サブマージアーク溶接フラックスの種類と正しい選び方

サブマージアーク溶接で使うフラックスの役割や溶融・ボンドの違い、乾燥管理や回収再利用の方法まで現場で役立つ知識を解説。あなたの現場では正しく使えていますか?

サブマージアーク溶接フラックスの役割・種類・管理法

溶融フラックスでも、開封後に一度でも湿気にさらされると、乾燥せずに使うだけで溶接金属の水素量が跳ね上がり、ビード品質が劣化します。


この記事の3つのポイント
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フラックスの役割は4つある

アーク安定・シールド・冶金反応(脱酸・合金添加)・ビード形状保持の4役を担い、サブマージアーク溶接の品質を根本から支えています。

⚠️
種類の選び間違いが欠陥を招く

溶融フラックスとボンドフラックスは電流域・吸湿性・合金添加の可否が異なります。用途に合わせた選定が欠陥ゼロの第一歩です。

♻️
回収フラックスは最大80%再利用できる

正しい清浄・保管・混合比率(新品50%:回収品50%)を守ることで、コストを大幅に削減しながら溶接品質を維持できます。


サブマージアーク溶接でフラックスが担う4つの役割


サブマージアーク溶接(SAW)は、母材上に粉粒状のフラックスをあらかじめ散布し、その中に電極ワイヤを送り込んでアークを発生させる溶接法です。アークがフラックスに完全に覆われるため、外からは溶接の光すら見えないのが特徴で、「潜弧溶接」「ユニオンメルト」とも呼ばれています。


フラックスが担う役割は、大きく分けると次の4つです。


  • アークの安定化:電弧を持続的・安定的に保持し、溶接電流の乱れを抑えます。
  • シールド効果:アーク周辺を完全に覆い、大気中の酸素・窒素・水素が溶融池に混入するのをぎます。
  • 冶金反応:溶融金属との間で脱酸・合金添加などの精錬反応を行い、溶接金属の成分を整えます。
  • ビード形状の保持:溶融後にスラグになって凝固する際、ビード表面を整え、均一な外観を作ります。


このように、フラックスは単なる「保護材」ではなく、溶接金属そのものの品質を左右する能動的な材料です。つまり、フラックスの選定ミスや管理不足は、即座に溶接品質へ直結します。


ちなみにSAWの最大の長所は大電流が使えることで、同じ電流域でも手溶接の数倍から十数倍の溶着速度を達成できます。一方で、溶け込みが一般に大きいという特性から、母材の化学成分がそのまま溶接金属に影響しやすい面もあります。フラックスの役割はそのバランスを整える要ということですね。


溶接情報センター(JWES)|サブマージアーク溶接に用いられるフラックスの役割と種類(フラックスの4つの役割・種類の詳細解説)


サブマージアーク溶接フラックスの2種類:溶融フラックスとボンドフラックスの違い

JIS Z 3352では、サブマージアーク溶接用フラックスは製造方法によって「溶融フラックス」と「ボンドフラックス(焼結フラックスを含む)」の2種類に大別されています。現場でこの2種類を混同して使ってしまうケースは珍しくないのですが、性能の違いは非常に大きいため、正確に理解しておくことが重要です。


溶融フラックスは、原料鉱石粉を電気炉で1,100〜1,400℃の高温で溶かし、冷却・粉砕・粒度調整したガラス状のフラックスです。成分が酸化物やフッ化物からなり、均一性が高いのが特徴です。高速溶接でのビード外観が美麗で、吸湿性も比較的少なく、長期保存にも安定しています。ただし、溶解工程があるため、炭酸塩や合金成分・鉄粉などを添加できない制約があります。


ボンドフラックスは、粉状原料に液状固着剤を混ぜてキルン等で造粒・乾燥(400〜600℃)したフラックスです。乾燥温度が低いため、炭酸塩・合金成分・鉄粉などを後添加できます。これにより、溶接金属の低水素化・低酸素化や、靭性・機械的性能の向上が図れます。国内での使用量は溶融フラックスよりもボンドフラックスが多い現状です。


比較項目 溶融フラックス ボンドフラックス
高速溶接 ◎ 適している ▲ 不適
大電流溶接 ○ 比較的よい ◎ 適している
ビード外観 ◎ 美麗 ○ 普通
吸湿性 ○ 比較的小さい ▲ 比較的大きい
合金添加 ▲ できない ◎ 容易
長期保存 ○ 安定 ▲ 変質の心配あり
靭性の確保 ○ 適当な組合せが必要 ◎ 得やすい


造管溶接(UOパイプ・スパイラルパイプ)やH形鋼のすみ肉高速溶接には溶融フラックスが選ばれ、高層ビルのボックス柱角溶接や寒冷地向け海洋構造物のように靭性・低温衝撃性が要求される用途にはボンドフラックスが選ばれます。これが基本です。


日鉄溶接工業|最近のサブマージアーク溶接材料について(溶融・ボンドフラックスの比較表と各種適用例の詳細)


サブマージアーク溶接フラックスの吸湿管理と乾燥条件

フラックスの吸湿管理は、現場でもっとも見落とされやすい工程のひとつです。「袋を開けてすぐ使えばいい」と思われがちですが、特にボンドフラックスは開封後の湿度環境によって短時間で吸湿が進みます。


吸湿したフラックスをそのまま溶接に使うと、次のような欠陥が発生します。


  • ビード外観の悪化(表面が荒れる・光沢がなくなる)
  • 気孔(ポロシティ)・ブローホール・ピットの発生
  • 溶接金属中の拡散性水素量の増加 → 低温割れリスクの上昇


乾燥の基準は、JWESや各メーカーの推奨値によれば以下のとおりです。


フラックスの種類 乾燥温度 乾燥時間
溶融フラックス 150〜350℃ 1時間
ボンドフラックス 200〜300℃(狭開先等では300〜350℃) 1〜2時間


意外ですね。溶融フラックスは吸湿性が低いとはいえ、乾燥温度200℃程度で十分に拡散性水素量が下がるのに対し、ボンドフラックスは吸湿水分量は多いにもかかわらず300℃以上の再乾燥温度が必要です。これはボンドフラックスが内部に炭酸塩などを含んでおり、より高温でないと水分が抜けきらないためです。


乾燥の際の注意点として、フラックス層の厚さは35mm以下にすることが推奨されています。35mmはおよそはがき1枚の長辺(14.8cm)の約2.4倍の深さに相当しますが、これより厚く積んでしまうと内部まで十分に熱が届かず、乾燥不足になります。


また、乾燥後に高湿度環境に再びさらすと短時間で再吸湿するため、使用直前まで密閉容器で保管することが原則です。橋梁工事や造船など屋外・現場溶接では特にこの点が重要になります。


溶接だより技術ガイド|溶接ご法度集(フラックスの乾燥条件・吸湿による欠陥の詳しい解説)


サブマージアーク溶接フラックスとワイヤの組合せ選定の考え方

「フラックスを変えるだけで溶接金属の成分が変わる」と聞いても、ピンとこない方もいるかもしれません。しかしこれはサブマージアーク溶接の大きな特徴で、他の溶接法との本質的な違いのひとつです。


JIS Z 3351(ワイヤ規格)では、炭素鋼および低合金鋼用だけでもC・Si・Mn・Cu・Ni・Cr・Moなどの添加量によって実に42種類もの成分系に分類されています。フラックスについてもJIS Z 3352で製造方法や化学成分によって9種類(MS・CS・CG・CB・GS・ZS・RS・AR・BA等)に分類されており、同種類内にも複数銘柄があるため、組合せは事実上無数に近いと言えます。


ワイヤとフラックスの組合せ選定で最低限押さえておきたいポイントは次のとおりです。


  • 適用鋼種と要求性能の確認:引張強度・衝撃性能(シャルピー値)の要求値を先に確認します。
  • 溶接後熱処理(SR)の有無応力除去焼鈍を行う場合、熱処理後に引張性能が低下するケースがあるため、SR後の特性を確認済みの組合せを選ぶ必要があります。
  • 使用電源の種類(AC/DC):同じ材料でも交流か直流かで溶接金属の引張・衝撃性能が変化する場合があります。
  • 溶接目的による使い分け:大入熱溶接にはボンドフラックス、高速溶接には溶融フラックスを選ぶのが基本です。


さらに塩基度の観点も重要です。フラックスの塩基度が高いほど溶接金属中の酸素量が下がり、低温靭性が向上します。寒冷地向けの海洋構造物や圧力容器のような厳しい靭性要件がある場合、高塩基性ボンドフラックスを選定することが品質確保に直結します。これは使えそうです。


実際の選定にあたっては、メーカーのカタログや技術資料を参照するだけでなく、メーカー担当者への確認を積極的に行うことが推奨されています。同じ銘柄の組合せでも、板厚・開先形状・電極数によって最適解が変わるためです。


溶接情報センター(JWES)|サブマージアーク溶接のワイヤとフラックスの組合せの考え方(JIS分類・SR影響・電源種類による性能変化の詳細)


サブマージアーク溶接フラックスの回収・再利用と品質低下を防ぐ管理方法

溶接が終わったあと、ビード周辺に残ったフラックスを毎回捨てているとしたら、コスト面で大きな損失になっています。正しく管理すれば、未溶融の回収フラックスは最大80%を再利用することが可能です。


フラックスは1kgあたり数百円程度(海外市場では2〜5ドル換算)の消耗品コストがかかります。週に50kgを使う規模の工場でも、回収システムを導入することで年間数十万円単位のコスト削減が期待できます。痛いですね、捨て続けている場合は。


ただし、回収フラックスをそのまま100%再使用するのはご法度です。回収フラックスにはスケールや粉塵が混入し、粒度分布も変化しているため、そのまま使うとビード外観・形状の悪化を招きます。推奨されている管理方法は以下の流れです。


  • 🔁 回収のタイミング:溶接直後、スラグが固化する前に緩んだフラックスを集める。汚染防止のため収集エリアを清潔に保つ。
  • 🧹 清浄・分離:振動スクリーンや磁気分離装置で、スラグ片・金属スパッタ・微細鉄粉を除去する。フィルター効率95%以上が目安。
  • 🗂️ 保管:密閉容器に入れ、湿度50%以下の環境で保管。シリカゲル等の乾燥剤を月1回交換する。
  • ⚖️ 混合比率:回収フラックス50%+新品フラックス50%が基本の推奨比率。再利用は通常3〜5回が上限の目安。


回収フラックスを正しく管理・混合した場合、引張強さや延性は新品フラックスと同等の溶接部が得られることが確認されています。再利用前には必ずテスト溶接を行い、気孔・スラグ介在などの欠陥がないか確認するのが原則です。


また、保管中にフラックスが固まっていた場合は吸湿のサインです。そのまま使わず、250〜300℃で1〜2時間の再乾燥を行うか、状態が悪ければ廃棄を選択してください。再乾燥後の使用なら問題ありません。


iKing Welding|サブマージアーク溶接フラックスの回収・80%リサイクルガイド(回収システムの種類・清浄化手順・保管方法の詳細)




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