スズめっき被膜特性と耐食性向上技術

電気電子部品や食品分野で広く使用されるスズめっきは、はんだ付け性と防錆性に優れた表面処理です。光沢・無光沢の種類や、ウィスカ対策、RoHS指令対応での鉛フリー化など、現代の産業ニーズに対応した技術がどのように展開されているかご存知ですか?

スズめっき・各種特性と産業応用

スズめっき・活用分野別特性一覧
電気・電子部品での用途

プリント基板、コネクタ、リードフレームなど。はんだ付け性と導電性を生かした用途が中心。

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食品分野での用途

缶詰、飲料缶、食器、生産用搬送機械など。生体適合性と耐腐食性が重要。

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輸送関連部品での用途

自動車燃料タンク、ブレーキパッド、ピストンなど。耐食性と潤滑性が求められる。

スズめっき・銀白色外観と基本特性

スズめっきは銀白色の美しい外観を特徴とした金属表面処理で、古くから各産業で活用されてきました。スズ(Sn)は軟らかく展延性に優れた金属であり、融点が低い特性を持ちます。熱伝導性と電気伝導性に優れ、特にはんだ付け性の優秀さから、電気電子部品の表面処理として欠かせない技術となっています。

 

スズめっきが優れている主な機能性は、低抵抗性による導電性向上、半田濡れ性の確保、耐食性の強化、および摺動部品への適用時の潤滑性向上です。これらの特性により、食品容器から精密機器まで幅広い分野で採用されており、RoHS指令による環境規制強化の中でも鉛フリーめっきとしての重要性がますます高まっています。

 

スズめっき・光沢・無光沢処理の品質選別

スズめっきは施工方法により複数の種類に分類されます。光沢スズめっきは光沢のある美しい外観が特徴で、装飾品や高級感を要求される製品に適用されます。一方、無光沢スズめっきは落ち着いた外観を呈し、機能重視の産業用部品に多用されます。

 

光沢スズめっきは硬度がHv40~80程度であり、接触抵抗が1~50Ω程度です。これに対し無光沢スズめっきの硬度はHv15~50で、接触抵抗は0.8~30Ω程度となります。耐変色性の観点では、光沢スズめっきが150℃・8時間の熱処理でも変色が生じないのに対し、無光沢スズめっきは150℃・1時間以上で変色する傾向があります。はんだ付け性の点でも両者とも250℃・5秒の浸漬でゼロクロスタイムが2秒以下と優秀ですが、光沢タイプの方がわずかに勝ります。

 

半光沢スズめっきはこれら両者の中間的な特性を持ち、幅広い用途に対応できる柔軟性を有します。さらに、スズに他の金属を添加した合金スズめっき(スズ-鉛合金めっき、スズ-コバルトめっき、スズ-ニッケル-銅合金めっき)も特定の要求特性に対応するため開発されています。

 

スズめっき・ウィスカ発生防止と対策技術

スズめっき特有の課題として、ウィスカと呼ばれる針状結晶の成長が挙げられます。ウィスカは直径約1μm、長さ数百μmから数mmに及ぶ針状の金属単結晶であり、電子部品内での短絡を招く深刻な問題です。ウィスカ発生の根本原因は、スズめっき膜内の圧縮残留応力であり、銅基材上にスズめっきを施した場合、銅がスズ層に拡散することで応力が発生します。

 

ウィスカは発生モードにより、室温型、温度サイクル型、腐食型、および外部応力型に分類されます。内部応力型ウィスカに対しては、銅素材とスズめっきの間にニッケル下地めっきを施すことで銅の拡散を遮断し、ウィスカ発生を大幅に抑制できます。スズめっき厚を1μm以下に薄くするか、または10μm以上に厚くする方法も提案されていますが、コスト増加や接触抵抗の増加といった課題があります。

 

特に外部応力型ウィスカについては、コネクタの嵌合部など外部からの圧力がかかる環境での発生が顕著であり、従来の対策では完全な防止が困難です。リフロー処理によって結晶組織を制御する方法、交流電源波形を調整した電源を用いた膜形成、スズ-銀合金やスズ-ビスマス合金めっきの採用など、複合的なアプローチが検討されています。これら技術は2006年のRoHS指令施行後、鉛を使用できなくなったことで研究が加速しています。

 

スズめっき・前処理工程と密着性確保

スズめっきの品質を大きく左右するのが前処理工程です。素材表面のゴミ、塵埃、酸化膜、油性付着物などを完全に除去しなければ、めっき膜との密着性が確保できません。前処理は素材の材質、加工履歴、汚れの難易度に応じて最適化される必要があります。

 

前処理の基本ステップは、アルカリ脱脂による油脂除去と、酸処理による酸化膜の除去です。アルカリ脱脂では浸漬脱脂と電解脱脂があり、特に電解脱脂は発生するガスで洗浄効果を高めます。酸処理では素材が酸化しやすい場合は還元性の酸(塩酸、フッ酸)を用い、酸化皮膜が強固な場合は酸化性の酸(硝酸、クロム酸)を適切に選択します。処理時間・温度・濃度を精密に制御することで、過度な素材攻撃を防ぎながら確実な表面清浄化を実現します。

 

特にアルミニウム素材の場合、強固な酸化膜の形成により密着性確保が困難であるため、ジンケート処理(亜鉛置換めっき)を前処理として施します。この処理により亜鉛がアルミニウム表面に置換析出し、その上にスズめっきが施されることで密着性が向上します。

 

スズめっき・RoHS指令対応と環境配慮型技術展開

2006年7月に欧州で施行されたRoHS指令は、電気・電子機器に含まれる水銀・カドミウム・六価クロムなどとともに鉛の使用を厳しく規制しています。従来、スズめっきのウィスカ抑制には数質量パーセントの鉛添加が極めて効果的でしたが、この規制により鉛フリー化が急務となりました。

 

鉛フリー化に伴い、代替技術として複数のアプローチが開発されました。スズ-ビスマス合金めっき、スズ-銀合金めっき、スズ-コバルト合金めっきなど、鉛以外の元素をスズに添加する手法が研究されています。さらに、めっき浴の添加剤の改善、電源波形制御による膜形成技術の最適化、リフロー処理による結晶組織制御など、多角的なアプローチが並行して推進されています。

 

一方、スズ100%めっき(純錫めっき)も選択肢として位置付けられており、後工程の熱処理やウィスカ抑制剤の活用により、要求性能を満たす製品が実現されています。RoHS指令への対応は、単なる規制への適応にとどまらず、環境配慮と機能性向上の両立を目指す業界全体の技術進化をもたらしています。

 

スズめっきの基礎知識や特徴、用途、種類に関する大阪めっき・アルマイトナビの詳細情報
スズめっきの浴種・対応ライン・特性表などの技術仕様は清水長金属工業の資料に詳しい
外部応力型ウィスカと結晶方位に関する学術研究は日本表面処理技術協会の査読論文を参照