グリスを定期的に補充していれば、ベアリングは長持ちすると思っていませんか?実は、グリスを入れすぎると内部空間の50%を超えた時点でベアリングが異常発熱し、かえって早期損傷を招きます。
自動給油装置とは、ベアリング・チェーン・リニアガイドなどの潤滑箇所に、あらかじめ設定した量とサイクルで自動的にグリスまたはオイルを供給する装置です。製造現場では、設備の高経年化や保全スキルを持つ人材の退職が進むなか、潤滑管理の自動化は設備保全の最重要課題のひとつとなっています。
手動給脂では、一度に大量のグリスを充填して長期間放置するケースが多くなります。これがグリスの性能劣化やシール効果の低下につながり、給脂忘れが摩耗を加速させるリスクも常に存在します。自動給油装置を使えば、機械の稼働中にこまめな量を定期的に供給できるため、常に新鮮なグリスを補充できる状態を維持できます。
自動給油装置には、大きく分けて4つの方式があります。それぞれ特性が異なるため、設置環境と給油点数に合わせた選択が必要です。
| 方式 | 作動原理 | 主な特徴 | 適した用途 |
|---|---|---|---|
| ばね式(スプリング式) | バネの復元力でグリスを押し出す | 安価・構造シンプル | 転がり軸受、コンベヤ駆動部 |
| ガス式(化学反応式) | 電解質と金属の反応で水素ガスを発生、そのガス圧で給脂 | 外部電源不要・1〜12ヶ月設定可 | 高所・屋外・アクセスが難しい箇所 |
| 電動式(モーター駆動) | 内蔵モーターで定量吐出 | 吐出量・周期をプログラム設定 | 複数点給油・精密制御が必要な設備 |
| 集中給脂方式(ポンプユニット) | 1台のポンプで多点同時給脂 | 保全工数が大幅削減 | 大型設備・ロボット・搬送ライン |
ガス式は、perma(ペルマ)やSKFのSYSTEM 24 LAGDシリーズが代表的な製品です。これらは化学反応によって発生したガス圧でピストンを押し下げ、最長12ヶ月間にわたって連続給脂を行います。外部電源が一切不要なため、天井クレーンのフック部や高所の換気ファン軸受など、配線が難しい場所でも導入しやすい点が支持されています。
集中給脂方式は、リューベ株式会社やSKFが提供する「LHLシステム」などが代表格です。リューベ社は1964年の創業以来、ヤマザキマザック・オークマ・牧野フライス製作所など国内主要工作機械メーカーへの納入実績を持ち、工作機械分野では信頼性の高いシステムとして広く採用されています。
つまり、設置場所・電源の有無・給油点数の3点を整理することが方式選定の第一歩です。
参考:ミスミが解説する自動給油器の種類と特長(スプリング式・ガス式の詳細技術情報)
自動給油器の種類と特長 | MISUMI-VONA
自動給油装置を正しく機能させるうえで、グリスの選定は装置選びと同等かそれ以上に重要です。装置だけ導入してグリスを適当に選んだ結果、配管が詰まって給脂できなくなる——というトラブルは、金属加工の現場では決して珍しくありません。
グリスの硬さを表す指標が「NLGIちょう度番号」です。米国潤滑グリース協会(NLGI)が定めた規格で、番号が大きいほど硬いグリスになります。一般的な目安として、集中給脂システムへの使用に適しているのはNLGI No.0(ちょう度355〜385)またはNo.1(310〜340)です。手詰めや充填給脂に使われるNo.2(265〜295)は、集中給脂の配管内を長距離圧送するには流動性が低すぎる場合があります。
集中給脂用グリスで重要なのは、同じちょう度番号であっても「圧送性・流動性」が良いものを選ぶことです。これが原則です。外気温が低い冬場は、グリスの粘度が上がって流動性がさらに低下するため、低温対応のグリスを選定するか、ちょう度番号を下げることを検討する必要があります。
グリスの増ちょう剤(ゾル状の骨格を形成する成分)の種類も選定に影響します。リチウムせっけん系は汎用性が高くコストも低いですが、高温環境(150℃以上)では劣化が進みやすい。ウレア系やフッ素グリスは耐熱性に優れますが価格が高い。金属加工設備の場合、加工熱が軸受近傍に伝わるケースがあるため、使用温度範囲の確認は必須です。
また、異なる種類のグリスを混合してはなりません。増ちょう剤の種類が異なると化学的に反応し、グリスが急激に軟化または硬化するリスクがあります。自動給油装置を新規導入・グリス変更する際は、配管内の古いグリスを完全に排出してから新しいグリスに切り替えることが基本です。
参考:ジュンツウネット21が解説するグリス給脂方式の種類と特徴(集中給脂・充填給脂など詳細な比較表あり)
給油給脂の方法と装置の選定 | ジュンツウネット21
「グリスが切れるよりも多めに入れた方が安全だ」という感覚は、実は大きな誤解です。これは使えそうな知識ですね。ベアリングの内部空間に充填できるグリスの適正量は、空間容積の30〜40%が目安です。これを超えてグリスを詰め込むと、軸受の回転に伴う撹拌熱が急激に増大します。
密封された転がり軸受(シールド軸受)では、グリス充填量が内部空間の50%を超えた時点でシールへの圧力が上昇し始めます。圧力が一定を超えるとシールが変形・破裂し、防水・防塵性能が失われて異物や水分が侵入するリスクが生じます。グリスを入れすぎると、かえって短命になるということです。
過給脂が引き起こす具体的なトラブルは以下のとおりです。
では、自動給油装置ならこの問題を回避できるでしょうか?単純にセットして放置するだけでは不十分です。自動給油装置でも、吐出量の設定値が適切でなければ過給脂が起こり得ます。装置導入時に必要なのは「適正な給脂量の計算」で、軸受サイズ・回転数・使用温度の3要素をもとに算出することが前提となります。
SKFが提供する「DIALSET」や「Lincoln Lube Manager」のようなソフトウェアツールを使えば、適正な給脂間隔と給脂量を簡易的に計算することができます。無料で利用できるツールもあるため、まず確認する価値があります。
参考:NTNが解説するベアリングの異常温度上昇と潤滑剤過多の関係(主要原因・診断チェックポイント)
機械の運転状態での点検 | NTN株式会社
実際のところ、自動給油装置を導入すると現場にどれほどの変化が生まれるのでしょうか?まず数字で見てみましょう。
SKFのSYSTEM 24自動給脂装置のカタログ事例では、100個のベアリングに自動給脂装置を取り付けた結果、ベアリング寿命の延長とグリス購入費の削減、生産性向上が確認されています。また、permaの資料によると自動給油器は「軸受の故障を最大75%防止する」というデータも公表されています。
手動給脂と自動給脂の主な違いを整理すると、以下のようになります。
| 比較項目 | 手動給脂 | 自動給脂 |
|---|---|---|
| 給脂タイミング | 作業者が定期的に実施(停止時が多い) | 稼働中に自動・連続給脂 |
| 給脂量の精度 | 個人差・感覚に依存しやすい | 設定値どおりに定量供給 |
| 給脂忘れリスク | 高い(ヒューマンエラー) | ほぼゼロ |
| 異物混入リスク | グリス補充作業で外気にさらされやすい | 密閉系で供給するため低い |
| 高所・狭所対応 | 足場設置などが必要で危険を伴う | 配管を引くだけで対応可 |
| コスト | 設備費は安いが、労務費・トラブル対応費が高い | 初期費用はかかるが長期的なコストが低減 |
特に金属加工設備においては、機械稼働中に給脂できるかどうかが重要なポイントです。手動給脂では、グリスを補充するために設備をいったん停止する必要が生じることが多い。それ自体がダウンタイムになるわけです。自動給油装置なら稼働中に連続給脂できるため、生産を止めることなく潤滑管理が完結します。
高所・狭所への対応も大きなメリットです。工作機械のスピンドル上部や搬送コンベヤの天井側ローラーへの手動給脂は、足場を組むか体を無理に伸ばして作業することになり、労働安全上のリスクも伴います。NOK株式会社の自動給脂装置の採用事例でも「高い場所や狭い場所での定期的な手給脂作業の省人化」が主な導入目的として挙げられています。
厳しいところは初期投資です。シングルポイントの自動給油器は1個数千円から入手できますが、集中給脂システムを工場全体に導入する場合はポンプ・分配弁・配管・コントローラーの構築が必要となり、数十万円規模の投資になります。ただし、ベアリング交換費用・ライン停止時間・保全人件費の削減効果と対比すれば、多くの現場で費用回収が可能です。
一般的な設備保全の解説では、自動給油装置の効果として「ベアリング寿命の延長」や「メンテナンス工数の削減」が強調されます。しかし金属加工の現場では、もう一つ重要な視点があります。それは「潤滑状態の安定が加工精度に直結する」という点です。
工作機械のスピンドル軸受やリニアガイドは、グリスの状態が動きのスムーズさを左右します。潤滑が不均一になれば、微小な振動や熱変位が発生し、それが加工精度の悪化につながります。つまり、自動給油装置は「機械を守る」だけでなく、「製品の品質を守る」ためのツールでもあるということです。
リニアガイドへの給油を例に取ると、ミスミのメンテナンス情報では、通常の手動給油では一定の給油間隔を設けることになりますが、潤滑ユニット(自動給油器)を使用することで「給油間隔を大幅に延長することが可能」と記載されています。長時間稼働する加工ラインでは、潤滑ユニットの使用が加工品質の安定に貢献するわけです。
また、切削油(クーラント)が使われる湿式加工の環境では、水分や切粉がグリス潤滑箇所に混入しやすくなります。この点では、密閉系で連続給脂を行う自動給油装置のほうが、手動給脂よりも外部汚染に対して有利な状況を維持しやすいです。
さらに、振動センサーを内蔵した「稼働検知型」の自動給油器(例:パルサールブ Mi型)では、設備が実際に稼働している時間だけカウントして給脂を行います。実稼働時間に比例した給脂が実現するため、週末の稼働停止や季節変動による稼働率の差を考慮した管理が可能です。これは使えそうです。
金属加工設備に自動給油装置を導入する際は、以下の確認事項を一度まとめておくことをおすすめします。
給油点が多い場合は、リューベのLHLシステムや広和株式会社のKWK集中潤滑装置など、集中給脂システムを検討する価値があります。対して、単体のベアリング1〜3点程度であれば、NOK・SKF・permaのシングルポイント自動給脂装置から始めるのが導入ハードルの低い選択肢です。まず1点から試してみるのが現実的です。
参考:NOK株式会社の自動給脂装置製品情報(ガス式・電動式の製品ラインアップと採用イメージ)
自動給脂装置 | NOK株式会社
参考:ミスミのリニアガイドメンテナンス情報(潤滑ユニット使用による給油間隔延長の具体的な説明)
リニアガイドの使用方法・メンテナンス(グリース給油) | MISUMI