耐熱PEEKの特性と種類、加工の注意点とPPSとの比較

耐熱PEEKはその優れた特性から多くの分野で利用されていますが、その種類や加工の注意点、さらにはPPSといった他の樹脂との違いまで詳しくご存知でしょうか?

耐熱PEEKの全貌

耐熱PEEK 徹底解説
🔥
驚異の耐熱性

連続使用温度260℃を誇り、高温環境でも安定した性能を発揮します。

🔧
優れた機械的強度

高い強度と靭性を持ち、金属代替としても利用可能なほどの信頼性を持っています。

💡
多様な用途

航空宇宙から医療まで、その優れた特性を活かして幅広い分野で活躍しています。

耐熱PEEKの驚くべき特性と基本物性

 

PEEK(ピーク)樹脂、正式名称ポリエーテルエーテルケトンは、スーパーエンジニアリングプラスチックの中でも最高峰に位置づけられる高性能な熱可塑性樹脂です 。その最大の特徴は、驚異的な耐熱性にあります 。連続使用温度は250℃から260℃に達し、融点は334℃と非常に高いレベルを誇ります 。これは、一般的なエンジニアリングプラスチックが150℃程度で限界を迎えるのと比較すると、その差は歴然です 。このため、自動車のエンジン周辺部品や航空機のエンジン部品など、極めて過酷な高温環境下でもその物性を維持し続けることが可能です 。
PEEKの優れた特性は耐熱性だけにとどまりません。機械的強度も特筆すべき点です 。高い引張強度、耐衝撃性耐疲労性を兼ね備え、金属の代替材料としても多くの実績があります 。特に、ガラス繊維炭素繊維で強化したグレードでは、その強度はさらに向上し、300℃近い高温環境下でも使用可能な製品も存在します 。

 

参考)PEEKとは?高機能の熱可塑性樹脂の特徴と各種グレード - …

その他にも、以下のような優れた物性をバランス良く備えています。

  • 耐薬品性: 多くの酸、アルカリ、有機溶剤に対して優れた耐性を持ちます 。
  • 耐熱水性・耐スチーム性: 高温の水中やスチーム環境でも加水分解を起こしにくく、オートクレーブ滅菌などの医療分野でも安心して使用できます 。
  • 難燃性: 燃えにくく、燃焼時の発煙量も少ないため、安全性が求められる用途に適しています 。
  • 電気的特性: 広い温度範囲および周波数帯域で安定した優れた電気絶縁性を示します 。
  • 寸法安定性: 吸水率が低く、成形後の寸法変化が少ないため、精密な部品にも向いています 。

これらの特性から、PEEKは「究極の樹脂」とも呼ばれ、航空宇宙、自動車、医療、半導体製造装置など、最も要求の厳しい分野で不可欠な材料となっています。
より詳細なPEEKの物性データについては、以下のリンクが参考になります。
PEEK樹脂とは?種類や特徴、用途を解説 | meviy | ミスミ

耐熱PEEKの種類とグレード別用途の紹介

一口にPEEKと言っても、その用途や要求性能に応じて様々な種類(グレード)が存在します 。基本となるのは、何も強化材を加えていない「ナチュラルグレード」ですが、特定の性能を向上させるために、様々なフィラー(充填材)を配合したグレードが開発されています。
代表的なグレードとその特徴、主な用途を以下の表にまとめました。

グレード名 特徴 主な用途
ナチュラルグレード PEEK本来の特性を持つ標準タイプ。高純度でアウトガスが少ない。 半導体・液晶製造装置部品、医療機器部品、食品機械部品
ガラス繊維強化グレード ガラス繊維を配合し、剛性と耐クリープ性を向上させたタイプ。寸法安定性にも優れる。 自動車エンジン部品、コネクタ、ポンプ部品、絶縁部品
炭素繊維強化グレード

炭素繊維を配合し、機械的強度、摺動性、耐摩耗性を大幅に向上させたタイプ
参考)PEEKポリエーテルエーテルケトン樹脂|KDAのプラスチック…
​。導電性も付与される。

航空機構造部品、ギア、ベアリング、摺動部品
摺動グレード 炭素繊維、グラファイト、PTFEなどを配合し、摩擦係数を低減させ、耐摩耗性を極限まで高めたタイプ。 高速・高荷重下で使われる軸受、シールリング、ワッシャー


これらのグレードはほんの一例であり、メーカーによってはさらに細分化された特殊グレードも存在します。例えば、生体適合性を有し、インプラントなどの医療用途に特化したメディカルグレードや、静電気対策として導電性を調整したグレードなど、そのバリエーションは多岐にわたります 。

 

参考)https://www.mdpi.com/2073-4360/15/18/3706

適切なグレードを選定するためには、使用環境(温度、荷重、接触する化学物質など)や、部品に求められる性能(強度、摺動性、電気的特性など)を正確に把握することが不可欠です。設計の初期段階で材料メーカーや専門家と相談することが、最適な材料選定への近道と言えるでしょう。
各グレードの詳細な特性については、材料メーカーの技術資料を参照することをお勧めします。
PEEK樹脂素材シェアNo.1 - TECAPEEK

耐熱PEEKの切削加工における注意点と成功の秘訣

PEEKは優れた特性を持つ一方で、その高い性能ゆえに切削加工が難しい材料としても知られています 。加工を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
1. 適切な工具の選定 🔧
PEEKは非常に硬く、通常の工具ではすぐに摩耗してしまいます 。そのため、超硬工具やダイヤモンドコーティングが施された工具、あるいはPCD(多結晶ダイヤモンド)工具といった、高硬度な材質の工具を選定することが必須です 。工具の刃先は常にシャープな状態を保ち、こまめな管理を怠らないことが、加工精度と工具寿命の向上に繋がります 。
2. 熱管理の徹底 🔥
加工時に発生する熱の管理は、PEEK加工における最重要課題です 。PEEKは融点が高いものの、ガラス転移温度(約143℃)を超えると軟化し始めます。加工熱によって材料が溶けたり、変形したりすると、寸法精度が著しく低下する原因となります 。

  • 切削条件の最適化: 高すぎる回転速度や送り速度は避け、適切な条件を見つけることが重要です。一般的には「低速・高送り」が推奨されます。
  • 冷却: エアーブローや切削油クーラント)を用いて、刃先と加工点を効果的に冷却し、熱の蓄積をぎます 。

3. 切りくずの処理 💨
PEEKの切りくずは硬く、工具に絡みつきやすい性質があります。切りくずが加工面に再付着すると、仕上げ面の品位を損なう原因となります。エアーブローやクーラントで、切りくずをスムーズに排出し続けることが重要です。

 

4. 反りへの対策 📐
特に薄肉の板材や広面積の部品を加工する際には、内部応力の解放によって「反り」が発生しやすくなります 。これを防ぐためには、以下のような対策が有効です。

  • アニーリング(熱処理): 加工前後にアニーリングを行い、材料の内部応力を除去する。
  • 適切なクランプ: 材料をしっかりと、しかし過度な力をかけずに固定する。
  • 加工手順の工夫: 材料の両面から少しずつ加工を進めるなど、応力バランスを考慮した手順を踏む。

PEEKの切削加工は、まさに「材料との対話」です。その特性を深く理解し、一つ一つの工程を丁寧に行うことが、高精度な部品を生み出すための鍵となります。
加工の具体的なノウハウについては、専門の加工業者のウェブサイトが参考になります。
PEEK切削で品質を左右する3つの技術要素

耐熱PEEKとPPS、PEIの徹底比較!最適な樹脂の選び方

PEEKは非常に高性能ですが、その分コストも高価です 。そのため、用途によっては他のスーパーエンプラであるPPS(ポリフェニレンサルファイド)やPEI(ポリエーテルイミド)がより適している場合もあります。それぞれの特性を比較し、最適な樹脂を選ぶためのポイントを見ていきましょう 。
以下に、PEEK、PPS、PEIの主要な特性を比較した表を示します。

特性 PEEK (ポリエーテルエーテルケトン) PPS (ポリフェニレンサルファイド) PEI (ポリエーテルイミド)
耐熱性 (連続使用温度)

約260℃ (最高クラス)
参考)LCPと他スーパーエンプラの比較 ─ PEEK・PPS・PE…

約200~220℃ ​ 約170℃
機械的強度 非常に高い (靭性も高い) 高い (剛性が高いが、脆い) ​ 高い
耐薬品性 非常に優れる 非常に優れる 良好
寸法安定性 優れる (低吸水性) やや劣る (成形収縮が大きい) ​ 非常に優れる (非晶性)
電気的特性 良好 (高周波特性はPEIに劣る) 優れる 優れる (特に高周波特性)
耐加水分解性 優れる 良好 優れる
コスト 高価 比較的安価 中程度
その他 金属代替に最適

線膨張係数が低い
参考)PPSがPEEKよりも優れている理由とは?

透明性を持つグレードがある ​


💡 最適な樹脂を選ぶポイント

  • PEEKが最適な場合: 250℃を超える極めて高い耐熱性が要求される場合や、金属代替として最高の機械的強度、耐疲労性、耐摩耗性が必要な場合です 。コストよりも性能を最優先する、航空宇宙や医療インプラントなどの分野で選ばれます。
  • PPSが最適な場合: 200℃前後の耐熱性と、優れた耐薬品性が求められる用途に適しています 。PEEKよりもコストを抑えたい場合に有力な選択肢となります。ただし、衝撃が加わる用途には不向きなため注意が必要です 。自動車の電装部品やポンプ部品などに使われます。
  • PEIが最適な場合: 高い寸法安定性、優れた電気特性(特に高周波特性)、そして透明性が必要な場合に強みを発揮します 。耐熱性はPEEKやPPSに劣るものの、非晶性であるため反りやヒケが少なく、精密な成形が可能です。コネクタやリフレクター、医療器具のトレイなどに利用されます。

このように、それぞれの樹脂には得意な分野と不得意な分野があります。要求される性能とコストのバランスを総合的に判断し、最適な材料を選定することが重要です。
さらに詳しい比較情報については、以下の技術情報サイトが役立ちます。
LCPと他スーパーエンプラの比較 PEEK・PPS・PEIとの違いや使い分けについて解説 | 府中プラ

【独自視点】耐熱PEEKの意外な弱点とそれを克服する最新技術

「完璧な材料」と称されることの多いPEEKですが、実はいくつかの弱点も存在します。しかし、技術の進歩はそれらの弱点を克服し、PEEKの可能性をさらに広げています。

 

弱点1: 紫外線への耐性 ☀️
PEEKは紫外線、特に高エネルギーのガンマ線やX線に長時間さらされると、変色したり物性が低下したりする可能性があります。そのため、屋外での長期使用や宇宙環境など、強い放射線にさらされる用途では注意が必要です。

 

弱点2: 特定の薬品への溶解性 🧪
優れた耐薬品性を誇るPEEKですが、濃硫酸や濃硝酸といった非常に強力な酸には溶解してしまいます。使用環境でこれらの薬品に接触する可能性がある場合は、事前の耐性評価が不可欠です。

 

弱点3: 高コストと加工の難易度 💰
これまでも触れてきたように、PEEKは材料そのものが高価であり、加工にも専門的な技術と設備を要するため、製品全体のコストが高くなる傾向があります。これが、より広範な用途への普及を妨げる一因となっています。

 

✅ 弱点を克服する最新技術の動向
これらの弱点を克服するため、世界中で研究開発が進められています。

 

  • フィラー・添加剤による機能性向上: 紫外線吸収剤を添加して耐候性を向上させたり、特殊なフィラーを配合して熱伝導性や制振性を付与したりする研究が進んでいます。最近では、グラフェンを添加することで、機械的強度と熱安定性を同時に向上させる技術も報告されています 。
  • 3Dプリンティング技術の応用: 従来は切削加工や射出成形が主流でしたが、近年ではPEEKに対応した3Dプリンタが登場しています。これにより、切削では困難だった複雑な形状や、一体化した部品の製造が可能になり、コスト削減やリードタイム短縮に繋がると期待されています。特に医療分野では、患者一人ひとりに合わせたカスタムメイドのインプラントを3Dプリンタで製造する研究が活発です 。
  • 発泡成形による軽量化: 高温熱誘起相分離法などの新しい技術を用いてPEEKを発泡させ、軽量で断熱性に優れた多孔質材料を作り出す研究も行われています 。これにより、航空宇宙分野でのさらなる軽量化や、高性能な断熱材としての応用が期待されます。

PEEKは、もはや単なる「強い樹脂」ではありません。様々な先端技術と融合することで、その弱点を克服し、これまで不可能だった領域へと応用範囲を広げ続けている、進化する材料なのです。今後もPEEKとその関連技術の動向から目が離せません。
PEEKと先端材料の融合に関する研究論文は、以下のリンクから閲覧できます。
Comprehensive Enhancement in Thermomechanical Performance of Melt-Extruded PEEK Filaments by Graphene Incorporation

 

 


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