NAK55材質の特徴と加工方法の解説による金型製作ガイド

プラスチック金型用鋼として知られるNAK55の特性や加工のポイントを詳しく解説。時効硬化型鋼の特徴から実践的な切削加工方法まで、金属加工に携わる方々に役立つ情報が満載です。あなたはNAK55の活用法をすべて把握していますか?

NAK55材質の特徴と加工方法の解説

NAK55材質の特徴と加工方法の解説

NAK55の基本情報
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材質の概要

大同特殊鋼が開発した高精度な金型用プリハードン鋼。HRC37~43の硬度を持ち、追加熱処理不要。

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主な特性

優れた切削性と耐摩耗性を持ち、鏡面研磨性にも優れる。時効硬化型鋼で寸法安定性が高い。

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主な用途

プラスチック金型、ゴム金型、プレス金型、産業機器部品など高精度が求められる製品に最適。

NAK55とプリハードン鋼の基本知識と用途

 

NAK55は大同特殊鋼株式会社が開発した快削性プリハードン鋼の一種です。プリハードン鋼とは、製造段階であらかじめ中程度の硬度に熱処理された鋼材で、追加の熱処理を必要としません。NAK55の名前の由来には意外な一面があり、「55」という数字は開発当時に流行していたコント55号に由来していると言われています。

 

NAK55の最大の特徴は、納入時にすでにHRC37~43程度の硬度を有していることです。これは通常のS45Cなどのようにユーザーサイドでの焼入れが不要なことを意味し、製造工程の簡略化とコスト削減に大きく貢献します。

 

主な用途としては以下のものが挙げられます。

  • プラスチック射出成形金型
  • ゴム金型
  • プレス金型
  • ブロー成形金型
  • ダイカスト金型(アルミニウム、亜鉛)
  • エンジニアリングプラスチック成形用金型
  • 高精度機械部品
  • 医療機器部品
  • 自動車部品
  • 家電製品部品

NAK55は特に精密性を必要とする金型に適しており、使用時の歪みが少ないことから、高精度な製品製造において重宝されています。耐摩耗性と耐圧性に優れているため、型寿命が大幅に伸び、長期間の使用に耐えることができます。

 

NAK55の成分特性と機械的性質の詳細

 

NAK55はNi-Al-Cu系時効硬化型の鋼材で、その化学組成が独特の特性をもたらしています。主な成分としては以下のものが含まれています。

  • 炭素 (C): 約0.15%
  • シリコン (Si): 約0.3%
  • マンガン (Mn): 適量
  • クロム (Cr): 約1.0%
  • モリブデン (Mo): 約0.30%
  • ニッケル (Ni): 約3.00%
  • アルミニウム (Al): 約1%
  • 銅 (Cu): 約1%
  • 硫黄 (S): 微量

特筆すべきは硫黄の含有で、これにより切削性が向上しています。この成分構成により、NAK55は以下のような機械的性質を示します。

特性 数値
引張強さ 1255 N/mm² (128 kgf/mm²)
0.2%耐力 981 N/mm² (100 kgf/mm²)
伸び 15%
絞り 40%
シャルビー衝撃値 18 J/cm² (1.8 kgf・m/cm²)

[7]
熱的特性としては、熱膨張係数が20~100℃で11.3×10⁻⁶/℃、20~200℃で12.5×10⁻⁶/℃、20~300℃で13.4×10⁻⁶/℃となっています。この数値は金型設計時に重要な参考値となります。

 

NAK55の硬度(HRC37~43)は、一般的なS53Cの硬度(HRC18程度)よりかなり高いにもかかわらず、切削性はS53Cとほぼ同等で、HRC30のSCM440よりもはるかに優れています。この特性により、高硬度でありながら加工が容易という、相反する性質を両立させているのです。

 

NAK55の切削加工における最適な条件と技術

 

NAK55の切削加工においては、その高硬度にも関わらず優れた被削性を発揮します。以下に最適な加工条件と技術のポイントをまとめます。
1. 切削条件の最適化
加工面の精度を向上させるためには、切削速度を上げることが有効です。切り込み量と送り量は、求める加工精度に応じて適切に調整する必要があります。NAK55は硬度が高いため、切削時には以下の点に注意しましょう。

  • 高硬度用の刃物を使用する
  • 切削液の使用は刃物の性能を維持するために必須
  • ツールホルダの振れは切削面の精度に大きく影響するため、定期的な点検が重要

2. 工具選択のポイント
NAK55を数多く削ってきた経験者によると、高硬度用の刃物だけでなく、SUS用の刃物も相性が良いとされています。これは意外な知見ですが、コスト面でも有利な選択肢となるでしょう。

 

3. 加工時の温度管理
NAK55は加工中に発生する熱によって材質特性が変化する可能性があります。適切な冷却を行い、特に長時間の連続加工や高負荷加工を行う場合は、冷却液の使用と断続加工の検討が推奨されます。

 

4. 放電加工のポイント
NAK55は放電加工後も加工面の硬さが上昇せず、研磨が容易です。放電加工を行う際は、以下の点に注意しましょう。

  • 適切な加工条件の設定
  • 加工液の清浄度管理
  • 電極の精度維持

5. 研磨加工の特徴
NAK55は優れた鏡面仕上げ性を持っており、ピンホールが出にくく光沢が出やすい特徴があります。研磨時は以下のポイントを押さえると良いでしょう。

  • 研磨の段階を適切に踏む(粗研磨→中研磨→仕上げ研磨)
  • 研磨剤の選定と適切な使用
  • 研磨方向の一定化

NAK55の加工においては、S45Cなどの一般的な鋼材と比較して切削時の歪みや変形が起こりにくいため、焼き入れをした鋼材と同等の安定した精度が出せる点が大きなメリットです。これにより、高精度部品の製造においてリードタイムとコストの削減が実現できます。

 

NAK55とNAK80の違いと選定ポイント

 

NAK55と同じくプリハードン鋼であるNAK80との違いを理解することは、適切な材料選定において重要です。以下にその主な違いと選定ポイントをまとめます。
主な違い:

  • 成分の違い: NAK55とNAK80の最大の違いは硫黄(S)の有無です。NAK80は硫黄を含んでいません。
  • 切削性: NAK55は硫黄を含むため切削性に優れていますが、NAK80は硫黄がないため切削性はNAK55より劣ります。
  • 鏡面磨き性: NAK80はNAK55より鏡面磨き性に優れています。NAK80の放電加工肌は緻密で美麗なため、梨地シボの代用が可能です。
  • 命名の由来: NAK80の「80」は1980年に誕生したことに由来しており、NAK55の「55」はコント55号に由来するという面白い違いがあります。

材料選定のポイント:

  1. 加工の容易さを重視する場合:

    被削性を重視する場合はNAK55が適しています。特に複雑な形状や多数の加工面がある場合、NAK55の方が加工効率が高くなります。

     

  2. 鏡面仕上げ品質を重視する場合:

    最終製品の外観品質や鏡面仕上げが重要な場合はNAK80が適しています。特に光学部品や外観部品の金型に向いています。

     

  3. 梨地シボ加工を行う場合:

    NAK80は放電加工肌が緻密で美麗なため、梨地シボ加工が必要な金型に適しています。

     

  4. コスト効率を重視する場合:

    一般的に加工性の良いNAK55の方が全体的な製造コストを抑えられる傾向があります。特に大量生産を行う場合は、加工時間の短縮がコスト削減に直結します。

     

製品の要求仕様や使用条件によって最適な選択は異なりますが、両材料の特性を理解した上で、加工性と最終製品の品質のバランスを考慮して選定することが重要です。特に、鏡面仕上げ要件が厳しくない場合は、加工性に優れるNAK55が多くの場面で合理的な選択となるでしょう。

 

NAK55加工時のトラブル防止と生産性向上のコツ

 

NAK55を効率的に加工し、トラブルを防止するためのコツを紹介します。これらは現場の経験から得られた実践的なノウハウです。
1. 加工前の材料準備とチェック

  • 材料の状態確認: NAK55は出荷時にHRC37~43の硬度を持っていますが、ロットによる硬度のばらつきがあることも。加工前に硬度測定を行うことで適切な加工条件を設定できます。
  • 材料の事前調整: 大型部品の加工では、加工前に応力除去処理を行うことで加工中の歪みを最小限に抑えられます。特に長尺部品では重要です。

2. 工具寿命の延長と切削効率の向上

  • 適切な切削油の選定: NAK55は切削油との相性が良く、特に高負荷切削時には適切な切削油を使用することで工具寿命が大幅に延長します。
  • 断続切削の回避: 可能な限り連続的な切削パスを設計し、工具への衝撃負荷を減らすことで工具寿命を延ばせます。
  • 最適な切削速度: NAK55は切削速度を上げると加工面の精度が向上する特性があるため、工具の許容範囲内で高速切削を行うことが効果的です。

3. 加工精度の向上テクニック

  • 段階的な加工: 荒加工→中仕上げ→仕上げという段階的な加工を行うことで、内部応力を均一に分散させ、最終精度を向上できます。
  • 中間熱処理: 複雑形状の加工では、荒加工後に低温で応力除去熱処理(150~200℃、2~3時間)を行うことで、最終加工時の精度が向上します。
  • 振れ防止の工夫: 長尺部品や薄肉部品の加工では、加工途中での歪取り工程を行うことで、底面の平面度を数十ミクロンレベルに抑えられます。

4. 表面処理と仕上げのポイント

  • 表面処理の選択: NAK55はアルマイト処理以外のほとんどのめっき処理に対応可能です。特別な前処理は必要なく、通常の鉄材と同様の方法で処理できます。
  • 硬度向上処理: NAK55は時効硬化型鋼のため焼入れ焼き戻しでは硬度が上がりません。硬度向上が必要な場合は窒化処理が有効です。
  • 仕上げ研磨の最適化: 研磨時の砥石の選定と使用順序を最適化することで、効率的に鏡面仕上げが可能になります。

5. 生産性を高める工程設計

  • 熱処理工程の省略: NAK55の最大のメリットは追加熱処理が不要な点です。これを活かした工程設計により、リードタイムとコストを大幅に削減できます。
  • 複合加工の活用: 切削と放電加工を組み合わせることで、複雑形状の効率的な加工が可能になります。
  • 加工歪みの予測と対策: NAK55は一般的な鋼材より加工歪みが少ないですが、大型部品や精密部品では事前に歪み量を予測し、加工余裕を設けることが重要です。

実際の加工事例として、厚み15mm、長さ3000mmのNAK55長尺プレート部品では、加工途中での歪取り工程を適切に行うことで、底面の平面度を50ミクロンまでに抑えることができたという報告があります。このような実践的知識を活用することで、NAK55の特性を最大限に活かした高精度加工が実現できるでしょう。