム(Cr)を11.50〜13.00%含む一方、ニッケル(Ni)をほとんど含まない(0.60%以下)点にあります。鉄(Fe)の含有量は全体の約87%にも達します。つまり、組成の大部分が「磁石につく鉄」なのです。


ステンレスが磁石につかない場合の主な理由は「ニッケルの存在」にあります。ニッケルは鉄の磁性を打ち消す働きを持っており、SUS304のようにニッケルを8%前後含む材料はオーステナイト組織を形成し、非磁性となります。それに対してSUS410はニッケルを実質的に含まないため、常温でフェライト→焼入れによってマルテンサイト組織になり、強い磁性を持ち続けるのです。


磁性の強さを示す指標として「透磁率」があります。非磁性とされる材料の比透磁率は1.020以下が目安ですが、SUS410はそれを大幅に超えます。SUS304(比透磁率:1.004程度)とはまったく異なるレベルの磁性を持っています。これは使えそうです。
































鋼種 系統 磁性 ニッケル含有量 組織
SUS304 オーステナイト系 ❌ 原則非磁性 約8% オーステナイト
SUS430 フェライト系 ✅ 磁性あり なし フェライト
SUS410 マルテンサイト系 ✅ 磁性あり(強) ほぼなし(0.60%以下) マルテンサイト


加工現場で材料の種類を判別する際、磁石を使うことがよくあります。磁石につけばフェライト系かマルテンサイト系、つかなければオーステナイト系という目安になるわけです。SUS410はしっかり磁石につくため、この方法でも容易に識別できます。磁性の有無は、材料判別の基本です。


参考:SUS410の化学成分・機械的性質(JIS G 4303:2012)をもとにした詳細解説
SUS410(ステンレス鋼)機械的性質、硬さ、切削性 | Mitsuri


SUS410の磁性と熱処理の関係:焼入れ・焼戻しで何が変わるか

SUS410を使う現場でよく出る疑問が「熱処理をすると磁性はどう変わるのか?」という点です。結論から言えば、熱処理によって磁性が消えることはありません。ただし、組織の状態によって磁性の「強さ」や「質」に変化が生じます。


SUS410の標準的な熱処理プロセスは「焼入れ+焼戻し」です。焼入れは950〜1000℃程度に加熱後に急冷することで、組織をマルテンサイト化させます。これにより硬度はHRC40程度まで上昇し、高い強度と耐摩耗性が得られます。焼戻しは600〜700℃程度の再加熱で靭性を回復させる工程です。


この焼入れ・焼戻し状態でも、SUS410はマルテンサイト組織を維持しているため磁性は保たれます。一方で、組織中に一部オーステナイト(残留オーステナイト)が混在することがあり、焼入れ前の焼なまし状態と比べると磁性がわずかに弱くなるケースもあります。これは磁性が「ゼロになる」のではなく、あくまで微細な変化です。


注意が必要なのは、SUS410に一般的な熱処理(焼なまし)を施すとクロムが炭化物として析出し、材料が脆くなる場合があることです。これをぐために「窒化熱処理」(アンモニアガス雰囲気中、約500℃で72時間加熱)が採用されることがあります。窒化処理は表面硬度を大幅に上げながら、内部の磁性には大きく影響しません。


また、熱処理後のSUS410は不働態皮膜が十分に形成されにくくなります。この場合は「パシベート処理(パシペート処理)」を行い、硝酸系酸化剤で人工的に不働態皮膜を設けることで耐食性を補います。熱処理後の表面処理は必須です。


溶接時の急冷にも注意が必要です。SUS410を溶接した後に急冷すると、局部的な靭性の低下を引き起こし、割れが発生することがあります。溶接前に200〜400℃程度の予熱を行うことが、脆化防止の基本的な対策です。



  • 🔸 焼入れ・焼戻し後もSUS410の磁性は維持される

  • 🔸 窒化熱処理で表面硬度を上げても磁性への影響は限定的

  • 🔸 熱処理後はパシベート処理で耐食性を補うことが重要

  • 🔸 溶接後の急冷は割れリスク大。予熱(200〜400℃)が基本対策


参考:SUS410の熱処理と特性変化についての詳細技術解説
SUS410の熱的特性完全ガイド:焼き入れと熱膨張係数の関係性 | stainless-steel-milling.com


SUS304との磁性の違い:加工で突然「磁石につく」SUS304の落とし穴

金属加工の現場で特に混乱を生みやすいのが、「SUS304なのに磁石につく」という現象です。この現象は実際にはよく起こることで、SUS410との磁性の根本的な違いを理解していると、トラブルを未然に防ぎやすくなります。


SUS304は通常「非磁性」とされていますが、これは固溶化熱処理済みのオーステナイト組織の状態に限った話です。冷間加工(曲げ・絞り・切断など)を加えると、オーステナイト相の一部がマルテンサイト相に変態し、磁性を帯びます。加工硬化と同時に磁性化が起こるわけです。


ただし、この加工誘起マルテンサイト変態によるSUS304の磁性は「可逆的」な面があります。約1050℃で固溶化熱処理(溶体化処理)を行い急冷すると、組織がオーステナイトに戻り、磁性は消えます。一方でSUS410は、熱処理の種類に関わらず磁性が保持され続けます。これが両者の本質的な違いです。


SUS304とSUS410の磁性の違いを現場で判断するための簡易チェックは「磁石のつき方の強さ」が手がかりになります。SUS304の加工後に現れる磁性は比較的弱く、強力磁石でもしっかりと付くとまでは言いにくい場合があります。SUS410は加工前から強くしっかり磁石につくのが特徴です。


とはいえ、最終的な材料確認は磁石だけに頼るべきではありません。成分分析や図面・ミルシート(品質証明書)の確認が確実です。材料確認はミルシートが原則です。


参考:ステンレス鋼のオーステナイト系・マルテンサイト系・フェライト系の磁性と特徴の比較
磁石につくステンレスもある? よく使うSUS材料の種類や特徴を解説 | MONO塾


SUS410の磁性を活かした用途選定:刃物・ポンプ・タッピングネジ

SUS410の磁性は単なる「副産物」ではなく、用途選定における重要な特性のひとつです。磁性を持つことと高強度・高硬度が組み合わさることで、特定の用途において他の材料では代替しにくいポジションを確立しています。


SUS410が実際に採用されている主な用途は以下のとおりです。



  • 🔩 タッピングネジ・ボルト類:磁石チャックで位置決めができるため、自動化ライン向けのファスナーとして採用されやすい

  • 🔪 刃物・カトラリー(ナイフ・食器用刃):焼入れによって硬度HRC40程度まで高められ、耐摩耗性が求められる刃物に適する

  • ⚙️ ポンプシャフト・バルブシート:強度と耐食性の両立が求められる流体機器部品に使用。磁性センサーとの組み合わせも可能

  • 🌀 タービンブレード(蒸気タービン)耐熱性と高強度が必要な部品への採用事例あり


特に「磁石にくっつく」という特性は、マグネットチャックを使った加工・位置決め工程で直接役立ちます。オーステナイト系ステンレス(SUS304など)はマグネットチャックで保持できないため、専用のバイスや治具が必要になります。SUS410であればマグネットチャックをそのまま使えるので、段取り工数を削減できるわけです。これは使えそうです。


一方で、磁性が「逆に問題になる場面」も存在します。精密センサーや磁気コンパス周辺の部品、MRI関連機器の構造部材など、磁性が誤作動を招く可能性がある用途にはSUS410は不向きです。このような非磁性が必須とされる環境では、SUS316LやSUS304(固溶化熱処理済み)を選ぶのが基本です。


材料選定で迷う場面では、JIS G 4303(ステンレス鋼棒)や各メーカーのミルシートで化学成分・機械的性質を確認することが確実です。磁性の有無と用途の要件を照らし合わせることが条件です。


参考:マルテンサイト系を含むSUS材の特性と用途の比較情報
ステンレス鋼(SUS)の種類と特徴 | 金属加工のワンポイント講座


SUS410の磁性と耐食性のトレードオフ:加工現場が見落としやすい盲点

SUS410の磁性に着目して用途選定を進める際に、もうひとつ見落としやすい重要な点があります。それが「磁性あり=高耐食性」という誤解です。


ステンレス鋼全般の耐食性は、表面に形成される「不動態皮膜」によって成立しています。この皮膜の安定性はクロム含有量に強く依存しており、SUS410(Cr:11.50〜13.00%)はSUS304(Cr:18%)やSUS430(Cr:16〜18%)と比べてクロム量が少なく、耐食性がステンレス鋼のなかでは最も低いグループに属します。


現場でよくあるのが「ステンレスだから屋外でも大丈夫」という思い込みによるSUS410の誤使用です。SUS410は清浄な大気中や、比較的弱い腐食環境下では十分な耐食性を発揮しますが、沿岸部の塩害環境や酸性溶液が触れる環境では腐食リスクが高まります。適切な用途が条件です。


また、熱処理(焼入れ)を施したSUS410は、不働態皮膜の再形成が不十分になることがあり、耐食性がさらに低下することがあります。この場合は前述のパシベート処理が有効です。処理の有無で耐食性に大きな差が生じるため、用途によって工程設計に組み込む必要があります。


SUS410の「磁性がある=強度・硬度が高い」という特性と「耐食性はステンレス中では低い」という特性のバランスを正確に把握することが、材料選定ミスを防ぐうえで最も重要です。磁性だけを見て選定すると、腐食環境での不具合につながります。








































評価項目 SUS410 SUS304 SUS430
磁性 ✅ 強い ❌ 原則なし(加工後に弱く出ることあり) ✅ 中程度
耐食性 ⚠️ 低め(ステンレス中で最低グループ) ✅ 高い 🔶 中程度
硬度(焼入れ後) ✅ HRC40程度 ❌ 焼入れ不可 ❌ 焼入れ効果なし
コスト 🔶 中程度 🔶 中〜高 ✅ 低め
主な用途 刃物・ポンプ部品・ネジ類 食品機器・医療器具・建材 家電・厨房器具・自動車


SUS410の耐食性を補いながら磁性と強度を活かすには、表面処理(パシベート処理・めっき・塗装)と組み合わせた設計が実践的なアプローチです。用途環境ごとに表面処理仕様を検討することが、長期信頼性の確保につながります。


参考:ステンレス鋼の磁性と強度・耐食性の関係についての専門解説
ステンレス鋼の磁性と強度の関係 ~高強度で非磁性のステンレス鋼とは | 特殊金属エクセル


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