計装とシステム設計で実現する工場の自動制御

計装技術は工場の自動化と効率化に不可欠です。本記事では計装システムの基本から応用まで、金属加工業界での活用法を詳しく解説します。あなたの工場も計装技術で革新できるのではないでしょうか?

計装とシステムの基礎知識

計装システムの主要構成要素
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センサー技術

温度・圧力・流量などを測定し、リアルタイムデータを収集

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制御システム

PLC(プログラマブルロジックコントローラー)による自動制御

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アクチュエーター

システムの指示に基づき機器を物理的に動作させる装置

計装システムは、現代の製造業において中核をなす技術です。特に金属加工業界では、精密な測定と制御が製品品質と生産効率に直結します。計装とは、工場やビルにおいて各種設備・機械装置を計測・監視・制御の手法によって自動でコントロールする技術のことです。

 

計装システムの導入により、生産ラインの自動化が進み、人的ミスの削減、品質の安定化、生産効率の向上といった多くのメリットが得られます。また、エネルギー使用の最適化によるコスト削減や、環境負荷の低減にも貢献します。

 

金属加工の現場では、温度管理、圧力制御、流量測定など、様々なパラメータを正確に把握し、制御することが求められます。計装システムは、これらのパラメータをリアルタイムで監視し、必要に応じて調整を行うことで、理想的な加工環境を維持します。

 

計装の定義とセンサー技術の最新動向

計装技術の中核をなすのがセンサー技術です。センサーは物理量を検知し、電気信号に変換する装置で、計装システムの「目」と「耳」の役割を果たします。金属加工業界で使用される主なセンサーには以下のようなものがあります。

 

  • 温度センサー:熱電対、測温抵抗体、サーミスタなど
  • 圧力センサー:圧力トランスデューサー、圧力スイッチなど
  • 流量センサー:電磁流量計、差圧流量計、超音波流量計など
  • レベルセンサー:静電容量式、超音波式、光学式など
  • 位置センサー:近接スイッチ、光電スイッチ、エンコーダーなど

近年のセンサー技術の進化は目覚ましく、IoT(モノのインターネット)の普及により、よりスマートなセンサーが開発されています。これらのスマートセンサーは、単なる測定だけでなく、自己診断機能やワイヤレス通信機能を備え、メンテナンス性や拡張性が向上しています。

 

例えば、最新の温度センサーは0.1℃以下の高精度で測定が可能となり、金属の熱処理工程における温度管理の精度が飛躍的に向上しています。また、振動センサーの進化により、工作機械の異常を早期に検知し、予防保全が可能になりました。

 

KEYENCEのセンサー技術情報 - 最新のセンサー技術と応用例について詳しく解説されています

計装システムにおけるPLCの役割と選定方法

計装システムの「頭脳」として機能するのがPLC(Programmable Logic Controller:プログラマブルロジックコントローラー)です。PLCはセンサーからの信号を受け取り、プログラムに従って判断し、アクチュエーターに指令を出します。

 

金属加工業界におけるPLCの主な役割は以下の通りです。

  • 生産ラインの自動制御
  • 各工程のタイミング管理
  • 異常検知と安全制御
  • データ収集と分析
  • 他のシステムとの連携

PLC選定の際には、以下のポイントを考慮することが重要です。

  1. 入出力点数:制御対象の規模に合わせた適切な点数
  2. 処理速度:制御の応答性に影響
  3. プログラム容量:制御内容の複雑さに応じた容量
  4. 通信機能:他のシステムとの連携可能性
  5. 拡張性:将来の増設に対応できるか

特に金属加工業では、高速かつ精密な制御が求められるため、高性能なPLCが必要となることが多いです。また、既存設備との互換性や、将来のIoT化、スマートファクトリー化を見据えた選定も重要です。

最近の傾向として、従来型PLCに加えて、PAC(Programmable Automation Controller)と呼ばれる、より高機能なコントローラーも普及しています。PACはPLCの制御機能に加えて、高度な演算処理や情報処理機能を備えており、複雑な制御や大量データの処理に適しています。

オムロンのPLC計装システム - 製造業向けPLC計装システムの詳細情報

計装工事の流れと成功のためのプロセス管理


計装工事は複数のフェーズから成る複雑なプロセスです。金属加工工場における計装工事の一般的な流れは以下の通りです。

  1. 事前調査と要件定義
    現状の設備や工程を調査し、自動化・効率化の目標を明確にします。この段階で、導入するセンサーや制御システムの概要を決定します。

  2. 基本設計・詳細設計
    システム構成や制御ロジックを設計します。この段階では、P&ID(配管計装図)やループ図、制御盤設計図などの各種図面を作成します。

  3. 機器の選定・調達
    設計に基づいて、適切なセンサー、PLC、制御盤、アクチュエーターなどを選定・発注します。この際、品質、コスト、納期のバランスを考慮することが重要です。

  4. 施工・配線
    機器の設置、配線工事を行います。金属加工工場では、電気的ノイズや振動、高温など厳しい環境下での施工となるケースが多いため、適切な対策が必要です。

  5. プログラミング
    PLCのプログラミングを行い、制御ロジックを実装します。金属加工の各工程に合わせた最適な制御シーケンスを構築します。

  6. 試運転・調整
    実際に設備を動かし、想定通りの動作をするか確認します。問題があれば、プログラムの修正やパラメータの調整を行います。

  7. 検査・引き渡し
    全ての機能が仕様通りに動作することを確認し、検査報告書を作成します。その後、運用マニュアルの作成や運用者への教育を行います。


計装工事を成功させるためのポイントとして、以下の点に注意が必要です。

  • 綿密な計画と明確な目標設定
  • 関係者間の密接なコミュニケーション
  • 適切な資格・技術を持つ技術者の確保
  • 品質管理と安全管理の徹底
  • 進捗管理と問題発生時の迅速な対応

特に金属加工業界では、高温や粉塵、振動など厳しい環境下での施工となることが多いため、環境に適した機器選定や施工方法の検討が重要です。また、生産ラインを停止させる期間を最小限に抑えるための綿密な工程計画も必須となります。

 

日本電気計測器工業会 - 計装工事の標準や技術資料が参照できます

計装による金属加工工場の省エネと効率化事例

計装システムの導入によって、金属加工工場では様々な効率化と省エネルギー化が実現しています。以下に具体的な事例と効果を紹介します。

 

事例1:熱処理工程の最適化
ある鋼材加工工場では、熱処理炉の温度制御を高精度センサーとPID制御によって最適化しました。その結果、以下の効果が得られました。

  • エネルギー消費を約15%削減
  • 製品品質のばらつきを80%低減
  • 不良率を5%から1%未満に改善

事例2:プレス機械の予防保全システム
大手自動車部品メーカーでは、プレス機械に振動センサーと電流センサーを設置し、異常検知システムを構築しました。

 

  • 突発的な故障による生産停止を90%削減
  • 保全コストを年間約30%削減
  • 設備総合効率(OEE)を68%から85%に改善

事例3:エアコンプレッサーシステムの最適化
金属加工工場で多用されるエアコンプレッサーの運転を計装システムで最適化した事例では。

  • 複数台のコンプレッサーの負荷分散による電力消費20%削減
  • エア漏れの早期検知により年間約300万円の電力コスト削減
  • 圧力変動の抑制による工具寿命の15%延長

計装システム導入の投資対効果(ROI)は、多くの場合1〜3年程度で回収可能とされています。特に省エネルギー効果は、エネルギーコストの高騰により、さらに投資回収期間を短縮する傾向にあります。

 

効率化のポイントとして、以下の要素が重要です。

効率化要素 計装技術の活用法 期待される効果
エネルギー管理 電力・ガス・圧縮空気の使用量モニタリングと最適制御 10〜30%のエネルギーコスト削減
品質管理 加工パラメータの精密制御と記録 不良率低減、トレーサビリティ向上
生産性向上 サイクルタイム最適化、段取り時間短縮 生産能力15〜25%向上
保全管理 設備状態監視、予兆保全 計画外停止80%低減、保全コスト30%削減

計装エンジニアリングの将来性と技術者育成の課題

計装エンジニアリングは、製造業のデジタル化・スマート化の流れの中で、ますます重要性が高まっています。特に金属加工業界において、計装技術は以下のような発展が期待されています。

 

計装技術の将来動向

  1. AI・機械学習の活用:センサーデータを基にAIが最適な制御パラメータを自動調整するシステムが普及しつつあります。これにより、熟練工の技能をデジタル化し、再現性の高い加工が可能になります。
  2. エッジコンピューティング:現場のセンサーやPLCに近い場所でデータ処理を行うことで、リアルタイム性の向上とクラウド負荷の軽減が図られています。
  3. デジタルツイン:実際の生産設備をデジタル空間に再現し、シミュレーションによる最適化や予兆保全を行う技術が進展しています。
  4. 5G活用:高速・大容量・低遅延の通信により、よりリアルタイム性の高い計装システムの構築が可能になります。

こうした技術の進化に伴い、計装エンジニアに求められるスキルも変化しています。従来の電気・機械・制御の知識に加えて、IT・ネットワーク・サイバーセキュリティの知識も必須となってきています。

計装技術者育成の課題
一方で、計装技術者の育成には以下のような課題があります。


  1. 技術者の高齢化と技能伝承:経験豊富な計装技術者の多くが高齢化しており、その知識・ノウハウの伝承が急務となっています。
  2. 複合的スキルの習得:現代の計装技術者には、電気・機械・制御・IT・通信など、幅広い知識が求められます。この多岐にわたるスキルセットの習得には時間がかかります。
  3. 実践的な教育機会の不足:学校教育だけでは実践的なスキルを習得するのが難しく、OJTや専門研修の機会が重要ですが、十分とは言えません。
  4. 急速な技術革新への対応:IoT、AI、クラウドなど、技術の進化が速く、継続的な学習が必要です。

これらの課題に対応するため、以下のような取り組みが進められています。

  • VR/ARを活用した効率的な技能訓練システムの開発
  • ベテラン技術者の知識をデジタル化するナレッジマネジメントシステムの構築
  • 産学連携による実践的な教育プログラムの開発
  • オンライン学習プラットフォームによる継続的なスキルアップ支援

金属加工業界としても、計装技術の重要性を認識し、技術者育成に投資することが、将来の競争力維持に不可欠です。特に中小企業においては、限られたリソースの中での技術者育成が課題となっていますが、業界団体や公的機関による支援プログラムも徐々に整備されつつあります。

 

情報サービス産業協会 - 計装エンジニアリングを含むIT人材育成に関する情報
計装技術の進化と共に、金属加工業界も大きな変革の時を迎えています。スマートファクトリー化による生産性向上、省エネルギー化による環境負荷低減、予兆保全によるダウンタイム削減など、計装技術がもたらす恩恵は計り知れません。

 

計装システムへの投資は、単なるコスト削減だけでなく、製品品質の向上や新たな付加価値創出の源泉ともなります。今後も進化し続ける計装技術を積極的に取り入れ、持続可能な製造業の実現に向けて歩みを進めることが、日本の金属加工業界にとって重要な課題と言えるでしょう。