板厚16mm以下のSM490Aの降伏点は325N/mm²だが、100mm超では275N/mm²まで下がる。
SM490Aは、JIS G3106(溶接構造用圧延鋼材)に規定された引張強さ490N/mm²級の溶接構造用鋼材です。鋼板・鋼帯・形鋼・平鋼に適用され、橋梁・船舶・建設機械・産業機械・土木構造物など幅広い用途に使われています。元は昭和27年(1952年)に造船用の溶接構造鋼として誕生したもので、「SM」はSteel Marine(スチール・マリン)の頭文字に由来します。
JIS G3106の規定によると、SM490Aの標準的な適用板厚は鋼板で**200mm以下**です。しかし、見落とされがちな重要な点が一つあります。JIS G3106の注記では、「受渡当事者間の協定によって、SM490Aの鋼板の適用厚さを300mm以下としてもよい」と定められています。つまり、メーカーとの個別協定を結べば、板厚200mmを超えるSM490A材も製造・調達が可能ということです。これを知らないと、大型構造物の設計段階で「厚板が手に入らない」と諦めてしまう場面も出てきます。
一般的な市中在庫では、SM490Aは4.5mm〜100mm前後の板厚帯を中心に流通しています。100mmを超えるものは在庫品として常時置かれているケースは少なく、切板対応や特注ロールでの対応となることが多いです。現場での調達計画を立てる際は、リードタイムを十分に見込んでおくことが重要です。
引張強さの下限は490N/mm²、上限は610N/mm²と規定されており、この「490」という数値が鋼種名の由来になっています。強度クラスとして490N/mm²を保証しているという意味です。
| 鋼板形状 | 標準適用板厚 | 協定による最大板厚 |
|---|---|---|
| 鋼板・鋼帯・形鋼・平鋼 | 200mm以下 | 300mm以下(協定) |
JIS G3106の条文には、以下の参考ページで詳細な規定値が記載されています。
中部鋼鈑株式会社によるJIS G3106の機械的性質一覧(化学成分・衝撃試験値含む):
溶接構造用圧延鋼板(JIS G3106) | 製品情報 | 中部鋼鈑株式会社
SM490Aを扱う上でもっとも見落とされやすいのが、**板厚によって降伏点(耐力)の規定値が変わる**という点です。これは設計上・検査上の大きな落とし穴になります。板厚が厚くなるほど内部の冷却速度が遅くなり、結晶粒が粗大化しやすくなるため、降伏強度が低下する傾向があります。薄い板と同じ降伏点を前提に設計すると、強度不足のリスクが生じます。
JIS G3106(2015年版)で規定されるSM490Aの降伏点は以下のとおりです。
| 板厚(mm) | 降伏点(N/mm²) | 引張強さ(N/mm²) |
|---|---|---|
| t ≦ 16 | 325以上 | 490〜610 |
| 16 < t ≦ 40 | 315以上 | 490〜610 |
| 40 < t ≦ 75 | 295以上 | 490〜610 |
| 75 < t ≦ 100 | 295以上 | 490〜610 |
| 100 < t ≦ 160 | 285以上 | 490〜610 |
| 160 < t ≦ 200 | 275以上 | 490〜610 |
注目すべきは、板厚t≦16mmの325N/mm²に対し、板厚160mm超200mm以下では275N/mm²と、**50N/mm²もの差**があることです。例えるなら、高さ16mmのブロック(6mmのスマートフォンより少し厚い程度)と、高さ200mm近い分厚い鋼板(文庫本の縦幅くらい)では、同じSM490Aでも設計時に使える強度がまったく異なります。
引張強さは板厚全帯にわたって490〜610N/mm²と変わりません。しかし、降伏点は板厚ごとに段階的に低下するため、許容応力度設計(たとえば道路橋示方書に基づく設計)では、適用する板厚に応じた降伏点を必ず確認することが原則です。
降伏点区分を確認すれば問題ありません。ミルシート(材質証明書)で板厚と降伏点を照合することを現場のルーティンにしておくと安心です。なお、板厚40mmを超える鋼材では「降伏点一定鋼」という特殊品もあり、設計上の有利性が生まれる場合があります。これが必要な場面ではメーカーへの問い合わせが有効です。
石原商事が公開しているSM490Aの規格詳細資料(降伏点・炭素当量・予熱条件まで記載):
SM490A について(石原商事 技術資料)
SM490Aの化学成分も板厚によって規定が変わります。これが溶接施工計画に直結するため、現場で使う鋼材の板厚を確認することは必須です。
JIS G3106によるSM490Aの主な化学成分上限値は以下のとおりです。
| 板厚 | C(%) | Si(%) | Mn(%) | P(%) | S(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 50mm以下 | 0.20以下 | 0.55以下 | 1.65以下 | 0.035以下 | 0.035以下 |
| 50mm超〜200mm以下 | 0.22以下 | 0.55以下 | 1.65以下 | 0.035以下 | 0.035以下 |
板厚50mmを超えると炭素(C)の上限が0.20%から0.22%に引き上がります。つまり厚板になるほど炭素量が増える余地があり、溶接割れ感受性が高まる可能性があるということです。これはデメリットになります。
溶接割れを防ぐ指標として使われる**炭素当量(Ceq)**と**溶接割れ感受性組成(Pcm)**も板厚ごとに規定があります。TMCP(熱加工制御)で製造した場合は次の値が適用されます。
Ceq(炭素当量)は、低いほど溶接しやすい材料だと判断できます。目安として、Ceqが0.45%以下であれば一般的には予熱なしで溶接できるとされており、SM490Aの場合は薄板であれば溶接性に優れた材料といえます。これは使えそうです。
ただし、Ceq・Pcmの値はあくまでTMCP(熱加工制御鋼)に適用されるものであり、通常圧延材の場合は規定がない点に注意が必要です。ミルシートで製造方法を確認した上で、溶接施工要領書を作成することが現場の基本です。
板厚が変わると予熱温度も変わります。これが特に重要です。
道路橋示方書(平成24年版)に基づくSM490Aの予熱温度の目安は次のとおりです(Pcm≦0.26%の場合)。
| 板厚(mm) | 被覆アーク溶接 | サブマージアーク溶接・ガスシールドアーク溶接 |
|---|---|---|
| t ≦ 25 | 予熱なし | 予熱なし |
| 25 < t ≦ 40 | 50℃以上 | 予熱なし |
| 40 < t ≦ 50 | 80℃以上 | 50℃以上 |
| 50 < t ≦ 100 | 80℃以上 | 50℃以上 |
板厚25mm以下なら被覆アーク溶接でも予熱不要ですが、板厚が40mmを超えると被覆アーク溶接では80℃以上の予熱が必要になります。予熱は省略できません。
「薄板のときと同じ要領で溶接したら割れが入った」という事態は、この予熱条件の把握不足から起きることがあります。特にSM490Aは市中でもっとも流通量の多い鋼種の一つであり、「よく使っているから大丈夫」という思い込みが一番危険です。溶接割れ(低温割れ)は、溶接後しばらく時間が経ってから発生することがあるため、施工直後には目に見えないケースもあります。
また、気温が5℃以下の場合には、予熱温度の規定外であっても結露除去のために20℃程度への加熱が必要とされています。冬場の屋外施工では見落とされがちなポイントです。
溶接施工において、板厚と鋼種の組み合わせごとに予熱温度・パス間温度・入熱管理を記した「溶接施工要領書」を事前に作成し、作業者と共有する体制を整えることが、品質トラブルを未然に防ぐ現実的な対策です。施工要領書の作成に不慣れな場合は、溶接学会のWE-COMデータベースや、材料メーカーの技術サービスを活用する方法もあります。
日本溶接協会のWE-COM相談事例(SM490A 板厚32mm・溶接条件の具体的な解説あり):
相談例45:SCW480鋳鋼品とSM490A(板厚32mm)のMAG溶接予熱条件(日本溶接協会)
SM490Aを含む厚鋼板の板厚公差は、JIS G3193の表5によって定められています。「公称板厚±〇mm」という固定値ではなく、**板厚と母材の幅の組み合わせによって許容差が変動する**点が特徴です。これは意外ですね。
たとえば公称板厚25mm(ノート1冊分に相当する厚さ)の鋼板でも、幅によって許容差が±0.65mm〜±1.10mmの範囲で変わります。設計で板厚25mmを指定したつもりが、実測では23.9mmということも許容範囲内になりえます。精密な加工や強度計算が必要な用途では、この公差を設計に織り込む必要があります。
代表的な公差の目安を以下に示します(JIS G3193 表5より抜粋・参考値)。
| 板厚(mm) | 幅1600mm未満 | 幅1600〜2000mm未満 | 幅2500〜3150mm未満 |
|---|---|---|---|
| 16以上25未満 | ±0.65 | ±0.75 | ±0.95 |
| 25以上40未満 | ±0.70 | ±0.80 | ±1.00 |
| 40以上63未満 | ±0.80 | ±0.95 | ±1.10 |
| 63以上100未満 | ±0.90 | ±1.10 | ±1.30 |
さらに実務上、市中流通している鋼板は**呼称値より薄い側に実測値が集まりやすい**という傾向があります。石原商事の技術資料によれば、「呼称値6mmの鋼板に対して実測値5.7mm前後が普通で、呼称値より厚い板はほとんど市中にない」とされています。薄板系の精密加工を行う場合は特に注意が必要です。
橋梁用途においては、道路橋示方書で「マイナス側の許容差が公称板厚の5%以内」という追加条件が設けられています。板厚16mm以下の薄板では特に注意が必要な条件です。板厚16mmの5%は0.8mmなので、JIS G3193の標準公差より厳しい制約になります。
板厚公差が問題になる場面では、クラスB・クラスCの協定仕様(JIS G3193 表6)を指定することで、マイナス側許容差を0.3mmに抑えた鋼板を調達することも可能です。この場合、メーカーへの特注となり重量加算やエキストラコストが発生する点は踏まえた上で判断してください。
板厚公差(JIS G3193)の詳細な数値表と橋梁用途への適用条件についての解説:
厚鋼板の板厚公差(JIS G3193)について(石原商事 技術資料)
SM490Aと同じ「SM490」を冠する鋼材でも、末尾のアルファベット(A/B/C)によって性能が異なります。ここが選定を誤りやすいポイントです。
SM490AはJIS G3106で規定されているうち、**シャルピー吸収エネルギー(衝撃試験)の規定がないグレード**です。「衝撃値の保証がない」というのは欠陥ではなく、衝撃に対して特別な要求がない用途に対してコスト合理的に選ばれているという意味です。一方、SM490BはシャルピーエネルギーがVノッチ・0℃で27J以上、SM490Cは47J以上と規定されています。
BやCグレードが必要な場合でも、市中在庫が薄いため納期に注意が必要です。これは覚えておくべき条件です。
次に、SM490AとSS400の違いについても整理します。SS400(JIS G3101:一般構造用圧延鋼材)は溶接性の保証がなく、炭素量の管理が緩いため、溶接構造に使うと割れや品質不安定のリスクがあります。設計荷重が大きい構造物や、確実な溶接品質が求められる部材にはSM490Aを選ぶべきです。SS400は引張強さ400〜510N/mm²であるのに対し、SM490Aは490〜610N/mm²と強度も高く、同等の強度を出すために板厚を減らせる(=軽量化できる)というメリットも実務では重要です。
板厚による鋼種選定の標準(道路橋示方書 表-1.6.1)では、SM490Aは6〜100mmの板厚帯で選定対象として位置付けられています。つまり超薄板(4.5mm未満)や超厚板(100mm超)の用途では、別鋼種との組み合わせや特注対応を検討することが設計の基本です。
Steel Marine由来のSM490Aの歴史・特徴・入手性を平易に解説したページ(現場向け情報が充実):
SM材 溶接構造用圧延鋼材 JIS G3106【SM490材】とは(クマガイスチール)
十分な情報が集まりました。記事を生成します。