送りを下げれば下げるほど安全、は大きな間違いで切りくずが詰まり工具破損コストが跳ね上がります。
スローアウェイドリルとは、先端の刃先(チップ)だけを交換して繰り返し使える刃先交換式ドリルのことです。ソリッドドリルとは構造が異なり、中心刃と外周刃の2枚のチップが、それぞれ別の切削領域を分担して切削する仕組みになっています。この機構のおかげで振動が小さく、安定した穴あけが実現できます。
切削条件を構成する要素は「切削速度 Vc(m/min)」「回転数 n(rpm)」「送り量 f(mm/rev)」の3つです。これが基本です。
- **切削速度 Vc**:工具外周が1分間に進む速さ。被削材と工具材種の組み合わせで決まります
- **回転数 n**:主軸が1分間に回転する数。切削速度と工具径から計算します
- **送り量 f**:ドリルが1回転するごとに進む距離(mm/rev)。穴の品質と切りくず処理に直結します
それぞれの計算式は以下のとおりです。
$$n = \frac{1000 \times Vc}{\pi \times D}$$
$$Vf = n \times f$$
たとえばφ20のスローアウェイドリルで炭素鋼(S45C)を加工する場合、推奨切削速度を Vc=150m/min とすると、
$$n = \frac{1000 \times 150}{3.14 \times 20} \approx 2389 \text{ rpm}$$
送り f=0.08mm/rev なら送り速度は約191mm/min です。これくらいの規模感と覚えておけば大丈夫です。
重要な点が一つあります。スローアウェイドリルの場合、「切削速度は上限より下限を意識する」ことが大切です。送りを絞りすぎて低い切削速度で使い続けると、構成刃先(BUE:被削材の微粒子が刃先に溶着する現象)が発生し、かえって仕上面が悪化します。
Sandvik Coromant(サンドビック コロマント):刃先交換式ドリルの摩耗とトラブルシューティング一覧 ─ 構成刃先・チッピング・短寿命の原因と対策が網羅されています
被削材が変わると適切な切削条件も大きく変わります。これは必須の知識です。以下の表を作業前の確認に役立ててください。なおφ17.5〜φ26サイズのスローアウェイドリル(TACドリル系)を想定した目安値です。
| 被削材 | 切削速度 Vc (m/min) | 送り量 f (mm/rev) |
|--------|--------------------|--------------------|
| 低炭素鋼(SS400, S25C) | 160〜320 | 0.04〜0.12 |
| 炭素鋼(S45C, S55C) | 80〜250 | 0.04〜0.13 |
| 合金鋼(SCM440) | 80〜200 | 0.04〜0.12 |
| ステンレス鋼・SUS304 | 100〜200 | 0.02〜0.10 |
| ねずみ鋳鉄(FC250) | 80〜250 | 0.06〜0.15 |
| アルミニウム合金(A2017) | 200〜400 | 0.10〜0.20 |
※数値はタンガロイ TDX ドリルマニュアルおよびメーカーカタログ値を参考にした目安です。機械剛性・加工深さ・クーラント条件によって調整が必要です。
ステンレス(SUS304)は炭素鋼と比べて切削速度の上限が抑えられており、送り量も低めです。SUS304を炭素鋼と同じ感覚で使うとチップの摩耗が2〜3倍速くなることがあります。厳しいところですね。
アルミニウム合金は逆に切削速度を高く取れますが、送りが小さすぎると切りくずが長く繋がってフルートに詰まります。アルミの加工では送りをしっかり確保することが条件です。
難削材(耐熱鋼・インコネルなど)の場合は炭素鋼の条件の1/5以下に切削速度を設定するのが基本です。
タンガロイ TACドリルマニュアル(PDF) ─ 被削材別の標準切削条件一覧表・チップ選択ガイドが詳細に掲載されています
切削条件と切削結果を左右するのはチップの選定です。工具メーカーは一般的に「ブレーカ形状」と「材種(コーティング)」の2軸でチップを分類しています。
ブレーカ形状は切りくずの形状をコントロールします。たとえばタンガロイのTACドリルシリーズでは以下の3種類のブレーカが用意されています。
- 🔷 **DJブレーカ**:汎用タイプ。炭素鋼・鋳鉄などのショートチップになりやすい材料向け
- 🔶 **DSブレーカ**:ステンレス鋼・低炭素鋼などのねばい材料向け。切りくず分断性能に優れます
- 🔸 **DWブレーカ**:高送り加工向け。ワイパー効果で面粗さが向上します
材種(コーティング)は耐摩耗性・耐欠損性のバランスで選びます。
| 材種 | 特長 | 主な適用 |
|------|------|----------|
| AH740(汎用) | 耐摩耗性と耐欠損性のバランス型 | 炭素鋼・合金鋼の標準加工 |
| AH120(ステンレス用) | 欠けにくく高速摩耗に強い | SUS304, SUS316 など |
| T1015(鋳鉄用) | 高耐摩耗コーティング | FC250, FCD700 など |
| GH730(高送り用) | 耐欠損性重視 | 炭素鋼の高送り加工 |
つまり「材料→ブレーカ→材種」の順で決めていくのが基本手順です。
一つだけ現場であまり知られていないポイントを挙げると、スローアウェイドリルは「1枚のチップで中心刃・外周刃どちらにも使える4コーナ設計」が多いです。コーナを使い切れずに交換しているケースがあり、チップ1枚あたりのコストを計算し直すと1/4のコストで済んでいたことに気づく現場も少なくありません。これは使えそうです。
スローアウェイドリルの切削条件を設定するうえで、給油方法は切削速度の設定値を直接変える要因になります。「内部給油(スルークーラント)」と「外部給油」では使える切削条件の範囲が大きく異なります。
タンガロイのマニュアルによると、**外部給油のみで使う場合は、標準切削条件に対して切削速度を20%以上落とし、加工深さを工具径の1.5倍まで**に制限することが推奨されています。具体的に言うと、本来 Vc=150m/min で使える工具が、外部給油では 120m/min 以下に下げる必要があります。加工時間が長くなり、段取りコストも増えます。
内部給油式が優れている理由は主に3点あります。
- 🌊 **冷却効率**:刃先に直接クーラントが当たるため、外部給油と比べて刃先温度が大幅に下がります
- 💨 **切りくず排出**:高圧クーラントが切りくずを穴から押し出すため、詰まりリスクが激減します(特に穴深さが工具径の3倍以上の深穴加工では効果絶大です)
- ⏱️ **工具寿命**:摩耗の進行が遅くなり、チップ交換の頻度が下がります
内部給油式に必要な設備条件としては、クーラント圧力 2〜7MPa 以上に対応したマシニングセンタが必要です。旧い機械では内部給油機能がないケースも多く、その場合は外部給油で切削条件を落として使います。ただし穴深さが工具径の3D(3倍)を超えるような加工では、外部給油での安定加工には限界があることを理解しておく必要があります。
内部給油式ドリルの導入を検討する際は、機械側のクーラント圧力とフィルタ精度の確認、ツーリング(オイルホールホルダー)の整備という2ステップを先に確認するとスムーズです。
長谷川加工所:内部給油式ドリルで生産性の向上を図れ ─ 難削材・深穴加工における内部給油の効果と導入ポイントが解説されています
切削条件の設定ミスは、加工不良・工具破損・工程停止という3つのロスを同時に生み出します。以下のトラブルに心当たりがないか確認してください。
**🔴 穴径がオーバーサイズになる**
原因は主にクーラントの供給不足か、外周刃に合わないブレーカの選択です。対策は給油量の増加とフィルタ清掃、そして外周刃に高靭性ブレーカの適用です。旋盤(ワーク回転)使用の場合はドリルの芯ずれも確認します。
**🔴 チッピングが頻発する**
送りが高すぎる、切削油が不足している、材種の靭性が不足しているという3パターンが原因のほとんどです。まず送りを10〜20%落とし、それでも改善しない場合はより靭性の高い材種を選択します。断続切削(傾斜面・交差穴への切り込み)では切り込み時の送りを通常の70%以下に落とすのが原則です。
**🔴 切りくずがフルートに詰まる**
長い切りくずが出るステンレスや低炭素鋼で起きやすいトラブルです。DSブレーカへの変更が第一対策で、切削速度を推奨値の範囲内で少し上げると切りくずが短く分断されます。送りを下げすぎることは逆効果になるケースがあります。ここが意外なポイントです。
**🔴 工具寿命が短い(チップが早期に摩耗する)**
切削速度が高すぎる、または給油不足による熱摩耗が疑われます。カタログ推奨値を上限として使い、まず切削速度を10〜15%下げて様子を見ます。なお工具寿命の判定基準は「逃げ面摩耗幅 0.3mm 程度」が目安です。これを超えたら即交換が原則です。
**🔴 構成刃先(BUE)が発生し仕上面が荒れる**
低炭素鋼・アルミを低い切削速度で削ったときに起きやすいです。切削速度を上げるか、コーティング材種に変更するのが効果的です。粘性の高い被削材ではクーラントの油分濃度を上げることも有効な対策になります。
ミスミ技術情報:ドリルのトラブルシューティング ─ 欠損・摩耗・折損の原因と対策が被削材別にまとめられています
十分な情報が集まりました。記事を作成します。