試験前の前処理を省略すると、ぬれ不良を見落としたまま製品が出荷され、後工程でクレームにつながります。
はんだ付け性試験とは、金属端子や電子部品の電極が、溶融したはんだに「どれだけ素直になじむか(ぬれるか)」を定量的に評価する試験です。JISでは「はんだ付けの最低温度において、はんだ付けされる表面がはんだにぬれる能力」と定義されており、この能力が不足するとはんだが弾かれて接合不良になります。
この試験が現場で重要視されるのは、外観だけでは判断できない接合信頼性を数値で示せるからです。目視でぬれているように見えても、ぬれ力が弱かったり、ぬれに時間がかかりすぎたりすると、使用環境での熱サイクルにより接合部にクラックが発生するリスクがあります。
JISによるはんだ付け性試験の評価原理は主に「平衡法(ウェッティングバランス法)」と呼ばれる方法です。これは、供試品(試験対象物)を溶融はんだ槽に浸漬したとき、供試品に働く上下方向の合力(浮力と表面張力の合成)を時間の関数として記録するものです。はんだがぬれていない状態では浮力による上方向の力が優勢ですが、ぬれが進むにつれてはんだの表面張力が下方向に引っ張る力が増し、ゼロ点を超えてプラス側(ぬれ力)に転じます。
ぬれ曲線の読み方は以下のようになります。
試験結果は「力対時間曲線」としてグラフに記録され、ぬれ時間とぬれ力の両方を評価します。この評価が製品規格の合否判定に使われます。
数字で見ると実感しやすいです。例えばMIL-STD-883規格では「0.59秒以内にゼロクロスし、1秒以内にFmaxの2/3に達すること」が要求事項とされています。1秒というのは、心拍1回分の短さです。それだけの素早いぬれが求められていることがわかります。
つまりぬれ性の「速さ」と「大きさ」が基本です。
はんだ付け性試験方法(平衡法)における各種規格内容と評価方法に関する技術報告(Rhesca株式会社)
現場でよく混乱されるのが「どのJIS規格を使えばよいのか」という点です。はんだ付け性試験に関するJIS規格は1つではなく、評価対象の形状・種類によって適用規格が明確に分かれています。
代表的な規格を整理すると以下のとおりです。
| 規格番号 | 対象 | 主な試験方法 |
|---|---|---|
| JIS C 60068-2-20 | リード端子付き部品(スルーホール実装部品) | はんだ槽法・はんだこて法 |
| JIS C 60068-2-69 | 表面実装部品(SMD)・プリント配線板 | はんだ槽平衡法・はんだ小球平衡法 |
| JIS C 60068-2-58 | SMDのはんだ付け性・耐はんだ食われ性・はんだ耐熱性 | 外観評価法(目視含む) |
| JIS Z 3198-4 | 鉛フリーはんだそのものの評価 | ウェッティングバランス法・接触角法 |
重要な点は、JIS C 60068-2-69は2019年の改訂によってJIS C 60068-2-54(旧規格)を廃止・統合した経緯があることです。旧規格のJIS C 60068-2-54を参照している仕様書や社内規定がある場合、現在は2-69への読み替えが必要になります。規格の改廃に気づかず古い版を使い続けているケースは業界でも見られるため、注意が必要です。
各規格の使い分けは「部品の形状」で決まります。リード端子が基板スルーホールに挿入されるタイプの部品はJIS C 60068-2-20、チップ抵抗やICパッケージなどの表面実装部品はJIS C 60068-2-69が基本です。コネクタ専用の試験としてはJIS C 5402-12-7(IEC 60512-12-7)も存在します。
規格が違えば要求事項も異なります。JIS C 60068-2-54(廃止済み・現2-69)では「ぬれの初期段階・進行段階・安定性」の3点が要求事項でしたが、JIS Z 3198-4では「ぬれが始まる時間・ぬれ上がる時間・最大ぬれ力」の4点が評価ポイントとなります。規格の違いを理解せずに試験すると、合否の読み方自体が変わってくるため、規格番号の確認は必須です。
規格の選定が条件です。
JIS C 60068-2-69:2019「電子部品及びプリント配線板のはんだ付け性試験方法(平衡法)」全文(kikakurui.com)
はんだ付け性試験において、試験本体と同じくらい重要なのが「前処理(エージング)」です。前処理とは、試験前に供試品に意図的な劣化加速処理を施すことで、倉庫や工場での保管中に起こる端子表面の経時劣化を人工的に再現する工程です。
前処理を省略したり、誤った方法を選んだりすると、保管劣化が進んだ実際の部品が現場で不ぬれ不良を起こしても、試験段階では合格と判定してしまう危険があります。これは試験の意義そのものが失われる状態です。
JIS C 60068-2-20に規定される代表的な前処理の種類は以下のとおりです。
ここで意外な事実があります。TDKが実施した研究によると、水蒸気エージング処理・不飽和PCT処理・高温貯蔵処理それぞれを施したスズ(Sn)標準金属箔の酸化被膜を解析したところ、「倉庫保管時における経時劣化を正確に再現できていない可能性がある」という結果が得られています。これはIEC/TC91の国際標準化委員会でも議題に上がっており、新規前処理方法の研究が進んでいます。
現行規格の前処理でも限界があるということですね。
実務的な対応として、受渡当事者間で前処理条件を明確に合意しておくことが重要です。JIS C 60068-2-69では「試験結果の判定に疑義がある場合は、この規格の測定手順を優先する」と明記されています。受け入れ検査と出荷検査で異なる前処理を使用していた場合、同じ部品でも合否結果が食い違うケースがあります。
前処理条件は合意が原則です。社内規定にどの前処理を採用するか明記しておき、購買仕様書にも記載することで、後工程でのクレームリスクを下げられます。
はんだ付け性試験の濡れ性挙動に基づく新規前処理の検討(TDK株式会社・表面技術誌掲載論文)
2006年のRoHS指令(有害物質使用制限指令)をきっかけに電子機器の鉛フリー化が加速し、はんだ付け性試験の条件も大きく変わりました。鉛フリーへの対応を見落としたまま従来条件で試験を続けていると、実際の製造環境と乖離した評価を行うことになります。
鉛入りと鉛フリーの試験温度の違いを確認します。
| はんだ合金 | 組成(質量分率) | 試験温度(JIS C 60068-2-69) |
|---|---|---|
| 鉛入りはんだ(共晶) | Sn60Pb40 または Sn63Pb37 | 235℃ ±3℃ |
| 鉛フリー(SAC305) | Sn96.5Ag3Cu0.5 | 245℃ ±3℃ |
| 鉛フリー(Sn-Cu) | Sn99.3Cu0.7 | 250℃ ±3℃ |
最大で15℃の温度差があります。15℃というのは感覚的にはわずかに思えますが、はんだ槽の制御精度や部品の耐熱特性に対しては無視できない数字です。例えば、はんだ槽の温度管理が±3℃の誤差を含む場合、実際の試験温度は242〜253℃の幅に収まることになります。コネクタや樹脂成形体を含む複合部品では、この温度差が変形や特性変化の原因になりえます。
鉛フリーはんだが主流の現在、フラックスの選択も見直しポイントです。JIS規格では非活性フラックス(ロジン25%+イソプロパノール75%)と活性フラックス(塩化ジエチルアンモニウム0.2%または0.5%添加)の2種類が規定されていますが、鉛フリーの場合、鉛入りに比べてぬれ性が低下する傾向があるため、活性フラックスを使用した条件での評価が求められることが増えています。
注意したいのが「金めっき端子」との組み合わせです。金めっきはぬれ性に優れていますが、はんだ中に含まれる金の割合が4%を超えると、金-スズ系の脆い金属間化合物が形成されてはんだ強度が著しく低下します。鉛フリー化により実装温度が上昇したことで、金のはんだへの拡散速度が上がり、この問題が表面化しやすくなっています。これは痛いですね。
また、鉛フリーはんだを用いた場合、スズウィスカ(ひげ状の金属結晶)が成長しやすく、隣接する電極間でショートを引き起こすリスクがあります。このリスクは試験段階では見えにくいため、保管環境の管理も同時に重要になります。
鉛フリーの試験温度と合金組成は必須の確認事項です。
規格通りに試験を実施していても、現場で「ぬれ不良」が頻発するケースがあります。原因の多くは試験方法そのものではなく、試験前の表面管理や保管状態の問題です。このセクションでは、現場でよく見られる落とし穴を整理します。
ぬれ不良の主な原因は4つです。
めっきの種類によってぬれ性は大きく変わります。スズめっき(Sn)・銀めっき(Ag)は一般的にぬれ性が良好ですが、ニッケルめっき(Ni)は酸化しやすく単独では不向きです。金めっき(Au)はぬれ性に優れるものの、前述の金食われリスクがあります。現場でよく使われる「無電解ニッケル/金(ENIG)めっき」は、ニッケル上に薄い金を施すことで酸化防止とぬれ性確保を両立させた構成ですが、金層が厚すぎると金食われリスクが増します。
プリント配線板のSnめっきに起因するぬれ不良事例も報告されています。スズめっき皮膜の表面形状が均一でない場合、ぬれが一部に偏ってムラが生じ、外観では判断しにくい接合不良につながります。ぬれ不良は後から見えにくいです。
現場での管理ポイントとして、部品の開封から実装までの時間を社内ルールで決めておくことが効果的です。また、はんだ付け性試験を入荷検査の一環として定期的に実施することで、部品ロット間のばらつきをいち早く検出できます。株式会社三ツ矢などが提供するめっき後のぬれ性評価サービスを活用することで、自社設備がない場合でも外注で定量データを取得できます。
ぬれ不良の8割は表面管理で防げます。試験装置の精度改善より先に、保管・取り扱い方法の見直しから着手するのが費用対効果の高い選択です。
半田(はんだ)濡れ性とは?ぬれ不良の原因と判定基準の解説(株式会社三ツ矢・めっきのひろば)
はんだ付け性試験の結果は、多くの現場では「合格/不合格」の判定にしか使われていません。しかし、試験で得られる「力対時間曲線(ぬれ曲線)」には、工程改善に直結する多くの情報が含まれています。合否だけ見て終わりにするのはもったいないです。
ぬれ曲線から読み取れる情報を具体的に見てみます。
ゼロクロス時間(t0)が規格値以内でも、カーブの立ち上がりが鈍い場合は、フラックス活性の低下や端子表面の微細な汚染を疑うことができます。ぬれの進行が遅いということは、実際のリフローや波はんだ工程でも、はんだが全体に広がりきる前に冷却が始まるリスクを意味します。
ぬれ安定性(Fend/Fmax)の低下も重要なサインです。Fend/Fmaxが0.9を下回るような場合、はんだが一度ぬれても不安定になりやすい表面状態を示しています。これはリフロー後の冷却過程でのぼた落ちやブリッジ不良のリスクとも相関することがあります。
ロット間でぬれ曲線を比較することもできます。同じ部品でも受入れロットが変わると微妙にぬれ曲線の形が変化することがあります。これをグラフで蓄積・比較しておくと、特定のロットで問題が出始めたときに早期に気づくことができます。これは使えそうです。
また、試験温度をあえて数℃変化させてぬれ曲線がどう変わるか確認する「温度マージン評価」も独自の品質管理に活用できます。規格上の試験温度±5〜10℃でもぬれが十分に得られるかどうかを確認することで、実際のリフロー炉でのプロファイルバラツキに対するロバスト性を確認できます。
ぬれ曲線の蓄積管理にはデータ管理ソフトが有効です。多くのウェッティングバランス試験機(例:Rhesca社製など)にはデータ取得・比較機能が付属しており、試験結果をCSVで出力してExcelや専用ツールで傾向管理することが現実的です。試験機のメーカーが提供する技術報告書も参考にすると、各規格の要求事項に沿った設定方法を確認できます。
数値の変化に気づく習慣が品質の鍵です。
はんだ付け性評価試験システムの概要と活用方法(一般財団法人工業技術研究所)