ウィスカ とは金属めっきに発生する針状結晶の危険性

金属表面に自然発生する微細な針状結晶「ウィスカ」は、電子部品のショート原因となり、システムダウンや火災につながる可能性があります。スズめっきや亜鉛めっきから特に発生するこの現象について、メカニズムと対策方法をご存知ですか?

ウィスカ とは金属めっきに発生する危険な現象

ウィスカの基本特性
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ウィスカの定義と名称由来

金属表面から自然成長する金属単結晶で、直径1~2μm、長さ10μm~数mmの微細な針状構造

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サイズと観察の困難性

人間の毛髪よりも大幅に細く、肉眼での確認がほぼ不可能な微細さが特徴

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ウィスカの電気的危険性

金属導体であるため、成長により意図しない箇所で電気回路をショートさせる恐れ

ウィスカとは、金属めっきの表面から自然発生する細長い針状の金属単結晶のことです。「Whisker」という英語表現は、犬や猫などの動物の髭を意味する言葉に由来しており、その形状がまさにひげのように見えることから命名されました。スズめっき亜鉛めっきから特に頻繁に発生する現象として知られていますが、代替はんだやその他の金属でも観察されています。

 

ウィスカの歴史は意外に古く、1946年にアメリカのCobb氏によってカドミウムめっきからウィスカが初めて報告されました。当時、電子機器の故障が相次いだことから、1950年代から1960年代にかけて多くの基礎研究が行われてきました。特に電子部品の高密度化が進む現代では、ウィスカによる問題がより深刻化しています。

 

ウィスカは金属導体であるため、電子回路内で成長すると回路をショートさせる可能性があります。この短絡によってシステムダウンや機器の故障が発生し、最悪の場合は膨大な熱負荷による火災につながる恐れがあります。人命にかかわる重大な不具合の原因となる可能性があることから、ウィスカ対策は金属加工業界における重要な管理項目となっているのです。

 

ウィスカ とは発生する主なめっき材料と特性

 

ウィスカの発生が特に報告されている主なめっき材料としては、スズめっき、亜鉛めっき、および鉛フリーはんだ関連の材料が挙げられます。スズめっきは優れたはんだ濡れ性と食器から電子部品まで幅広い用途で採用されている高機能なめっきです。融点が232℃と比較的低く、有毒性も低いため食器や医療機器にも使用されています。

 

しかし、スズの結晶構造と下地金属との相互作用により、ウィスカが発生しやすい環境が形成されます。亜鉛めっきは従来から防性に優れ、建設用途や一般産業機器に広く使用されていますが、電子部品の高密度化に伴い、亜鉛由来のウィスカが問題化しています。

 

スズ単体めっきと比較して、スズ-鉛合金めっき、スズ-銀合金めっき、スズ-ビスマス合金めっきなどの合金めっきは、ウィスカ発生が相対的に抑制される傾向にあります。しかし、RoHS指令による鉛規制の影響で、完全な鉛の廃止が進められているため、鉛を含まない代替案の開発が急務となっています。

 

ウィスカ とは発生するメカニズムと根本原因

ウィスカの発生メカニズムについて、複数の原因が考えられていますが、実は根本的なメカニズムは完全には解明されていません。一般的に有力とされている主要な原因は、スズの結晶粒界に沿った銅の拡散現象です。この拡散により、めっき層内に内部応力が発生し、その応力を緩和しようとして金属単結晶がめっき表面から外側に成長すると考えられています。

 

ガルバニック腐食も重要な要因の一つです。これは電位差のある異種金属が接触し、水分が付着した際に電子のやりとりが行われることで発生する腐食現象です。めっき層と下地金属、あるいはめっき層内の異種元素間に形成される微小な電池が、イオン化を促進し、ウィスカの成長を加速させます。

 

外部応力と熱膨張係数の差による応力の影響も、ウィスカ発生の重要な要因です。めっき層と下地金属の熱膨張係数が異なると、温度変化に伴い内部応力が発生します。この応力が一定のレベルに達すると、結晶表面から針状の金属単結晶が成長してウィスカとなります。さらに、エレクトロマイグレーション現象(電流により金属原子が輸送される現象)も、特に高電流密度の実装部品ではウィスカ発生を助長します。

 

ウィスカ とは発生しやすい環境と条件

ウィスカは室温付近においても比較的早い拡散速度で成長しますが、特定の環境条件によって成長が大幅に促進されます。第一に、温度サイクルの繰り返しはウィスカ発生を促進します。温度が上昇下降する際に、めっき層と下地金属の熱膨張の差により応力が反復的に加わり、ウィスカ核の形成と成長が加速されます。

 

高温多湿環境もウィスカ発生を促進する重要な要因です。湿度が高いと水分がめっき表面に付着し、ガルバニック腐食が助長されます。また、酸化・腐食性ガスが存在する環境では、めっき層の局部腐食が進行し、ウィスカ成長の場が形成されやすくなります。

 

外圧の加わった状態でもウィスカの成長が促進されることが知られています。部品の実装時に機械的なストレスが加わると、内部応力が増加し、ウィスカの核形成と成長が加速します。特に電子部品の複層基板や密閉容器内では、このような外圧がウィスカ発生を誘発する可能性があります。電流密度が高い半導体やフリップチップ実装では、エレクトロマイグレーション現象によるウィスカも観察されています。

 

ウィスカ とは発生時の具体的な問題と事故リスク

ウィスカが電子回路内で成長すると、短絡(ショート)が発生します。スズめっきは良好なはんだ濡れ性を持つため、基板内部の回路接合部に広く採用されていますが、ここでウィスカが発生するとエンジニアが意図していない場所で電気経路が形成されてしまいます。結果として、設計された電気回路が異常な状態に陥ります。

 

短絡による電流の異常な増大は、複数の深刻な問題を引き起こします。第一に、システムが即座にダウンする可能性があります。制御回路がショートすると、各種制御信号が遮断され、システム全体が動作停止に追い込まれます。第二に、機器の破損や故障につながります。メモリやマイコンなどの重要な電子部品がダメージを受け、復旧不可能な状態になることもあります。

 

最も危険な事象は、膨大な熱負荷による火災です。短絡により電流が大幅に増加すると、ジュール熱(I²Rで表される熱)が急速に上昇します。この熱が周辺の部材や絶縁物に伝わると、着火温度に達して火災が発生する恐れがあります。実際にウィスカが原因と推定されている重大事故の事例も報告されており、特に医療機器、航空機電子機器、インフラ制御システムなど、人命に直結する装置では絶対に許されない現象です。

 

ウィスカ とは抑制する実務的な対策技術

ウィスカ抑制の最も一般的かつ効果的な方法は、下地めっきを施すことです。ニッケルめっきや銅めっきを最初に施し、その上にスズめっきを重ねることで、スズ結晶粒界への下地金属の直接的な拡散を遮蔽できます。ニッケルシールドとも呼ばれるこの手法は、ウィスカ成長の抑制に一定の効果が実証されており、業界標準的な対策となっています。

 

スズ単体のめっきではなく、スズ合金めっきにすることもウィスカ対策として有効です。銅、ビスマス、銀などの他の金属とスズを合金化することで、結晶構造が変化し、ウィスカ成長が抑制されます。ただし、すべての合金組成が同等の効果を示すわけではなく、合金元素の選択と比率が重要です。

 

リフロー処理(アニール処理)も効果的な対策です。めっき後に150℃程度の加熱を30分~1時間行うことで、内部応力が緩和され、ウィスカの核形成が減少します。ただし、加熱条件の最適化が必要であり、過剰な加熱は膜厚の変化やはんだ濡れ性の低下を招く可能性があります。

 

最先端の対策としては、ニッケルシールド層の上に薄いニッケル酸化物(NiO)層を施する技術も開発されています。この方法では、12カ月後の長期観察でもウィスカの成長がほぼ完全に抑制されたという報告もあります。しかし、これらの対策方法も完全にウィスカを防止できるわけではなく、環境条件や使用条件によっては対策の効果が減少することがあるため、複数の対策を組み合わせることが重要です。

 

金属めっき業者による【簡単解説】ウィスカについての詳細解説
ウィスカ発生メカニズムと対策技術に関する技術情報

 

 


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