グラファイト 熱伝導率 の特性と金属加工への活用

グラファイトの優れた熱伝導特性と金属加工分野での活用方法について解説します。銅やアルミニウムと比較した際の優位性とは?

グラファイト の 熱伝導率 について

グラファイト の 熱伝導率 について

グラファイトの熱伝導特性
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高い面内熱伝導率

室温で1000W/mK以上の熱伝導率を持ち、銅の2-3倍、アルミの3-5倍の性能

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温度による変化

低温(-40℃)では約1400W/m・K、高温(100℃)では約1200W/m・Kと温度上昇で効率低下

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金属加工での応用

電子機器の放熱部品や高温環境での熱対策に最適な材料

グラファイト 熱伝導率 の基本特性と構造

 

グラファイトは炭素原子が六角形格子状に配列した層状構造を持つ材料で、その特殊な構造が熱伝導特性に大きく影響しています。グラファイトの最も注目すべき特徴は、面内方向(層に沿った方向)と面直方向(層の積層方向)で熱伝導率が大きく異なる異方性を持つことです。

 

面内方向では、炭素原子が強固な共有結合で結ばれているため、熱エネルギーが効率よく伝わります。室温環境では面内熱伝導率は約1000〜1500 W/m-Kに達し、これは一般的な金属材料である銅(約400 W/m-K)の2〜3倍、アルミニウム(約200〜250 W/m-K)の4〜5倍という驚異的な値です。

 

一方、面直方向(c軸方向)の熱伝導率は約5 W/m-K程度と非常に低く、これは層間の結合が弱いファンデルワールス力によるものです。この熱伝導率の異方性は、グラファイト材料を使用する際の重要な考慮点となります。

 

グラファイトの構造的特徴。

  • 六角形格子状に配列した炭素原子の層構造
  • 層内は強固な共有結合、層間は弱いファンデルワールス力
  • 面内・面直方向で大きく異なる熱伝導特性
  • 軽量性(密度は約2.2 g/cm³で、アルミニウムの約80%、銅の約25%)
  • 高い化学的安定性と耐熱性

この特殊な構造により、グラファイトは電子機器の放熱材やヒートスプレッダーとして非常に有用な材料となっています。特に、限られたスペースで効率的な熱管理が求められる現代の高性能電子機器において、その価値は高まる一方です。

 

グラファイト 熱伝導率 の温度依存性

 

グラファイトの熱伝導率は温度によって大きく変化する特性を持っています。この温度依存性は金属加工や電子機器の設計において非常に重要な考慮点となります。

 

実測データによると、グラファイトシートの熱伝導率は低温域(-40℃〜0℃)では約1400 W/m-Kと最も高い値を示します。これが室温(20〜25℃)では約1300 W/m-K程度となり、温度が上昇するにつれて徐々に低下していきます。100℃の高温環境では約1200 W/m-Kまで下がることが確認されています。

 

この温度上昇に伴う熱伝導率の低下は、主にフォノン散乱の増加によるものです。フォノンとは格子振動の量子であり、温度が上がるとフォノン同士の衝突頻度が増加し、熱エネルギーの伝達効率が低下します。

 

温度ごとのグラファイトシート熱伝導率変化。

温度帯 熱伝導率(W/m-K) 特徴
-40℃〜0℃ 約1400 最も熱伝導率が高い
20℃〜25℃ 約1300 室温での標準値
50℃〜60℃ 約1250 一般的な動作温度での値
100℃ 約1200 高温環境での値

この特性は銅やアルミニウムなどの一般的な金属材料と対照的です。例えば銅は室温で約400 W/m-Kの熱伝導率を持ちますが、300℃の高温でも約380 W/m-Kと、温度上昇による影響が比較的小さいのです。

 

この温度依存性は、グラファイト材料を使用する際の重要な考慮点です。使用環境の温度範囲を考慮して、適切な熱設計を行う必要があります。特に、高温環境での使用や、温度変化が激しい環境での使用においては、熱伝導率の変化を考慮した設計が不可欠となります。

 

グラファイトシートの熱伝導率の温度依存性に関する詳細データはこちら

銅・アルミニウムとグラファイト 熱伝導率 の比較

 

金属加工の現場において、材料選択は製品の性能を左右する重要な要素です。放熱性能が求められる部品において、銅やアルミニウムと並んでグラファイトが選択肢となることが増えています。これら材料の熱伝導特性を比較し、それぞれの利点と欠点を明確にしましょう。

 

主要材料の熱伝導率比較。

材料 熱伝導率(W/m-K) 密度(g/cm³) 熱伝導率/密度比 特徴
グラファイト(面内方向) 1000〜1500 2.2 455〜682 異方性が高い、軽量
380〜400 8.9 43〜45 等方性、加工性良好
アルミニウム 200〜250 2.7 74〜93 軽量、コスト低
ダイヤモンド 2000〜2200 3.5 571〜629 最高熱伝導率、高コスト

この比較から明らかなように、グラファイトは面内方向において銅の2〜3倍、アルミニウムの4〜5倍もの熱伝導率を持っています。さらに、密度あたりの熱伝導率(熱伝導効率)を見ると、グラファイトは銅の約10倍、アルミニウムの約5倍という驚異的な値を示しています。

 

しかし、グラファイトの大きな欠点は熱伝導の異方性です。面直方向(c軸方向)の熱伝導率は約5 W/m-Kと非常に低く、これは銅やアルミニウムと比較して著しく劣ります。この問題に対応するため、異なる向きのグラファイト材を組み合わせた構造体が研究されています。東京大学の研究グループは、向きの異なる2つのグラファイト材を重ねた構造により、熱伝導率が900 W/m-Kの等方材料と同等の放熱性能を実現しています。

 

また、材料の選択において考慮すべき点は熱伝導率だけではありません。加工性、コスト、耐久性、耐食性なども重要な要素です。銅は優れた加工性と等方的な熱伝導性を持ちますが、重量とコストが高いという欠点があります。アルミニウムは軽量で低コストですが、熱伝導率は銅よりも低くなります。

 

用途に応じた材料選択のポイント。

  • 限られた方向への熱拡散が求められる場合:グラファイト(方向性を考慮)
  • 等方的な熱拡散が必要な場合:銅またはアルミニウム
  • 軽量化が最優先される場合:グラファイトまたはアルミニウム
  • コスト重視の場合:アルミニウム
  • 高温環境での使用:グラファイト(耐熱性に優れる)

異なる向きのグラファイト材を組み合わせた等方的熱伝導体の研究はこちら

グラファイト シート の 熱伝導 性能と応用

 

グラファイトシートは、グラファイトの優れた面内熱伝導特性を活かした加工製品です。厚さ数十〜数百μmの薄いシート状に加工されており、柔軟性と高い熱伝導性を兼ね備えています。この独特の特性により、様々な産業分野で重要な役割を果たしています。

 

グラファイトシートの熱伝導率は一般的に150〜400 W/m-Kの範囲ですが、製造方法や品質によっては1000 W/m-K以上の高性能なものも存在します。特に高品質な熱分解グラファイトシートは、1000〜1700 W/m-Kという驚異的な熱伝導率を誇ります。

 

グラファイトシートの主な特徴。

  • 優れた面内熱伝導性(銅の2〜3倍)
  • 軽量性(銅の約1/4の密度)
  • 柔軟性と加工のしやすさ
  • 高い化学的安定性
  • 電気伝導性

これらの特性を活かした応用例は多岐にわたります。

  1. 電子機器の放熱対策

    スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどの電子機器では、限られたスペースで効率的に熱を逃がす必要があります。グラファイトシートは薄くて軽く、高い熱伝導性を持つため、CPUやGPUなどの発熱部品から筐体への熱拡散材として最適です。特に薄型化が求められる現代のモバイル機器では必須の材料となっています。

     

  2. LED照明の放熱基板

    高輝度LEDは発熱量が多く、効率的な放熱が長寿命化の鍵となります。グラファイトシートをLEDの基板材料として使用することで、発生した熱を素早く広範囲に拡散させ、LEDの温度上昇を抑制します。

     

  3. 自動車部品の熱対策

    電気自動車(EV)のバッテリーパックやパワーエレクトロニクス部品の熱管理にグラファイトシートが使用されています。バッテリーセル間の温度差を均一化することで、バッテリーの性能と寿命を向上させます。

     

  4. 産業機器の放熱部品

    高出力モーターや変圧器などの産業機器では、効率的な放熱が不可欠です。グラファイトシートは電気絶縁性を確保しながら熱だけを効率的に伝導させる特性が評価され、絶縁放熱材として利用されています。

     

グラファイトシートの加工技術も進化しており、複雑な形状への対応や、金属やポリマーとの複合化によって、さらに高機能な放熱部材が開発されています。例えば、アルミニウムとグラファイトの複合材料は、アルミニウムの加工性と等方的熱伝導性、グラファイトの高い熱伝導率という両者の利点を組み合わせた材料として注目されています。

 

業界最高水準の熱伝導率を誇るグラファイトシートの詳細はこちら

金属加工における グラファイト 熱伝導率 活用の未来

 

金属加工業界において、グラファイトの優れた熱伝導特性を活用した技術革新は今後さらに加速していくと予想されます。特に、高度な電子機器の普及やエネルギー効率の向上が求められる現代において、グラファイトの可能性は無限に広がっています。

 

グラファイト熱伝導技術の今後の展開として、以下のような方向性が考えられます。

  1. 3次元熱流制御技術の発展

    従来のグラファイトの弱点である面直方向の低い熱伝導率を克服するため、異なる向きのグラファイト材を組み合わせた3次元熱流制御技術が進化しています。東京大学の研究グループが開発した技術では、熱伝導率が900 W/m-Kの等方材料と同等の放熱性能を実現しています。この技術の進化により、より効率的で等方的な熱伝導特性を持つグラファイト材料が開発され、応用範囲が大幅に拡大すると期待されています。

     

  2. グラファイト-金属複合材料の進化

    グラファイトの高い熱伝導率と金属の加工性・機械的強度を組み合わせた複合材料の開発が進んでいます。特に、アルミニウム-グラファイト複合材料は、軽量性と高い熱伝導性を兼ね備えた次世代の放熱材料として、航空宇宙産業や自動車産業での応用が期待されています。銅粒子をバインダーとしてグラファイト材を接合する技術も、異方性の問題を解決する有望なアプローチです。

     

  3. ナノテクノロジーとの融合

    グラフェン(単層グラファイト)やグラファイトナノ粒子を活用した新世代の熱伝導材料の研究が進んでいます。グラフェンの熱伝導率は2000〜5000 W/m-Kと極めて高く、これを金属マトリックス中に分散させた複合材料は、従来の材料を大きく上回る熱伝導特性を示す可能性があります。

     

  4. 高温プロセスにおける熱管理技術

    金属加工の現場では、鋳造、溶接、熱処理など高温プロセスが多用されます。グラファイトの高い耐熱性と熱伝導性を活かした熱管理技術が発展することで、これらのプロセスの効率化やエネルギー消費の削減が期待されます。特に、精密鋳造における冷却制御や、半導体製造における熱処理プロセスでの活用が注目されています。

     

  5. 環境負荷低減への貢献

    グラファイトは主に炭素から構成されており、適切に処理すれば環境負荷の少ない材料です。また、その高い熱伝導効率はシステム全体のエネルギー効率を向上させ、結果として二酸化炭素排出量の削減に貢献します。持続可能な社会の実現に向けて、環境に配慮した熱管理材料としてのグラファイトの役割はますます重要になるでしょう。

     

金属加工業界に携わる技術者にとって、グラファイトの熱伝導特性を理解し、その可能性を最大限に活用することは、今後の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。特に、電子機器の高性能化、小型化が進む中で、効率的な熱管理技術の重要性はさらに高まっていくと考えられます。

 

高熱伝導・熱応力緩和性を有する複合材料の研究はこちら
これら最先端の開発動向を把握し、自社の製品開発や製造プロセスに積極的に取り入れることで、金属加工業界の専門家は技術革新の最前線に立ち続けることができるでしょう。グラファイトの熱伝導特性は、単なる材料特性の一つではなく、次世代の製品開発を可能にする重要な技術基盤なのです。