はめあいとは?公差等級とJIS記号、しまりばめ・すきまばめの使い分け

はめあいの基礎知識から、JIS規格に基づく公差等級や記号の読み解き方、そして「すきまばめ」「しまりばめ」などのはめあいの種類の使い分けまでを徹底解説。あなたの設計や加工は、本当にその用途に最適ですか?

はめあいとは

この記事のポイント
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はめあいの基本を理解

穴と軸の関係性、「すきま」と「しめしろ」の違いから3種類のはめあいの特徴まで、基礎からしっかり学べます。

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JIS規格と公差をマスター

図面に書かれた「H7/g6」などの記号も迷わず読めるように。JIS B 0401に基づく公差等級を分かりやすく解説します。

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実践的な使い分けと注意点

部品の機能やコストに応じた最適なはめあいの選び方から、熱膨張など現場で直面する問題への対策まで、実践的な知識が身に付きます。

はめあいの基礎知識:穴と軸の「すきま」と「しめしろ」の関係性

 


金属加工における「はめあい」とは、穴と軸のように、2つの部品を組み合わせる際の寸法の関係性を指す言葉です 。嵌合(かんごう)とも呼ばれます 。これらの部品がスムーズに動くべきか、それとも固く結合されるべきか、その機能的な要求によって、はめあいの種類が選定されます 。
はめあいを理解する上で最も重要なのが「すきま」と「しめしろ」という2つの概念です。
  • 隙間(すきま):穴の直径が軸の直径よりも大きい場合に生じる差のことです 。すきまがあることで、軸は穴の中で回転したり、スライドしたりすることが可能になります。潤滑油を保持するスペースとしても機能します。
  • 締め代(しめしろ):逆に、軸の直径が穴の直径よりも大きい場合に生じる差を指します 。この状態では、部品同士が強く干渉しあうため、圧力をかけて押し込む(圧入)ことで強固な締結力を得ることができます 。

この「すきま」と「しめしろ」の大小関係によって、はめあいは以下の3種類に大別されます。
  1. すきまばめ (Clearance Fit):必ず「すきま」ができるはめあいです 。穴の最小許容寸法が、軸の最大許容寸法よりも大きい場合に成立します。部品同士が相対的に動く必要がある箇所、例えば回転するベアリングとハウジングなどに用いられます 。
  2. しまりばめ (Interference Fit):必ず「しめしろ」ができるはめあいです 。穴の最大許容寸法が、軸の最小許容寸法よりも小さい場合に成立します。一度組み立てたら分解しないような、強力な固定が必要な箇所、例えば歯車やプーリーを軸に恒久的に固定する場合などに使われます 。
  3. 中間ばめ (Transition Fit):加工のばらつきによって、「すきま」ができることもあれば、「しめしろ」ができることもあるはめあいです 。分解・組み立てを繰り返す部品で、かつ高い位置決め精度が求められる箇所に採用されます 。キー溝と併用されることも多いです。

これらの使い分けは、製品の性能、寿命、メンテナンス性、そしてコストに直結するため、設計者や加工者はそれぞれの特性を深く理解しておく必要があります。

はめあい公差とJIS規格(B 0401):図面記号の読み方と公差等級


はめあいを正確に指示するために用いられるのが「はめあい公差」です 。実際の加工では、部品の寸法を寸分の狂いもなく狙い通りに仕上げることは不可能です。そのため、機能的に問題がない範囲で、どれくらいの寸法のばらつき(公差)を許容するかを定めます。
はめあい公差は、日本の産業製品に関する規格であるJIS(日本産業規格)によって詳細に定められています。具体的には JIS B 0401-1JIS B 0401-2 が、はめあい公差に関する基本ルールと具体的な許容差の値を規定しています 。
図面上では、はめあい公差はアルファベットと数字を組み合わせた記号で表現されます 。例えば「ø50 H7/g6」のように記載されます 。この記号の読み方を理解することが、図面を正確に読み解く第一歩です。
  • アルファベット(大文字/小文字):穴か軸か、そして公差域の位置を示します。

    • 大文字 (H, G, Fなど): 穴の公差域クラスを表します 。
    • 小文字 (h, g, fなど): 軸の公差域クラスを表します 。
  • 数字 (7, 6など):IT公差等級と呼ばれ、公差の幅(精密さ)を示します。数字が小さいほど公差の幅が狭く、高い加工精度が求められます 。

一般的に、加工のしやすさから穴の寸法を基準とする「穴基準式」が広く採用されています。穴基準式では、穴の記号に「H」が使われることが多く、これは下限の寸法許容差がゼロになる公差域を意味します 。例えば、「H7」はIT公差等級7の穴基準の穴を示します。
以下によく使われるはめあい記号の例と、その組み合わせが示すはめあいの種類をまとめました。
記号の例 はめあいの種類 特徴と主な用途
H7/g6 H7 g6 すきまばめ 摺動部や頻繁に分解・組立する部分。潤滑を要する軸受など。
H7/h6 H7 h6 すきまばめ 高品質な位置決め。手で動かせる程度の精密な摺動部 。
H7/k6 H7 k6 中間ばめ 打撃を伴わずに手または木ハンマーで分解・組立できる。キーを併用する場合など。
H7/p6 H7 p6 しまりばめ 軽い圧入が必要。永久的な固定を目的とする部品。歯車や軸継手など。

JIS規格の詳細な公差の値を確認したい場合は、以下のリンクが役立ちます。

 


JISの閲覧は日本産業標準調査会のサイトが有用です。

 

https://www.jisc.go.jp/


大手部品メーカーが提供している公差表も、実務上非常に便利です。

 

https://www.mikipulley.co.jp/jp/support/technical-data/technical-data-5.html

はめあいの使い分け:すきまばめ・しまりばめ・中間ばめの選定基準


3種類のはめあいを適切に使い分けることは、機械の性能を最大限に引き出すために不可欠です。選定基準は、部品に求められる機能、コスト、そして組立・分解の要否によって決まります。

すきまばめ:部品が「動く」ことが前提


選定のポイント
  • 部品同士が相対的に回転、またはスライドする必要がある場合 。
  • 潤滑油を保持し、焼き付きをぎたい場合。
  • 組立・分解を頻繁に行う必要がある場合 。
  • 加工コストを抑えたい場合(一般的に公差が広いため) 。

🔧 具体的な用途例
  • モーター軸とボールベアリングの内輪(回転)
  • ピストンとシリンダー(往復運動)
  • 位置決めがさほど厳しくないカバーや蓋

しまりばめ:部品を「がっちり固定」したい


選定のポイント
  • トルク伝達や推力伝達など、強力な締結力が必要な場合 。
  • 一度組み立てたら、原則として分解しない場合。
  • キーなどの回り止め部品を使わずに、摩擦力だけで固定したい場合。

🔧 具体的な用途例
  • 鉄道の車輪と車軸(圧入)
  • モーターの軸に歯車やプーリーを永久固定する場合
  • ベアリングの外輪をハウジングに固定する場合

しまりばめを実現するためには、部品の一方を加熱して膨張させたり(焼きばめ)、もう一方を冷却して収縮させたり(冷やしばめ)する方法もあります。また、常温で油圧プレスなどを用いて強力な力で押し込むことを圧入と呼びます 。

中間ばめ:「正確な位置決め」と「分解」の両立


選定のポイント
  • 高い精度で部品の位置を決めたいが、メンテナンスなどで分解する必要がある場合 。
  • 手や工具を使って、部品を傷つけずに分解・組み立てを行いたい場合 。
  • キーを併用して、トルク伝達と正確な位置決めを両立させたい場合。

🔧 具体的な用途例
  • 精密機械の位置決めピン
  • ギアボックスのノックピン
  • 工具を使えば取り外し可能なフランジ

中間ばめは、製造上の寸法のばらつきにより、わずかなすきま、またはわずかな締まりしろのどちらにもなり得ます 。そのため、部品の組み合わせによっては、勘合の感触が異なる場合があることを念頭に置く必要があります。

はめあいの意外な落とし穴:熱膨張が引き起こす寸法変化と対策


設計段階で完璧なはめあいを指定しても、実際の使用環境で問題が発生することがあります。その最大の原因の一つが「熱膨張」です 。金属は温度が上がると膨張し、下がると収縮します。この現象は、特にミクロン単位の精度が求められるはめあいにおいて、無視できない影響を及ぼします。
💡 熱膨張が引き起こす問題
  • すきまの消失:常温では適切なすきまがあっても、機械の運転熱で軸と穴の温度が上昇すると、両者が膨張してすきまが詰まり、動作不良や焼き付きの原因となる 。
  • しめしろの減少:しまりばめで固定されている部品が、低温環境にさらされると収縮し、しめしろが減少して締結力が低下、最悪の場合は緩んでしまう。
  • 異種材料の組み合わせ熱膨張率が大きく異なる材料(例:アルミニウムステンレス鋼)を組み合わせる場合、温度変化によって部品間に予期せぬ応力が発生し、変形や破損につながる可能性がある。

この熱による寸法変化量は、以下の計算式で概算することができます。

$$ ΔL = α \cdot L_0 \cdot ΔT $$
  • ΔL: 寸法変化量 (mm)
  • α: 材料の線膨張係数 (1/℃)
  • L₀: 元の寸法 (mm)
  • ΔT: 温度変化 (℃)

例えば、直径50mmの鋼鉄製の軸(線膨張係数 α ≈ 1.2 x 10⁻⁵ /℃)が、20℃から120℃まで温度上昇(ΔT = 100℃)した場合の直径の変化量は、
$$ΔL = (1.2 \times 10^{-5}) \times 50 \times 100 = 0.06$$ mm
となり、直径が約60μmも大きくなる計算です。これは、精密なはめあいにおいては致命的な変化量となり得ます。

熱膨張への対策
  1. 使用環境温度の想定:設計段階で、部品が使用される最高・最低温度を正確に予測し、その温度下ではめあいが機能するように公差を設定する 。
  2. 材料選定:熱膨張率が近い材料同士を組み合わせるか、温度変化の少ない材料(例:インバー)を選定する。
  3. クリアランスの確保:熱膨張を見越して、常温でのすきまを大きめに設定する。
  4. 冷却・断熱構造の採用:発熱源からの熱伝導を防ぐ設計や、冷却装置を設ける。

特に高速回転する主軸や精密な測定機器などでは、熱変位が性能を大きく左右するため、この熱膨張の考慮は極めて重要です。

はめあいの精度を実現する加工方法と三次元測定機による品質保証


図面で指定されたはめあい公差を実現するには、適切な加工方法の選択と、正確な測定による品質保証が不可欠です。μm(マイクロメートル)単位の精度が求められるため、加工者のスキルと測定技術が製品の品質を決定づけます。

高精度なはめあいを生み出す加工方法


要求される公差等級によって、加工方法は異なります。
  • 旋削・フライス加工:比較的公差が広い(例: H8/h8など)場合に用いられる基本的な切削加工です。最新のCNC旋盤やマシニングセンタでは、かなりの高精度加工が可能ですが、μm単位の仕上げには後述の研削加工などが必要になることが多いです。
  • 研削加工:砥石を高速で回転させて、工作物の表面をわずかずつ削り取る加工方法です。旋削加工後の仕上げ工程として用いられ、高い寸法精度と優れた表面粗さが得られます。H7やH6といった厳しい公差を実現するためには必須の加工法です。内径は内面研削盤、軸は円筒研削盤などが使われます。
  • リーマ加工:ドリルで開けた穴の精度や面粗さを向上させるために用いる仕上げ加工です。手作業または機械で行い、H7程度の穴公差を手軽に実現する方法として広く用いられています。
  • ホーニング加工:シリンダーの内面など、高い精度と特定の表面性状(クロスハッチ)が求められる場合に用いられる精密仕上げ加工法です。

はめあい寸法の測定と品質保証


加工した部品が、指定された公差の範囲内に収まっているかを確認する測定作業もまた、極めて重要です。
  • マイクロメータ・ノギス:軸の外径や、比較的大きな穴の径を測定する基本的な測定器です。ただし、ノギスではμm単位の精度保証は困難です。
  • シリンダゲージ・栓ゲージ:穴の寸法を精密に測定するための専用測定器です。シリンダゲージは内径をダイヤルゲージで読み取り、栓ゲージは「通り側」と「止まり側」があり、穴が規定の範囲内にあるかを合否判定します。
  • 三次元測定機 (CMM):プローブと呼ばれる先端で測定対象に接触し、三次元空間での座標を取得することで、寸法、幾何公差(真円度、円筒度など)を非常に高精度に測定できる装置です。複雑な形状の部品や、はめあい部の真円度など、単純な寸法だけでは評価できない品質を保証するために威力を発揮します。熱膨張を考慮し、温度管理された測定室で使用するのが理想的です。

はめあいは、単に穴に軸を入れるという単純な行為ではありません。それは、機械の性能、寿命、信頼性を左右する、設計思想と加⼯技術の結晶と言えるでしょう。この奥深い世界を理解することが、ものづくりのレベルを一段階引き上げることにつながります。

 

 


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