インサート成形とガンプラの多重技術で学ぶ金型設計の真髄

ガンプラに使われるインサート成形・多重インサート成形の仕組みを金属加工の視点で徹底解説。バンダイの4色成形機やABS×PP素材の組み合わせが、現場の金型設計にどう活かせるか知っていますか?

インサート成形とガンプラの多重技術が金属加工現場を変える

あなたが「接着なし」だと思って触れたガンプラの関節は、実は溶着で固定されていた。


🔧 この記事でわかること
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多重インサート成形の仕組み

バンダイが独自開発した4色成形機と多重インサート成形がどう機能するかを、金属加工の視点で分解して解説します。

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ABS×PPの異素材成形の設計ポイント

なぜ難接着性のPPをあえて使うのか。金型設計における素材選択とクリアランス管理のコツを解説します。

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インサート成形と2色成形の使い分け

金型コスト・生産ロット・省人化の観点から、現場が迷いがちな工法選択の基準を具体的な数字で整理します。


インサート成形とガンプラの関節パーツの意外な共通点


金属加工の現場で「インサート成形」といえば、金属ナットや端子をあらかじめ金型にセットし、そこへ溶融樹脂を流し込んで一体化する工法を真っ先に思い浮かべる人が多いはずです。しかしバンダイが1/144スケールのガンプラで実現した多重インサート成形は、金属ではなく「樹脂と樹脂」を組み合わせており、その発想の転換が金型エンジニアにとって非常に示唆に富んでいます。


ガンプラのRG(リアルグレード)シリーズやPG(パーフェクトグレード)シリーズには、「アドバンストMSジョイント」と呼ばれる内部フレームパーツが採用されています。これは1枚のランナーから切り離すだけで、すでに指の関節や腕・脚の関節が動く状態に仕上がっているという驚くべきパーツです。切り離す前から可動部が形成されている、ということです。


仕組みはシンプルです。ランナーの裏側を観察すると「ABS」と「PP」という2種類の表記があります。ABSはガンプラのフレームに広く使われる高強度の樹脂で、PPはポリプロピレン——タッパーやヘラなど日用品に使われる難接着性の素材です。この2種類を意図的に組み合わせることで、溶着せずに滑らかに動く可動部を型の中で完成させています。


つまり原則です。「接着しない樹脂同士を同じ金型で成形する」というのが多重インサート成形の核心です。


では成形の順序はどうなっているのか。RGシリーズのアドバンストMSジョイントでは、ボールジョイント構造の分析から「ABSを先に成形し、その後PPを上から覆うように成形している」という構造が確認できます。もしPPを先に成形すると、後からABSのボール形状を収める空間が金型の抜き方向の都合上うまく確保できなくなるためです。成形順序が逆になると製品が成立しない、という設計制約は金型設計者なら直感的に理解できる話でしょう。


金属加工に置き換えると、異素材インサート品の配置と成形シーケンスの設計がいかに重要かが分かります。これは使えそうです。


参考:アドバンストMSジョイントの金型構造を3Dデータで徹底考察した記事です。射出成形に携わるエンジニアにとって金型設計の発想の参考になります。
金型構造の考察【アドバンスドMSジョイント①】|みぶあらのきょうも試行錯誤


インサート成形のガンプラへの応用で変わった金型設計の常識

バンダイがガンプラの生産に導入した多重インサート成形の技術は、従来の「インサート成形=金属と樹脂の組み合わせ」という常識を根底から覆しました。金属加工の現場で長く働いてきた人ほど、この発想のギャップを感じるはずです。


通常のインサート成形では、金属ナットや板金プレス品を金型にセットし、樹脂を充填して一体化します。自動車部品のコネクタやセンサーハウジング、医療機器の本体部品などがその代表例です。この工法のメリットは「金属の強度と樹脂の軽さを1部品で実現できる点」にあります。高性能化・軽量化・耐久性向上という3つの要素を同時に達成できるのが特徴です。


一方バンダイの多重インサート成形は、金属を一切使わず、「接着しない樹脂同士が成形後に動く」という別の目的で設計されています。ABSの剛性とPPの難接着性を組み合わせることで、成形完了時点で可動関節が内包された状態の部品が完成します。RGガンダムMK-IIのランナーから切り離した手パーツが「そのままで指を曲げられる」のは、この工法によるものです。


金属加工の設計視点で整理すると、この技術には3つの革新がある、ということです。



  • 🔩 材料の相性を「弱点」ではなく「機能」として設計に組み込んでいる——難接着性のPPをあえて選択し、可動クリアランスとして機能させている

  • 📐 金型の抜き方向と成形シーケンスを一体で設計している——ABS先成形→PP後成形という順序がボールジョイント構造を実現する唯一の方法

  • 🏭 組み立て工程そのものを成形工程に内包させている——ランナーから切り出した時点で製品が機能する状態に仕上がっている


バンダイの生産ラインには、東芝機械(現・芝浦機械)と共同開発した世界で唯一の4色多色射出成形機が17台稼働しており(旧バンダイホビーセンター時点)、新工場「BHCPDII」では2026年の本格稼働後に生産能力を2023年度比で約35%向上させる計画です。この規模の設備投資が示すとおり、多重インサート成形の金型設計は高い再現性と量産品質の安定が求められる、非常にレベルの高い技術です。


参考:バンダイ新工場の成形技術と生産体制について詳しく解説されています。多色成形・多重インサート成形のしくみを分かりやすく説明した権威ある技術記事です。
ガンプラを世界へ!最新技術を集めた新工場が誕生|日本機械学会


インサート成形とガンプラに学ぶ「ABS×PP」素材選択の設計基準

多重インサート成形が成立するためには、素材の選択が設計の生命線になります。この点はガンプラのアドバンストMSジョイントが最もよく示しています。


ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は耐衝撃性に優れ、表面硬度が高く、塗装・接着加工のしやすさから、ガンプラのフレーム部品に広く使われています。一方PP(ポリプロピレン)は軽量で化学的安定性が高く、最大の特徴は「接着しにくい」という難接着性です。溶剤系接着剤を垂らしても全く溶解しない、というのが特徴です。


この難接着性こそが多重インサート成形の要です。ABSを先に成形しておき、その成型品をPPの金型に入れて2次成形を行うと、PPはABSに融着しません。温度220〜230℃、最大150トンの射出圧力をかけても2素材が溶着しない——だからこそランナーから切り離した瞬間から関節が動くのです。


金属加工に置き換えると、この発想は「素材の接合性の弱点を逆手に取る設計」です。通常のインサート成形では金属と樹脂を確実に密着させることが課題になりますが、多重インサート成形ではあえて密着させないことで機能を生み出しています。


素材選択の実務的なポイントを整理すると以下の通りです。






















素材 役割 特性 成形順序
ABS 構造体(ボール・軸) 高強度・接着容易 1次成形(先)
PP(ポリプロピレン) 受け・可動クリアランス部 難接着性・柔軟性 2次成形(後)


注意すべき点は、2素材の熱膨張率の差です。ABSとPPでは熱膨張率が異なるため、成形後の冷却過程でわずかな収縮差が生じます。この収縮差が大きすぎると部品が変形したり、逆に可動クリアランスが詰まって動かなくなる恐れがあります。バンダイが量産品質を安定させるためにどれほど精密な条件設定を行っているか、金型エンジニアなら容易に想像できるはずです。


厳しいところですね。0.数mm単位のクリアランス管理を数万台規模の量産でやり切っているという事実は、この技術の難度を物語っています。


素材の熱膨張率差に起因する寸法管理の課題は、金属インサート成形でも同様に発生します。この問題を体系的に把握したい場合は、樹脂流動解析ソフト(Moldflow等)を活用して成形条件の事前シミュレーションを行うことが、不良率低減への近道になります。


インサート成形と2色成形の選択基準をガンプラの事例で整理する

金属加工の現場でよく混同されるのが「インサート成形」と「2色成形」の使い分けです。ガンプラの多重インサート成形はこの2工法の境界線上に位置しており、両者の違いを理解するうえで格好の教材です。


両工法の違いを実務観点で比較すると、以下のようになります。





























比較項目 インサート成形 2色成形
金型コスト 2面必要だが構造が単純で比較的安価 1面だが複雑な金型構造でコスト高
生産ロット 小ロット向き 大ロット向き
省人化 2次成形時に人員が必要なケースが多い 一旦設定すれば無人・自動連続成形が可能
品質 インサート時の傷・バリ・カブリのリスクあり 1次成形温度を調整でき融着・変形を抑制しやすい


ガンプラの多重インサート成形について、金型設計者のMIBさんが実際にアドバンストMSジョイントを採寸・3Dデータ化して検証した結果、「インサート成形ではなく2色成形の可能性が濃厚」という結論に至っています。理由は明快です。もしインサート成形であれば、細かく数の多いABS成型品を1点ずつ金型にセットする作業が必要になり、生産性・位置精度の面で非現実的だからです。


つまりバンダイは、大ロット・高精度・省人化という条件を満たすために2色成形の構造を採用していると考えられます。これが原則です。


一方で、2色成形の弱点も明確です。金型構造が複雑になる分、イニシャルコスト(金型製作費+成形機償却費)が跳ね上がります。2色成形金型は構造によってはキャビ・コアともに2個ずつ必要なケースがあり、材料費だけで通常の約2倍になることもあります。


金属加工現場での判断基準として覚えておきたいのは次の3点です。



  • 🔁 試作・小ロット段階ではインサート成形で金型コストを抑えつつ形状検証を行う

  • 📦 年間10万個以上の量産フェーズでは2色成形に切り替えて省人化・品質安定を優先する

  • 🧩 設計段階で成形シーケンスと金型構造を同時に決める——後工程で工法変更すると金型作り直しとなり数百万円単位のコストが発生する


参考:インサート成形と2色成形の違いを工法・コスト・品質・省人化の観点から詳細に比較しています。現場の工法選択に直結する実務情報です。
インサート成形と2色成形の違いとは?|2色成形.com


金属加工従事者だからこそ気づくガンプラの多重インサート成形の深い技術的価値

ガンプラを「おもちゃ」として片付けてしまうと、そこに隠された工業技術の粋を見落とします。金属加工の現場に長く携わっている人間だからこそ、バンダイの多重インサート成形の難度と価値が理解できます。


まず射出成形の条件管理という観点から考えます。ガンプラの成形では、樹脂ペレットを220〜230℃で溶融し、最大150トンの射出圧力で金型に流し込みます。1枚のランナーが成形されるのはわずか約20秒、成形機1台あたり1日で4,000〜5,000枚ものランナーを生産できます。この生産速度で多重インサート成形の精度を維持し続けることは、金型の精度管理・温度管理・圧力管理のすべてが機能して初めて成立する難事です。


金型の精度はミクロン(μm)単位で管理されています。金型精度が少しでもずれると可動部のクリアランスが詰まり、切り離した瞬間から動かない不良品になります。逆に緩すぎると関節がポロポロ外れる部品になってしまいます。ミクロン単位の精度が条件です。


さらに注目すべきは、バンダイがこの技術を自社開発の成形機とセットで実現している点です。東芝機械(現・芝浦機械)と共同開発した世界唯一の4色多色射出成形機は、市販の汎用機では実現できない精密な多材質・多色成形を可能にしています。これは、ハードウェア(成形機)・金型・材料の3つを同時に最適化した垂直統合型の技術開発の成果です。


金属加工の観点では、この「ハード・金型・材料の三位一体設計」という発想が、自動車部品や医療機器の精密インサート成形でも適用できる重要なヒントになります。


たとえば医療機器のコネクタやセンサー部品では、金属端子と樹脂ハウジングのインサート成形で±0.05mm以下の寸法精度が求められることがあります。このような高精度品を量産する場合、成形機の選定・金型設計・材料の熱膨張率管理を一体で検討しないと、後から修正するたびに数十万〜数百万円の費用が発生します。


これは使えそうです。ガンプラの多重インサート成形を「遊び道具の製造技術」ではなく「工業製品の設計哲学」として参照することで、自社の金型設計に活かせるヒントが多数得られます。


また独自の視点として強調したいのは、ガンプラの多重インサート成形が「組み立て工程の排除」を目的としている点です。通常、多関節部品を製造するには、各パーツを個別に成形→検査→組み立てという工程を踏みます。バンダイはこれを成形と同時に完了させることで、組み立て工数をゼロにしています。


製造コスト削減の視点で言えば、組み立て工数の削減は部品点数削減と並ぶ最大のコストドライバーです。「成形が完了した時点で製品が機能する状態にする」というアプローチは、金属加工品のインサート成形設計でも積極的に取り入れるべき考え方です。この発想が広がれば、後工程の組み立て・検査コストが大幅に削減できます。


結論は「多重インサート成形の本質は、製造工程の再設計にある」です。バンダイが実現したことは単なる「動くプラモ」ではなく、「組み立て工程を成形工程に内包させた工業デザインの革新」です。金属加工の現場でも、この発想を取り入れることでコスト構造を根本から見直す機会が生まれます。


参考:インサート成形によって樹脂と金属加工を融合させる手法、そのメリット・課題・今後の展望を解説した実務向けコラムです。
インサート成形によって樹脂と金属加工の融合!そのメリットと用途とは?|アートウインズ


十分な情報が収集できました。記事を生成します。




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