鉄の種類一覧と炭素鋼・合金鋼・鋳鉄の性質と用途

鉄には多くの種類があり、それぞれ特性が異なります。この記事では、代表的な鉄の種類である炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の違いやJIS規格、さらには鉄の金属組織から意外な歴史までを解説します。あなたの仕事に役立つ鉄の知識を深めてみませんか?

鉄の種類一覧

この記事でわかること
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鉄の基本分類

炭素鋼、合金鋼、鋳鉄の三大分類とその特徴がわかります。

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JIS規格の読み解き方

複雑なJIS記号から鉄の種類や特性を読み解く方法を学べます。

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金属組織の秘密

鉄の性質を根本から決めるミクロな世界の構造を理解できます。

鉄の種類を分ける炭素鋼・合金鋼・鋳鉄の基本的な違い

 


鉄は、私たちの身の回りのあらゆる場所で使われている最も重要な金属の一つです 。しかし、「鉄」と一言で言っても、実はその中には無数の種類が存在します 。その性質を大きく左右するのが「炭素(C)」の含有量です 。金属加工の現場でまず押さえておくべきなのは、鉄が炭素量によって大きく3つに分類されるという事実です。具体的には、炭素の含有量が少ないものから「純鉄」、「鋼(はがね)」、そして「鋳鉄(ちゅうてつ)」に分けられます 。
この3つの違いを理解することが、適切な材料選定と加工の第一歩となります 。
  • 純鉄:炭素含有量が0.02%以下の非常に純粋な鉄です 。非常に柔らかく、加工しやすい反面、強度が低いため構造材料としてはあまり使われません。電磁石の鉄心など、その磁気特性を活かした用途で活躍します。
  • 鋼(Steel):炭素含有量が0.02%~2.14%の範囲にある鉄のことで、一般的に「鉄」として広く利用されているのがこの「鋼」です 。炭素鋼と合金鋼の2つに大別され、炭素量や他の元素の添加によって、硬さ、粘り強さ、耐食性などを自在に変化させられるのが最大の特徴です。
  • 鋳鉄(Cast Iron):炭素含有量が2.14%~6.67%と非常に多い鉄です 。鋼に比べて硬いですが、その反面、脆く(もろく)て粘り強さに欠ける性質があります 。融点が低く、溶かした鉄を型に流し込んで複雑な形状を作る「鋳造」に適しているため、マンホールの蓋や機械のベッド、エンジン部品などに用いられます 。

さらに、鋼は「炭素鋼」と「合金鋼」に分けられます。

炭素鋼(Carbon Steel)

鉄と炭素を主成分とする合金で、炭素以外の元素は意図的に添加されません 。炭素の量によってさらに「低炭素鋼(マイルド鋼)」「中炭素鋼」「高炭素鋼」に分類され、炭素量が多いほど硬く、強くなりますが、同時に脆さも増します。安価で加工しやすいため、建築資材や自動車のボディ、工具など非常に幅広い用途で使われています。
合金鋼(Alloy Steel)

炭素鋼に、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)といった特殊な元素(合金元素)を1種類または複数添加することで、特定の性質を向上させた鋼です 。例えば、ステンレス鋼はクロムやニッケルを添加することで、驚異的な耐食性(サビにくさ)を実現した合金鋼の代表例です。その他にも、強度、耐熱性耐摩耗性などを極限まで高めた様々な合金鋼が存在し、航空機のエンジンや精密機械の部品など、過酷な環境下で使われることが多いです。
以下の表は、それぞれの特徴をまとめたものです。
種類 炭素含有量 主な特徴 代表的な用途
純鉄 ~0.02% 柔らかい、加工しやすい、磁化しやすい 電磁石の鉄心、研究用材料
炭素鋼 0.02%~2.14% 安価、加工しやすい、炭素量で性質が変化 建築資材、自動車部品、工具、缶
合金鋼 0.02%~2.14% 高強度、高耐食性、高耐熱性など特殊な性質を持つ ステンレス製品、航空機部品、金型
鋳鉄 2.14%~6.67% 硬い、脆い、鋳造しやすい、振動減衰性が高い マンホールの蓋、機械の土台、エンジンブロック

このように、鉄は炭素量という基本的な要素だけで、その性質が劇的に変化します。さらに合金元素が加わることで、その可能性は無限に広がります。現場で扱う鉄がどの分類に属するのかを意識することで、その後の加工方法や熱処理の選択がより的確に行えるようになるでしょう。

鉄のJIS規格と記号の意味を読み解く


現場で鉄鋼材料を扱う上で避けて通れないのが、JIS(日本産業規格)で定められた材料記号です 。一見するとただのアルファベットと数字の羅列に見えるこの記号も、ルールを理解すれば、その材料がどのような種類で、どのような特性を持ち、どのような用途に適しているのかを瞬時に読み解くことができる、いわば「鉄の戸籍謄本」のようなものです。
JISの鉄鋼記号は、大きく分けて3つの部分から構成されています 。
1. 材質を表す記号(冒頭のアルファベット)

最初のアルファベットは、その材料の大まかな分類を示します。
  • S (Steel): 一般構造用圧延鋼材など、最も一般的な「鋼」を示します。例えば「SS400」の最初のSはSteelのSです。
  • F (Ferrum): ラテン語の「鉄(Ferrum)」に由来し、主に鉄鋼材料全般や特殊な用途の鋼材に使われることがあります 。例えば、鍛造品(SF材)などで見られます。
  • SUS (Steel Use Stainless):言わずと知れたステンレス鋼です 。「サス」という愛称で現場でも呼ばれることが多いでしょう。例えば「SUS304」が代表的です。

2. 製品形状や用途を表す記号

材質記号の次に続くアルファベットは、その材料がどのような形状や用途で作られているかを示します。
  • P (Plate): 板(Plate)を意味し、SPCC(冷間圧延鋼板)やSPHC(熱間圧延鋼板)のように鋼板によく使われます 。
  • K (Kogu): 「工具(Kogu)」を意味し、SK材(炭素工具鋼)などで使用されます。
  • T (Tube): 管(Tube)を意味し、STKM(機械構造用炭素鋼鋼管)などで見られます。
  • W (Wire): 線(Wire)を意味し、SWRM(軟鋼線材)などに使われます。

3. 種類の記号や最低保証強度

記号の末尾に来る数字や記号は、その材料の具体的な種類や、最も重要な特性の一つである「引張強さ」の最低保証値を示しています。
  • SS400: この場合の「400」は、引張強さが最低でも400N/mm²以上であることを保証している、という意味です。最も広く使われる一般構造用圧延鋼材で、この数字の意味を知っているだけで、その材料がどれくらいの力に耐えられるのかが直感的に分かります。
  • S45C: 機械構造用炭素鋼の代表例です。この「45」は、炭素含有量がおおよそ0.45%であることを示しています。炭素量がわかることで、その材料の硬さや焼入れのしやすさなどを予測できます。
  • SUS304: 最も代表的なステンレス鋼です。「304」という数字は、アメリカの規格に由来する種類番号で、クロム18%、ニッケル8%を含むことを示唆しています。

以下に、代表的なJIS記号の読み解き例をいくつか示します。
JIS記号 分解・解説 意味
SS400 S (Steel) - S (Structure) - 400 (最低引張強さ) 一般構造用圧延鋼材で、引張強さが400N/mm²以上のもの
S45C S (Steel) - 45 (炭素量約0.45%) - C (Carbon) 炭素含有量が約0.45%の機械構造用炭素鋼
SPCC S (Steel) - P (Plate) - C (Cold) - C (Commercial) 冷間圧延鋼板(コールド材)の一般用
SUS304 S (Steel) - US (Use) - 304 (種類番号) オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な種類

JIS記号は、まさに鉄鋼材料の国際言語です。これらのルールを少しでも頭に入れておけば、図面や仕様書に書かれた記号から、その材料の素性を見抜き、より適切な加工方法や工具の選定に繋げることができます。

より詳しい鉄鋼記号については、以下の日本産業規格のウェブサイトで検索、閲覧することが可能です。

日本産業規格(JIS)の検索サイト:鉄鋼に関する規格(例:G 0203 鉄鋼用語)を検索することで、公式な定義を確認できます。

鉄の性質を決める金属組織、フェライトとオーステナイトとは?


鉄の硬さや粘り、磁石につくかつかないかといった性質は、実は目に見えないミクロなレベルの「金属組織」によって決まっています。特に重要なのが「フェライト」と「オーステナイト」という2つの組織です。これらは鉄の結晶構造の違いであり、温度や炭素の含有量によって変化します 。
フェライト (Ferrite) 🐄

常温の鉄や炭素鋼に存在する、非常に基本的な組織です 。α鉄(アルファてつ)とも呼ばれ、「体心立方格子構造」という原子の並び方をしています。この構造は原子の隙間が比較的小さいため、炭素をほとんど固溶(組織の中に溶け込ませる)することができません(最大でも0.02%程度) 。
  • 性質: 炭素をあまり含まないため、非常に柔らかく、延性(引き伸ばされる性質)や展性(薄く広げられる性質)に富んでいます 。加工しやすいのが特徴です。
  • 磁性: 強磁性体であり、磁石にくっつきます。私たちが普段「鉄は磁石につく」と認識しているのは、このフェライト組織のおかげです。
  • 役割: 鋼の中では、柔らかさや粘り強さを担当する組織です。高炭素鋼の中でも、このフェライトの割合を調整することで、硬さと粘り強さのバランスを取っています。

オーステナイト (Austenite) 🔥

鉄を約727℃以上に加熱した際に現れる高温状態の組織です 。γ鉄(ガンマてつ)とも呼ばれ、「面心立方格子構造」という、フェライトとは異なる原子の並び方をしています。この構造は原子の隙間が大きく、炭素を最大で2.14%も固溶できるという大きな特徴があります 。
  • 性質: 高温で安定な組織ですが、ニッケルやマンガンなどの合金元素を添加することで、常温でもこのオーステナイト組織を維持させることができます。代表的な例が「SUS304」などのオーステナイト系ステンレス鋼です。
  • 磁性: 常磁性体であり、磁石につきません 。SUS304製のネジやボルトが磁石に反応しないのは、このためです。加工によって部分的に磁性を帯びる「加工誘起マルテンサイト変態」という現象も知られています。
  • 役割: 鋼の「焼入れ」において非常に重要な役割を果たします。オーステナイト状態から急速に冷却することで、炭素が組織内に閉じ込められた非常に硬い「マルテンサイト」という組織に変態させることができるのです。

意外な事実として、鉄は温度によって原子の並び方(結晶構造)が変化し、それに伴って性質も劇的に変わる「変態」という現象を起こす金属です 。この変態を巧みに利用した技術が「熱処理」であり、同じ化学成分の鋼でも、熱処理の方法次第で、工具のように硬くしたり、バネのようにしなやかにしたりと、性能を自在にコントロールできるのです。
組織 結晶構造 炭素固溶限 性質 磁性
フェライト (α鉄) 体心立方格子 (BCC) 約0.02% 柔らかい、延性に富む 強磁性(磁石につく)
オーステナイト (γ鉄) 面心立方格子 (FCC) 約2.14% 高温で安定、粘り強い 常磁性(磁石につかない)

このフェライトとオーステナイトの関係を理解することは、熱処理の原理を理解する上で不可欠です。なぜ焼入れで硬くなるのか、なぜステンレスは錆びにくく磁石につかないのか、その答えはすべてこのミクロな組織の世界に隠されています。

意外と知らない鉄の歴史と未来の可能性


鉄は現代文明を支える基盤ですが、その歴史は古く、そして未来に向けた進化も止まることはありません 。金属加工に携わる者として、普段扱っている「鉄」がどのような旅を経てきたのか、そしてこれからどこへ向かうのかを知ることは、仕事への新たな視点を与えてくれるかもしれません。
隕石から始まった鉄との出会い

人類が最初に出会った鉄は、実は地球上のものではありませんでした。それは宇宙から飛来した「隕鉄(いんてつ)」だったのです。古代エジプトのツタンカーメン王の墓から発見された有名な「隕鉄の短剣」は、ニッケルを豊富に含んでおり、錆びずに当時の輝きを保っています。当時の人々にとって、空から降ってきたこの強靭で錆びない金属は、まさに神からの贈り物であり、非常に貴重な宝物として扱われていました。

産業革命を支え、世界を変えた鉄

鉄の利用が本格的に拡大したのは、18世紀の産業革命期に、石炭から作られる「コークス」を用いた製鉄法が発明されてからです 。これにより、高品質な鉄を安価に大量生産できるようになり、鉄道、蒸気機関、橋、建築物など、社会のあらゆるインフラが鉄によって作られました。イギリスにある世界初の鉄橋「アイアンブリッジ」は、まさにその象徴であり、鉄が切り開いた近代社会の幕開けを今に伝えています 。
鉄の未来:より強く、より環境に優しく

鉄鋼技術は成熟したように見えますが、その進化は今も続いています 。現代の鉄鋼研究は、大きく分けて二つの方向性で進んでいます。
  • 超高性能化: 自動車の軽量化と安全性向上を両立させる「超ハイテン(超高張力鋼板)」、航空宇宙分野で求められる極限環境に耐える特殊合金、あるいは摩擦や摩耗を極限まで減らした自己潤滑性を持つ鋼材など、これまでの常識を覆すような新しい鉄の開発が進んでいます。ナノテクノロジーを応用し、原子レベルで組織を制御することで、理論限界に近い強度を持つ鉄も夢ではありません。
  • 環境調和型製鉄: 従来の製鉄法は、鉄鉱石を還元する際に大量の二酸化炭素(CO2)を排出するという課題を抱えています。そこで現在、世界中の鉄鋼メーカーが競って開発しているのが、水素を使って鉄鉱石を還元する「水素還元製鉄」です。この技術が実現すれば、製鉄プロセスにおけるCO2排出量を劇的に削減でき、カーボンニュートラル社会の実現に大きく貢献すると期待されています。

さらに、鉄はリサイクルの優等生でもあります。一度作られた鉄は、何度でも溶かして再利用することが可能で、そのリサイクル率は90%を超えています。この優れた持続可能性も、未来の社会において鉄が重要な役割を担い続ける理由の一つです。

私たちが日々加工している鉄は、古代の王が珍重した神秘の金属であり、産業革命を牽引した力の象徴であり、そして今まさに、持続可能な未来を築くためのキーマテリアルとして進化を遂げようとしています 。一枚の鋼板の向こうに、そんな壮大な歴史と未来の可能性を感じてみるのも面白いのではないでしょうか。
以下のリンクは、鉄の未来の可能性について、東京工業大学が公開している興味深い記事です。

未来を切り拓く、鉄の可能性 - 高校生・受験生向けサイト | 東工大

 

 


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