衝撃試験の規格と材料の耐衝撃性評価方法の基本

金属材料の耐衝撃性評価に欠かせない各種衝撃試験の規格や方法について解説。シャルピーやアイゾット試験の違いや特性を理解し、製品設計に活かせる知識を得られます。あなたの製品開発に最適な衝撃試験は何でしょうか?

衝撃試験の規格と材料の耐衝撃性評価方法について

衝撃試験の規格と材料の耐衝撃性評価方法について

衝撃試験の基本
🔍
衝撃試験の目的

材料の耐衝撃性を評価し、製品設計や材料選定に活用するための試験方法

🔨
主な試験方法

シャルピー、アイゾット、引張衝撃、落球衝撃など材料特性に応じた多様な試験

📊
規格と評価指標

JIS規格に基づく試験方法と吸収エネルギーによる靭性評価

衝撃試験の目的とJIS規格の種類

 

製品開発において、使用する材料がどのような衝撃に耐えられるかを知ることは極めて重要です。衝撃試験は、材料に急激な荷重を加えることで、その耐衝撃性や靭性(粘り強さ)を評価する試験方法です。この試験の最大の目的は、材料の耐衝撃性を明らかにし、適切な材料選定に役立てることにあります。

 

衝撃試験には材料ごとに詳細なJIS規格が定められています。主な規格には以下のようなものがあります。

JIS規格番号 適用材料・試験方法
JIS Z 2242 金属材料のシャルピー衝撃試験方法
JIS K 7111-1 プラスチック-シャルピー衝撃特性の求め方
JIS K 7110 プラスチック-アイゾット衝撃強さの試験方法
JIS K 7061 ガラス繊維強化プラスチックのシャルピー衝撃試験方法
JIS K 7077 炭素繊維強化プラスチックのシャルピー衝撃試験方法
JIS K 7062 ガラス繊維強化プラスチックのアイゾット衝撃試験方法

これらの規格は、試験片の形状や寸法、試験方法などを詳細に規定しています。適切な試験を行うためには、評価したい材料に合った規格を選定することが不可欠です。規格に準拠した試験を行わなければ、信頼性のある材料評価はできません。

 

特に金属加工に従事する方々にとって、JIS Z 2242「金属材料のシャルピー衝撃試験方法」は重要な規格となります。この規格では、金属材料の試験片寸法や試験方法が詳細に規定されており、様々な金属材料の靭性評価に広く用いられています。

 

シャルピー衝撃試験とアイゾット衝撃試験の違い

 

工業分野での衝撃試験として最も一般的なのが、シャルピー衝撃試験とアイゾット衝撃試験です。両者とも振り子式のハンマーを用いる点は共通していますが、試験片の固定方法やハンマーの打撃位置に大きな違いがあります。

 

シャルピー衝撃試験の特徴:

  • 試験片の両端を固定する
  • ノッチの反対側中央面にハンマーで打撃を与える
  • 吸収エネルギーからその材料の靭性を評価する
  • 試験片寸法:金属材料の場合、標準で55mm×10mm×10mm(JIS Z 2242)

アイゾット衝撃試験の特徴:

  • 試験片の片端のみを固定する(片持ちばり状態)
  • ハンマーの打撃位置は試験片の端かつノッチ側
  • 片端固定のため、固定時の締付による影響が結果に現れやすい
  • 値のバラツキがシャルピー試験より大きい傾向がある

この二つの試験方法の選択は、評価したい材料の特性や製品の使用環境によって異なります。一般的に金属材料の評価にはシャルピー衝撃試験が多く用いられる傾向がありますが、プラスチック材料の評価にはアイゾット衝撃試験も広く使われています。

 

どちらの試験でも、試験片にはノッチ(切り欠き)を加えることが一般的です。ノッチには主にVノッチとUノッチの2種類があり、ノッチを加えることで応力を集中させ、素材の微小欠陥や試験時のバラつきを抑制し、安定した試験結果を得ることができます。

 

金属材料における衝撃試験の重要性と評価基準

 

金属材料、特に構造用鋼材や自動車部品などに使用される金属においては、衝撃試験による靭性評価が極めて重要です。なぜなら、静的な引張試験だけでは捉えられない動的な負荷に対する材料の挙動を評価できるからです。

 

金属材料の衝撃試験における主な評価基準は以下の通りです。

  1. 吸収エネルギー値:試験片を破断するのに要したエネルギー量を示します。単位はジュール(J)で表されます。この値が大きいほど材料の靭性が高いことを意味します。
  2. 延性破面率:破断面における延性破面の割合を示します。延性破面が多いほど材料の靭性が高いと評価されます。
  3. 遷移温度:金属材料、特に鉄鋼材料は温度によって靭性が大きく変化します。延性から脆性への遷移が起こる温度を評価することは、低温環境で使用される構造材料では特に重要です。

金属材料のシャルピー衝撃試験では、JIS Z 2242に基づき、標準的には10mm×10mm×55mmの角柱状試験片を使用します。試験片の中心部にはVノッチまたはUノッチが設けられますが、一般的には深さ2mmのVノッチ(開き角度45°、先端半径0.25mm)が多く用いられます。

 

金属材料の衝撃試験結果は、材料の使用環境温度条件と合わせて評価することが重要です。例えば、北海道や東北地方などの寒冷地で使用される構造物の場合、低温での衝撃値が特に重要になります。また、溶接構造物では、母材だけでなく溶接部や熱影響部の衝撃値も評価する必要があります。

 

落球衝撃試験と引張衝撃試験の特徴と適用例

 

シャルピーやアイゾット以外にも、多様な衝撃試験方法があります。それぞれの特徴と適用例について見ていきましょう。

 

落球衝撃試験(落錘衝撃試験)の特徴:

  • 一定の高さから金属製の錘を落下させて試験片に衝撃を与える
  • 錘の重さや落下高さを変更することで、様々な条件での衝撃評価が可能
  • 主に板状の材料や製品の表面への衝撃評価に用いられる
  • プラスチック板、塗装面、コーティング表面の評価に適している
  • 落球式にはダートインパクト試験やデュポン衝撃試験などの種類がある

引張衝撃試験(テンサイル試験)の特徴:

  • 固定した試験片に対して引張方向に衝撃荷重を加える
  • 振り子式ハンマーを使用するインヘッド法とインベース法がある
  • 薄い材料や柔らかい材料の評価に適している
  • 金属薄板やフィルム状のプラスチック材料の評価に用いられる
  • JIS K 7160に規定されている

これらの試験は、製品の使用環境で想定される衝撃の種類に応じて選択します。例えば、自動車のボディパネルには落球衝撃試験が適していますし、包装用フィルムには引張衝撃試験が適しています。

 

特に金属加工業界では、製品の形状や使用環境に応じて最適な衝撃試験方法を選択することが重要です。例えば、プレス加工された薄板部品であれば、落球衝撃試験での評価が実際の使用状況に近い結果を得られるでしょう。

 

衝撃試験における計装化技術と靭性評価の新たな方向性

 

従来の衝撃試験では、試験片を破断するのに要したエネルギー値のみを測定していましたが、近年では「計装化衝撃試験」と呼ばれる、より詳細なデータを取得できる技術が発展しています。

 

計装化衝撃試験では、荷重センサーを搭載したハンマーを用いることで、衝撃過程における荷重-時間または荷重-変位曲線を連続的に測定できます。これにより、従来の吸収エネルギー値だけでなく、以下のような情報も得ることができます。

  • 亀裂発生までのエネルギー
  • 亀裂伝播エネルギー
  • 最大荷重値
  • 荷重-変位曲線の形状パターン

この技術を用いることで、材料の破壊メカニズムをより詳細に理解することが可能になり、材料開発や製品設計において大きなメリットをもたらします。特に、複合材料やハイブリッド材料など、従来の方法では評価が難しかった材料の靭性評価に役立ちます。

 

例えば、プラスチックのシャルピー衝撃特性の求め方については、JIS K 7111-2「プラスチック−シャルピー衝撃特性の求め方− 第2部:計装化衝撃試験」という規格も整備されています。

 

また、金属材料においても計装化シャルピー衝撃試験が活用されるようになってきています。これにより、金属材料の衝撃破壊メカニズムの解明や、新材料開発の加速に貢献しています。

 

さらに、最新の研究では衝撃試験結果と微細組織観察を組み合わせた総合的な評価方法や、有限要素法を用いたシミュレーションとの連携による予測技術も発展しています。これらの新しいアプローチにより、材料の靭性評価はより精密で効率的になりつつあります。

 

参考:計装化衝撃試験について詳しく解説されたページ

試験片の製作精度が衝撃試験結果に与える影響

 

衝撃試験の信頼性を確保するうえで、試験片の製作精度は極めて重要な要素です。JIS規格では試験片の寸法や形状、ノッチの形状などが厳密に定められており、これらの規格から逸脱すると正確な評価ができなくなります。

 

特にシャルピー衝撃試験片の場合、以下の点が重要になります。

  1. 寸法精度:JIS Z 2242では、試験片の寸法許容差が厳密に定められています。例えば、試験片幅10mmに対して±0.11mmという高い精度が要求されます。
  2. ノッチ加工精度:Vノッチの場合、開き角度45°±2°、先端半径0.25mm±0.025mmという高精度が要求されます。Uノッチの場合も同様に厳密な寸法規定があります。
  3. 表面粗さ:試験片表面の粗さも結果に影響するため、適切な研磨処理が必要です。
  4. 加工ひずみの影響:試験片の切り出しや加工時に生じるひずみが試験結果に影響を与えるため、適切な切り出し方法と加工方法の選択が重要です。

例えば、高硬度材料のノッチ加工では、刃物加工ではびびり(振動)が発生してノッチ形状が不安定になる場合があります。このような場合は研削加工を行うことで、安定した精度の高い試験片を製作することが重要です。

 

特に溶接部からの試験片採取は技術的に難しい面がありますが、溶接構造物の安全性評価では非常に重要です。溶接部、熱影響部、母材部といった部位ごとに衝撃特性が異なるため、正確な位置からの採取と高精度な加工が求められます。

 

試験片製作の専門メーカーでは、材料の切り出しから最終検査まで自社で一貫して行い、各工程で検査を実施することで高品質な試験片を提供しています。正確なデータを得るためには、試験方法だけでなく、試験片の製作精度にも注意を払うことが重要です。

 

参考:シャルピー衝撃試験片の製作と精度に関する詳細解説

衝撃試験結果の解釈と製品設計への応用

 

衝撃試験で得られたデータを正しく解釈し、製品設計に活かすことが重要です。単に数値を見るだけでなく、その意味を理解して適切な材料選定や設計に結びつける必要があります。

 

衝撃試験結果の解釈ポイント:

  1. 吸収エネルギー値の意味:高い値が常に良いとは限りません。用途に応じた適切な靭性が重要です。過度に靭性が高い材料は、強度や硬度が低くなる傾向があります。
  2. 温度依存性の考慮:特に鉄鋼材料では、使用温度環境を考慮した評価が必要です。延性-脆性遷移温度以下での使用は避けるべきです。
  3. 破面観察の重要性:衝撃試験後の破面を観察することで、破壊のメカニズムや材料の特性をより深く理解できます。延性破面(ディンプル模様)か脆性破面(へき開面)かを確認しましょう。
  4. 繰り返し試験の必要性:衝撃値は同一材料でもばらつきがあるため、複数回の試験結果の平均値で評価することが望ましいです。

製品設計への応用例:

  • 自動車部品設計:衝突安全性に関わる部品には、高い衝撃吸収エネルギーを持つ材料を選定します。一方、高強度が求められる部品では、適度な靭性と高強度のバランスを考慮します。
  • 橋梁などの大型構造物:低温環境でも脆性破壊しない材料選定が重要です。遷移温度特性を評価し、最低使用温度よりも十分低い遷移温度を持つ材料を選定します。
  • 工作機械部品:振動や衝撃を受ける部品には、適度な靭性を持つ材料を選定します。特に、繰り返し衝撃を受ける部品では疲労特性との関連も考慮します。
  • 溶接構造物:溶接部と母材の靭性バランスを考慮した設計が重要です。熱影響部の靭性低下に注意し、必要に応じて熱処理や溶接条件の最適化を行います。

衝撃試験結果を製品設計に活かす際には、単に数値だけでなく、製品の使用環境(温度、速度、繰り返し性など)や他の機械的特性(引張強さ、硬さなど)とのバランスを総合的に考慮することが重要です。これにより、安全で信頼性の高い製品設計が可能になります。