プラスチック加工といえば、まず思い浮かぶのが「射出成形」と「押出成形」ではないでしょうか。どちらも熱可塑性プラスチックを加熱して溶かし、成形する代表的な方法ですが、その原理と得意な形状は大きく異なります。金属加工で言えば、鋳造と押出加工の違いに似ているかもしれません 。
射出成形は、溶かしたプラスチック材料(樹脂)を高圧で金型内に射出し、冷却・固化させる方法です 。たい焼きを作るように、金型さえあれば複雑な形状の製品でも短時間で大量に生産できるのが最大のメリットです 。自動車のバンパーや内装部品、家電製品の筐体、スマートフォンのケースなど、私たちの身の回りにある多くのプラスチック製品がこの方法で作られています 。意外なことに、射出成形では製品が金型内で冷却固化されるため、後述する押出成形ほど高い溶融強度(溶けた樹脂が形状を保つ力)は必要とされません 。
一方、押出成形は、溶かした樹脂を「ダイ」と呼ばれる金型からトコロテンのように連続的に押し出して成形する方法です 。そのため、パイプやチューブ、フィルム、窓枠のサッシなど、どこで切っても同じ断面形状を持つ「長尺製品」の生産に非常に適しています 。射出成形が「点」や「面」を作るのに対し、押出成形は「線」を作るイメージです。冷却は、ダイを通過した後、水槽や空冷で徐々に行われます 。この冷却プロセスの違いが、二つの加工法の大きな分岐点となっています。
表で違いをまとめると以下のようになります。
| 項目 | 射出成形 | 押出成形 |
| 原理 | 金型に樹脂を射出し、冷却・固化 | 金型から樹脂を連続的に押し出し、冷却・固化 |
| 得意な形状 | 複雑な三次元形状(自動車部品、家電筐体など) | 断面が一定の長尺製品(パイプ、フィルム、サッシなど) |
| 生産性 | ◎(サイクルタイムが短い) | ○(連続生産が可能) |
| 金型コスト | 高価 | 比較的安価 |
| 意外な事実 | 溶融強度は低くても良い | ゆっくり連続的に成形するため、内部応力が少なく均一な製品を作りやすい |
より詳細な技術情報や成形プロセスのシミュレーションについては、専門的な研究レビューが参考になります。
The Modelling of Extrusion Processes for Polymers—A Review
プラスチック加工は成形だけではありません。金属加工でおなじみの「切削加工」も、プラスチック製品の製造において重要な役割を担っています 。特に、試作品や小ロット生産、あるいは成形では難しい高精度な加工が求められる場合に威力を発揮します 。プラスチックは金属に比べて柔らかく、融点が低いため、加工条件には細心の注意が必要ですが、基本的な考え方は金属加工と共通する部分が多く、金属加工従事者の方には馴染みやすい分野と言えるでしょう。
プラスチックの切削加工には、主に以下のような種類があります。
切削加工の意外な利点として、成形加工で必要となる「金型」が不要なため、初期投資を大幅に抑えられる点が挙げられます 。また、様々な種類のプラスチック材料に対応できるため、多品種少量生産に非常に高い柔軟性を持っています。一方で、加工時間が長く、大量生産になるとコストが割高になるというデメリットもあります 。金属加工の知見を活かし、プラスチックの種類ごとに異なる膨張率や靭性を考慮した刃物の選定や冷却方法の工夫が、高品質な加工を実現する鍵となります。
切削加工と成形加工の使い分けについては、こちらの比較記事が参考になります。
樹脂加工方法の種類とは? 切削加工と成形加工それぞれの長所と短所
近年、製造業に革命をもたらしている技術が「3Dプリンター(付加製造、Additive Manufacturing)」です 。これは、材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する技術で、従来の「除去加工(切削)」とは真逆の発想です 。プラスチック加工の分野でもその活用は急速に進んでおり、特に試作品製作やカスタム品の製造において大きなメリットを発揮します。
✅ 3Dプリンターの主なメリット
❌ 3Dプリンターの主なデメリット
意外な活用法として、リサイクル材料を直接利用する3Dプリンターの開発も進んでいます。例えば、分別が難しいPETとPPの混合リサイクル材を直接利用できる特殊なスクリューを持つ3Dプリンターが研究されており、サステナビリティの観点からも注目されています 。3Dプリンターは万能ではありませんが、その特性を理解し、切削加工や成形加工と組み合わせることで、ものづくりの可能性を大きく広げるツールとなるでしょう。
「たかがプラスチック」と侮ってはいけません。プラスチックには驚くほど多くの種類があり、それぞれが異なる特性を持っています。製品の用途や性能要件、そして加工方法に合わせて最適な材料を選定することが、プラスチック加工における成功の鍵を握ります 。金属材料の選定と同様に、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、コストなどを総合的に評価する必要があります。
プラスチックは、大きく「汎用プラスチック」と「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」、さらに高性能な「スーパーエンプラ」に分類されます 。
材料選定で意外と見落としがちなのが「耐薬品性」です。ある薬品には強いが、別の薬品には弱いという性質がプラスチックごとに明確にあります 。例えば、PCはアルカリ性に弱いという弱点があります。使用環境でどのような化学物質に触れる可能性があるかを事前に確認することが、製品の寿命を大きく左右します。
材料選定に関する包括的なガイドは、大手プラスチックメーカーのサイトで確認できます。
プラスチック材料選定ガイド - Ensinger
プラスチックの利便性の裏側で、海洋プラスチックごみ問題や資源枯渇といった環境問題が深刻化しています。こうした課題に対応するため、プラスチック加工の業界でも「サステナビリティ(持続可能性)」を追求する動きが加速しています。その中心にあるのが、「バイオプラスチック」の導入と、リサイクル技術の革新、特に「ケミカルリサイクル」です。
🌱 バイオプラスチックとは?
バイオプラスチックは、「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の総称です。
♻️ ケミカルリサイクルの進化
従来のリサイクル(マテリアルリサイクル)は、ペットボトルを粉砕して再びペットボトルにするといったもので、品質の劣化(ダウンサイクル)が課題でした。そこで注目されているのが「ケミカルリサイクル」です。これは、使用済みプラスチックを化学的に分解し、モノマー(原料)の状態に戻してから再利用する技術です 。
特に驚くべきは、酵素を使った最新のケミカルリサイクル技術です。従来法よりもはるかに低温でPETプラスチックを分解できる「PET分解酵素」が開発され、実用化に向けた研究が進んでいます 。ある研究では、この酵素を改変することで、PETの分解能力が28倍にも向上したと報告されています 。この技術が確立されれば、これまでリサイクルが難しかった衣類の繊維や、色のついたペットボトルなども、新品同様の品質を持つプラスチック原料として再生できるようになり、真の循環型社会の実現に大きく貢献すると期待されています 。これはもはや単なる「リサイクル」ではなく、廃棄物から価値を生み出す「アップサイクル」と呼べる技術です。
これらの技術はまだコスト面などの課題を抱えていますが、環境規制の強化とともに、今後プラスチック加工業においても無視できない重要な要素となることは間違いありません。金属のリサイクルとは異なる、化学的なアプローチによる資源循環の世界は、金属加工に携わる技術者にとっても新たな発見とビジネスチャンスをもたらすかもしれません。
ケミカルリサイクルの最新技術開発については、産業技術総合研究所(AIST)の取り組みが参考になります。
複合素材プラスチックを循環利用するケミカルリサイクルの新たな技術 - 産総研